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33話 勝利

 シュルムの死を目の当たりにしたゴデル軍は、統制がみるみると失われていった。

 早くも逃げだす兵士もいた。


 百戦錬磨の英雄の敗北は、大きな衝撃であった。


 すぐに、第4大隊の接近を許し、崩壊へと進んでいく。


 500対1,500という3倍もの数的差がある戦闘であったが、少数の500が圧倒をする。


 しばらくすると、後方の500名の敵が、ティラとリンにより壊滅した。

 ティラとリンのふたりが前方の戦いに参戦するようになると、ゴデル軍の瓦解はすぐに訪れた。


 30分後には、ゴデル軍は全滅をしていた。


 ロンが勝利を宣言し、第4大隊の兵士たちが歓喜の声をあげる。


 この戦いでも第4大隊の死者はほとんどでなかった。


 雷撃を受けた兵士も、時間が経つとまた立ちあがり、健康に動くことが可能だった。


 その夜、第4大隊の野営地は盛大に盛りあがった。


 酒を大量に飲み、歌をうたった。


 一応の索敵はしていたが、襲われることは絶対になかった。

 ゴデル軍にそんな余裕がないことは確実だ。

 1,000の兵を出しただけで、もう限界ギリギリだ。


 第4大隊は、これまでの緊迫を一時的に忘れ、勝利を存分に味わった。


 ついこないだまで、全方向を取り囲まれ、死を覚悟していたのが、今ではその敵に勝利している。

 地獄から天国へ一気に引き上がられた兵士たちの喜びは、ひとしおだった。


 そしてこの宴の主役は、もちろんロンであった。

 あの雷帝シュルムを倒したのだ、話題に上がらないわけがなかった。


 雷撃を防いただけでも驚愕だったが、1対1でロンはシュルムを撃破した。

 第4大隊の兵士たちは、ロンの強さを賞賛した。


 新しい自分たちの司令官を誇りに思い、尊敬の念を抱くようになった。


 これまでも兵士たちはロンのことを認めてはいた。

 しかしそれは指揮官としての能力を評価したまでだ。


 ロン個人の戦闘能力にかんしては、一切期待していなかった。

 弱いだろうと考えていた。


 たとえ弱いとしても、その知力は自分たちを救った。

 それだけで、ロンを隊長と認めるには充分だった。


 しかし、ロンはそれだけではなかった。

 個人としての強さも兼ね備えていた。


 ロンとシュルムの戦闘を、兵士たちは傍目で確認していた。

 ふたりの戦いは超人的であった。


 シュルムの瞬間移動からの雷撃は、本当に虚を突かれる一瞬の出来事だった。

 ロンはそれを見事にかわした。


 そして、魔法の連撃であっという間にシュルムを追い詰めた。


 第4大隊の兵士たちは強者ぞろいだ。

 しかし、あの雷撃をかわすなどできない。


 あのロンの放った炎の魔法も驚きだった。

 あの速度で炎を打たれては、防ぎようがない。


 自分たちの新しい司令官は、強かったのだ。


 戦士というのは強い者を尊重する。

 剣士となるとなおさらであった。


 ロンの活躍に、第4大隊は大きく興奮していた。


 そんななか、ひとりの兵士がある疑問をつぶやいた。


「ロン隊長はどこまで強いのだろうか?」


 この問は大きな議論となった。

 あの雷帝を倒したのだから、一般兵よりかもは当然強い。


 そして自分たちの前隊長(トド隊長)よりかは強そうだ。

 噂では、前隊長をロンは力でねじ伏せたと言われている。

 噂でしかなかったので、ほとんどの兵士が信じていなかったが、ロンの実力を知ると、そうであった可能性が高いと思うようになった。


 では、副隊長であるティラとは、どちらが強いだろうか?


 第4大隊の兵士たちはティラの実力が、ハルス家のトップクラスであることを知っている。

 つねに戦場でその力を見ていれば、それは自然とわかった。


 ティラの父親であり、ハルス家No2と言われているロイエンと同等か、それ以上の力があるだろうと。


 そのティラとロンでは、実際はどちらが強いのだろうか。


 ほとんどの者がティラのほうがさすがに強いと考えた。


 しかし、ロンには魔法があった。

 ロンの魔法にはまだまだ未知数なところがあった。

 得体の知れない部分が多くあった。


 その議論は大きく盛りあがる。

 そして酒も深くなり、ついひとりの若者が口に出してしまう。


「ロン隊長とティラ副隊長の、模擬戦を見てみたい」と。


 まわりの兵士たちも賛同してしまう。


 もちろん、近くにロンやティラはいない。

 ただ、酒に酔った兵士が空想を語っているだけだ。


 しかし、その話題は多くの兵士に共感されてしまう。

 祝賀の場に瞬く間にひろがる。


 そして、ロンとティラにも聞こえるところとなってしまった。


 近くにいた兵士たちは、すぐに謝った。

 冗談ですので、どうかご勘弁をと、頭をさげる。


 ロンもティアも酒の席であるし、戦士が強者の力の話題をするのは当然と理解している。

 別に怒ったりはしない。


 ところが、この場にはリンがいた。


 リンは先日の酒の失敗もあり、酒は一切飲んでいない。


 リンは酒が飲めないのは仕方ないと考えている。

 二日酔いの自分の体たらくは、さすがに反省をしている。


 先の戦闘で自分が本調子であれば、もう少し早く決着がついた。

 ロンがシュルムに勝ったからよかったものの、あの場には本来自分はいるべきだった。

 ロンの護衛としてそばにいるべきだった。


 リンは今回の自分の失態を反省している。


 しかし、酒を飲まないのはかなりの我慢がいた。

 リンは前回初めてお酒を飲んだが、それはとても心地よい経験だった。

 とても美味しかったし、楽しかった。


 目の前で、他のものたちがじゃんじゃんお酒をあおっているの見て、かなりのフラストレーションをためこんでいたのだ。


 そこへロンとティラの模擬戦という面白そうな話題が飛びこんできた。

 これに食いつかないはずがなかった。


「ロン様、それは実に面白そうな話です。

 ぜひにティラ様と模擬戦をおこなってくだされ。


 あそこに丁度良いスペースがあります。

 戦いやすく、観戦もしやすそうです。


 お疲れもございましょうが、ここはひとつ、部下たちの頼みを聞いてもらえないでしょうか」


 リンはそんなことを言いだす。


「いやいや、さすがに今は酒も入っているし、祝宴の場に暴力は似つかわしくないだろう。

 なあ、ティラ」


 ロンはティアを見る。しかし。


「私は模擬戦をしてもかまいません」ティラが言う。


 ティラの予想外の返答に、ロンは言葉をつまらせる。


 これ幸いと、リンが言う。


「では、模擬戦をいたしましょう。

 さあ、さあ、あちらのスペースへおふたりとも進んでください」


 リンがロンを引っ張り、立ち上がらせる。

 そのスペースへと、強引に移動する。


 ティラも自発的に、ロンの対面へと歩いていく。


「みんなー。ロン様とティラ様の模擬戦がはじまるよー」


 リンの呼び声が、夜の空気に響きわたる。

 そして、第4大隊の全兵士が集まってくる。

 怪我をして安静のために寝ていた兵士まで、おとずれだす。


 ロンとティラを囲み、これからはじまる模擬戦へ期待をよせる。


 ロンは大きくため息をつく。


「まいったね」

遅ればせながら、誤字報告ありがとうございます!


明日も午前7時15分ごろ投稿予定です。

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