30話 VS雷帝2
「実は僕は、下級魔法使いなんですよ」ロンが言う。
念話の相手シュルムが、息を飲むのがわかる。
「ふざけるな。
下級魔法使いにこのようなことができるわけがないだろう」
予想どおりの反応だな、とロンは思う。
シュルムはロンのことを、上級魔法使い、もしくは賢者である可能性すらあると考えていたのだろう。
なにしろ、これまで完全無欠であった雷魔法が防がれたのだ。
それを魔法組織では最下層に位置する下級魔法使いがおこえるはずがなかった。
ましてや、魔法劣等国のアステル国の魔法使いにである。
シュルムはロンの言葉に、馬鹿にされたとすら感じた。
しかし、ロンが下級魔法使いであることは紛れもない事実であった。
「雷を防ぐために、お前は剣を上空に浮かせた。
たしかに、物を動かすだけなら、操作属性の初級魔法だ。
下級魔法使いにも扱える。
鉄の剣を浮かばせることもなんとか可能だろう。
しかし、あの速度で剣を動かすことは不可能だ。
重すぎる。
あれほどの重量の剣を、素早く動かすには、初級魔法では威力が足りないのだ。
さらに、剣は1本ではない。
50本もの剣が浮いている。
その重量はかなりのものだ。
下級魔法使いではまず不可能なんだよ」
シュルムは嘘をつくロンに、不快感をしめした声で言う。
「たしかに50本の剣を浮かべるなど、普通は下級魔法使いには無理です」
ロンはポケットから飴を取りだす。
包み紙をはがして、口に入れる。
念話での会話なので、飴を口に入れていれも邪魔にはならない。
「あなたもお気づきだと思いますが、僕は第4大隊に身体強化魔法を使っています。
補助属性の魔法を使っているわけです」
「ああ、それはわかっている。
お前は補助属性と操作属性を使うのだろう」
「はい。僕は補助属性と操作属性を使います。
でも、それだけじゃありません」
ロンは右手に炎を浮かべる。
トド隊長と戦闘した際に使用した、小さな炎だ。
シュルムは遠目にその小さな炎の光を確認する。
「炎属性も使うのか」シュルムの言葉に、少し意外な様子がうかがえる。
「それだけではありません」
ロンの左に手に、水の玉を浮かべる。
炎と同じように、それはとても小さい。
シュルムがそれを見て言葉を失う。
「それに氷魔法も使えます。
土魔法も、風魔法も、毒魔法も、錬金魔法も、物理魔法も、回復魔法も使える」
ロンは両の手のひらを近づける。
水をすくうかのように並べる。
左右の手の上にあった、水と火がまじ流。
さらに砂の塊が現れる。
小さい旋風が起こり、それらが舞う。
毒霧がわずかに発生して、いくつかの砂が金属の硬質を帯びる。
旋風は急激に速度を上げたり、下げたりを繰り返し、水や火、砂が互いにぶつかりあい破損していくが、いつの間にか自然と修復していく。
ロンの手のひらのうえで、万華鏡のような、魔法変化がおきていいる。
「魔法使いが得意とする魔法属性は一人1つのはずだ。
上級魔法使いでも、1つだ。
賢者ですら、3つの魔法属性しかない。
得意属性でないその他の魔法属性を使っても、適応力が低く、たいした魔法も使えないはずだ」
「僕も得意魔法は、補助魔法だけです。
その他の属性は適応していない。
操作属性の魔法も、炎属性の魔法も、どれも些細な力しかでていない。
でもね。所詮僕は下級魔法使いなんです。
初級魔法しか使えない。
もともと些細な力しかない魔法しか使うことができないんです。
僕の補助魔法はたしかに他の属性魔法よりも強力だ。
でも所詮は初級魔法だ。
その差は五十歩百歩といったところです。
あなたたち中級、上級魔法使いにとっては、不適応の魔法などたいした役に立たないものと、すぐに切り捨ててしまうだろう。
でも下級魔法使いにとってはそれは大きな武器になる。
そして、そのおかげでエリート魔法使いにはできないこともできるようになる」
ロンは浮いている一本の剣を、くるくると回した。
上下左右に、軽々と動かす。
「剣のような重いものを、初級魔法で素早く動かすことはできない。
あなたの言うとおりだ。
50本の剣を浮かすなど、不可能だ。
ただ、それは重い剣だからだ。
軽ければ、初級魔法でも問題なくできる。
50本の剣を操らなければいけないので、器用さは必要だ。
ある程度の技術もいる。
でも、それらに才能は関係ない。
訓練で身につく。
この50本の剣は、軽いんだよ」
「剣士に軽い剣を持たせていたというのか」
「いや、違う。
もちろん鉄のしっかりと重量のある剣を使っている。
剣が軽かったのでなくて、軽くしたんだよ。
僕はさっきも言ったように、物理魔法が使える。
その中には重力操作のできる魔法がある。
買い物とかで重い荷物に、この魔法を使うと軽くすることができてとても便利なんだ。
生活魔法だけど、僕はこれを剣に使った。
特性のない僕が使った重力魔法などたかが知れてはいるけど、それでも充分に軽くなる。
また、僕は風魔法も使える。
剣の下には、風も起こしている。
これまた、たいした威力ではないけど、それでも浮力にはなる。
錬金魔法も使える。
錬金術には鉄の軽量化の技術がある。
僕のような下級魔法使いでは、少しの変化だが、軽くすることができる。
あ、それと補助魔法には魔法の強化をしてくれるものがある。
それを自分自身にかけている。
この4つの魔法を同時に使うとね、これが結構軽くなるんだよ。
いや、かなり軽くなる。
僕が必要だったのは、避雷針となる鉄の棒だ。
重量は必要ない。
僕は剣をすべて軽くしていたんだよ」
ロンは回転させていた剣をとめる。
そして50本の剣の向きをそろえる。
ゴデル軍へ剣先をすべて向ける。
「それに、こんなこともできる。
これらはとても軽い剣だ。
武器の重量はそのまま威力につながる。
ここまで軽い剣に攻撃力はほとんどない。
でもね。
これらの剣は特別だ」
ロンは50本の剣を、ゴデル軍へと飛ばす。
ロンとゴデル軍とはかなりの距離がある。
剣を飛ばしても、そのスピードは遅い。
ロンの魔力ではさすがに剣ほどの大きさのものを高スピードにすることは難しい。
もともと剣を弾いた力も弱いので、ゴデル軍いる地点まで到着するまでに、ますますスピードは落ちる。
それでもなんとか、剣はゴデル軍へとたどりつく。
魔法使いたちの頭上へ、力なく落ちていく。
運動音痴である魔法使いであろうとも、この程度のものであったら、簡単にかわすことができた。
しかし、剣が地面に着く瞬間少しだけ大きくバウンドした。
金属とは思えない、ゴムのような跳ね方をした。
これは剣が思いのほか軽かったのと、ロンが錬金魔法でゴムの性質を付与していたからだ。
予想外の動きを見せた剣に、何人かの魔法使いの服を剣先がかすめる。
ただ少し跳ねただけだ。決して体に傷をおったりはしない。
直撃したとて、あまりに軽い剣のため、かすり傷すらつかない可能性がある。
ところが、剣が服をかすめた魔法使いが、次々と膝をくずし、しゃがみこんでいく。
顔の筋肉を硬直させて、苦しそうに大きく息を吐く。
地面に座りこんでしまった味方に、周りの兵士たちがざわめく。
「この剣は攻撃にも使える」ロンが不敵に微笑む。
ロンは、また新たに50本の剣を頭上に浮かべる。
明日も午前7時15分ごろ投稿予定です。




