4話 魔法使い
「驚きました。ロン様は実力を隠されていたのですね」
となりを歩くリンが言う。
夜の森をかれこれ2時間以上歩いた。
空が明るみを帯びてきている。
「いや、実力を隠していたわけではないよ。
僕は事実、剣術の試合では弟に劣っているよ」
さすがに歩きつづけで、僕は疲労を感じていた。
ところどころ息を切らせながら、ロンは言う。
「魔法使いと剣士のジョブの、決定的な違いはなんだと思う。
それは身体能力だ。
魔法使いは剣士よりも腕力が弱いし、素早さもない。
剣を扱ううえでそれは大きなデメリットになる。
だから僕は剣術の試合では、負けつづけていた」
ロンは舌で飴を転がしながらも、苦しくなってきた呼吸を整える。
「ただ先ほどの弟との手合わせは、試合ではなく決闘だった。
つまり実戦だった。
剣術の試合では、あることが禁止されている。
それは魔法だ。
剣の競技なのだから当然だよね。
でも実戦では魔法は禁止されていない。
好きに使っていい。
だから僕は魔法を使った」
「私には魔法を使ったようには見えませんでしたが」
「うん。
炎をだしたり、相手を凍らせたり、直接的に攻撃したわけではなかったからね。
僕が使ったのは強化魔法だよ。
自分の体に身体強化の魔法をかけたんだ」
ロンは片足を上げて、膝をポンポンと叩く。
「実は今も身体強化魔法を使っている。
足もとの悪い山道を、2時間も歩いていられるのもそのためだよ。
本来の僕の体力だったら、今頃、森の茂みに倒れこんでいるところだ」
「ほー、魔法とは便利なものですね」
リンは軽い足どりで、僕の周りをくるくる回りながら話す。
ロンと同じ距離を歩いているはずなのに、彼女はまったく疲れていない。
彼女はもちろん強化魔法も使っていない。
「僕はこれでもハルス家の長男だ。
当然、剣術の英才教育を受けている。
けっこう厳しい鍛錬も積んでいる。
僕は努力家だしね。
だから剣の技術にかんしては意外と身についている。
ただ、身体能力がそれについていかなかっただけだ。
身体強化魔法を使えば、それが解決する。
魔法使いの僕でも、ある程度剣を扱うことができるようになる。
僕が弟に圧勝できたのは、そういった理由なんだよ」
「ちょっと私にも強化魔法をかけていただくことできるでしょうか?」
「ああ、いいぞ」と僕はリンに手をかざす。
リンの全身が一瞬だけ光に包まれる。
光はすぐにおさまる。
リンは自分の両手を見つめ、拳を閉じたり開いたりする。
リンはしゃがみこみ、足に力をためると、思いっきりジャンプする。
リンの体は、森の木のてっぺんまで届くほど飛び上がる。
3メートル以上の跳躍だ。
ものすごい高さから落下してくるリンは、猫のようにしなやかに着地する。
その高さにロンは驚いていた。
だが跳んだ本人はもっと驚いていた。
「これはすごいです。
魔法とはここまで強力なものだったのですね」
「魔法はかなり強力で便利だよ。
ハルス家を中心にこの国では嫌悪されているけど、魔法は剣術と同じぐらい戦闘の役にたつ」
「たしかにこれは便利です」
「いろいろな事情があり、この国では魔法は敬遠されていた。
けど、それもそろそろ見直さないといけない時期にきている。
今回の戦いは、その象徴になると僕は考えているんだ。
魔法の重要性を嫌というほど痛感させられることになると」
僕は口の中に残っている飴を、噛み砕いて飲みこむ。
「実際、このままだとこの戦争に僕たちは負けるよ」
「さすがに負けるは言い過ぎではないでしょうか。
ここ数年は、ゴデル国との戦争はほとんど私たちアステル国が勝っています」
ロンは首は降る。
「いや、確実に負ける。
第4大隊が開戦後すぐに瀕死の状態になったのが、いい証拠だよ」
ロンはこれから目指す第4大隊がいるであろう地点に視線を向ける。
そこでは現在、敵国に囲まれ、全滅を待つのみの第4大隊の兵士たちがいるはずであった。
ロンが去ったハルス家の野営地では、ちょっとした問題が起こっていた。
明かりがすべて消えてしまったのだ。
テントの室内を照らしていたランプも、外で見張りをする兵が持つライトも、突然消えてしまった。
敵襲かと思い騒然としたが、敵はいつまでも攻めてはこなかった。
しばらくすると明かりが消えた原因がわかった。
それは照明器具のスイッチが切れていただけだった。
起動ボタンがオフになっていたのだ。
長時間使用していたので、自動制御がかかりスイッチが切れたのだろうとのことだった。
そうとわかれば解決は簡単で、スイッチをオンにすればいい。
ところがそれができなかった。
たしかにボタンは押しているのだが、どうもうまく発動しない。
スイッチがうまく起動しない。
ロンの父親は腹を立てて、持っていたランプを床に投げつける。
ランプは粉々に砕け、飛び散る。
「なぜスイッチを押しても点かんのだ」父親は怒鳴る。
そばにいた家臣のひとりが、怒りを鎮めてもらおうと、君主に進言する。
「これらの道具はロン様にご用意いただいたものです。
ロン様なら解決いただけるのではないでしょうか」
しかし、この言葉は、君主をますます不機嫌にさせるだけだった。
ランプがもうひとつ割れる。
明日も午前7時15分ごろ投稿予定です。