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13話 牢屋

 ティラとリンがロンのテントを出よとしたが、ふと出口で足をとめる。

 ティラが振り返り、ロンに言う。


「そういえば、どうして今夜、敵が襲撃してくるとわかったの?」


 ロンは笑ってこたえる。


「ティラから前戦の話を聞いてね、敵の司令官は安定志向だとわかった。

 リスクのある行動は避けて、安全に勝てる選択をしていく。

 大きな成果よりも、確実な勝利を大切にする。


 そうとわかるとある不審な行動の原因がわかるんだ。


 第4大隊は瀕死の状態だった。

 それなのに、敵はなかなかとどめを刺しにこなかった。


 ティラも不思議に思っていたはずだ。

 敵がどうして攻めてこないのかと」


 ティラは深くうなずく。


「その答えは、今夜が新月だからだよ。

 月明かりがまったくない。

 曇りだから、星の光すら地上にはとどかない。


 敵の指揮官はこの時を待っていたんだ。

 つまり真っ暗な空間を待っていた。


 魔法使いは遠距離からの攻撃が基本だ。

 そして接近戦は苦手だ。


 闇の中から攻撃すれば、どこから仕掛けてきたのかわかりづらい。

 自分たちのいる場所が判明されず、敵に接近されにくい。


 真っ暗な空間ができる、今夜は魔法使いにとっては、絶好の戦闘日和だったわけだよ。


 これは敵がどのような配置をするかも僕に教えてくれた。


 ばれにくい暗い場所に敵は兵を置くはずだと予想できた。


 この周りには林や岩場がいくつかある。

 そしてもっとも暗く、攻撃を仕掛けやすい場所が東にある林だった。


 ティラとランに隠れてもらった場所だ。


 あのあたりに敵の本陣が展開されるだろうことは簡単に推測できることだったんだよ」


「なるほど」ティラは首を振る。


「言われてみればそのとおりだが、なかなかどうして戦闘の最中には気がつきにくいことではあるがな。


 ロンだからこそできる所業という感じだな」


 ロンはふざけるようにお辞儀する。


「お褒めつかわり光栄です。


 ただちょっと僕を買いかぶりすぎかな。

 毎回毎回こううまくいくわけではない」


「そうですかね〜。

 私はこれからはずっとロン様の無双パターンがつづくように思いますがー」


 リンが大きな声で言う。

 子供が親の自慢をするような声だ。


「僕としてはリンが無双する姿のほうが思い浮かぶよ」


「あはは。そんなの当然ではないですか。

 私は生まれた時より無双しっぱなしですよ。

 私は無双の達人です。


 ロン様のようについこないだ無双をはじめたペーペーとはものが違うのです」


「なるほど」と今度はロンが首を振って言った。


 ティラとリンはテントをでる。

 真っ暗な夜空の外を歩いていく。

 各々の寝床へと向かう。


 ロンはあくびをする。

 口の中にはまだなめ終わらない飴が残っている。




 岩の洞窟の中に、正方形の牢が置かれている。

 牢の前には看守がひとりいる。

 いや、いた。


 看守は壁にもたれかかり座りこんでいる。

 腹部からは血が流れだしている。

 洞窟内が血の匂いで充満している。

 その看守はすでに死んでいた。


 牢の中にはトド隊長がいた。

 太った体を小さい牢の中で、窮屈そうにまるめている。


 トド隊長は震えていた。

 目の前に立つ人物を見つめる瞳が、大きく見開かれている。

 歯がカチカチと音をたてる。

 恐怖のために、呼吸が乱れていた。


 トド隊長の牢の前には、ふたりの人物がいた。

 ひとりは赤毛で、もうひとり黒髪だ。


 それはトド隊長の護衛を務めていた、ジルとレムだ。


 ジルの手には剣が握られている。

 その刀身は血に汚れている。

 それは看守の血だった。


「殺さないでくれ」とトド隊長は泣きながらせがむ。


「本来ならあんたには、苦しんで死んでほしかった。

 指を一本一本切断していって、鼻や耳をそぎ落とし、肢体を切りおとして、最後に首を締めながら殺したかった。


 でも時間がそれほどない。

 夜のうちにここを抜け出さないといけないからな。


 実に残念だ」


 ジルは剣をトド隊長に突き刺した。


 しかし、小さい火の玉が刀身にぶつかり、剣がはじかれる。

 剣はトド隊長にとどくことなく、宙に舞う。

 岩の地面に剣が転がる。

 岩と金属の衝突音が響く。


「わるいな。

 そのデブを殺されると困るんだよ。

 そいつにはまだやってもらいたいことがあってね」


 ロンが洞窟内に入ってくる。


「ジルとレムのふたりが、このトドにどんなことをされてきたか、だいたいは想像できる。


 でも今回は見逃してくれないか」


「断る」とレムが即答する。


 あまりの即答に、ロンは苦笑する。

 頭をかく。


「それに君たちふたりは、亡命するつもりだろう。

 ゴデル国に。


 それもやめてほしい。


 君たちのような優秀な人材を失い、向こうに加担されてしまうと、ただですら厳しい状況が、余計悪化する。


 好待遇を約束するから、僕の味方になってくれると嬉しいのだけど、どうだろう」


「断る」とジルが即答する。


 ロンは頭をかいていた手を下ろす。


「残念だ」本当に残念そうにロンが言う。


「ロン、あんたバカか。

 そんなことを言うために、のこのこ俺たちの前に姿を現したのか。


 戦場ではあれほどの知略を見せたのに、なんて軽率な行為だ。


 俺たちはこのトドを恨んでいる。

 そしてトドが属する組織、ハルス家も恨んでいるんだよ。

 ハルス家という組織も腐っている」


「たしかにハルス家は腐っているね」ロンは深くうなずく。


「ロンさん、追放されたとはいえ、俺たちから見ればあんたもハルス家の一員なんだよ。


 つまりなあんたも復讐の対象だ」


 ジルが剣をロンに構える。

 レムの手にもナイフが握られる。


 ロンも手のひらに5つの炎を浮かべる。


「僕は下級魔法使いだけど、意外と強いよ」とロンが言う。


「知っているよ。

 でもね、こちらはふたりだ。


 俺とレムのふたりなら、あのリンとかいう女にも負けないよ」


 ジルがロンとの距離をじわりと詰める。


 それを待たずに、ロンが5つの炎を指で弾く。

明日は15時15分ごろ投稿予定です。

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