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43話 秘密

 ロンたち第4大隊は、ゴデル軍本陣にギリギリ気づかれない位置で、野営をすることとした。

 戦闘の前にここでゆっくりと睡眠をとることにする。

 明日はいよいよ賢者との最終決戦である。

 それまでに少しでも連戦の疲れをとるようにする。


 ロンは伝書鳩で突入のタイミングをカラム軍に伝えている。

 明日の正午前には、ラガン率いるハルス家の軍とカラム軍の2軍が、同時にゴデル軍へと攻めこむ。


 そしてロンたち第4大隊はすぐには突撃しない。

 ハルス家とカラム軍が、ゴデル軍の戦力をある程度そいでから、美味しいところを横取りするつもりだ。


 卑怯なようにも思えるが、それが戦略だ。

 すべての戦場を理解しているロンだからこそできる横取りでもあった。


 ロンは夕食をとったあと、いつものように飴をなめる。

 横にひかえていたリンが、主人のその姿に声をかける。


「いつもその飴をなめていますが、そんなに美味しのですか?」リンが言う。


「リンも食べてみるか?」


 ロンはそう言うと、新しい飴をポケットから取りだして、リンに差しだす。


 リンはすこし不気味さを感じながらも、それを受けとる。

 包装をはずして、口の中に飴玉をいれる。


「にがい」と、リンはその飴をペッと地面に吐きだす。

 唾液で濡れた飴が、転がりながら砂まみれになる。


 飴をなめたあとの口の中には、苦味の不快感がひろがる。


「よくこんなまずいものを食べていられますねー」


 リンがロンをエイリアンでも見るかのような目で見つめる。


「リンのお子様の口には合わなかったか。

 この苦味がいいんだよ。

 癖になる味だ」


「苦味というのは旨味のなかにあるから美味しいんです。

 これには苦味しかないじゃないですか。


 どこでこんなもの買うんですか。

 売っているところを見たことありませんよ」


「この飴を手に入れるのは結構大変でね。

 特殊なルートを使って、僕は入手している。


 海外では人気がありすぎて、ほとんど手に入れることができないほどの人気商品なんだ。

 それも結構な値段がする」


 リンは自分の吐き出した、砂まみれの飴を見る。

 これがそれほどの人気商品?

 リンは理解できない世界を思い、頭を振る。


「甘くもない飴が人気になるなんて、人類の味覚も終焉が近そうですね」リンが言う。


「リンにもそのうちに、この味の良さがわかるさ」とロンは言う。


 リンは顔をしかめる。


「ところで、リン。ひとつ聞きたいことがあるんだ」


 ロンの口調がこれまでと違い、すこし歯切れが悪くなる。


「なんでしょうか」とリンが首をかしげる。


「僕はハルス家の本陣に行った時に、父親と剣を交えた」


 リンは口を開けて驚く。

 そしてすぐに面白そうだと、体をのりだしてくる。


「で、どうなったんですか。

 ロン様が勝ったんですか」


 ロンはうなずく。

 リンはとても嬉しそうに、満面の笑みを浮かべる。


「父上は本気だった。

 ほぼ全力で戦っていたと思う。

 宝剣も使っていたしね。


 ただ、そこでわかったことがある。

 父上の実力を体感し、確信したことがある。


 リン、お前は父上よりも強い。

 最高の剣士である剣聖よりも確実に強い。

 それも圧倒的に」


 ロンが話を一度切る。

 黙ってリンの瞳を覗く。


 リンも黙って、それを見つめ返す。


「リン、お前は何者だ。


 あまりにその存在がおかしすぎる。


 剣聖というジョブは剣士の最高職だ。

 そして父上はこの国唯一の剣聖だ。

 さらにハルス家当主として、鍛錬は怠っていない。

 子供の頃からの努力を積んでいる。

 経験も豊富で、圧倒的な強者だ。


 その存在に、剣士であるリンが勝っている。

 僕のように魔法使いのエセ剣士ではなく、純粋な剣士であるリンが剣聖に勝っているんだ。


 僕は魔法や魔道具を使えなかったら、父上には勝てない。

 瞬殺される。


 ところがリンは、純粋な剣の勝負で父親に勝ってしまえる力がある。


 そんな剣士は、いるはずがないんだ。


 リン、君は何者なんだ」


 リンは黙っている。

 ロンはリンが話はじめるまで待つ。


 長い時間の静寂だった。

 でもふたりはその長さを感じていない。


 リンが口もとを軽く持ちあげる。

 そしてリンにしては珍しくゆっくりと話す。


「私のジョブは剣聖です」リンは言う。


 ロンは予想していた返答だったが、それでも驚きの表情が浮かんでしまう。


「私の秘密を語らせていただきます。

 これはロン様にも関係することです。

 覚悟を持ってお聞きいただければと思います」


 ロンはうなずく。


 そのあとリンが話した内容は、ロンに衝撃をあたえた。

 しかしこれまで疑問に思っていることの、答えでもあった。


 リンが話し終えたあとも、またしばらくの間、ふたりは黙って動かなかった。


「リンのお母さんは、今どうしているんだ?」


 ロンが沈黙をようやく破る。


「一昨年に亡くなりました」


 ロンがうつむく。


「とても優しい人でした」リンが言う。


「そうか」とロンは呟いた。

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