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23話 策2

 ロンたちは川辺に上陸した。


 川は大きく湾曲していた。

 最初、東へ流れていたが、大きなカーブを過ぎると北へと進路を変えた。


 ロンたちが北へしばらく流されたあと、右手に河原が現れた。

 川はカーブを抜けたあと、激しい水流もおさまってきており、特にこの河原のあたりは穏やかだった。


 ロンたちはこれを幸いに、泳いでその河原へとたどり着いたのだ。

 数名の者がそのまま流されてしまったが、第4大隊のほとんどは同じ河原に到着できた。

 流された数名も、どこかで川から上がり、うまくすれば合流できるだろう。

 少なくとも死ぬことなく、どこかしらの人のいる場所にはたどりつくことはできるはずだ。


 ロンたちはしばらくの間、この河原で休憩をとった。


 濡れた服を乾かす必要があった。

 そして、激流にのまれていたのだ、当然体力もかなり奪われていた。

 体を休めることも必要だった。


 ロンが岩の上で、体を横たえていると、ティラ近づいてきた。


 鎧を脱いで薄着のティラの姿に、ロンの鼓動は早くなった。

 しかし、そんなことはおくびも出さずに、ロンは無表情に徹していた。


「身体強化の魔法とはすごいものだな。

 あの激流の中でも、スイスイと泳げた」


 ティラがクロールをするかのように、腕をかきながら言う。


「僕は下級魔法使いだからね。

 中級や上級になると、もっとすごいよ。


 もっともさすがにあの激流を泳げるのは、ティラとリンぐらいのものだろうけどね。


 他の兵士たちは、浮かびあがるのに精一杯だったはずだ」


 ロンが周りの兵士たちを見る。

 無傷ではいるが、やはりどこかしらに疲労が見られる表情を浮かべている。


「あの浮き輪もたいしたものだ。

 ただのズボンを、左右の筒部分を切り離し、つなぎ合わせたものでしかないのに、見事に浮き輪となっていた。


 防水魔法といったかな、布が見事に水をはじいていた。浸水しなかった」


「あれはただの生活魔法さ。

 腕時計とかにかけておくと、壊れにくくなって便利なんだ。

 ゴデル国民なら誰でも使える」


「あの浮き輪をふくらませたのも魔法なのか?

 紐を引いたら、急に空気が入って、ふくれあがったが」


「いや、あれは魔法ではない。

 実はあれを実装してくれたのは、ジルとレムなんだよ。


 あのふたりはどうやらありとあらゆる知識を叩きこまれたらしい。

 船舶の救命胴衣に使われている技術らしい。


 ふたりがいなかったら、ふくらませた状態で背中に背負っているはずだった。


 そうなると戦いづらかっただろうし、作戦もバレる可能性があったから、本当に助かったよ」


 ティラは、今はしぼんでいる浮き輪の残骸を見る。

 使い終わったそれらは、あちこちにうち捨てられている。


 ティラは次に空を見あげる。

 今日は雲ひとつない青空が広がっている。


 太陽の光が、川辺に降り注ぎ、温度をどんどんと上昇させている。

「次はいよいよ攻勢でる」


 ロンも一緒に青い空を見あげながら言う。


 ロンの言葉に、ティラが(いぶか)る。


「1,500の兵に、500で立ち向かうのか。

 それも今は、川に流されたばかりだ、兵士たちの体力もかなり消耗している。


 せっかく包囲を抜け出したんだ、ここは一旦本陣に戻るのがいいのではないか」ティラが言う。


「本陣に戻るのも悪くはない考えなのだけど、せっかくのチャンスを見逃すのはちょっともったいないかなと思って。


 敵もおそらく、川で逃げた僕たちは、そのまま本陣に戻っただろうと考えてる。

 せっかく逃げたのに、また戻ってくる馬鹿はいないと思っている。

 ほとんど警戒をしていない彼らに、気付かれずに接近するのは簡単だ。


 そして知ってのとおり、魔法使いは接近戦に弱い。

 いくら鎧を着たり剣を持ったりして、接近戦対策をしているとはいえ、所詮は魔法使いだ。


 第4大隊はたしかに今疲れている。

 でもそれは敵も同じさ。


 夜襲に失敗して、追い込んでいた敵を取り逃がす。

 精神的には敵のほうが疲労はたまっているはずだ。


 たかだか3倍の兵力なんて、第4大隊の敵ではないよ」


「問題はそれだけじゃない。

 敵の増援の問題もある。


 ゴデル軍の本陣はここから近い。


 1,500の敵兵を相手しているうちに、後ろから別の部隊に攻められるなんてなったら、またはさみ打ちに返り咲きだ」


 ロンはおかしそうに口角をあげる。

 予定通りの質問をしてくれるティラを、嬉しく思う。


「敵の本陣は増援を送らないよ。

 いや送れないんだ。


 本陣はそれどころじゃない」


「どうして」ティラは言う。


 ロンは、今度はいたずらっぽく笑う。


「本陣は襲撃にあうからだよ。

 ハルス家の本陣から、直接、部隊が向かうはずだ。

 それもそこそこの大部隊がね」


「なんでそんなことわかるんだ」


「僕がそう仕向けたからだよ。


 本陣の食料の保存魔法を、僕は追放された際に解除した。

 食料はもってあと一週間だ。


 そうなると父の取れる行動は、撤退か、短期決戦か。


 父は撤退を絶対に選ばない。

 敗北は父がもっとも嫌うことだからね。

 とても負けず嫌いなんだよ。


 短期決戦となると、もう本陣に攻めこむしか手段はない。


 だからね、敵の本陣は、唐突に、意味不明のタイミングで攻めてくるハルス家の軍隊の対処に追われるはずだ」


 ティラは黙っていた。

 ロンの話が本当だというのなら、ある事実が浮かびあがってくるのだ。


「ロン、お前のその言い方だと、つまりお前は、追放された時点でもうすでに、今回の計画を立てていたということになる。


 いくらなんでもそんな未来予想みたいなことは、不可能だろう。

 信じろというのは無理がある」


 ロンは飴を取りだして、なめる。


「未来予想っていうのは、それほど難しいことではないんだよ」ロンが笑って言う。


 兵士たちの服は、そろそろ乾きはじめていた。

明日は午前7時15分に投稿予定です。

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