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12話 撃退

「それにしても、すべてロンの言ったとおりになったわね」


 ゴデル国の4つ目の部隊を殲滅したあと、ティラはリンに話しかける。


「そうですね。

 野営地のほうの襲撃もどうやら防ぎきれているようですね。

 ここからですと、はっきりとは見えませんが、ゴデル軍は攻めあぐねているようです」


 リンの言葉を受けてティラも、野営地のほうに目を向けるが、夜の暗さにまったく何も見えない。

 ティラはリンを見つめて、あらためて「化け物だな」と心のなかで思った。

 この暗さでも見ることができるのか。


「ロン様の対策はすべて効果を発揮しているようです。

 ロン様の思惑どおりに事が進んでいます。


 そして、このあと敵のとる行動は」


「撤退」ティラが言う。


「私たちは先ほどの集団を倒したことによって、敵軍の本部にかなり近づくことができるようになりました。


 敵の司令官は、次は自分が狙われると考えるでしょう」


「私たちはふたりしかいない。

 しかし、そのふたりに次々と部隊が全滅させられている。


 それはかえって恐怖を与える。

 理解の範疇を超える現象に、人は不安をいだく。


 実際はさすがにふたりで本陣に攻めこむのは無謀に過ぎる。


 おそらくそんなことをしても、殺されるだけだ。


 敵の司令官もさすがに自分のところまではたどり着けないだろうと考えてはいる。

 考えてはいるが不安が残る。


 今回の戦いで、ゴデル国の兵は若干減った。

 しかし、それでもまだまだ自分たちが優位なことには変わりない。


 ここは一旦退いて、様子をみるのが賢明だろう。


 そう司令官は考えるだろう」


 リンはうなずく。


「すべてロン様がおっしゃっていたことです。


 そしてあれを見てください」


 リンが東を指さす。

 ティラがその先を見る。


 そこにはいつくもの松明の光が見えた。

 ゴデル軍のものだ。


 その松明の炎が、しだいに遠ざかっていく。

 明かりが小さくなり、次々と見えなくなる距離まで離れていく。


「どうやら、最後までロン様の言ったとおりになったようです。

 ゴデル軍が撤退していきます」


 ティラが小さくうなずく。


「今夜襲撃があることを予見し、その完璧な対策と、それを実行する指揮力。


 ロン様は一体何者なのでしょうか。


 ただの無能ではないと思っていましたが、まさかここまでの人物だとは。


 正直、怖さすら感じます。

 ロン様の底が見えません」


 ティラはただ黙っていた。

 幼馴染であるティラでも、何もこたえることはできなかった。


 魔法使いであるのに、上級剣士を接近戦で倒してしまい、魔法技術が圧倒的に優れているゴデル軍を、魔法の知識をもちいた知略で翻弄した。


 彼は無能な下級魔法使いで、家を追放までされたのに。


 ティラは首を振る。

 わからないことが多すぎる。

 しかし、彼女の口元は緩んでいた。

 嬉しそうに微笑んでいた。


 ティラとリンは、帰るために歩きはじめる。




 夜襲を仕掛けていた部隊も、本体の軍にあわせて撤退をしていた。

 第4大隊の野営地は勝利の余韻に浸っていた。


 ふたりがロンのいるテントに戻ると、ロンがあくびをしながら出迎えた。


「おかえり」


「ただいま戻りましたー」

「ただいま」


 ロンは元気なふたりの姿を見たあと、笑顔を浮かべる。

 そして、もう一度あくびをする。


 日の出までにはまだまだ時間があった。

 時刻は夜中だ。


 昨日の夜は森のなかを歩きづめだったし、昼間は夜襲の準備に忙しかった。

 ロンを睡魔が襲うのは当然だった。


「見事な遊撃だったね。

 こんなにも早く撤退してくれるとは思わなかったよ。


 おかげで、こちらに被害はほとんだない」


 ロンがあくびを隠すように口の前に手をあてたたまま言う。


「ロンもよくあの大量の魔法の襲撃をほぼ無傷でしのいだものだわ。

 さすがね」


 眠そうにしているロンに、肩をすくめながらティラが言う。


「うん。僕もここまでうまくいくとは思っていなかった。

 第4大隊はやはり優秀だ。

 実力者がそろっている。


 特に驚いたのはジルとレムだな。

 トド隊長の護衛をしていたのだから、ある程度の力はあるだろうと思っていたけど、あそこまで強いとは思わなかったよ。


 下手するとティラにも勝てそうなくらいだ」


「事実、私よりも強い可能性はあるよ。

 少なくともあのトド隊長よりかもは強い」とティラが言う。


「あの二人の実力は未知数なのよ」


 ロンが首をかしげる。


 ティラはこの部隊の副隊長である。

 部下の実力を知らないのは、軍組織として不可解なことだった。


「あのふたりは軍には所属していないんだ。

 ハルス家に籍をおいているものではない。


 ふたりは大隊長に直接仕えていた」


「直接仕える? そんなことは認められていないはずだけど」


「たしかに、個人が兵士を所有するのは禁止されている。

 けど、抜け道もある。


 あのふたり奴隷なのよ。

 大隊長の奴隷だったの」


 ティラはまるで自分が背徳的行為をしていたかのように、少し目をふせる。


 この国では奴隷を持つことは合法だった。

 人をお金で買うことは違法ではない。


 しかし奴隷は身元不明の犯罪者がほとんどであり、ジルやレムのような優秀なものがいるなど、本来ありえないことだった。


「彼らが何者なのかは、私にもわからない。

 どうしてあれほどの力がありながら、奴隷をしているのかも不明なの。


 彼らには犯罪歴もないわ。

 戦場で共に行動をするのだからそれぐらい調べたわ。

 でも、彼らが奴隷になるような理由はまったく見つからなかった」

 ロンはしばらくティラのうつむいた顔を見つめる。


 頭をかいて、小さくため息をつく。

 ロンはティラの顔に視線を向けてはいたが、何か別のものを見ていた。

 ティラの話の向こう側を見つめているかのように。


「はあ。

 まあ、とにかく今夜はお疲れさま。


 ふたりのおかげでとりあえずの危機はまぬがれた。


 ゆっくりとやすんでよ。

 今後の話はまた明日だ」


 ロンはまた笑顔を浮かべて、ふたりに言う。


「ええ」

「かしこまりました」


 ふたりはこたえる。


「僕も眠くてしょうがない。

 とっとと布団にもぐるとするよ」


 ロンは大きくあくびをする。


 そして、ポケットに手を入れ、飴玉を取りだす。

 包装をはずして、口の中に放りこむ。


「おやすみ」とロンが言う。

 ()()()()()()()

 これから寝るというのに、飴をなめながら言う。

明日も午前7時15分に投稿予定です。

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