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王城にての騒動

 いくつかの門をくぐると漸く王家が私邸として使っているエリアにはいった。そこからは至るところに壁画やステンドグラスを駆使した明かり取りなどが目についた。そしてどこかしこにも妙な感じのする角とか階段とか、どうも隠し扉を思わせるのだ。


 それを知ったか振ってオスカルがなにか言うものだからジュディーが嫌気が差し、

「それほど言うなら自分から隠し部屋に入ったら良いじゃない」

 女性にそう言われれば引き下がるのも男としてどうなのかと思ったオスカルは、

「じゃ入ってやるから驚くなよ」

 と言うものだからアトラスも何を思ったのか、

「ほら、あそこなんて怪しくない?」

 と見るからに危なげな模様が一面にしてある廊下の突き当たりを指差す。

「良いかジュディー、俺が消えても驚くなよ!」

 そう言うとどうやって開いたのか、オスカルが回転した扉の向こうに消えてしまった。


 それで大慌てになったジュディーが、

「アトラス! 本当に消えちゃったじゃないの!」

 と言うのだがアトラスは平気なようで、

「だってその扉を開けたのって例のスケルトンたちだよ。やつらこの城の隅から隅までの隠し通路を根城にしやがったのさ」


 ビックリしたのはジュディーばかりではなかった、エモンも驚き、

「それってどう言う意味だよ?」

「ここは亡者の館でもあったのさ。そこら中に屍がうじゃうじゃ転がっていたのさ。それはそうさ。知っている人間は極々限られていただろうしさ。そうだろ、侍従とか、侍女とかにだって教えない秘密なんだし。そうなれば誰も掃除も管理も出来ない。そうすると、生き倒れたものだっているだろうしね」


 そんな恐ろしいことを淡々と話すアトラスに、ジュディーもエモンも引いてしまい、

「お前ってつくづく怖いもの知らずだな」

「そう? そんなことより今この城がどうなっているのかを知った方が驚くと思うよ」

 エモンは顔を引き攣らせながら、

「それってこの城がスケルトン城になっているとかじゃないよな?」

「いいえ、その通りなんだけど? なにか悪い? それより面白いスケルトンもいるから楽しみにしていると良いよ」


 引き攣った顔が痙攣しだしたエモンだが、

「まさか魔法が使えるとかじゃないよな? そんなのがいたら化け物だぞ!」

 と何とか言葉になっていた。

 それに頓着しないアトラスは、

「いや、実際にいるけど。それにあいつらって人間より人間らしいんだぜ」

 というも、それに納得できないでいるジュディーが、

「馬鹿言わないでよ。どうしてスケルトンって化け物が人間らしいのよ」

 少し言葉を選んだアトラスは、

「死んで時間が止まったからじゃないのかな。死ぬときの思いが今も尚行き続けている的な要素な感じだよ。それで人間くさい台詞を良く吐くよ」

 幾分は納得したジュディーは、

「そんなものなのかしらね!?」

「ジュディーも奴らと会話すれば分かるんじゃないかな」

 そう言われた瞬間にぶるっと身震いをし、

「おぉ、やだやだ、絶対にやだからね」

「でも、やつらも友達になりたがっているんだが……」

「お・こ・と・わ・り・よ!! 誰が化け物なんかと友達になんてなるもんですか!」

「しかし、そこにオスカルが行ってるんだが? 彼を放っておく?」


 ジュディーは言われてみて始めて気が付いた。


「おいてけぼりにしたら、どうなるの?」

「奴らと会話が出来なければ、死んで彼らの仲間になってから出てくるしかないかな」

「それって無理な話じゃないの!!」

 と言っても後の祭りでオスカルを探しに行くしかないらしい。それで、

「行くにしても先頭はアトラスだよね?」

 しかし、そのアトラスは、

「いえ、俺はいけません。しかし、この紙を持って行ってください。お札のようなものです。道中のご無事を祈ってます」

「どうしてよ?!」

 とジュディーは瞬発的咄嗟な疑問を発した。

「僕が行ったら面白くないでしょ」

 それに不満で納得できない彼女は怒った口調で、

「こんな時だけ良い子ぶって僕だなんて、本当にあんたって人は人の嫌がることをさせたら王国一ね」

「僕にはそんなつもりはありませんよ。それに国王が呼んでいるんです。僕までいなくなったら困るでしょうし、オスカルはあなたたちの元々の仲間じゃないですか」


 そう言ってアトラスとイリヤは先を急ぐ従者の後にしたがって行く。それを見送ったジュディーとエモンは、致し方なくオスカルが消えた隠し扉の中に入っていった。


 アトラスとイリヤが案内されたのは大広間で、そこにはすでに何組かのチームがすでにいる所だった。


 そこには豪華なビュッフェが用意され、良い香りを醸し出していた。それでイリヤは、

「流石に王国ね。こんな立食なのに見たこともない食材が至るところにあるわよ」

 と言うものだからアトラスは仕方なく、エスコートして欲しそうなイリヤを連れて行くと彼女はお皿の上に料理を山盛りにし出していった。

 それを見た他のチームメンバーがクスクス笑い出し、

『見ろよ。あの田舎者娘を!』

『本当! 着ている服だって下級庶民のものよ』

『それにセンスがなさ過ぎって感じよね』

 と女子連からは散々な陰口をたたかれている。


 その中で一人の男が近寄り、

「君の腰に下げている剣は、確か町の武器商人からのお下がりだそうじゃないか?」

 と言うと別の男も近寄り、

「魔法師らしいが、その革の胸当てってないよな。そんなの民営塾ですら使ってないぞ」

 そう言っては二人して大笑いしだした。

 しかしながらアトラスはそれでも何も言わずにいると、今度は別の男が、

「お前たちって命知らずなんだな。この人たちはレッドナイトのメンバーだぞ」


 それを聞いた先の二人は顔面蒼白になりながらも、

「強いのはエモンという剣士にジュディーって言う魔法師だろ!?」

 それに釣られてもう一人も、

「そうだぞ。俺はこいつが戦ったところを見たことがない」


 それを受けてなのか女子連の陰口にも、

『そうよ。戦闘だってその子が逃げ回る所しか見たことないし!』

 と言うものがあった。


 その間にもお皿に盛ったおいしそうな料理にご執心だったイリヤが顔を上げ、

「三大英雄という大木が倒れた後に、竹の子のようににょきにょきと伸びてきた輩が、偉そうに何を言っているのやら。英雄がいたときには何も出来なかったくせにね」

 などと言っては大笑いしだした。

 そんなイリヤを見てアトラスは、

「イリヤ、そんなに笑うと口の中のものが飛び散るって!」

 と婦女子に向かって失礼この上ないことを言ってしまった。

 それで先ほどレッドナイトのメンバーだと言い当てた男が、

「僕はサンシャインのリーダーをやっているフィニッシャーという者です」

 と言っては握手を求めてきた。

 それでアトラスは代わりにイリヤに促した。

 そのイリヤは、この時ばかりはお皿をテーブルの上に置き、スカートを少しだけ持ち上げ会釈をするような感じで、

「わたしはレッドナイトのメンバー、イリヤと申します。隣のはアトラス、他のメンバーははぐれてしまったようで城の中を探索中ですわ」

「確かに、城の中は広いですから、どなたかと出会えて教えてもらえるとよいのですが」


 それを聞いてイリヤも内心、

『確かにその通りなんだけど、出会うのってスケルトンとかの化け物なのよね。あの人たちって大丈夫なのかしらね?』

 と思わずにはいられなかった。

 そのイリヤの口元が妙に色っぽく歪んだせいかフィニッシャーが自分のジョークが受け他のだと勘違いし、

「如何でしょうか、あちらの席で落ち着いてお話しでも?!」

 と進めてきたのだが、イリヤの方は淡々と、

「あなたの剣だって安物に見えるんだけど?」

 と自分の持っているリングと杖が第二階級の代物で、能力的には基礎値に装備しているアイテムを掛け合わせれば、軽く第三階級を超えていると思っての発言だった。しかしそれでも第四階級にはほど遠いのだが。


 フィニッシャーは、そう言われても怒ることもせずかえって、

「イリヤさんにはそう見えるのかな。もしかしてイリヤさんって千里眼ですか?」

 などと会話を広げようとしてきた。

 そこに首を突っ込んできたアトラスは、

「イリヤ、良く見ると良いよ。その剣はそこそこの代物だよ。君の杖と同じく第二階級なんだからね。この部屋に集まったなかでは断トツだよ」


 そう的確に言い当てられたフィニッシャーは頭を掻きながら、

「良くお分かりでって、イリヤさんのも第二階級でしたか。アイテムは持てるだけ持っていた方が良いですものね」

「そんなの常識でしょ」

 とイリヤは言葉ではつれない言い方をしてみたが、内心では、

『割りと話が通じる相手ね』

 と言う評価に変わっていた。


 そこにサンシャインのメンバーが加わってきて、多分、装備品について話しているのを聞きつけてきたのだろう、

「リーダーの武器は代々に伝わる家宝なんだってよ」

 と説明しだした。

 それで納得したイリヤは、(普通、第二階級の武器などは買えることなどあり得ない)

「それじゃあなたの家は貴族なの?」

 と少し的外れな事を聞き出した。

 それに答えたのは本人ではなく先ほどのメンバーで、

「貴族って程じゃないがサーの称号さな」

 と言えば、他のメンバーも、

「そのお陰ってことは多々あるよな」

 と実力より名聞主義の恩恵を高らかに謳いだした。


 そんな頃、隠し扉の向こう側、人の世界とは異なる空間に入り込んでしまったオスカルにエモンとジュディーたち三人は出口を求め彷徨っていた。

「しかし、この通路って誰が使っていたんだろうね」

 そう言って雰囲気を和ませようとしたエモンだが、ジュディーは、

「鼠の通り道で間違いがないんだから、早く出ましょうよ」

 そう言って、女性としてここの不潔さが堪らなく嫌いであることを主張する。

 それでも自己防衛のためか正当化するつもりなのかオスカルは、

「それでもなんか良いことを発見できるかも知れないぜ」

「良い事って何よ? それより悪いことを見つけちゃって、それが元で極刑になるなんてまっぴらだからね」

 それでもオスカルは恐る恐る、

「悪い事ってなんだよ?」

「だから王国にとって都合が悪い真実とかよ。知られたらまずい事なんて、どこの国でもあることでしょ。そう言うのってこう言う隠し部屋とかによくあるじゃない」


 そう言われるとそんな気もしてきたオスカルにエモンは首筋が寒くなって、

「おいおい、怖い事を言うなって、そんなこというもんだからトイレに行きたくなってきたぜ。どこかにないか?」

「あんたたちなら立ちなんとかで済ませられるけど、わたしはどうするのよ?」

「お前も……」

「それを言ったら殺すからね!?」

 と真面目に危機が迫っているようだ。


 そんな暗い通路に光が差しているのが見えてきた。


「おい、光明だぞ!?」

 と、どこか調子に乗っているようなオスカルが甲高い声を発した。

 それをエモンは彼の口を塞ぎ、

「良いから黙っていろ。そして、ジュディーも深呼吸しろ。ここからは音を立てるなよ」

 エモンはリーダーらしく物事を判断したようだ。


 三人が光が差している壁まで行くとそこは覗き穴になっていた。覗き込む二人は、

『ここは? 誰かの部屋なのか?』

 エモンが見たままで考え込んでいると、他の所にも穴が開いていたようでジュディーが手招きしながら、

『こっちは控え室っぽいわね。多分、護衛兵かな、粗末な長椅子が二つあるだけ』


 こうして彼ら三人は覗き穴を調べていくと、右側に鉄格子のある通路に出くわしたのだが、その薄暗い部屋を目をこらし良く見ると骸骨が並んでいる。それも鉄格子で閉じ込められているような感じでみな整然と座っているのだ。驚きを通り越し驚愕している彼らはさらに心臓が止まるかと思うような光景を目にした。

 そう、鉄格子のある部屋の扉が開いているのだった。


『オスカル! 早く鍵を閉めて!』

 こう言ったのはジュディーだった。

 それで意識が戻ったのかオスカルは猛ダッシュで鉄格子の扉を閉め、そこの鍵をかけようとしたのだが、肝心の鍵が見当たらない。

『どうしよう?! 鍵がないよ!』

『棒か何かで鍵をかけられないの?』

『そんなの無理に決まっているって、動物の檻じゃないんだから、人間なら誰だった開けちゃうよ!』

 そんな会話を聞いていたエモンは、物静かに、

『お前ら、安心しろって。アトラスがくれたお札があるだろ。多分、やつはこれを知っていて俺たちに持たせたんだと思う』

 そう言われて慌ててお札を取り出したジュディーにオスカルは安堵しながら、

『それならそうと言ってくれたら良かったのに!』

 と幾分不満げだった。


 それからは落ち着いたのか観察しながら鉄格子のある部屋などを見て回った彼らは、その異様さに気が付くようになり、

『これって監禁部屋ってことだよな?!』

 と話すオスカルに、ジュディーは服の名残と分解された装飾品から、

『だろうね。これ、ほとんどか、全員かは分からないけど、女性らしいわね』

 そこにエモンが要約し、

『ここって王家の生活区だろ。それなら政治犯とかの国家絡みの犯罪者が監禁される事はないだろう。このほとんどが王家にとって都合が良い状況ってわけだ。それなら彼女たちが置かれた身の不幸が見えてくるだろうな!?』


 そしてオスカルが、

『こっちに階段があるぞ。どうも地下に繋がっているようだ』

『どう言うことだ? 地下になど……、それほど知られたくないなにかをやっていたのか? とにかく行ってみようじゃないか』

 そう言ってエモンは先を急ぐように進んでいく。


 すると階段の踊り場なのか、ちょっとした広い部分に松明が十数個も並んで置かれている。それにジュディーが火をつけると、

『これをもって進もう。真っ暗ではなにも見えないしな』

 と松明を持ったエモンが先頭で階段を降りていく。


 するとどこからか呻き声のようものが聞こえてきた。そしてそれがどんどん大きくなると、さすがに気味が悪くなったジュディーにオスカルが、

『エモンよ。もう良いじゃないか。戻ろうよ』

 とオスカルが言えばジュディーも、

『そうよ。お札だってどこまで効果があるのかわかんないんだし』

 しかしエモンは、

『いや、見た方が良さそうだぞ。だってアトラスは良いものが見られるとか言ってたしな。きっとやつのことだからここは調べてあるんじゃないか!?』

『それはそうだけど、違っていたら、わたしたちが死んじゃうんだよ』

 そう言うとオスカルも、

『そうそう、死んじゃってからアトラスにスケルトンにしてもらったって、嬉しくないんだからな!』

『わたしだってやだからね。だから戻ろうよ!』

 しかし、そう言ってる間についに叫びの主に出くわした。


 エモンも身震いするほどの霊気が漂っている。


 ジュディーなどは鳥肌が立ってしまい身がすくんでしまった。それで声すら発せられない程、怖じ気づいている。


 脳天気なオスカルも開いた口から涎が落ちても気が付かないほど、五感が訴えてくる恐怖に自分の魂が吸い込まれて仕舞っていた。


 どこかで鎖で床をたたき付ける大きな音がして、ようやく彼らは我に返った。が、それも恐怖を再確認するのに役立っただけだった。


『わたし、洩らしちゃったかも!?』

 とジュディーが言えば、オスカルなどは、

『俺なんてちびったどころか尿漏れでござる』

 と言えばエモンも、

『俺も右に同じだ。こんな恐怖に堪えられる分けがない』

『じゃ、もう帰ろう!』

 と言ったジュディーの意見に皆が賛同したのだ。


 が、霊気の主はそれを許さなかった。

「こっちに来ぬか!!!」

 その声を受け、奥の、そのまた奥の方からも、

「こっちに来ぬのか!!!」

 と呪詛のような震えたど太い声が、隠し部屋全体を揺るがしていた。


 そう言われ戻るに戻れなくなったエモンたちは、その場から後ろを振り返ると、柱に括り付けられている大きな鎖が見える。その大きさではとても人のサイズを想像できないから、『化け物が鎖で括り付けられている!?』と想像が出来た。


 それで彼らは硬直していると、更なる声が、

「こっちに来るのだ! そこのション便臭い餓鬼ども!!」

 それも木霊のように奥の、またその奥から同じ台詞が、地響きが如くに聞こえてくる。


 その時、ジュディーが気が付き、

「アトラスにもらったお札! お札があったじゃない!」

 エモンもオスカルも喜びに沸き、

「そうだ! お札だ。これをやつに見せるんだ!」

 そう言って勇気を振り絞り一歩、また一歩と化け物に近づいていくと、そこにいたのは骸骨の頭に二本の角が出ている兜を被り、大盾を左に、右にはなんでも切り裂けるような巨大な剣を持っていた。


 そこでエモンが札を差し出し、

「これが目に入らぬか!!!」

 とどこかのご隠居のようなことを言いだした。

 しかし、その化け物は整然と、

「ふん、そんなものがあることくらいお見通しよ。そんなことより鎖の鍵を外せ!」


 そこでまたもジュディーが、

「そんな剣を持っているんだから、それで鎖を断ち切れば良いじゃないの!」

 と挑発的なことを言い出した。

 それで大慌てでエモンはジュディーの口を塞ぐのだが間に合わなかった。


 その化け物は大笑いし、

「良く気が付いたな。しかし我では切れぬのよ。この鎖はあんたらに開けてもらうように出来ているんだとさ! だからあんたたちの出番だ!」

 これも奥の、そのまた奥からも同じ事を言い出した。


 それでもジュディーは、

「それって誰に言われたんだって? そもそもあんたたちは誰に繋がれたの?」

 と怖いもの知らずのように話しだした。

 化け物は素知らぬ顔で、

「その札の所有者じゃないか! あんたたちが来たら鎖を外してもらえと言われている」

 それでジュディーは、

「それなら交換条件を交わしましょう。鎖を外してあげるから、ここから出る道を教えなさい。なんだったら道先案内しても良いわよ」

「了解した!」


 その化け物はあっさりと承諾した。あまりにもあっさりとしすぎていて気味が悪いほどだとエモンは思うのだが、ジュディーはそうではなく却って気分が高揚としたようで、

「どうすれば鎖が外れるというの?」

 と自らが進んで外そうとするのだった。

「鎖は呪いによって強化されている。封印されているといった方が良いのか。だから我らの力ではどうすることも出来ない。そこでお前たちで、その封印を破って欲しいのだ。これには力はいらない。わしたち以外の、そうだ、人間が破れろ、と念じるだけで呪いは解け、わしらは自由の身となるのだ!」


 それを聞いて違和感を感じたエモンだが、ジュディーの方がおかしくなっていたのか、エモンが言葉をかける前に、目の前の化け物を縛っていた鎖に呪いを解いてしまった。


 解かれたのは鎖だけではなかった。その化け物を化け物らしくしていた妖気までもが解き放たれ、側に居たエモンとジュディーにまで危害を及ぼし始めたのだ。

 それに感づいたエモンは自己防衛に入り、その禍禍しい妖気を遮断することに成功したのだ。これは用心のためにとアトラスがくれたアイテム、ただの紙切れなのだが、効果は絶大らしかった。

 しかしジュディーの方は全く警戒などしていないし、それ以上に化け物を従えている気分に陥り、自分が道具のように使われている事など思いもしていなかった。


 それが暴かれたのがジュディーが言った、

「わたしを抱え上げなさい」

 と言った言葉に対して化け物が、

「殺すぞ! このあばずれ!!」

「自由にしてやった恩を忘れ、この美女のわたしをあばずれと罵るのね! 覚悟なさい。今、浄化してやるから!」

 そう言ってジュディーはアトラスがくれたお札を前に着きだしたまでは良かったのだが、何と彼女はそのお札に火炎魔法をかけてしまった。

 本人は自分の火炎魔法にお札の力が加わって、浄化の炎となるはずだった。が、現実はそうはならずただ単にお札が燃え尽きただけだった。


 それを見た化け物は大笑いし、

「これほど間抜けだとは聞いていなかったぞ! しかし、本当におかしな奴らだ。リーダーのエモンとやらはまともらしいが、後の二人は全くなっていないぞ。とくにそこの男はなんだだらしがない。女の尻に敷かれっぱなしの体たらくとは情けないにも程がある」


 などと言いたい放題だ。

 それでジュディーも目が覚めたらしく、

「フン、お前なんぞ怖くはないぞ。変なことをしたらアトラスに言いつけるんだから」

 などと問い詰める気らしいのだが、

 その化け物はいたって大人しく、

「誤解を与えてしまったらしいが、わしは暴れるつもりはない。ただな、聞いた話の通りだったからおかしくなって笑ったまでよ」

 と言って言葉を切った化け物は付け足すように、

「それでわしの仲間の解放も頼みたい。これは主様の言いつけでもあるのだが……」


 地下に幽閉されていた化け物の解放は時間はかかったものの何とか出来たとき、

「それでお前たちはどうしてここに繋がれていたんだ?」

 そうエモンは疑問に感じたことを率直に聞いてきた。

「それはだな。わしらはただの死殻だったのさ。それをスケルトンとして生き返らしてくれたのが主様だ。その序でに防備とか装備とか武器とかで強化もしてくださったのだ。本当にありがたい話だ」

 それでも腑に落ちないエモンは、

「しかしその妖気は何だ? これほどのスケルトンなど見たことも聞いたこともないぞ」

「そうか? わしらの死に様がそうしたのかも知れぬな。なにせ、自分の事ながらどうしてと聞かれても正確には分からぬよ! おぬしだって自分の顔がどうしてそうなったのかなんて分からぬだろ!?」

「あぁ、分からないな……、そうか? お前たちは自分でそんな化け物になったわけじゃないんだな?」

「おぬし、そうわしらを化け物、化け物と呼ばんでくれぬか。わし等にも名はある」

「名はなんと言うのだ?」

「わし等は騎兵クラスに過ぎぬのじゃよ。わし等の上には百人隊長、そして千人隊長などがいるのだが、わし等ですら千人隊長は見たことがない。せいぜい三百人隊長くらいだ。あのお方を除いてはな」

「そんなに分かれているのか?」

「その辺は適当だな。百人隊長でも強ければ三百人隊長になったり五百人隊長になったりするわけだが、そこからの千人隊長にはそう簡単には成れるものではない。ましてその先の二千人隊長、三千人隊長などは夢のまた夢! さらにその上となれば五千人将と将がつくようになる。将ともなれば准将、少将に中将で一番偉い大将となるのだからな」

「いやいやその前に、そんな軍隊があるのか?」


 そう聞かれて化け物スケルトンは考え込み、仲間に、

「ぬしら、どう思う? 軍はあるよな? わし等の軍だが?!」

 そう聞かれた奥にいた化け物どもは大きな声で、

「我らの軍はここにあり!!!」

 と叫ぶのだった。

 その声の凄まじさで鼓膜が破れるかと思えたほどだった。


 そこにジュディーが新しいことを聞き出した。

「その百人隊長の下ってどうなってるの?」

 化けもは首を傾げながら、

「最小はスケルトンと言う兵だよな。それを纏めるのは十人の長で十人隊長だ。それを纏めるのが二十人隊長とか三十人隊長、その上の五十人隊長で十人隊の最高だろうな。その上は百人隊長になるのだから」

「そのお前は何人隊長なのか?」

 この質問にはさすがの化け物といえども答えに窮した。なにしろ十人隊長ですらなかったのである。それを恥とするか、誤魔化すのか、正直に話すのかで器の大きさが分かると言うものなのだが、この化け物は根っからの馬鹿らしく、

「先ほども言っただろう。わしは騎兵クラスだと。だから部下はいない」

「つまり? 隊長ではないということか?」

「そうだ!」

 と今回で一番の威張り方で言い切った。

「それは一兵卒という意味だよな?」

「そうとも言うな!」

「じゃ、こいつたちは何なんだ?」

「なんだ、仲間だろ?」

「いや、その長になれば十人隊長って事じゃないのか?」


 その化け物がジュディーの顔を覗き込むように見入ってから、

「お前って本当に馬鹿なんだな。良く今まで生きてこられたな。体は労るものだぞ。その体のないわしが言うのもなんだが」

 と彼女を哀れむのだった。

 そのジュディーが分けも分からずに、

「どう言うことなんだ? 化け物に同情されてしまったが?」


 その答えを出したのがオスカルで、

「つまり人間のような頭数を揃えれば長に成れるというものじゃないって事だ」

 などと正論を述べた。

「それって人間で言うところの格が上がるとかなの?」

「そう言うことなんだろう。だからそこの化け物と言っているやつでも長になれない雑魚って分けだ。逆に言えば、長がつくやつは空恐ろしいだろうな」


 そのオスカルに雑魚と言われた化け物も自己防衛したくなったのか、

「そう言うことだが、わしは騎兵でただの兵ではないぞ。兵と騎兵では雲底の差があるのだ。そこの所をゆめゆめ忘れる出ないぞ」

 そう言う化け物に絡みたくなったのかジュディーは、

「じゃさぁ、その長と騎兵との差って何なのよ」


 しかし、その化け物は答えようとせず、

「では、お前たちを人間の世界に案内しないとな」

 と言って歩き出したのだ。


 ホッとしたエモンにオスカルはこれ幸いと後についていくのだが、ジュディーだけは不満でいっぱいだった。

「ちゃんと答えなさいよ。長ってそんなに偉いの?」

 とどこかの酔っ払いのような絡み方だ。

 その化け物は致し方ないと思ったのか、

「偉いもなにも……」

 そこまで言って気が付いた化け物は笑いを堪えながら、

「お前たちはその長、いや、将がつくやつを知らないと申すのか?」

 ふて腐れているジュディーは、

「だって軍なんて見たことないもの。会ったこともないに決まってるじゃない」

 それを聞いてその化け物だけではなく、奥にいる化け物どもも大笑いし、

「知らぬが仏とはまさにこの事よ。それとも灯台下暗しとでも言おうか」

 そう言っては化け物は笑いを堪えずに前を進み、彼女の質問に答える気はないようだ。


 そして長い隠し通路を行った先で、

「ここがその扉だ。この先にお前たちが探している方がいるだろう」

 そこにエモンが気になっていたことを、

「それでぬしらはこれからどうするというのだ?」

「わし等にはわし等に命令されたことがある。それをするまでよ!」

 そう言って化け物は余所の道を進んでいった。


 エモンたちはその扉を開き、もとの人間界に舞い戻ったような気分にさせられながらもアトラスとイリヤを見つけ、

「生きて戻ったぞ!」

 とうれし涙を流すかと思えるほどの感動していった。

「お帰りなさい!」

 と言ったアトラスは他にはなにも聞きたそうではなかった。

 それでイリヤの方が気になったらしく、

「それで隠し扉の向こうってどうなっていたの?」

 と聞くのだが、イリヤに優しいジュディーは、

「知らない方が良いこともあるのよ。あそこは人間が入っては駄目な場所よ」


 そんな事を話していると、サンシャインのリーダーがまたしてもやってきて、

「これはエモン殿。今までどちらに? もうじき国王陛下がお出ましになりますよ」


 そう言っている側から、小人が吹くラッパの音がけたたましくなり、露払いの剣士から先にぞろぞろと大広間にやってきた。

 その剣士が勢揃いすると今度は戦士級が着飾った装備品を見せびらかすように剣士の前に並び、続いては魔法師が、これも装備品を誇示するように、隠しも臆しもせずにこれみよがしな歩き方、身のこなし方をして整列し、その最後には司教たちだが、これが宗教がかったというのか意味不明というのか、なんでもけたたましいのだが何の役に立つのか分からないと言った感じなのに大威張りで最前列に並んだ。


 それから小人たちがこれもぞろぞろと入ってきては、またしてもラッパを吹き鳴らし、踊り回って国王を出迎え、

「国王陛下!!! 万歳!!」

 を三度も唱え、それをここにいる全員に強要するのだ。


 しかしながらアトラスがなにもしないのを横目で見ていたサンシャインのリーダーのフィニッシャーがわざわざ注目を集めるような大きな声で、

「アトラス君、君も万歳三唱をしないか!」

 と身振り手振りを交え、周囲との距離を取るのであった。

 そうしてアトラスを際立たせる狙いがあったのだろう。


 フィニッシャーの言葉を後押しするためにサンシャインのメンバーも何か言おうとした、その時、大広間の扉の向こう側で大きな物音、悲痛な叫び、物と物とがぶつかり合い擦れ合い潰れていくような鈍い金属音が次々と聞こえてきた。

 その騒乱を感じさせる激しい物音が次第に近づき出すと、さすがの国王も身の危険を察してかいたたまれず逃げだそうと司教たちに目配せすれば、その司教が、

「お前たち、この部屋を出て陛下が退出する時間を稼ぐのだ!」

 と大広間に集まった全ての者に命令するのだ。


 しかし、物事の進展が予想よりも早く、つまり不穏分子の侵攻を阻止する力が弱すぎるために、各チームのリーダーたちが考えている間だけで、その騒音の原因がこの部屋の扉のすぐ目の前にまで到達していた。


 そこで誰かが、

「扉を死守するんだ。奴らに開けさせるな!」

 と言いだした。

 それに呼応した戦士級の者達が扉の前で奮闘したのだが、あっけなく扉は破壊され木っ端微塵に吹き飛ばされた。

 当然ながら扉と一緒に押さえつけていた戦士級の者達も一緒に吹き飛ばされ、肉片が散乱していった。


 そのどこの部位かと想像できそうな肉片を見た女性たちは気分を害したのだろう反吐を吐く者達が多数出た。が、その中にジュディーもイリヤもいなかった。

 ジュディーは、この成り行きを想像できていたのか、

『アトラス、あれって隠し扉にいたやつらだよね?』

 と小声で聞くのだった。

『そうだよ』

 と彼は無表情にも淡々と答えた。

『で、この先ってどうなるの?』

『さぁ、どうなるのかな?』

『嘘ばっかり言わないで。もう決めてあるんでしょ。教えなさいよ』

『ジュディーはどうなの? この部屋の人間が大勢死ぬ、中くらいに死ぬ、少し死ぬ、今死んでいった者以外には死なないのうち、どれが良いと思う?』

 そう聞かれたジュディーは、

『そうね。それぞれの判断に委ねるのは良いんじゃない?』

『なるほど、それは良いね。じゃ、手向かった者には死を、従順を示した者は助けるとしようか』

 そんなことを言ってアトラスは右往左往する人の横を素通りしていき国王の前までたどり着き、

「その扉の向こう側には死が待っている。死にたいやつは向こう側に、逝きたいやつはこの部屋にとどまるが良い」

 そんなことを言っては再び元のジュディーの横に戻っては、

『これでどうですかな?』

『そうね、心次第じゃない?』


 そんな話をしていると、吹き飛んだ扉の向こう側では壮絶な戦いが行われている事が有り有りと伝わってきていた。


 大広間も広々としているが、それに付随する待合室も広く、それが大広間用に備えられた通路にもなっていた。

 その待合室で繰り広げられる攻防戦の様相が、彼らが上げる叫びが実況中継のように大広間にいる者達に伝わってくるのだ。


「我こそは近衛兵団の……、いざいざ!! 成敗してくれる!」

 と言った先から断末魔に変わっていく。

 それには自分の名を轟かせたい名誉欲のせいもあるが、ここで死ぬとしても国王に名を覚えてもらえればと言った切ない思いからでもあった。


 その名はほとんどが近衛兵団か守備隊だけだった。

 もっとも王城に兵として配置されているのが、この二つの軍勢だけなのだから致し方ない。それでも軍勢ではなくとも、個人的に居合わせた名うての魔法師とか、戦士級とかが出てこないのは不思議には不思議だった。

 それで国王も解せぬ顔で、

「ジョンソン国務大臣はどうしたのだ? モザンズゥ近衛大臣は? アルマン大臣でも構わないのだぞ! 奴らはどうしたというのだ? 余の危機じゃぞ! 一体何をしているのだ? こんな時のための大臣ではないのか!?」


 そう言って狼狽える国王を見ていると、先ほど扉に詰め寄せなかった残りの者達でも焦りの色が滲み出ていた。

 もっとも危険を察知する能力が長けているのだろう、それで扉が危険と予感が働き動かなかった彼らだが、見えない敵に対する異様なまでの危機意識では、思うように戦えないのも道理であった。

 だがしかし、その敵を見ようとした瞬間に絶命するだろう事は想像に難くないのだから、見なくとも恐怖に怯え、見ても絶命となれば打つ手がないと考えたようだ。

 それで先ほどのサンシャインのメンバーがこう言い出した。

「全員で一番となり国王陛下をお守りするのだ!!!」

 そう言って部屋に散らばっていた勇者たちをひとまとめにしようと画策した。


 しかし、アトラスは国王に、

『どうします? 今から俺に付いてきますか? それともあいつらに身を委ねますか?』

 とヒソヒソと聞くのだ。

 国王は怪訝そうな顔をしたのだが、アトラスの顔に汗一つかいていないのを見逃さず、

『どうするというのだ?』

 そう言って動静を探ろうとした。

 そのアトラスは涼しげに、

『なに、逃げ道を作れば良いのです。では、こちらに!』

 そう言って広間のか屁を確認しながら、思い当たった場所を探し当てると、

「エモンリーダー、この壁を突き破って!」

 などと無茶な要求をする。

 そのエモン、

「こんな分厚い壁なんだぞ。無理を言うなって!」

「しかし、やってみなければ分からないよ。さぁ、力の限り頑張って!」


 そう囃し立てられたエモンは仕方なく、身の力の半分程度で、

「どりゃぁぁぁ!!!!」

 とぶち当たれば壁は脆くも崩れていき大穴が開いた。

「へぇ??? 俺がやったの?」

 とエモンさえも驚いている。

 そこにアトラスは国王を誘い、

「さぁ、ここから逃げましょう」


 その壁は構造上、大広間がある東城と中央城とを隔てるためのもので、頑強で分厚く建造されていた。


 その壁の厚さが優に人の背丈を超えているのを目の当たりにしたエモンが、

『これって俺がやったのか?』

 とジュディーに聞くのだが、彼女はいとも簡単に、

『な、分けないでしょ。あの子がやったに決まってるでしょ』

「そうだよな。こんな厚い壁なんて俺は始めて見たぜ」


 そうして中央城の部屋から部屋へと、これもまたエモンがぶちかまして壁を破壊しながら、先へ先へと進んでいった。

 するといないであろうと思っていたスケルトンと遭遇してしまった。


「サンシャインチーム! 出番だぞ!」

 と意地が悪いのかアトラスが王を誘導した。

 その国王も今までの正確なアトラスの言葉だからと思い、

「そうじゃ、サンシャイン! あやつめを撃破せよ!」

 と命じるのだ。


 王命とあれば嫌でもやらざる得ない。


 それでフィニッシャーも覚悟を決めたらしく、

「いつも通りにチームの力を見せてやれ!」

 とリーダーとしての檄を飛ばした。


 チームは左右に分かれスケルトンを挟み撃ちにするつもりだった。が、そのスケルトンは一体ではなかった。

 その角からぞろぞろと蟻の行列の如くに列をなして出てきたのだ。そして悪いことに、魔法師もその中にいたのだ。


 仰天したフィニッシャーは自身の安全第一なのか、一目散に走り出していった。そこで置いてけぼりをくったチームメンバーたちは後ずさりしたのだがそれがかえって死に道を近づかせる事となった。

 それは当然な結果と思われる。なにしろ敵に背中を見せたのだ。敵のスケルトンは後ろから襲いかかるだけでサンシャインのメンバーを殺せるのだ。


 その残忍性をみて国王ですら、

「なんとかせい……」

 と口を滑らせる程だ。

 それを受けアトラスは、

「それは命令ですか?」

 と聞き返した。

「そうだ。余の命だ」

「それは召し抱える、と言うことですよ? どの身分なのです?」

「暢気に話などしている場合ではなであろうに!」

「いえ、大事なことですから。少なくとも軍務、近衛、統一大臣に匹敵する程度でなければこの国がひっくり返りますよ」

 その言葉を聞いて国王の方がひっくり返りそうになったが、

「しかし、大臣の席は全て埋まっている」

 と正常な判断力を見せた。

 だがしかしアトラスは平然と、

「その席もすぐに空きが出来るでしょうよ。そうなったら良いのでは?」

「空きが出来るとは? どう言う意味だ?」

「文字通りに空く、すなわちその席にいた者がいなくなる。そして今言った軍務、近衛、統一なる省も消えてなくなるかも知れませんよ。そうなったら王は誰を頼るんです?」


 そう聞かれては安心が出来なくなった国王であるが、目の前で繰り広げられている命の危険も回避せねばならぬ。

「うむ、分かった。それに見合うだけの働きがあった場合には考えよう」

「ふむふむ。そうきましたか。流石に国王と言うだけあってしたたかですね。では、お約束をゆめゆめ違えぬように」


 そう言ってから、

「ジュディーにイリヤは直線上から魔法攻撃、エモンとオスカルはその魔法で倒れ込んだスケルトンを粉砕しろ!」

 と大きな声で命令する。


 それまでにはサンシャインのメンバーの半数近くが、スケルトンに馬乗りされ尊い命を落としていたのだ。

 しかし逆の言い方をすればまだ半数近くも残っていた。

 その彼らを援護するようにジュディーの電撃魔法も、イリヤの氷結魔法も絶大な効力を発揮し、スケルトンがいかに数が多くとも的確に処理をする。

 その彼女たちの働きにとどめを刺すのがエモンとオスカルの仕事であった。

 彼らは剣ではなく棍棒を使いスケルトンの骨を真上から、または真横から粉砕していく。それを見て不思議に思った国王は、

「どうして剣で切り刻まないのだ?」

 と感想のようにアトラスに聞くのだ。

「なに、スケルトンは切っても魂を強打しダメージによって打ち消さなければ、すぐに元通りに復活してくるんですよ。切るダメージなんて、その切った部分にしか与えられないでしょ。人様なら腕を切れば切り離された腕はくっつきませんがね」


 戦いの指揮をしながら、空恐ろしげな話を淡々と話すなと、国王は背筋が凍り付くような思いで聞いていたが、

「それをどうして知り得たんだ?」

 と聞かずにはいられなかった。

「俺たちはスケルトンハンターだからさ。だから国王陛下に進言したんですよ。この国にも降魔省が必須ですよってね。そう思われませんか?」


 額から流れる脂汗を拭いながらも国王は大きく頷き、

「まさしくそちの言う通りじゃ。もはや敵は人間ごときではないな。魔物こそ人間共通の敵であることは間違いがない! すぐさま降魔省を起ち上げよう」


 それを聞きいてアトラスは時間短縮を狙い、

「サンシャインのメンバーに、他のメンバーも討伐に加わるんだ。そして魔法師! お前たちは浮き上がった魔法使いのスケルトンを狙い撃ちしろ。それでないと戦士級がもたないぞ! それ、そこに魔法使いだ! もっと手早く動きを止めろ!」

 などと強烈な言葉を使い出していく、がその効果は数段上がっていた。


 そしてついにはスケルトンも数が潰えたようで一体もいなくなった。


 それを確信してか国王がその場にしゃがみ込んでしまった。

 しかし、アトラスはそれを許さず、

「陛下! お立ちください。まだここは安全ではありません。見てください。激戦を戦ったせいで彼らの疲労はピークに達しています。ここで先ほどのスケルトン軍に襲われたら打つ手がなくなります」

「うむぅぅぅ……」

 と唸った国王も立ち上がりつつ、

「では、先を急ごう!」


 その先は西城に渡り、そこから一階に降り立った。そこからは迎賓館も見え、あと少し行けば凱旋門も姿を現す。

 しかしながらそこまで進んでも近衛兵も守備隊にも出くわさなかった、し、外部からの救援部隊が皆無であった。

 その事が国王の心に暗い影を落とし始め、

「よはこの国を一から立て直さねばならぬようだな!」

 と独り言なのだろうが声に出てしまい、それがエモンの聞こえるところとなった。

 それでエモンは、

「陛下、ご安心下さい。我らが必ずやお守りいたします」

「うむ、期待しておるぞ!」

 そう国王は言い切ったのだがその表情は硬かった。それには今まで厚遇してきた飼い犬に手を噛まれた家主と同じものがあった。だから、

「あやつめらの出方次第では考えねばなるまい!!!!!」

 と言葉に力を詰め込んだ。


 と、そこ時、彼らの眼前に今までにないマントを纏ったスケルトンが現れた。


「ここから先は通さぬ!! うぬらはここで死ぬのよ!!」

 そう言ってスケルトンは左右に大きく腕を広げ配下のスケルトン軍を呼び寄せ、

「総攻撃せよ!!」


 その荒れ狂ったスケルトンを見た国王は、自分の運命もここまでかとあきらめかけた、が、アトラスが、

「陛下、ここからですよ。最後の踏ん張りですよ。俺は走れと言ったら走るんです。良いですね。絶対に振り返らずに走ってください。そうすれば凱旋門まで一息です。そこからは安全圏になりますから」

 国王は大きく頷き、

「分かった。だが、お前たちも生きて戻ってこい! 良いな!」

「了解ですよ。陛下!」


 そう言うとアトラスは大きく広がって包み込もうとするスケルトン軍には構わず、一点突破の構えで、

「マントのスケルトンは俺が相手をする。他のスケルトンは厚くても二重三重程度だ。そこ突き破り結界の外に出ろ。良いか、くれぐれも陛下をお守りするんだ!」

 と言い終わるやいなやアトラスはマントのスケルトンの注意を引きつけるべく、剣を持ってその前に進み出て一撃を加えた。


 人間から攻撃されるとは思いもしていなかったスケルトンは、

「虫けらの分際で、よくの尊いスケルトン様に手向かってくれたな。一寸刻みにしてやるぞ。そこになおりやがれ!」

 などと言っては大鉈を振り下ろす。

 アトラスはその鉈をかわしながら、

「早く行け! そこのスケルトンには電撃より火炎魔法に氷結の連続だ」

 そう支持を出してから再びマントのスケルトンに先ほどよりも強烈な一撃を加え、

「お前が一寸刻みなら俺は磨り潰してやるからな!」

 そんなことを言いながらスケルトンの骨を削りだした。


 それには堪らぬとばかりに一度距離をとって体勢を立て直そうと、

「離れぬか! この薄汚いダニめぇぇぇ!!」

 と遠目には逃げ回っているような立ち回りをしだした。


 それに安堵したのか国王はエモン立ちの影に隠れながら前に前にと進んでいった。そして国王が振り向いてアトラスを見た時には、マントのスケルトンが最大魔法を放つ瞬間だった。それは凄まじい破壊力で大地が振動するほどだった。

 それで心配になった国王が、

「あやつは大丈夫だろうか?」

 とこぼした言葉を聞きつけたエモンは、

「アトラスですかい? やつなら大丈夫でしょう」

「しかし、あれほどの魔法など見たことも聞いたこともないぞ!」

「もしやつがやられていたら、すでに我らは包囲されていますよ。しかし、俺たちを追いかけるスケルトンはいませんからね。全部がやつに集中しているんでしょうね」

「そうなったらひとたまりもなかろうに? やつだって人間だろ?」

「そうですがね。しかし、俺たちはあいつが困っている所を見たことがないんですよ」

「どう言うことだ?」

「だからあいつは何とかしてしまうんですよね。実際、どうやっているのかは知りませんがね。本当に不思議なやつですよ」


 そう言われたアトラスは、国王たちの姿が見えなくなった段階で戦闘は終結し、

「これからこの国の軍隊が突入するだろう。それを跳ね返すのではなく、分かっているよな? 上手に引き込んだ上で始末するんだ。そうすればスケルトンゾンビ軍団の出来上がりだ。お前たちには期待しているんだから頑張るんだぞ」

 そう言われたマントのスケルトンは、

「お任せ下さい。我が主よ!」

 と傅くのだった。


 一足先に凱旋門を越えた国王を待ち受けていたのはジッポ国務大臣とその配下の小規模ではあるが軍編成を終えた師団だった。

 そのジッポは国王の姿を見ると駆け寄りながら、

「お怪我はありませぬか? よくぞご無事でお戻り下さいました。あちらに馬車を待機させてありますから、ひとまずは我が屋敷においで下さい!」

 そう言っては平伏したまま国王の言葉を待った。


 国王は漸く王らしく振る舞えると安堵しつつもまだ警戒心を解くわけにもいかずに、

「してジョンソンにモザンズゥはどうしている? アルマンでも良い。この騒ぎを鎮静する手立てはうっているのだろうな?」

 そう聞かれても良い返事を返せないジッポは顔を伏せたまま、

「私が聞き及んでいる情報では各軍団が召集令を発したという所まででございます」

 そう言われて国王もジッポが国務大臣の役職であり、軍務に口出しが出来ない立場であることを思い起こし、

「そうであったな。軍事力編成に関して思うところがあるから、後で話そう。今はとにかく休息が必要じゃ。そちの館に連れて行ってくれるのか?」

「はい、左様でございます。むさ苦しい館ではございますがなにとぞご辛抱を」

「何を言っている。そちの館は高評価ではないか」

「いえ、今宵に限っては何よりも安全第一が最優先と思いまして、警備重視で館を取り囲んでありますから、陛下の趣向にそぐわなくて申し訳ありませぬ」

「そうか、そうであるな。今宵は守りを固めるべき時であったな」


 その話し合いが済み国王が馬車に乗る時になって国王が、

「大事な話を忘れておった」

 と言いつつエモン立ちを指し示しながら、

「ジッポよ。余の命を救う活躍をみせた降魔省の面々だ。これからは余の直轄省として国の礎になってもらう。ジッポも彼らに惜しみなく荷担してやってくれ。国務大臣のそちが取り計らえば問題無かろう」

 そんな大事なことを早急に言われても、各方面から何を言われるか分かったものではないと直感が働いたジッポ大臣だから、

「陛下のお話はごもっともなれど一度御前会議を開かれては如何でしょうか?」

 ジッポがそう言うのは分かりきっていた国王は、

「今、目の前にある危機に対処できているのはどこの省だ? 余があの城で死んでから、救出隊が動いたとしても遅いのだぞ」

「それはごもっともでございます」

「そうだろ。死ぬか生きるかの時に役に立たなければ何の価値も無い。今回の事でそれに余は気が付いたのだ。肝心な時に肝心な働きが出来る省がどうしても必要なんだとな。それはジッポのそちも同じであろう」

「左様でございます」

 そう言ってジッポは頭を下げこの場の波飛沫を凌ごうと目論んだ。


 そんなジッポなどお見通しとばかりに国王はさらりと、

「三大英雄に気を取られすぎて忘れておったのよ」

 国王が何を言いたいのか計りかねたジッポはこう聞き返した。

「なにをでございまするか?」

「これまで三大英雄がいるから大丈夫、安全安心だ、と言っていたのは誰だ?」

「それは……」

 と少し考えてから、

「三大英雄は民衆の英雄でしたから、民衆でしょうか?」

「そうさ。その民衆の言葉に踊らされていたのだ。この我らがだぞ!? 国王に大臣たちが、下賤な民衆の言葉に踊らされていたのだ」

 そう言われジッポですらハットした危機感を強く感じ取った。


 その表情の違いを見極めた国王は、

「な、分かったか。民衆が言う巷の噂など、何の価値も無い。三大英雄がいるから安全だ、大丈夫だと言った、その言葉が崩れたとしても、民衆には痛くも痒くもないだろう。何しろやつら民衆が襲われることはないのだからな。しかし、我らに取ったら命がかかっている現実なんだぞ」

「はい、はい、ごもっともでございます。早急に対処いたしまする」

「うむ、そうしてくれ。隣国を攻めるような、大々的規模のぼんくら集団など必要が無い。是が非でも必要なのは最大最強集団だ。それを核とした最強軍団がこの国には必要だと言うことだ。余は目が覚めたぞ!!!!!」


 その話しが終わるとジッポはレッドナイトのメンバーにも馬車に乗るよう促した。


 そうして国王がジッポの館に到着してみれば各軍団を従え、ジョンソン軍務大臣、モザンズゥ近衛大臣、アルマン統一大臣が勢揃いしていた。


「これは国王陛下! よくぞご無事で何よりでございます」

 こう言って三人の大臣が喜びながら馬車から降りる国王に近寄ろうとした。

 しかし、その国王が手の平をみせ彼らを制止させると、

「この役立たずが!!!」

 と吐き捨てるように言い切り、その場を後にしていった。


 そこにジッポが馬車から出てくると、彼らは事情を聞こうと詰め寄り、

「ジッポ殿、これはどうしたと言うことだ?」

 と言うのが精一杯だった。

 そのジッポは簡単に、

「陛下はお怒りだ。どんな手を使っても良い。あの城を平定せよ。それが出来なくば路頭に迷うぞ」

 ジッポまでもがそう言い捨てて館に消えていった。


 後に残った三大臣たちは互いの顔を見合い、

「こんな展開になるとは思いもしなかった」

 と高をくくっていたアルマンが言えば、

「だから我らの手勢だけでも救出しに行こうと言ったのだ」

 とこれはモザンズゥだ。

 しかし、臆病者のジョンソンは、

「いえ、皆さん冷静になって下さい。あの城は国王陛下の精鋭部隊が守っていたんですよ。それも選りすぐりの精鋭部隊が。なのに城はスケルトンによって地に落ち見るも無惨なものとなりました。これをどうやれば我らの手に負えるでしょうか?」

「だからお前は弱虫と言われるんだ。ここは強行突破しかあるまい」

 そう言ってジョンソンを頭ごなしに責め立てるアルマンに、

「しかしだアルマンよ。ジョンソンの言い分には一理はあるぞ」

「なんだ? モザンズゥまで弱腰になって? じゃ指をくわえて三人一緒に大臣を首になっても良いのか? 俺はご免だぞ」

「弱腰じゃないが……」

 と言ってからモザンズゥは、

「お前のとこで鎮圧できる目算はあるのか?」

「行ってみれば分かるだろう?」

「分かった時に死ぬなんて、それこそ俺はご免だぞ」


 そう言われると考える必要性も認めなければと思い直したのかアルマンは部下に、

「将軍、どうだ? 陛下の守備隊を丸呑みにしたスケルトンを粉砕する自信はあるのか」

 そう聞かれた将軍たちは視線を地平線に向けたまま微動だにせず、

「仮定の話なれど、国王陛下の守備隊で守りを固められた城を、我らだけの軍勢で攻め落とすことはまず不可能でございます。これがまず一点。次ぎに奇襲に成功し内部に侵入できた場合ですが、これも城の細部を知り抜いた守備隊を出し抜く事はまず不可能です。その場合も包囲殲滅されるのは我らの方でございましょう。これが二点目。三点目でございますが、一対一の仮定の話ですが、我らの軍勢の平均年収と、守備隊の平均年収を比べた場合からも分かりますように、守備隊の方が一・五倍は高給取り。いえ、強者というわけです。そこから判断すれば自ずと答えがでてくると思いますが……」


 長々とどこまでも不平不満を垂れ流す将軍にうんざりしたアルマンは、

「もうよい。結論から言えば?」

「不可能です!」

 それを聞いたモザンズゥは納得した顔で、

「だからジョンソンの言い分に一理あると言ったのだ。だがこのままで良いわけにもいかぬな。そこでだ。顔を近くに!」

 こうしてモザンズゥの作戦が始まった。


 その頃、国王がジッポの屋敷に入ってからほんの少ししか経ってはいないというのに、主のジッポに外の様子を探っていた従者から嫌な情報が入ってきた。


「ジッポ様。外で不穏な動きが起こってます」

「不穏? 不穏とはただでは済まぬ言葉だぞ? それを弁えておるな?」

「私なれど敵味方の区別はつけられると自負いたしております。彼ら、軍人にとって、私などどこのどいつなのか分からないでしょうが、その民間人風情に対し異様なまでの警戒心を抱いていました。これを不穏以外に何と申しましょうか」

「うむ、それほど殺気だっておるのか。これはことによると……」

 そう言ってジッポは奥の国王がいる貴賓室に向かった。


 その途中にアトラスに掴まったジッポは、先ほどの情報を話そうかと思ったのだが、

「外の連中、矛先がこちらに決まったようだな」

 それが何を意味するのかを瞬時に察したジッポは、

「あやつめら、恩を仇で返そうとするなど!」

 と怒りをみせるのだが、それには迫力がまるで無かった。

「しかし、自分が奴らの立場だったら、同じ事をするんだろ?」

 そう問われてみれば、そうだとしか良いようもないジッポだが、

「しかし、そうだとしても恩を仇で返すなど」

「それしか生き残る道がないのであれば、致し方なし? と言うことなんだろ。そこまで追い詰めたのが最悪の悪手というわけだ」

「うむむむ、それで我らに逃げ場はあるのか?」

「もう遅いだろうね。あっちは十万の軍勢が三団体ある。総勢三十万でこの屋敷を取り囲んだんだ。鼠一匹這い出る隙間も無いね」

「それでもお前たちがいるではないか?!」

「おれたち数十人で何が出来る?」

「しかし、お前たちも死ぬのだぞ! なんとかしようとは思わぬのか?」

「そこは交渉するしか無いだろうね!?」

「交渉とは? 誰が誰と? どう交渉するのだ?」


 とジッポ大臣が言い切ったその時、アトラスに異変が生じた。


『グゴォォゴゴゴゴゴゴォォォ!!???』


 その異様さに一歩後退しながらジッポも、

「どうしたのじゃ? 悪いものでも食ったのか?」


 しかしそのアトラス、涎が出る口を拭こうともせず、

「そうだったらどんなに良いか分からぬな! しかし、これは冗談抜きにしてもきつすぎる。まるで化け物、いや、そんな生やさしい代物じゃないな。憎悪、そうだ、憎悪の化け物だな。こうしてはいられない。ジッポのおっさん。すぐに国王を連れて来てくれ」


 そのアトラスの顔が怒りを通り越し、涙を流し鼻水に涎を滴らせている。これほど感情を錯乱させた人間を見たことがないジッポなれば、

「分かった、そうしよう。それでも国王陛下が来る前に顔でも洗った方が良いかもな」

 そう言い残して貴賓室に向かった。


 そう言われて自分がどれほど情けない顔をしているのかを思い知ったアトラスに、ジュディーとイリヤが激しく駆け寄ってきた。

 その激しく醜く垂れ流している顔を見るまでは言うことが決まっていたのだが、

「どうしたのよ? その顔!? 最愛の人を亡くした人みたいよ」

 と言う言葉に置き換わった。

「馬鹿言え。それよりももっと酷い現実が押し迫ってきたんだぞ。顔のことなどいっていられるか?!」

 そう言って強がるアトラスに、濡れタオルを用意してきたイリヤが、

「それでもこれで拭いなさいよ。異変のことならわたしたちにも分かったんだし、きっと他の魔法師たちも気付いたはずよ」

「そう思うか? お前たちだから気が付いたとは思わないか? 場所はかなり遠く、この国の隣の、そのまた隣くらい離れているんだぞ」

 それにはジュディーが感心しながら、

「良く場所まで特定できた……」

 その時、アトラスが突如として二人の頭を押さえ込みながら、

『考えるな!!! なにも考えずにやり過ごせ!!! 奴らがこちらを見ている!!!』


 端から見ればアトラスが二人の女性に襲いかかっているように見えたのか、国王を伴って入ってきたジッポが、

「いやはや、なんと破廉恥な! 陛下の御前であるぞ!」

 と強い言葉で窘めてきた。

 それでも国王は軽く笑いながら、

「よいよい、若い時にはそう言うとこもある!」

 などと言って余裕を見せ始めていた。


 そのアトラス、塗れ手拭いで顔を抜きながら、

「国王陛下、大変な事態になりました。今までの謀反の危険など取るに足らぬ事態です。そこで今から軍関係大臣の元に行きますから付いてきて下さい」


 そう言われた国王は顔を真っ青にしながら、

「謀反の疑いがある奴らの元に行こうというのか?」

 しかしアトラスは平然と、

「選択肢は二つ。ここで奴らの動きを待つのか、それとも出て行って決着をつけるのかです。ここで奴らに運を委ねるより、ご自分で切り開く方が良いのではないですか? ここにいても不安で不安で自決してしまうかも知れませんよ。この不安に打ち勝てますか?」

 そう言われると自信の無い国王は、

「その間の身の安全は保証されるんだろうな?」

 などと言われたアトラス、

「身の安全? これから奴らを締め上げに行くんですよ。国王陛下は毅然と威張っていれば良いのです。何事も下を見るように見下しておいでなさい。そして兵の一人一人に王の威厳というものを見せつけ従えるのです。良いですね?」

「あぁ、分かった。見下すのは得意中の得意だ!!!」


 ジッポの館の門前まで進み出れば、そこには密約を交わしたばかりの三大臣が、国王の姿を見て呆けたような顔をし、

「これは国王陛下! どうされましたか?」

 とこれもまた呆けたことを言い出した。


 そんな質問に答える気もない国王は、アトラスの背中を押し、

「この者が話があるそうだ」

 と言ったままアトラスの背中に隠れてしまった。


 三大臣を前にしたアトラス、何も言わずに彼らと全ての軍勢を一メートルほど宙に浮かべてからこう言った。

「これでお前たちがどういった身分のものなのか分かっただろう」

 そう言われても宙に浮かんだ自分の体を支えるのに必死でジタバタしている最中で、

「これはどう言うことだ? 誰か浮揚術が使える者はいないのか?」

 大臣たちは部下たちに聞いたつもりだろうが、その部下も自分のことで手一杯で、

「浮揚などが出来る魔法師はおりませぬ」

 と言い放つだけだった。


 まるでゴム鞠みたいに宙に浮く彼らを、

「身の程が分かったかな? こうなっては子供にも殺されるぞ! なにしろ一刺しだからな。試してもらうか? ちょうどそこに竹があるじゃないか。これで竹槍を作って」

 その意味を理解したのか三大臣も降参し、

「頼むから助けてくれ」

「そうだろう、大臣といえども命は一つだからな。他かに替えが有るわけじゃないんだろ。自分が死んでも他から命を持ってきて蘇るなど出来ないだろ?」

「出来ない出来ない。だから早く降ろしてくれ」

 そう叫ぶ大臣と言う肉団子の足の部分を掴んでは、思いっ切り回転させると独楽のように回り出し、それと共に血流が頭に集中し出したのか顔を真っ赤にし、

「苦しい!! 助けてくれ。死、死にそうだ」

 そう言いだした三大臣を地に落とすと、他の部隊員が集団を作り出し、

「大臣閣下、我らにお任せを、そこな不埒ものを今すぐに成敗して差し上げます」

 と強気の姿勢を見せ始めた。


 その彼らはかなりの集団になったようだが、その先端を捕まえたアトラスは先の大臣と同じように回転させた。それは円盤のように回り始めたのだが外側にいた兵士たちが遠心力に堪えきれなくなると吹き飛ばされていった。

 それで兵士たちが女子のような悲鳴を上げ助けを請い求めると勝負が決した。


 三大臣を前にしたアトラス、

「この国の隣国にアリステラーゼ連邦国、その隣国にゼビルス共和国があるだろう。そのゼビルス共和国に破壊の王が舞い降りた。こいつには一切の同情、手心、慈悲など皆無だ。ただあるのは憤怒に燃え見境なく蹂躙することだけだ。あわよくば苦痛なく殺してくれるだろうがそううまくはいくまい」


 それを聞いた国王が真っ先に、

「殺される事があわよくばなのか? 部下になるとか、生かしてもらうとかの選択肢はないのか?」

 それにはきっぱりと、

「ない!!! やつに部下は必要ないし配下もいらない。人間など生かしておく価値など無いのだ。それよりも苦痛を味わわせることのほうが利用価値が生じるというものだ」

 それを聞いた三大臣は、

「苦痛を与えてから殺す意味は何ですか?」

「楽しむためだ。それが奴らの興というものらしい」

「興のためにいたぶって殺すのですか?」

「だから苦痛なく殺すことが最大の慈悲なのだ」


 三人と国王はそれを聞いて絶句している。


 そこにジッポがその先を読み出し、

「そこでアトラス殿はこれからどうする計画なのです? 何か考えがあって三大臣を説き伏せたんでしょ?」

 そう言われたアトラスは国王の表情を読み取ってから、

「三大臣方には、陛下に忠誠を誓ってもらわねばならない。そうですよね、陛下? もっとも陛下がお許しになるとは限らないのだが?」

 と話を国王に差し向けた。

 その国王は目下の者を睨みつけるようにして、

「お前たちの所行は万死に値する! そうは思わぬか?」


 それを聞いた部下たちは、命じられたこととは言え自分たちが何をしようとしたのかを理解したらしく、悔し涙を流し国王に平伏したまま許しを請うものの声で地鳴りのようなものまで起き出した。


 その部下たちの心情を察し、反転して怒りが自分たちに向かってくる前に、

「国王陛下!!! 我らが間違っておりました。どうかお許しを!!! もしお許し頂けるのなら私財をなげうってでもお仕えいたしまする」


 それを聞いたアトラスは、

「陛下、この度の采配、わたしに委ねて下さいませぬか?」

「采配? どうするというのだ?」

「これから破壊の王からこの国を守らねばなりませぬ。そのためにも手を打たねばならないからです。先に陛下は降魔省の設立を仰いましたし、それには費用も捻出しなければなりません。そこで彼らから資金を捻出するのです」


 それを聞いて思いだした国王は強かに手を打った、

「そうだった。余の直轄省を設立しなければならなかったな。降魔省、その支配下に国務庁、近衛庁、統一庁をおくことにする」

 それを聞いてびっくりした三大臣は、

「庁とは? 省のお間違えではありませぬか?」

 それには国王がきっぱりと、

「庁だ。だからお前たちは長官だ。此度のこと、降格だけで免れると思うな!」

 それを聞いてうなだれる元三大臣も返す言葉を失っていた。

 そこにつけ込んだのかアトラスは、

『私財を擲って、と言う言葉を信じてますよ。そうなれば陛下も多くを望まないでしょう。まさか首を求めはしないはずですよ』

 そう聞いた元三大臣は悪魔の囁きのような言葉に流され、

『よしなに頼みます。あなただけが頼りです!』


 そこでアトラスが打った手は、

「この中からゼビスル共和国に精通するものを選び抜いて下さい。そして彼らを派遣し、今現在の状況をつぶさに報告させるのです」

 と言うものだった。

 それですかさず五名単位のチームがいくつか派遣されていった。


 その後の国王はアトラスに促されるままに王城に戻ってみれば、城兵がいないだけで他は今までと変わらない現状に驚かされていた。

 その理由をアトラス聞けば、

『それは多分、抵抗しないものには反応しなかったせい』

 と言った答えが返ってきた。

 しかし国王と城で生き残っていた王族も従者たちも、このままこの城にいることを望まず、あっさり王国第二の城塞都市に遷都することを決めてしまった。

 そして残った元の王城をアトラスたちに丸投げして出て行ってしまった。



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