31話 VS雷帝3
ロンが飛ばした剣の攻撃により、敵の魔法使いに乱れができた。
魔法の一斉射撃は前ほど、厳しいものではなくなった。
第4大隊の兵士たちは、ここで再度発起する。
雷帝の攻撃を受けてより、勢いの止まってしまっていた前進を再度はじめる。
この十年、散々と苦しめられてきた雷撃を、司令官であるロンが見事に撃退したのである。
兵士たちが鼓舞されるのも当然であった。
新しい隊長は、あの敵国の英雄と互角に戦っている。
ロンの姿に、第4大隊の兵士は自然と士気があがった。
第4大隊の兵士たちは、もちろんロンのことを優秀な隊長だと認めている。
なにしろあの絶望的な包囲網から脱出させてくれたのだから。
ロンが隊長であることに異を唱えるものはいなかった。
しかし、それは知略に対する評価であった。
戦略をたてる能力に対する敬意であった。
直接の戦闘においては、その力は微々たるものだと思っていた。
身体強化の魔法はおおいに役立っているが、ロン自身の戦力はないだろうと。
むしろ、ロンは戦場では足を引っ張る存在だろうと考えていた。
ロンは下級魔法使いである。
魔法使いの中でもさらに弱い。
噂ではそのあまりの弱さに、ハルス家の長男であるにもかかわらず、家族内ではのけ者にされているという。
そのロンが、敵国の英雄シュルムの雷撃を防ぎ、50の剣を敵軍に放ってひるませている。
ロンの活躍に、第4大隊の兵士たちは感嘆し、感動すらしていた。
そして、そんな隊長につづけと、再び前へ進みはじめる。
それは最初ほどの勢いはなかった。
しかし確実にゴデル軍との距離を詰めていった。
戦場の優勢は、あきらかに第4大隊へと移っていた。
シュルムが再び、雷撃を繰りだす。
稲妻の本数は少ないが、今度は広範囲に降り注ぐ。
しかし、それらもすべて、空中を飛びまわる剣によって、防がれる。
剣と雷が衝突し、空間が光で一瞬埋めつくされる。
瞬間的な光がおさまると、そこにはまた無傷な第4大隊の兵がいる。
雷撃にかまわず、前進をつづけている。
シュルムは奥歯を噛みしめ、顔をゆがめる。
雷撃を受けた50の剣が、空中に浮いている。
どうして、ロンの軽い剣は、ゴデル軍の魔法使いにダメージを与えたのか?
剣の威力はゼロであった。
それなのに、剣先が服に触れた瞬間に、魔法使いたちは地に膝をついた。
原因はシュルムの放った雷撃であった。
電力を流されつづけると、帯電という現象が起きる。
物自体に電力が蓄えられるのだ。
雷撃のを受けつづけた剣は、電力を帯びるようになっていた。
そのため、その電力が剣に触れた瞬間に流れ込んでくるのだ。
魔法使いの服に触れた瞬間に、電流が流れたのだ。
魔法使いたちは感電した。
それは大きなダメージにはならない。
しかし、動きを止める効果はあった。
魔法の発動を遅らせることができていた。
「操作魔法に、重力魔法に、風邪魔法に、錬金魔法。
4つの魔法を同時に使っているというのか。
2つまでならたしかに理解できる。
しかし4つなど、聞いたことがない。
そんなことことできるはずがないだろう。」
戦況の悪化に、シュルムの語気が荒れる。
「しかし、実際にできている。
僕はこうして使っている」ロンは言う。
「僕が使っているのは初級魔法です。
下級魔法使いはそれしか使えない。
生活魔法としては役に立つが、魔法使いの間では初級魔法は低レベルの粗悪品と考えられている。
だから、あなたたちのように優秀な魔法使いは初級魔法を使わない。
それよりかも強力な魔法が、使えるのだからそちらを使う。
けどですね。初級魔法は中級魔法よりも、圧倒的に簡単に使えるんですよ。
中級魔法ではそうはいかない。
ある程度の長さの詠唱があり、術式を組むために集中も必要だ。
僕は初級魔法を何万、何億回と使っています。
まるで言葉でも話しているかのように、スラスラと初級魔法を使えるように練習している。
中級魔法ではこのようなことは不可能です。
でも初級魔法なら可能だ。
そしてあなたたちは僕の真似をしようとしてもできない。
なにしろ初級魔法をほとんど使っていないから慣れていない。
それに簡単に魔法を使うのではなく、いかに複雑に魔法を使えるかばかりを考えている。
複雑な魔法行使に慣れすぎて、変な癖がついてしまっている。
たしかにあなた方では、4つの属性の魔法を同時使用することは不可能です。
でもね、下級魔法使いなら使える。
職業の優劣だけで、魔法の技術力は決まらない。
多数の属性魔法を使えるかどうかは、器用さにかかっている。
つまり努力しだいで誰でも身につけることができる。
僕はね、結構努力家なんですよ。
下級魔法使いが、上級魔法使いよりも強いということもありえるんです」
シュルムは雷撃を放つが、当然のようにそれは、空中の剣により防がれる。
第4大隊の進撃は速度を増し、ゴデル軍への接近まで、あとすこしとなっていた。
「ここまで、追い込まれるとは」シュルムはロンに聞かせるでもなく、つぶやく。
「4つの属性魔法の同時使用。
たしかに初級魔法でしか不可能なことだ。
そしてお前の努力もうかがえ知れる。
どんなに初級魔法が簡単だとはいえ、そこには短いとはいえ術式を組む作業は必要だし、集中力もいる。
相当な訓練を積まないと、なかなかできない。
でもな、私だって努力はしてきているんだよ。
なにも雷魔法だけにあぐらをかいていたわけではない。
ゴデル国の魔法使いのトップクラスに立つとは、そんなに簡単なことではない。
たしかに俺には4つの同時使用は不可能だ。
だが、ふたつなら使えるんだよ」
その言うと、シュルムの姿が消える。
そして次の瞬間には、なんとロンのすぐ目の前に現れる。
「これだけ近づけば、雷撃がそらされることはない」
シュルムが右手を突きだす。
右手には、幾筋もの雷がまとわれている。
稲妻の閃光が走る。
回避不能の雷撃が放たれた。
明日も午前7時15分ごろ投稿予定です。




