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第4話:家事の出来・不出来

 再び青白い扉から戻ってきたヤマドー=サルトルの案内により、渋々ながらもその青白い扉をくぐり抜けたルナ=マフィーエとアズキ=ユメルは、シノン銅山の外に出れたことで、ポカーンと間抜け面をヤマドー=サルトルたちに晒すことになる。


「まあ、ショックなのはわかりますけど、そろそろ現実を見てくださいね? 僕たちもまさか……と思ってのことですし」


「う、うむ……。これは便利なのじゃ。これも錬金術師(アルケミスト)の力なのかえ?」


「いやあ? それはどうなんでしょう? これは神様からのプレゼントだと思ったほうが良いんじゃないですか? 気が狂ったリリスを鎮めたことのちょっとした報奨だと僕は思っていますけど」


 ヤマドー=サルトルはそう言うが、うむむ……と納得のいかないルナ=マフィーエである。神がその手を差し伸べることなど、そうそう無いと言っても良いくらいに何もしてくれない存在なのだ。


 それでも、ちょっとした奇跡を起こしてくれることはあることにはある。神の天啓を受けた人物が神の指し示す地面を掘ると、そこから水が湧き出たり、道に迷った旅人が動物たちの案内で雨風をしのげる洞穴に案内されたような話なら聞くことは聞いたことがある彼女であった。


 しかしながら、神がここまで直接的な援助をしてくれるのは、ほとんど聞いたことが無いのも事実である。しかも自分の身にそんなことが起きるなど期待していなかった。彼女がそう思ってしまうのは、戦乱続くこの世の中が悪いとも言えよう。どこに行っても治安が悪いのは言うまでもなく、国民を守る側であるはずの兵士たちが乱暴狼藉を働くといったとんでもなく荒んだ世の中だ。


 神にもし慈悲の心があれば、そんな(やから)たちをこの地上から一掃してくれても良いはずなのに、創世記にあるような大洪水が起きたという類の話は一切聞いたことがない。


「敬虔な神の信徒がいる前で、こう言うのはアレじゃが、もう少し人々に施しを与えてくれても良いかと思うのじゃが?」


「あちきの顔を見ながら言うのはやめてくれないかニャ? 日々、ご飯が食べれるだけでも、それは神様からの施しだと思っているくらいニャン。ルナ=マフィーエは日々、平穏無事に過ごせるだけでも、ありがたいと思うニャー」


 平穏無事っていったいなんだっけ? と思ってしまうルナ=マフィーエであるが、宗教が絡むことをその信徒と言い争えば、泥沼になるだけなので、ここでこの話を打ち切ることにする。大体、宗派は違えども、同じ神を信奉する間柄なのだ、2人は。神に対する解釈こそ違えども、喧嘩にまで発展するようなことは言わないでおこうとするルナ=マフィーエであった。


「アズキっち。俺っちの骨折を治せるッスか? 疲れているところ悪いけど、ズキズキ痛んで、今日は眠れそうに無いッス……」


「任せてほしいニャンっ。というわけで、あちきはトッシェの看病につきっきりになるから、テントの設営、夕飯の支度もろもろ、ヤマドーとルナに任せて良いかニャン?」


「ああ、もちろんですよ。どうせなら、あっちの方の看病もお任せしたいところです。いたっ! ちょっと、ルナさん、なんで僕の頭を叩くんですかっ!」


 ヤマドー=サルトルがニヤニヤとした顔つきでアズキ=ユメルにそう言うのであるが、ルナ=マフィーエが、ヤマドー=サルトルの後頭部を右手でパシーンと平手打ちする。


「見た目は20代だというのに、なんでこう40過ぎのおっさんのような下品なことを言っておるのじゃ……。アズキよ。もし、トッシェに襲われそうになったら遠慮なく言うのじゃぞ? 男は皆、野獣じゃ。わらわは今日、嫌というほどそれを味わったからのう?」


 後頭部をはたかれたヤマドー=サルトルはわざとらしく痛がる。しかし、同情を誘うつもりだったのだが、ルナ=マフィーエは、フンッ! と鼻を鳴らし、そっぽを向くことになる。そんな彼女に対して、ヤマドー=サルトルはちょっとした冗談でしたのにと肩をすくめることとなる。


 そんなこんなで、ヤマドー=サルトルとルナ=マフィーエが野営の準備をし、トッシェ=ルシエはアズキ=ユメルの介抱を受ける。太陽は段々と沈んでいき、いよいよ夜の(とばり)が降りてくる。ヤマドー=サルトルたちはジャン=ドローンから譲ってもらった食料の余りをこれでもかと鍋に突っ込み、ごった煮とする。


 アズキ=ユメルが辟易とした顔つきであったが、調味料で味を調えればどうにかなると思っているヤマドー=サルトルとルナ=マフィーエである。せっかくもらったものを余らすほうがどうかしていると言わんばかりの2人であった。


 アズキ=ユメルの心配とは裏腹に、そのごった煮は大層美味しく、彼女は眼を丸めることになる。


「意外といけるもんじゃろ? コツは味付けに関して、ヤマミチに任せないことじゃっ!」


「あはは……。食材を切るのは僕の担当でしたけど、鍋に具材を突っ込むタイミングとか、調味料の塩梅はルナさんに任せっきりでしたね……。僕もいよいよ料理男子デビューかとわくわくしたのですが……」


「あほうがっ。料理の腕が突然あがるとは思わぬことじゃっ。『ローマは1日してならず』。これは何にでも言える格言じゃなっ!」


 ルナ=マフィーエが左手にお椀。右手にスプーンを持ち、とくとくと料理のイロハについて解説してくれる。今回のダンジョン探索において、料理番はルナ=マフィーエ、トッシェ=ルシエの2人であった。アズキ=ユメルはどちらかというと食べる役目であり、調理をしているだけでお腹いっぱいになっちゃうニャンということで、自ら進んで料理番にならなかったのであった。


 もちろん、彼女は料理が不得意とかそういうわけではない。作ってくれるニンゲンがいるなら、それに頼ってしまおうというだけの話である。普段、台所に立たないヤマドー=サルトルとはまったく違うのである。


 夕飯を食べ終わった後、その片付けはヤマドー=サルトルとルナ=マフィーエの2人であった。最初はヤマドー=サルトルのみでささっと片付けてみせると豪語していたのだが、手際の悪い彼を見かねて、結局、ルナ=マフィーエも後片付けに参戦したわけである。


「まったく……。なんで食事関係となると、こうも不器用なのじゃ? 普段、家事は女房に任せきりなのかえ?」


「まあ、なんと言いますか……。僕はトイレとお風呂の掃除担当になっていますね……。お恥ずかしい限りです……」


 ヤマドー=サルトルは広義の不器用ではなく、どちらかというと『凝り性』なのだ。だからこそ、台所に立たせると面倒なのだ。それをよくわかっているヤマドー=サルトルの嫁は、いちいち手や口を出されたくないからこそ、思う存分、その才能を発揮できるトイレ・お風呂の掃除を彼に担当させているのであった……。

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