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第5話:帰還と報告

――西暦1429年4月24日 シノンの街のとある屋敷にて――


「おおっ! 本当に依頼をこなしてくるとは正直、思っていなかったが……。よくぞやってくれたなっ!」


 ジャン=ドローンが嬉しそうに両手でバンバンッ! と強くヤマドー=サルトルの両肩を叩きながら、彼らの功績を褒めたたえるのであった。


 ヤマドー=サルトルたちは出迎えにきた荷馬車に揺られて、それから4~5時間後にはジャンヌ=ダルクたちが待つあの一軒家に戻って来ていたのである。そして一行はそのままの姿で執務室に案内され、ジャン=ドローンの手厚い歓迎に辟易していたわけである。


「あの……。心身共に疲れ切っているので、報告だけさせてもらって良いですかね?」


「ああ。これはすまない。キミたちの姿を見れば、それはそれは英雄詩の1節に並べられるほどの活躍をしてくれたのであろうなっ!」


 ジャン=ドローンはヤマドー=サルトルたちに貸し出していた武具がボロボロなのを見て、それとなく、シノン銅山内で激戦が繰り広げられていたのであろうことを察するのであった。しかしながら、ジャン=ドローンはさっさと報告だけで、後日改めてという雰囲気なのに、彼の主人であるジャンヌ=ダルクはそうではなかった。


「シノン銅山の魔物(モンスター)の駆逐は成功したとみて良いのでしょうか? 貴方たちの姿を見る限り、どっちつかずだわ」


 ジャンヌ=ダルクは、シノン銅山の中層あたりでヤマドー=サルトルたちが先に進めなくなっただけでは? というかなり意地悪な言い方であった。アズキ=ユメルがそんな横柄な態度に出るジャンヌ=ダルクに、イラッ! ときて、口汚く罵ってやろうかと考える。だが、彼女の右肩にポンッと左手を乗せる人物が居た。それはトッシェ=ルシエであった。


「ちょっと言葉がきつすぎるッスよ、ジャンヌさん。俺たちは傭兵なんッス。傭兵は信頼されてないからこそ、信頼を勝ち取るために命を懸けているんッス。多少、報告時には大袈裟にモノを言うかもしれないッスけれど、さすがに謝罪を要求するッス!」


 トッシェ=ルシエが毅然とした態度でそう言い切る。彼は右腕を支えの板と包帯でグルグル巻きにしていた。戦うべき時に戦ったという姿をジャンヌ=ダルクに見せつけることで、彼は彼女を威圧したのである。


 言い返された側のジャンヌ=ダルクは唇を尖がらせて、頬を紅く染めている。彼女も今のは言い過ぎたことはわかっているのだが、口から言葉を発してしまった張本人である以上、素直に謝れなくなってしまったのである。


「はいはいはいー。そこまでそこまで。ジャンヌちゃん? 自分が間違ったと思った時は、例え、指揮官と言えども頭を下げるべきよん? まあ、合戦の最中では踏ん反り返ってもらわなきゃ困るけどね?」


 ジャンヌ=ダルクとトッシェ=ルシエの間に割って入ったのは彼女のパトロンであるジル=ド・レ卿であった。彼はジャンヌ=ダルクの頭を右手でポンポンと優しく二度叩き、そのまま、ぐいっと無理やり、彼女の頭を下げさせる。


「はい。ジャンヌちゃんも頭を下げたことだし、これで許してちょうだいね?」


「ウ、ウッス……。俺の方こそ、雇い主に対して厳しく反論して悪かったッス……」


 トッシェ=ルシエはジル=ド・レ卿の物言わせぬ態度に飲まれて、つい、日本人特有の悪い癖を出してしまう。しかもそれを利用され、手打ちと相成ってしまうのであった。これ以上、不毛な言い争いをするのは無駄ということもあり、双方、矛を収めることになる。


 ジャンヌ=ダルクは姿勢を正し、改めて彼らに頭を下げる。


「先ほどはすみません。私としたことがつい意地悪なことを……」


「ああ、良いんですよ。こちらとしても、魔物(モンスター)を駆逐した証拠らしい証拠も持ち帰ってきてないですからねえ。あっ、これ、お土産です」


 ヤマドー=サルトルはついでとばかりにジャンヌ=ダルクたちと自分たちの間にある背の低い長机に紅い珠玉を置く。ジャンヌ=ダルクたちはキレイな珠玉だなと思っているところにヤマドー=サルトルは不意打ち気味に


「それ、『賢者の石』みたいです」


「……。ッッッ!?」


 ジャンヌ=ダルクたちは言葉を失っていた。金魚ゴールデン・フィッシュのように口をパクパクとさせて、間抜け面を晒していた。彼女たちがそうなるのは致し方ないだろう。


「こ、こ、これが賢者の石だっていうのかい!? 親指サイズで(こぶし)ひとつ分の金を産み出すっていうアレだと!?」


「信じられないわ……。しかも、このサイズだと、ジル=ド・レの上半身くらいに匹敵するほどの金を産み出せるわよ……」


 ジル=ド・レは伸長190センチメートルほどの大男であった。彼の上半身が金の塊だとすれば、それはどれほどの量と重さになるだろうか? ジャンヌ=ダルクたちは頭の中で、その金塊で雇える兵士の数を換算し始めることとなる。


「500……。いや、その倍の1000人は雇えそうなほどの金塊となりそうだな……。ヤマドー=サルトル殿。この賢者の石を自分たちに譲ってくれると?」


「はい、ジャン=ドローンさん。その通りです。その代わり、僕たちには色々と便宜を図ってほしいのですが? そこは問題ないですかね?」


 ヤマドー=サルトルの問いにジャン=ドローンは首を上下にブンブンと勢いよく振る。ヤマドー=サルトルはニッコリと微笑み


「では、商談成立です。あー。広い浴場がある宿屋に泊まりたいですねえ? そう思いませんか? ルナ=マフィーエさん」


「わらわは寝室に風呂が併設されているタイプの部屋が良いのう? そうすれば、ヤマミチに散々に身体を汚されても、すぐに洗い流せるからのう?」


 ヤマドー=サルトルが右斜め後ろに立つルナ=マフィーエに顔を向け、冗談まじりにそう告げる。それを受けて、悪乗りをしたルナ=マフィーエである。その2人のやりとりを聞いたジャン=ドローンとジル=ド・レ卿が互いにひそひそと耳打ちしはじめたのだ。そして、しばらく話合いを続け、何かが決まったのか、ジル=ド・レ卿がごほんとわざとらしく咳をし


「シノンの街で一番と言われている宿屋を手配させれもらうわよん。そこで戦いの疲れをゆっくり取ってもらうわね。お代はこちら持ちなのは当然。食事も期待してもらっていいわよん?」


「だそうです、皆さん。今夜はゆっくりと今回の冒険を振り返りつつ、料理とお酒を楽しませてもらいましょうかっ!」

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