表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/69

第1話:世界の異物

 ――シヴァ=ザワ・ゴゥ。ノブレスオブリージュ・オンラインの初代GMである豆柴・豪(まめしば・つよし)(現エイコウ・テクニカル社の会長)がテストプレイ用に作成したキャラクターであった。ノブレスオブリージュ・オンラインの開発者側でこの名前を知らない者など存在しないと言っても過言ではない。


 その名前が土色肌のリリスの口から発せられたことで、激しく動揺するヤマドー=サルトルであった。その動揺を見逃さなかったのはリリス本人である。彼女は上唇と下唇の間から紫色の舌を出し、ズルリと舌なめずりをしだす。ヤマドー=サルトルはそんな彼女の所作にゾワッ! と背筋が凍りつく思いにいたる。


「アダムの真名:シヴァ=ザワ・ゴゥを聞き、そこまで動揺する貴方に、ワタクシは非常に興味がわきマシテヨ? さあ、知っていることを洗いざらい話していただけマスカ?」


 リリスが眼光鋭く、ヤマドー=サルトルを見つめる。見つめられた側のヤマドー=サルトルはまるで金縛りにあったかのように身体が動かなくなってしまう。自分の身に何が起きたかわからないヤマドー=サルトルは両腕と両足に力を入れるが、リリスの束縛から自由になることはなかった。


(これは困りましたね……。蛇に睨まれたカエルとはまさにこのことなのでしょう。どうすれば、この不可思議な力から逃れられるのか? このままではいいようにリリスに扱われてしまいますよ!?)


 ヤマドー=サルトルはこの状況から逃れる(すべ)が無いのかと思案する。しかし、まるで眼に見えない植物のツタが両腕と両足を絡めとっているかの如くに、自由に動かせない。何かしらのスキルをリリスが発動させている可能性があるのではなかろうか? という思いに至るヤマドー=サルトルである。


「フフッ……。やはり話してはくれないようデスワネ……。イヴの子孫であるなら、それも当然ヨネ? 夫は随分、イヴのことを気にかけていまシタワ。ワタクシに知られないようにイヴの出産に立ち会ったみたいですが、ワタクシはそこまで間抜けな妻ではありませんコトヨ?」


「すみません……。あなたの問いにどう答えて良いのか、こちらとしてもわからないのですよ……。あまり詰問されても、あなたが欲しい答えは得られないと思いますが?」


「アラ? そうとも限らない気がするのはどうしてなのカシラ? 貴方の自由を奪っている間に、その身体をスキャンさせてもらいましたけど、やはり、貴方はアダムの血を引き継いでいますわよ? それなのにわからないと言いたいワケ?」


 彼女の言いにヤマドー=サルトルは『ちっ!』と大きく舌打ちしてしまう。彼女の言うアダムの血がどうこうとかはわからないが、『スキャン』という言葉がおおいに引っかかるヤマドー=サルトルであった。自分はこの世界の住人でないことをリリスに知られてしまったという思いが遥かに強くなっていく。


「しゃべる気がないのなら、ワタクシは貴方を異分子として、この世界から排除させていただくことになるだけですケド……。言い残すことはありマシテ?」


「あなたよりも、僕はとっとと自分の元居た世界に戻って、会長のシヴァ=ザワ・ゴゥの首根っこをつかまえて、洗いざらい吐かせてやりたい気分ですよっ!」


 ヤマドー=サルトルがリリスに対して挑発とも取れる発言をする。彼女は口の端を歪め、両腕を腰辺りから頭上へと大きく回し、攻撃の構えを取る。彼女の身からは神々しい光り輝くオーラが発せられ、頭上で交差させた両腕に収束していく。


「『|Dream.Lead.People.Neverlandヒトノユメ・ラクエンヘノミチ』発動デスワッ!!」


 リリスの交差した腕を中心として、宇宙が、いや、世界そのものが誕生するかのようなイメージがあふれ出す。それはビッグバンとでも表現したほうが良いだろうか? ドーム内は宇宙空間のように真っ暗でありながら、星々が煌めき、さらには巨大な星々がヤマドー=サルトルの身に向かって流れ落ちてくる。


 星全体が炎に包まれたモノにヤマドー=サルトルは腹からアッパーを喰らうかのように打ち上げられる。そして、水が溢れかえった星に上から下へと背中を打ち付けられる。次に金色に輝く星がヤマドー=サルトルの脇腹をえぐり、彼は盛大に口から吐しゃ物をまき散らす。そして、最後にまるで木目のようなまだら色の星が真正面から彼の胸にぶち当たる。


 そんな想像を絶する攻撃を喰らわされたというのに、ヤマドー=サルトルは倒れることを許されなかった。まるで透明な十字架に縛り付けられているかのように、ヤマドー=サルトルは無理やりに両腕を広げさせられ、さらには両足の甲をひとつにまとめた状態で、上から釘付けされているような痛みを感じるのであった。


「ヤマミチっ! リリスさま、何故にヤマミチにそこまで熾烈な攻撃を繰り返すのじゃっ!」


 ルナ=マフィーエとアズキ=ユメルたちも、リリスが創り出した宇宙空間に巻き込まれていた。そこの空間は無重力であり、彼女たちは態勢を整えるだけで必死であった。


「この殿方は、この世界の異物ナノヨ? それを抗体の役目をもつワタクシが排除しようとしているだけナノ……。ワタクシはワタクシの使命に従っているダケ……」


「ヤマミチはわらわのツガイなのじゃっ! そのヤマミチを攻撃すると言うのであれば、『始まりの男女』と言えども、わらわは敵にまわらせていただくのじゃっ!」


 ルナ=マフィーエは態勢が整わぬままに魔法の杖(マジック・ステッキ)を両手で掴み、魔法詠唱を開始する。火の精霊(サラマンダー)魔法の杖(マジック・ステッキ)の先端の宝石に集まり、その宝石は紅く明滅しはじめる。


炎の柱(ファー・ピラー)発動なのじゃっ!」


 螺旋を描く炎柱が魔法の杖(マジック・ステッキ)から産み出され、まっすぐにリリスに向かって飛んでいく。だが、リリスを護るかのように紅く燃える星が移動し、ルナ=マフィーエとリリスの間に割って入る。そして、ルナ=マフィーエの創り出した炎を全て吸い込み……


「残念デスワ。でも、子供にしつけは必要。少しだけ痛い目を見てもらいますワヨ?」


 ルナ=マフィーエが発した炎を喰らった紅い星の表面が渦巻き、その渦巻く中心部から彼女が放った炎の3倍の量が噴き出す。ルナ=マフィーエはなす(すべ)もなく、その炎の濁流に飲み込まれてしまうこととなる……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ