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第6話:あっちも狂戦士

 トッシェ=ルシエとアズキ=ユメルは黄緑色のドーム型テントの脇で火を起こし、それで湯をわかして、紅茶タイムと洒落込んでいた。アズキ=ユメルが紅茶に詳しく、イギリスの紅茶はさすがに言うことなしだが、フランスのこの辺りの水を使うなら、ブルターニュ地方の茶葉を使うのがお勧めなどと、親切丁寧に解説をしてくれるのであった。


 トッシェ=ルシエは興味深そうに、アズキ=ユメルの話に聞き入っていた。トッシェ=ルシエはどちらかと言えば、コーヒー派なのだが、今の年代は大航海時代には少し早く、コーヒー豆の発見はされているが、大量栽培まではこぎつけていないとの情報もアズキ=ユメルから聞かされることとなる。


「アズキっちは修道女(シスター)にしておくにはもったいないくらいの器量をもっているッスね……。俺っちもアズキっちみたいになりたいッス」


「何を言っているんだニャン……。自分の腕ひとつで成り上がれる鍛冶職のほうがよっぽど食っていくのに困らないニャン。あちきが修道女(シスター)になって良かったことなんて、最低限の教育を受けれたことくらいニャン」


 西欧の1400年代と言えば、そこを中心として世界中が争いを続ける時代であった。唯一、割と平和で豊かなのはヒノモトの国くらいである。その国は昔から庶民にも字を書くのはアレだが、読むくらい程度の知識は庶民でも出来るくらいには教育が施されている。


 しかし、この時代における先進国であるはずの西欧ですら、農民出身者で字を読めるかどうかと問われれば、かなり怪しいと言えた。その辺りを勘案すると、トッシェ=ルシエはすごい国に産まれたモノだと、奇跡的で神秘的な自国に驚いてしまうのである。


「アズキっちには教わることばかりッス。俺っちがアズキっちに自慢できることなんてないッスよ」


「何を言っているニャン。戦闘中、あちきを特に護ってくれていることを、あちきは知っているニャン。これ以上の幸せなんて無いんだニャンっ」


 アズキ=ユメルに幸せだと言われて、トッシェ=ルシエは気恥ずかしさに後頭部をコリコリと空いた左手で掻いてしまう。トッシェ=ルシエとアズキ=ユメルはお互いに自然と良い雰囲気を醸し出していたのである。


「お~ま~え~ら~。何を青春ごっこをしているのじゃっ! わらわを助けるのじゃっ!」


 黄緑色のドーム型テントの裾から、這いつくばるように上半身を出してくるルナ=マフィーエであった。彼女の髪はぼさぼさに乱れており、端正な顔が白濁とした汁で汚れて、台無しになっていた。しかも、テントからはみ出た上半身は衣をまとわず、その豊満な乳房の先にある桜色の乳首も丸見え状態である。


 しかし、彼女はまるでテントに喰われるかの如くに、ずるずるとその中へ引きずり込まれる。


「助けてた~も~れぇ~~~! このままでは本当に孕まされてしまうのじゃー! もう、お腹が破裂しそうなのじゃーーー!」


 トッシェ=ルシエはホラーッスね……と思うが、自分は巻き込まれたくないので、ルナ=マフィーエという生贄をそのテントの主に差し出してしまう。


「あちきの産まれた村には、『山男と狂戦士(ベルセルク)には惚れるな』という格言があるんだニャン」


 アズキ=ユメルがカップに注がれた紅茶をズズッと飲みながら、今起きたことを見てみぬ振りをしていたのである。カップをソーサ―の上に置き、こほんと小さくひとつ咳をつき


狂戦士(ベルセルク)は奥義を使うと、その反動でとてつもない破壊衝動に心を蝕まれることになるニャー。そして、それを発散させるには女を抱く。これが一番、周りに被害を与えないことなんだニャン」


(ヤマドーさんの鼻息なのか、豚の声なのかわからないッスけど、ブヒッブヒッ! て鼻息すさまじい荒い声と、ルナっちの喘ぎ声なのか悲鳴なのかわからない声が玄室にこだましているッス……。俺たち、よくもまあ、冷静に紅茶を飲めているッスよね……)


 黄緑色のドーム型テントの中からは、フゴフゴッ! ブヒッブヒッ! とまるでニンゲンの声とは思えない音が聞こえてきていた。そして、その声に合わさって、女性のうぎぃ! ひぎぃ! アヒィン! というおぞましい声も同時に聞こえてくる。かれこれ、30分ほど、こうなのだ。


 アズキ=ユメルが、ヤマドーが精を全て吐き出せば、静かになるニャーと言っていたが、一向に収まる気配がないのだ。トッシェ=ルシエは怖気を感じると同時に、眼の前の半袖のはっぴ姿で、さらには短パンルックの猫娘に欲情してしまいそうでたまらなかった。もし、自分が獣になれたのならば、この健康優良児を襲ってしまっているのでは? と思ってしまう。


 しかし、テントから漏れ出す熱気を覚ませてくれるのは、やはり美味しい紅茶のおかげだといっても過言ではなかっただろう……。


 さらにそれから30分もすると、ようやくテントの中は静まり返り、ルナ=マフィーエが芋虫のように這いつくばりながら、ほふく前進でテントを出て、そのままに玄室から出ていく。その全身は白濁色の汁にまみれていた……。彼女は玄室の外にある、ちょっとした池で身体を清めていくことは想像に難くないトッシェ=ルシエとアズキ=ユメルであった。


「自業自得だニャン。これに懲りたら、狂戦士(ベルセルク)のヤマドー相手に変な色仕掛けなんて、しないほうが良いんだニャン」


 アズキ=ユメルはルナ=マフィーエに対して、まったく気を遣うことは無かった。もう少し、穏やかにくんずほぐれずしてくれれば、その熱に当てられたトッシェ=ルシエが自分に手を出してくれるのではなかろうか? という淡い期待を抱いていたのである。しかし、猛獣バトルが開始されれば、そんなムードなど、どこかに吹き飛んでいくのは当たり前と言えば当たり前だったのだ。


 トッシェ=ルシエは少しばかり、状況に流されそうであったが、アズキ=ユメルのほうは、まったくもって、そんな気がなかったので、結果的に彼が彼女に手を出さなかったのは正解だったのである。


「さて、あちきはルナの身体を清める手伝いをしてくるニャン。ヤマドーのほうは頼んだニャン」


 アズキ=ユメルはそう言うと、タオルを何枚か魔法の荷物入れ(マジック・バッグ)から取り出し、それを手に持って、玄室から外へと出て行ってしまう。残されたトッシェ=ルシエは、俺っちがヤマドーさんの世話をしなきゃならないんッスか!? と眼を白黒させるが、彼女に任された以上は最低限のことだけはしておこうと思うのであった。


 トッシェ=ルシエは魔法の荷物入れ(マジック・バッグ)から手ごろなサイズの桶とタオルを取り出し、桶にはヤカンに残ったお湯を注ぎ、さらに水を差し、湯温を調整する。そして、湯が入った桶とタオルをテントの中、入口付近に呼吸を止めながら置くのであった……。

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