国王主催のスケルトン対戦
王都城は興奮に満ちていた。
見世物としての興業も大成功が約束されたようなもので、コロシアムには大勢に人が連日押し寄せていた。
その理由には見世物として絶対的な必要条件である、勝つか負けるか分からない状態での賭け事が成立している事に加え、賞金が桁違いだと言うことが上げられた。
民衆は自分たちがもらえるわけではないのだが、それを目指すことの夢が与えられたのだ。その夢のためにも興奮していたのだ。
そして何より血に飢えていたと言う点が上げられた。民衆は光と闇を好むものだった。それで勝者には栄光という光を、敗者には流血という闇を与え、その血に興奮していたのだ。それはなにも民衆だけではなかった。
「今のはあと少しだったな」
と言う大臣もいれば、
「そうよのぉ、しかし、あの娘は惜しいことをしたな。今宵の相手をさせても良いほどだったのに、死んでしまえばお仕舞いよ」
「おいおい大丈夫か? 相手は化け物スケルトンを相手にする輩だぞ。お前のちっこいのなんかちょん切られるぞ」
「それはご勘弁を!」
などと、そんな話をする大臣たちも興奮していた。
そして何より主催した国王が上々の出来で大満足していた。
「次なる対戦は上級冒険者に所属するチーム名、ラッキースターの五名。対するはスケルトンが五体。勝負の行方はどこに行くのか!? では、始め!!!」
と号令がかかった。
それには観客も、
「上級冒険者だぜ。勝負は見ているっての!」
と幾分白け気味だ。
しかし、そうでもないものは、
「でもよ。この前なんてそう言いながら負けたことだってあるんだぜ!?」
「そりゃよ。調子が悪かったんだよ」
「調子で負けって、負けつまり自分が死ぬんだぜ!?」
「それは負ければ死ぬよな。いや、死んだから負けになるんだが……」
「それを調子一つのせいにできっか?! おれなら嫌だぜ。お前の調子一つで生きるの死ぬのなんて、まっぴらだ!」
「あぁ、俺もそう思うぜ!」
「そう考えれば、あいつらって良くやるよな」
「あぁ、俺なら絶対にしないな!」
こう言う巷の話が良く聞かれてくる。
その試合も上級冒険者が有利と思われていたが、試合内容は壮絶を極めた。
「一体ずつ始末しろ! 全員で一体に狙いを定めるんだ。ヨシキ! そっちじゃない!」
ヨシキと呼ばれた男は、
「しかし、こいつがしつこく俺に纏わり付いてくるんだ!」
「だったら振り切れ!」
「それが出来ないんだ! こいつ想像以上に素早い!」
「それなら、そいつを全員でかかるぞ!」
「おぉ!!」
そう言ったものの、作戦など立てられないはずのスケルトンの動きがどうもおかしいのだ。冒険者集団が一体に狙いを定め、右展開しようとすれば、スケルトン全体で左展開してきて冒険者団と正面からぶつかる体制になってしまう。
それでリーダーが、
「一度距離を取るぞ。それまで魔法で足止めしてくれ!」
そう言って魔法師に指示を出す。
接近しようとするスケルトンを、かの魔法師たちが高位魔法、フォールストーンで攻撃すれば、スケルトンも無理に戦おうとせず回避に努めていた。
それを観察していたラッキースターのリーダーは愕然とした。
『やつらには頭に相当するやつがいるぞ。それが全体を統制している。そいつを見つけ出せ。そいつさえ踏みつぶせば後は烏合の衆だ』
そう言ってチームを引き締めようとしたリーダーの予想では、スケルトン団の後方にいる左右どちらかだ。だから、
『奥にいる左右のスケルトンを潰すんだ。一気にやらないと見分けがつかなくなるぞ』
とリーダーが言うように、スケルトンにも個体差があるだろうが、人間の目ではその違いが分からなかった。何しろ顔が骸骨なのだから違いなんて分からない。
それで遮二無二接近戦に持ち込んだのだが、それはスケルトンも考えていた事だった。それでスケルトンは剣ではなく槍を、どこに隠し持っていたのか、それとも地中に埋めてあったのか、その槍で前衛の三体が鋭い突きを繰り出し始めた。
その突きにを剣で凌ぐのは難儀だと判断したリーダーは、
「丸盾を使って食い止めろ。前衛は隊列を乱すな」
そう言ってスケルトンの突撃を食い止めようとした。
と、その瞬間だった。
一人の前衛の戦士級が突然絶叫を上げ血飛沫と共に倒れ込んだ。
リーダーが何事かとめを見張れば、スケルトンの持っていた槍の先には大きな鎌状の刃が取り付けてあり、その刃が丸盾の頭を越えて戦士級の体に突き刺さったのだ。
ラッキースターのリーダーが、
「距離を取れ! 体勢を崩すな!」
と言ったのだが時遅しで、前衛が逃げる間もなく、その鎌みたいな刃で次々に倒されていき、最後には魔法師までもが槍の突きでその命を落とした。
こうして試合の結果はラッキースターという人間のチームが負けてしまった。
中級や初級のチームならスケルトン団にやられることがたまにあるにはあるのだが、上級となると皆無だったこともあり、スタジアムに動揺が走った。
「今のスケルトンった少しやばくないか?」
などと言い合ってみる。
その中に英雄と呼ばれた人物のチームもその試合を見ていたらしく、
「武器の形状が変わるとか反則だろう?」
と魔法師は道理から異議を唱えれば、戦士級ならではの解答では、
「隙を作った方が負けるのは戦場の常だからな」
と一人が言えば、
「そう言うこと、油断大敵ってな!」
他の前衛も、
「全身これ防御! これが鉄則だからな」
その寸評にリーダーは、
「そんなことより、お前たちは見てなかったのか? あのスケルトンは一体となって戦っていたんだぞ。これが何を意味するのか分かるよな? 分かるよな!!」
と、理解を強要する。
が、しかし魔法師はとことん、
「いや、そんなことより武器の形状がだな、あれはインチキしているかも知れないんだぞ。これは絶対に抗議すべきだ」
などと負け惜しみが過ぎるようだ。
そう話している間に、次の対戦が始まった。
「次なる挑戦者は父と娘のペア。対するはスケルトンもペア。さぁ、どうなりますか。では始め!!」
娘と呼ばれた女子はすぐにも七世宝珠を展開し、
「パパは見ててね。あたしがやっつけちゃうから」
とスケルトンを追い込んでいく。
そのスケルトンは三世宝珠の威力がわかるのか、防御を重視しているようで、ジリジリと後退していく、が、その気配からしてカウンターを狙っているように見受けられる。
しかしそれに気が付かない娘が飛び込みざまに、上段から打ってでる。それをスケルトンの剣が受け止める。
それはよくある光景だった。それが異常に思えたのは娘が同じ動作を何度も繰り返したからだ。
何度も何度も娘は上段からたたき付ける、と、次第にスケルトンの剣の高さが上がってきた。娘が、『良し、この時だ!』と判断したときには、スケルトンの剣は頭上に掲げられたままになっていた。スケルトンは掲げた剣で受け返していただけになっていた。
次の一瞬、娘は上段からの振り下ろしをスケルトンの剣を素通りし、横胴を狙った。が、その刹那に父親が叫んだ。
「ルーシー!! 離れろ!!!」
何かの危険と判断した娘のルーシーは咄嗟に後方へと飛び退け、
「どうしたって言うのよ?」
と周囲を見回し、そこに別のスケルトンがいる事に気が付くと、自分の服の前部分が切り裂かれているのを目にし、
「キャッ!」
と娘らしい叫びを上げてしまった。
それはほんの一秒でも退くのが遅かったら致命傷になったであろう事を物語っている。
こうなってはそう易々と踏み込めなくなった娘のルーシーは、攻防をスイッチしてくるスケルトンを何とか分断できないかと模索しだしたのだ、が、先ほどのような時間をかけた攻撃では一瞬分断できても、次の一瞬には戻ってきてしまうのだから打つ手がない。
その時、憑依された経験からか、その体質がついたようで憑依されたわけではないだろうが、アトラスの声が心の中に聞こえてきた。
『ちょっとあんた!? こんな時にやめてよね。集中しているんだから』
『しかし万策尽きただろが?』
『そんなわけあるか! これからよ、これから!』
『そんな事言っていると乳出しだけじゃ終わらないぞ』
『えぇ? 何言ってるの! 乳なんて』
と言いつつルーシーは自分の胸を見ると先ほどは隠れていたはずの乳が裂かれた服からはみ出ていた。
それで片腕で隠すように身構えに変えると、その隙をつくかの如くにスケルトンの方から攻撃を仕掛けてきた。
その攻撃を逃げ足的に躱していくと、
『だから俺の言うことを聞けって!』
『で、なんなのよ?!』
『その三世宝珠だが、どうして力を使わないんだ?』
『なんなのよ! その三世ってのは? 手短にしてよね。こっちは暇じゃないんだから』
『三世とは過去、現在、未来の三世のことだ。それはお前の過去現在未来でもある。つまりそこからお前の力を導き出せるのさ。過去現在未来はお前に時の有様を操る力、知恵を操る力、身体能力を操る力を与えるはずだ。最初にその知恵を使って相手のスケルトンを読み取って見ろ。面白いことが分かるだろう』
そう言ってアトラスの声は届かなくなった。
言われたルーシーはスケルトンをまじまじと見てみれば、スケルトンもその前は人であった。骨格からして人なのは分かっているが、その生前何をしていたのかが見えてきた。彼らは一人は騎士をし、もう一人は暗殺者だった。
それを見極めたルーシーは彼らの動き、役割に納得し、
『なら暗殺者には力押しで、剣士には、鈍そうな動きだから俊足系の業が有効なのね』
と作戦をたてた。
それからのルーシーの動きは見違えるほど的確にスケルトンの裏をかいていき、最後に残った剣士をそのスピードで凌駕していった。
一時は危ないときもあったが勝利したルーシーも自分が乳を出していた事をすっかり忘れ果てるほど喜んでいた。と、そこに再び、
『なに乳出しているんだ!?』
と冷やかしのアトラスの言葉が飛び込んできた。
それから何試合の後、想像を絶する事件が起こった。誰もが勝利を確信していたチームがスケルトン軍団に敗れたのだ。
その試合の前に三大英雄に一人がリームリーダに話しかけていた。
「言わなくとも分かっていると思うが、このスケルトンには異様なまでの強さがあるやつがいる。いや、そいつに釣られてかチーム全体が異様な強さを発揮する場合がたまにある。どいつがそうなのかは見た目では分からない。みんな同じ骸骨とした見えないしな」
そう言う三大英雄のガンズに、
「分かってますって、我が隊の隊長ガンズ殿! 俺らだって日頃から鍛錬しているんですから負けやしませんって! そこで俺らの雄志をご覧下さい」
そう言って送り出した三大英雄のガンズだった。
しかし、試合内容は観客がこぞって身の毛がよだつほどの忌まわしきものだった。
当初はそこそこの試合運びをしていた。なんと言ってもチームの結束力としては人間チームの方が圧倒的なまでも呼吸が合っていた。
前衛が押し切り、後衛がそのばらけたところに魔法攻撃をピンポイントで炸裂させる。そうなってくるとスケルトンの前衛に耐久度が著しく低下する個体が出始める。そこをさらに攻めようと人間チームが勇み足を踏んでしまった。
崩れかけたスケルトンの前衛を呑み込もうと、人間チームの前衛が前掛かりになり、白兵戦さながらになってしまったのだ。
しかし、その白兵戦が予期せぬ事だったらスケルトンチームも動き出しが鈍かっただろうが、どうも想定内だったらしく、その白兵戦の混乱を利用し後衛に攻め込む一体のスケルトンがいたのだ。
そのスケルトンは魔法師に襲いかかると腕に噛みつき、その魔法師の生命力を血肉を噛み砕くことで吸い取り、そしてついにはその魔法師を自分たちと同じチームの一員にしたのだった。
それを見て驚いた人間チームは一度距離を取るために退いたのだが、それが最悪手だった。攻撃時には息がピッタリ合っていたのだが、引くときの今では呼吸が合わず、取り残されるものが二名もいたのだ。
当然、はぐれた二名は瞬時に噛み砕かれ、生気を吸われ、魔法師と同じくゾンビと化してしまった。
そのおぞましさに彼ら人間チームの動きがまた一瞬止まってしまった。
そしてその隙を見逃すスケルトンチームではなかった。次から次へと襲いかかり、次々と人をゾンビ化させていく。
と、最後に残ったリーダは為す術もなく全員のスケルトンと元仲間だったゾンビどもに喰い殺され、仕舞いには同じくゾンビに変えられたのだ。
その光景と目にした観客は、怒ると同時に戦慄を覚え、我先にと逃げだしていく。その混乱にまたもやスケルトンが大会関係者を餌食と食いだしていった。
もはやここまでかと言った感じの時、三大英雄のチームが忽然とコロシアム場に現れたのだ。それを知った観客は大喜びで拍手喝采をした。
その時にはスケルトンチームは、元の十二体ではなく、それに加えたゾンビが二十五体にも増え膨らんでいた。
それに対する三大英雄チームは、それぞれが十二名のチームであったから総人数では互角の三十六名にも登った。
今や三十六名対三十七体の戦いとなればそこそこの集団戦を演じるはずであった。なのにスケルトンは人間チームの分析が出来ていたみたいに、右に真ん中に左と、チームが分かれていることを知っているかのように、突如として真ん中に突撃していった。こうなると魔法師による遠距離射撃ができない。さらに、スケルトンチームが三十七体に対し真ん中のチームはあくまでも十二名だ。その数の差は歴然としていた。
一気に削られる十二名のチームはすぐさま十名を切り、三大英雄とその側近を残すのみとなった。
それで覚悟した三大英雄が切り込んだ所が、相手のスケルトンチームも剛健のゾンビを送り出し対峙させたのだ。そのゾンビは三大英雄と言葉を交わした先ほどのチームリーダーだった。
数度の剣裁きの後、すぐに気が付いた三大英雄だったが時遅く、囲まれた状態では為す術もなく自らの体に齧り付かれ、血肉を食われ、仕舞いには生気も吸い尽くされ、とどめとばかりにゾンビに変えられた瞬間に絶望したのだった。
その様子を左右から見ていたかつての三大英雄、今は二大英雄にチームから、
「ここはひとまず退散しましょう。ここでは不利すぎます」
それに英雄は、
「なら、どんな状況なら我らに有利だと言うんだ?」
と狂気じみたことを言いだした。
それで事を察した勘の良いやつが我先にと逃げ出した。
しかし、世の中そう甘くはなかった。それを見越したスケルトンリーダーは蜘蛛が網を張るように待ち構えていた。
逃げ出した一人一人など取るに足らぬと、数十体のゾンビで食い尽くし、残ったのは二大英雄とその側近の友だけとなった。
観客はそれを見て悲鳴を上げるしか出来なかった。
そしてその悲鳴が暗示した通りに二大英雄もものの数分で呑み込まれ、新たなゾンビと化したのだった。
これでスケルトンチームは八十体以上に膨らんでいた。ここから増えるとなれば鼠算式に増える可能性があった。
それを想像した観客は絶叫するもの、気絶するもの、狂気に飲まれるものと、様々な異常行動に走り出した、その時にレッドナイトチームが立ち塞がった。
その一瞬が静寂に包まれた。
しかし、チーム員だった治安部チーム員は悲鳴を上げながらの登場だった。
『おい、止めよう。勝てる分けがない』
と言うものも、
『そうだよ。あの三大英雄だってやられたんだぞ』
そう言うもののエモンは近くにいたスケルトンの二体を瞬時に粉砕した。
『おぉ???』
と大喜びしだしたのは治安部の頭だ。
『おいおい、出来るじゃないかな! こうなったらどんどんいこうぜ!』
と、他力本願丸出しではしゃぎだした。
それが命がけだと言うことを理解していない証拠でもあった。
しかし、彼らレッドナイトの面々が振り向きもせずにどんどん進んでいくと、身の危険を察知したのか大声で叫びだした。
「おい、俺たちを置いていかないでくれ!」
他の治安部用員も、
「戻ってこい! 戻って……、もど……」
と言う声もついに途切れ、仕舞いには発するものもいなくなった。
そのレッドナイトのアトラスは先に紛れ込ませていた手駒のスケルトンに、
『人の皮を被ってここから逃げ出せ』
と言った指示を出しておいた。だからここにいるスケルトンにはアトラスのスケルトンは皆無状態で、先ほどまでの組織での動きなど出来ようはずもなかった。
だから、エモンに、そしてオスカルにも、ジュディーにイリヤの魔法でも次々に木っ端微塵にされていき、八十以上いたスケルトンもついにはいなくなった。
その後の試合では目立った波乱は起こらず、主催者の思惑通りにやられるスケルトンに勝つ人間チームの様相を呈していった。
そしてついには人間チーム対人間チームと言った、どのチームが一番かを決めるトーナメントに移行していった。
もっとも三大英雄がチームごと消滅したのは王国にとって支柱を失ったも同然で、その支柱探しが、この大会の目的と言っても過言ではなくなっていた。
そんなことからレッドナイトに対する主催者たちのへつらい方は半端なかった。
「国王もお喜びのご様子でしたよ」
から始まって、
「今度、家で開く祝勝会に来て下さい」
などなど、引く手あまたの状態となっていた。
しかし、そんな試合のなかルーシーとの試合は話題性があった。何しろルーシーの三世宝珠には見抜く力があるのだから。
「どう言うことだ? するりするりと躱されてしまうぞ」
う言ってオスカルは彼女を追い回すことに必死だ。
それに対しエモンは冷静に追い詰めようとしていた。
「ジュディーは右から、イリヤは左から追いつけてくれ」
と、防御など頭の隅にもない作戦だった。
その逆目を貼らないルーシーではない。雨のように襲ってくる魔法攻撃を宝珠で払い避けながら、オスカルにジュディーにイリヤという三方から追い詰められている振りをしながら反撃のチャンスをうかがい、オスカルの背中が彼女たちどちらかの攻撃の邪魔をした、その瞬間にオスカルに撃って出た。
今まで鼠のように逃げ回っていたのが急に反転し手向かいしだしたのだ。オスカルでなくとも驚き体勢を崩してお不思議ではない。
彼は剣を大きく振り回し尻餅をついてしまった。
そこにルーシーの三世宝珠が突き刺さろうとした時、今までいなかったアトラスがその三世の剣を握り締めて止めたのだ。
「なん??!!」
と驚いたルーシーの目は怒りよりも信じられないと言っていた。
そこでアトラスは、
『そこまでにしておけ』
しかし納得しないルーシーは、
『だってこれ試合なのよ。仲良しこよしじゃ済まされないの』
『だったら俺が指揮して本気で殺し合うのか? 宝珠は三世だけじゃないんだぞ』
それを聞いてルーシーは二度ビックリし、
『他にもあるのね。だったら……』
そう言いかけた彼女を遮り、
『それ以上を求めるのは強欲というものだぞ』
『これより強い武器なら誰だって欲しくなるでしょ』
それを聞いておかしくなったアトラスは、
『その台詞を言うなら、三世を使いこなし自分のものにしてから言うんだな。今のままならそうだな、一%の実力も出せていないんだぞ』
『えぇ、うそ!???』
「嘘を言ってどうする? それより負けを認めるのか?」
この会話を二人はものの三秒で交わしたのだ。
それでも三秒ほどでも動きが途切れたルーシーに、さすがのオスカルも変と感じ、
「なにやっているんだ!?」
とルーシーしか見えない彼は言葉を発した。
そこで我に返ったルーシーは、
「何でもないわよ」
と言った瞬間に足で地面を蹴飛ばし、その土埃でオスカルの目を潰そうとした。
「この卑怯者め!」
そう言って目を庇ったオスカルは本気の怒りモードでルーシーを追いかけだした。
「待て! この卑怯者!」
とあくまで悪者はルーシーだと決めつけ剣を大ぶりしている。
そのオスカルに一対一の剣勝負を仕掛けたいルーシーではあったが、アトラスに目をつけられたら以上は刃向かう愚かさを認め、どこかに落としどころがないか模索していると、そこにエモンの剣の一振りが襲いかかってきた。
今までノーマークだったエモンだったために、ルーシーは不意をつかれ、その若い命を落とす寸前だったが、彼女の頭上数ミリの所で剣が停止したのだ。
それで自分の負けを認めたルーシーにより、試合の審判が、
「勝者、レッドナイト!」
と宣言した。