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32話 VS雷帝4

 雷魔法のもっとも恐ろしいところは、その速度である。


 その攻撃は、ほとんど光と同じ速度で襲ってくる。

 人間には回避不能だ。


 ロンが使ったように、避雷針による対抗策はある。

 雷を誘導して、進路を変更させる。


 しかし、これは遠距離からの雷撃の時のみ可能であった。


 接近されて雷撃を打てれては効果がない。

 雷は必ず直撃する。


 だが、雷魔法を近接で打たれるという状況は本来起こりえないことだった。


 魔法使いは接近戦に弱い。

 遠距離攻撃が基本である。


 ましてや敵陣の真ん中に、自らが飛び込んでくるなどあるはずがなかった。


 シュルムはしかし、ある方法で近距離からの雷撃を可能にした。

 それは移動魔法である。

 瞬間移動魔法を使ったのだ。


 シュルムはロンの目の前に瞬時に移動する。

 しかもシュルムはすでに雷撃を放つ準備はできている。


 ロンと同じように、移動魔法と雷魔法の2つの属性の魔法を同時使用していたのだ。


 瞬間移動が終わった瞬間に、雷撃を放つ。

 瞬間移動後の近距離からの雷撃。

 絶対回避不可能な襲撃。


 雷撃がシュルムの腕から放たれる。

 シュルムは口元をつりあげて、笑みを浮かべる。


 しかし、次の瞬間、目を大きく見開き、口はあけて固まる。


 雷撃は虚空に舞う。

 ロンの姿はいつの間にか消えており、雷は空中に飛んでいく。


 驚きで体が固まっていたシュルムだが、背後に気配を感じる。

 いつの間にか、ロンが後ろにいる。

 背後を取られている。


 シュルムは急いで帰還の瞬間移動魔法を発動させる。

 当然ながら、帰還のための瞬間移動魔法も事前に、術式を組んで用意していた。

 その発動はすぐにおこなえる。

 敵陣のなかに突っ込むのだそれぐらいは、当然準備している。


 だが、瞬間移動魔法を唱えようとした瞬間、火の玉の弾丸がシュルムの背中に直撃する。

 息がつまり、魔法の詠唱をおこなえなくなる。


 ロンが、あのトド隊長との戦闘で見せた小さい炎の魔法を放ったのだ。


 瞬間移動魔法は上級魔法である。

 どんなに事前に準備をしていたとて、ロンの使う初級魔法よりは、発動までに時間を要する。


 ロンの攻撃がシュルムより早いのは当然のことであった。


 シュルムは息を整え、すぐにまた移動魔法を発動しようとする。

 だが、それを許すロンではなかった。


 小さい炎の塊をつぎつぎと、シュルムにぶつける。

 シュルムが移行魔法を唱える隙を与えない。


 シュルムは雷の防御魔法を使おうと考える。

 雷を全身にまとい、体をコーティングする魔法だ。


 しかし、ここでロンは剣を握る。

 腰に差していた剣を抜刀し、シュルムの腕を切り落とす。


 これまでの炎の魔法とは違い、剣による斬撃は威力がある。

 一発で致命傷を負う。

 切り取られたシュルムの腕からは、大量の血が流れ落ちる。

 シュルムは立っていられず、膝をつく。


 痛みにより、唱えようと思っていた防御魔法は空発に終わる。


 シュルムが、恐怖を隠すかのように、ロンをにらむ。

 そして次に自軍の様子を見る。


 雷魔法の襲撃のなくなった第4大隊の進撃は早く、すでにゴデル軍のすぐ目の前にまで迫っていた。

 接近されては、ゴデル軍の魔法使いに勝ち目はなかった。


「どうして、俺の雷撃をかわせた」シュルムが尋ねる。


 ロンは口に中に残っている、小さくなった飴をかじって飲みこむ。

「もちろん、雷撃よりかも早く動いたわけではありません。


 簡単な話です。

 あたなが瞬間移動をして、雷撃を放ってくることを予想していたんです。

 だいたい、あれぐらいのタイミングで瞬間移動魔法を使ってくるだろうなと思っていました。


 あなたはケンロスの間の戦いや、ユースレ河川の戦乱で、瞬間移動魔法をかつて使っている。

 あなたは敵国の英雄だ。

 その情報は当然、アステル国中に広まっています。


 同じ魔法使いである僕はそのことをしっかり覚えています。


 敵がどのような魔法を使うのか、僕は日頃から情報を集めています。


 あなたの使用する魔法や、戦略の立て方などは、ある程度研究済みです。

 自軍に敵軍が接近してくれば、かならず瞬間移動を使って、僕の目の前に現れるとわかっていました。

 有名税みたいなものですね。


 だから、僕はあなたが瞬間移動を使っても、対処に遅れをとらなかった。

 瞬間移動を発動する際には、短い詠唱もおこなっています。

 瞬間移動の詠唱の唇の動きをとらえることができていました。


 そして、瞬間移動後、すぐに雷撃を放つことも知っていましたし。


 あなたが瞬間移動魔法の詠唱を唱えている時、あなたの姿が消えるより前に、僕は回避活動を開始しています。


 また雷撃の稲妻を走らせるには、片手を突きだすモーションが必要だ。

 つまりそれだけのタイムロスもある。


 あなたは魔法使いだ。

 その身体能力は基本的にあまり高くない。

 片手を突きだすだけの動きですが、それでも剣士から見れば、随分とゆっくりとした動作で、時間がかかっている。


 僕は魔法使いではあるが、ちょっと特殊で、かなり体を鍛えている。

 なにしろ剣聖の息子ですからね。

 意外と運動もできます。


 僕とあなたとでは、身体能力に大きな差があります。

 つまり、あなたが片手を突きだしている間に、あなたの背後にまわりこむことは、それほど難しいことではなかったのですよ」


「なるほど」とシュルムはうなずいた。


「私の完敗だな。

 まさか下級魔法使いに負けることになるとは」


 シュルムは足に力を入れ、なんとか立ち上がる。

 しかし、背中には力が入っておらず、丸まっている。

 残った片手もそのままだらりと垂れている。


 切られた腕からあふれでる血にシュルムの足ものは赤く染まっていた。

 大量の血を失い、シュルムの視線はぼやけていく。

 頭をささえている首に力が入らなくなっていき、下に傾いていく。


 ロンは剣を振りあげる。


「ロンよ、お前のような強者の魔法使いに、最後に戦えて幸運だった。

 最強の下級魔法使い、面白い響きだな」


 シュルムは最後の力を振り絞り、ロンを見る。


「私もあなたのような英雄と戦うことができ光栄でした」


 ロンは剣を振り落とした。

 血が宙に舞う。


 第4大隊の勝利が確定した瞬間であった。

明日も午前7時15分ごろ投稿予定です。

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