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15話 ジルとレム2

「さてと」とロンが、両腕をあげて伸びをする。


「ふたりとも出てきなよ」ロンが言う。


 ジルとレムはなにを言っているのか理解できなかった。

 出てきなよ?


 ロンの視線の先に目を向ける。


 洞窟の出入り口の暗がりより、リンとティラが姿をあらわす。


 歩いてロンのもとへ進んでくる。


「いつからいたんだ」とジルがきく。


「ずっとよ。

 ロンがこの洞窟に入ってきた時から、ずっと」リンが言う。


「ひどいよね。

 彼女たちはストーカーのように、僕をつけていたみたいなんだ。


 ストーカー規制法で訴えてやりたいよ」ロンがリンとティラをにらみながら言う。


「残念ながら、そのような法律はこの国にはない」ティラが言う。


「私たちはロン様につきまとい放題」リンが言う。


「それに従者が主人のそばにいるのは、当然の行為です。


 ロン様自身が弟に言っていたことですよ」


 ロンは「たしかにそんなことを言ったような気がする」とつぶやく。


「だいたい、私はこのふたり、ジルとレムは強者だと伝えておいたはずだ。


 それをひとりで勝手に戦闘をはじめて、なにを考えているんだ。

 もしものことがあったらどうするつもりなんだ。


 仮にも司令官なんだぞ、そのへんの意識が低すぎる」


 ティラがロンの肩をはたく。

 ロンは痛そうに、叩かれた肩をさする。


「なんだ。

 最初から俺たちには勝ち目なんてほとんどなかったんだな。


 3対2ではかなり具合が悪い」


 ジルが落とした剣を、しれっと拾いながら言う。

 しかし、ロンも、女性ふたりもそのことを注意したりはしなかった。


「具合が悪いなんてものではないぞ。


 君たちに世間を知らないと言ったのは、このティラとリンのこともあったからだ。


 俺はジルとレムはハルス家のベスト5に入ると言った。


 それは父以外に、もうふたり君らよりも強いものがいたからだ。


 このふたり、ティラとリンは、君たちよりも強いよ。


 リンに関しては、ふたりがかりでも瞬殺だろうね」


 リンが「えっへん」と胸をはる。


「まあそれも、もしも僕が追放されていなかったとすると、ふたりのどちらかがベスト5から漏れるわけだね。


 どちらがベスト5に残るのかはわからないけど」


「俺だ」とジルとレムは同時に言った。

 ふたりがにらみあっている。


「今後のふたりの処遇だけど」とロンが話をつづける。


「ふたりがベスト5だかベスト6だかは、とにかくとして、ふたりが強者であることには変わりない。


 ジルとレムが協力してくれると、僕としてはありがたいんだよ。


 ここにいる4人がいれば、この危機的状況を脱するのもだいぶ楽になるからね。


 だいたい、ジルとレムはゴデル国に亡命したあと、どうするつもりだったんだい?」


「傭兵でもやって、生活していくさ。

 腕には自信があるからな。

 そんなに悪い待遇でもないだろう。


 奴隷をやっているよりかもはずっといい暮らしのはずだ」ジルがこたえる。


「うん。たしかにふたりならそこそこの暮らしならできるだろうね。


 ただ、ゴデル国は魔法で栄えている国だ。

 ほぼすべての国民が魔法を使うことができる。


 おそらく、ジルとレムは魔法を使うことができないだろう」


 ふたりはうなずく。


「魔法中心の社会では、魔法を使えないものはかなりの差別を受ける。


 剣術中心の社会で、魔法使いが暮らすみたいにね。


 どんなに力があっても、不平等はつきまとうことになる。


 僕を見てもらえれば、それはよくわかってもらえると思うけど。


 ゴデル国はふたりにとって、あまりいい亡命国ではないと思うよ。

 どうせならスミル国に行くべきだ。

 あの国は、剣士も魔法使いも、平等に暮らしている。

 人口も半分半分だ。


 スミル国とハルス家は、つながりがあってね。

 親交がある。


 ふたりの亡命を手助けできると思うよ。


 ゴデル国への亡命はなしにして、ここは僕たちに力を貸してくれないかい」


「でも、あんた追放されてるじゃん。

 スミル国のつながりもあったもんじゃない」


 ジルが的確な指摘をする。


 ロンが頭をかく。「まあ、そうなんだが」


「それならロイエン家の長女である私が保証しよう。

 ハルス様にロイエン家からお願いすれば、断られることもないだろう」


 ティラが助け舟をだす。

 ロンはホッと息をひとつ吐く。


「どうだい、僕たちに協力してくれないか?」


 ジルとレムが、顔を合わせる。

 沈黙しながら会話をしているように見える。

 まるでクジラの会話のようだ。


 30秒ぐらいときが流れる。


「わかった」とジルがうなずく。


 その返答を聞いてロンは大きなあくびをする。

 両手を上げて、つま先立ちになって、大きく伸びる。


「ふー、これでやっと眠れるよ」


 ロンは口に残っている飴を噛み砕いて飲みこむ。


「では、おやすみね。

 細かい話は、また後でだ」


 スタスタとロンが洞窟を出ていく。

 リンがそのあとをついて出る。


「ロン様、飴を食べたのですから、ちゃんと歯を磨いてから寝てくださいよー。

 虫歯になりますよー」


「この飴はシュガーレスだから、大丈夫だよ」とロンがこたえる。


 ジル、レム、ティラも、それぞれのテントへ帰っていった。


 残されたトド隊長は、牢の中で、ただ呆然としていた。

明日も15時15分ごろ投稿予定です。

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