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45話 ゴデル軍本陣

 ()()()()()()()()()を、ジルとレムは見下ろす。


「帰るか」とジルがつぶやく。


 ジルがうなずく。


「しかし、敵の基地の真っ只中にいるというのに、気づかれる気配がまったくないな」


「ゴデル軍は50人程度しかここにいないらしいからな。

 これだけ広い土地を警備するのは無理があるのだろう」レムが言う。


「それにしても無防備だ」


「いや、そうでもなかったのかもしれない。

 この基地には至る所に魔道具の索敵機、警報装置、罠が仕掛けられていた。

 普通だったら、それらに引っかかってすぐにゲームオーバーだ。


 暗殺者の俺でも、この数の高性能の魔道具が相手だと、かなり苦労する。

 ましてや、俺以外にお前までいるとなると、脱出は不可能だったはずだ」


「ロンのおかげか」ジルが言う。


「ああ。あいつは事前に魔道具の回避、停止のさせ方をすべて説明してきた。


 どの場所にどんな魔道具があり、どんな方法で避けるのか。

 どうすればそれらの魔道具を停止させることができるのか。

 それらを的確に教えてきた。


 そしてほとんどロンの言ったとおりに魔道具が仕掛けられていた。

 まるで実際に見たことがあったかのように。


 あいついわく、魔法使いの考えというのは読みやすいらしい。

 魔術師というのは論理的に物事を考える。

 優秀な魔法使いほど論理的思考は顕著になるらしい。


 そして論理的思考というのは、最終的にはひとつだけの答えにたどり着く。

 ベターは複数あるが、ベストはひとつしかない。


 つまりロンにとっては、相手が頭が良ければ良いほど、考えを読みやすということだ。


 ロンにはこの魔道具を設置した人物の考えが、手に取るようにわかっていたようだ」


 ジルが軽くため息を吐く。


「さすがの賢者様も、ロンの前では子供同然だな。

 この戦争ももう勝利は確定したようなものだしな。

 50人で2万500の兵を相手することは不可能だ」


「ああ」とレムはうなずく。


 しかし、ジルはレムの声色に歯切れの悪さを感じた。


「どうかしたのか?」ジルが聞く。


「いや、たしかにここの警備は簡単に突破できた。

 でも、ここから東の地帯には絶対に近づけないんだ。


 暗殺者の勘が、そこに入ったら間違いなく危険だと訴えかけている。

 実際にそうなのだろうと思う。


 ロンに教えてもらった魔道具の回避方法も、あのエリアではまったく通用しない。


 そしてそのエリアには、おそらく残った50人の兵がいるのだろう。

 いやな気配が、立ち込めている。


 ひとりひとりから、不吉な気配が漏れでている。


 ロンは強い。

 だが、やはり賢者たちも只者ではないようだ。


 明日の決戦は意外と気を引き締めたほうがいいかもしれない」


 ジルがテントの窓を少し開ける。

 その東のエリアへ視線を向ける。


「200年ぶりにあらわれた賢者だ。

 そう簡単にはいかないか。


 ロンから賢者についてのアドバイスはなかったのか?」


「近づくな、だそうだ」レムがこたえる。


「まあ、あいつもそのことは重々承知しているという訳か。


 あとはロンに任せておけば、賢者はなんとかしてくれるだろう。

 賢者を手玉にとってくれることを期待しよう」


「手玉にとるか」レムが虚空につぶやく。


「なあジル、もしかすると俺たちもロンに手玉にとられているのかな」


 ジルが窓を元のように閉め、ジルに振り返る。


「おそらくな。

 俺たちはロンの手のひらの上で踊らされている。


 俺たちに捕虜役と言う危険な役をやらせるために、わざとあのトド隊長をゴデル軍に捕らえさせたのだろう。


 トドはロンがハルス家から追放されたことを知っている。

 これはロンにとってはよろしくない情報だ。


 そんな重要な情報を持つ相手を、わざわざ敵の手に渡すのはおかしい。


 洞窟の牢においてくるにしても、カラム家とのつながりと言うトド隊長の役目が終わったのだから、殺しておくべきところだ。

 それを生きたまま置き去りにした。


 ゴデル軍の捕虜になることは、ロンの計画通りで、そのトドの捕虜に俺たちが釣られるのも、当然の帰結だったのだろう。


 俺たちはロンの思惑通りに動かされていると言うわけだ」


「結構な屈辱だ」とレムが言う。


「まったくだ」とジルもこたえる。


「まあ、それでも俺たちは結局また第4大隊に戻ってしまう。

 なんだかんだで、ロンと賢者がどんな戦いをするか見てみたくてしょうがない。


 悔しいけど、ここは我慢するしかない。

 それにこうしてトドへの復讐はちゃんと果たせたわけだしな。

 これはあいつなりの俺たちへの配慮でもあるわけだ」と、ジルが言う。


 レムは、地面に転がるトドの肉片を見る。


「ロンとの化かしあいは、どう考えても勝ち目がなさそうだ。

 その力を、明日、賢者様にもしっかりと発揮してもらうとしよう。

 それに50対20,500だ。

 負ける要素は、どこにもない」


 ジルとレムは、最後に地面に広がるトドの血を見つめる。

 そして牢のあるテントを出る。


 ロンたちの待つ、第4大隊の野営地へと歩みを進める。


 ふたりは何にも邪魔されることなく、堂々とゴデル軍本陣を後にするのだった。


 しかしジルとレムが先ほどまでいたテントの片隅、そこに一脚の椅子が置いてある。


 椅子の上に空気のゆらめきがある。

 ひとりの人間のシルエットが浮かびあがる。


 透明だった体が、だんだんと見えるようになっていく。


 彼はずっとそこにいた。

 レムとジルが、トド隊長と接触した時より、そこに座っていた。

 ジルとレムの言動をすべて、見て聞いていた。


 彼は賢者バスラだった。

明日も午前7時15分ごろ投稿予定です。

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