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44話 あの二人

「そういえば、最近赤髪と黒髪を見ませんが」


 リンが言う。


「ジルとレムのことだな。今頃気づいたのか。

 結構まえからいなかったぞ」ロンは呆れたように言う。


「そうだったのですね。

 私はイケメンには興味はありますが、あの二人は年収が低そうなので、観察対象から外れていたもので。

 彼らがいようがいまいが、関心ありませんでした」


 ロンはリンの将来を不安に思ったが、とりあえずは話を進めた。


「第4大隊の隊員で姿を見えないということは、だいたい想像がつくだろう。

 別の任務についてどこかに行っているとすれば、あの任務しかない」


 リンは首をひねる。


「捕虜だ。

 ジルは今、捕虜としてゴデル軍本陣に捕らえられている」


「あ、あの役は赤髪がやっていたのですね」


「ああ、渓谷からわざと飛び込まないで、捕虜としてあえて捕まり、敵軍にハルス家の魔道具が動いていないことをリークする役だ。


 敵の本陣に自ら飛び込むわけで、かなり危険だ」


「うん。そうですね。

 かなり危険です。

 何しろ、実際に戦闘がはじまってみれば、魔道具は動いているわけですし」


 ロンはうなずく。


「そう。おそらく賢者は騙されたことに、すぐに気がつくだろう」


 リンが悲しい顔になる。


「そうですか。ジルは死んでしまうのですね。

 年収は少なそうですが、この世からイケメンがまたひとり減ることは悲しいことです」


 リンが流れてもいない涙を拭う。


「いや、別にジルを見殺しにするわけじゃないよ」ロンが慌てて頭を振る。


「そのためにレムもいない。

 ジルには敵に罠を気づかれる前に逃げ出してもらおうと思う。

 ただ、当然ながら囚われの身で抜け出すのは困難だ。

 そこで手助けをするために、レムもゴデル軍の本陣に向かった。


 リンはレムのジョブを知っているかい?」


「いえ、知りません。

 先ほども申し上げましたが、年収の低い男は興味がありませんので」


「うん。


 レムのジョブは暗殺者だ」


「なんとユニークジョブですか」リンが驚く。


「ああ。

 レムだけが持っている特殊ジョブだ。


 暗殺者の名前のとおり、彼は身を隠すのがうまい。

 今、ゴデル軍の本陣には50名しか人員がいない。

 警備は相当手薄になっているはずだ。


 暗殺者であるレムなら、侵入するのもそれほど難しいことではないだろう。


 レムが外からジルの脱出を手助けすれば、ふたりは結構簡単に逃げだすことはできるだろうね」


「なるほど。

 あのふたりでしたら、たしかに問題なさそうです。


 それにしてもよくあのふたりがそんな危険な任務を引き受けましたね。

 今は第4大隊の一員ではありますが、手伝ってもらっているだけの状態です。

 ロン様に命令権はありません。


 敵の捕虜となるという大変危険な行為を承知するとは。

 ちょっと意外です」


 ロンはその疑問を待ってましたと、笑みを浮かべる。


「彼らはきっと喜んで向かっているよ」


 ロンの口角が大きく持ち上がる。




「りんご、ゴデル、留守番」


 ゴデル軍本陣の牢の中、ジルはひとりしりとりをしていた。

 3回で終わってしまった。

 ジルは暇だった。


 心地よくない地面に寝転がっている。


「ずいぶん居心地が良さそうだな」部屋の暗がりより突然声が聞こえる。


「お、ずいぶん早いな」ジルが嬉しそうに言う。


 暗がりから、黒髪のレムが姿をあらわす。


「人手がずいぶん少なくてな。簡単に侵入できた」レムが言う。


「だが魔道具があるだろう。

 魔道具を使った防犯システムはかなり優秀なはずだ。


 それもあの賢者様が用意した魔道具だ。

 そこをくぐり抜けるのはかなり大変なはずだが?」


「ロンのおかげだ。


 あいつに魔道具対策を教えてもらった。

 あいつの魔道具の知識は驚異的だよ。

 簡単に索敵用魔道具の死角をとれてしまった。


 魔道具については、賢者以上の天才なのかもしれないな」


「あいつは本当に底が知れないな」


 ジルが起きあがる。

 服についた砂をはらう。


「さてと、では向かうとするか

 もうひとつの牢屋へ」


「ああ」とレムはうなずく。


 レムは簡単に牢の鍵を開けて、ジルは外へと歩みでる。




「なあああああ、なあ、な、な、なぜ、ここにいる」


 ジルと同じように、牢の中にいるトド隊長は大きな声をあげる。

 地面に丸まって寝ていたトド隊長が飛び起きる。


 トド隊長の牢の前には、ジルとレムが立っている。


 ゴデル軍に捕虜として捕まっているのは、ジルのみではなかった。

 トド隊長も捕虜となっていた。


 ロンはトド隊長をあの洞窟の牢の中に残したままにした。

 渓流にダイブするのだ。さすがに連れて行くことは難しい。


 その後、ゴデル軍がトド隊長を発見することになる。

 渓流で第4大隊を逃したあと、それまで敵が使っていた野営地をゴデル軍は一応捜索したのだ。


 そしてトド隊長を発見する。

 敵の司令官がなぜか牢に入って置き去りにされている。


 とても不可解な状況だった。


 ゴデル軍はすぐにトド隊長を捕虜とし、本陣に送りとどけたのだ。

 こうして、トド隊長もジルと同じように、ゴデル軍の本陣に捕虜として牢に入れられた。


「お前らがどうして、ゴデル軍の基地にいるんだ」


 トド隊長は大きな声で叫ぶ。

 これだけわめいているのに、看守が来ないことを不吉に感じる。


「当然、あなたに復讐をするためだよ」ジルがこたえる。


 レムがまるで自動ドアかのように、牢の鍵をはずし開ける。


「ここに看守はいない。

 警報装置も止まっている」ジルが言う。


「時間は存分にある。


 お前が家族や仲間にしてきたこと、忘れてはいないよな。

 しっかりと償ってもらうぞ」


 ジルとレムが悪魔のように優しく笑う。

明日も午前7時15分ごろ投稿予定です。

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