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第9話:ヴァンパイアの騎士

 右肩に魔法の杖(マジック・ステッキ)を打ち付けられた泣き女(クライ・オンナ)が、ルナ=マフィーエの方に身体を向ける。ルナ=マフィーエは続けざまに詠唱時間の短い火焔魔法系の初期魔法:幽火の玉(ファー・ボール)を発動させる。三つの小さな火焔球がメラメラと空中を漂い、泣き女(クライ・オンナ)とルナ=マフィーエの間に割り込む。


 泣き女(クライ・オンナ)は本能的に火を嫌がり、両腕で顔を防御する。ルナ=マフィーエがニヤリと口の端を吊り上げると同時に、泣き女(クライ・オンナ)の背後に回ったヤマドー=サルトルが横薙ぎで黒鉄(クロガネ)製の戦斧(バトル・アクス)を振るう。


「ストライク・アックスからの、ヘビー・ストライク・アックスですよっ!」


 ヤマドー=サルトルは1撃目をやや軽い殴打攻撃にし、戦斧(バトル・アクス)を左から右へ振り回す。これは1撃目で相手をノックバックさせないためのコツであった。泣き女(クライ・オンナ)の位置をあまりずらさないようにして、続けて、2撃目で重い殴打攻撃を、今度は右から左へと泣き女(クライ・オンナ)の脇腹にぶち込む。泣き女(クライ・オンナ)はグギャアアア! と泣き声なのか悲鳴なのか、判別がつかぬ声をあげる。


 そこに先ほどルナ=マフィーエが生み出した三つの火焔球が、泣き女(クライ・オンナ)に纏わりつく。泣き女(クライ・オンナ)のボロボロの衣服に火が燃え広がり、奴はその火を消そうと、玄室の床に転がり、じたばたと身体を地面に擦り付ける。


 ヤマドー=サルトルは『はあああっ!』と勢いよく息を吐き、残心を(おこな)う。ヤマドー=サルトルの周囲に光の粒子が発散され、彼のの硬直時間はたちまちに短くなる。そして、身体が動くようになったヤマドー=サルトルは戦斧(バトル・アクス)下手(したて)に持ち直して、泣き女(クライ・オンナ)の首筋へと打ち付ける。


 戦斧(バトル・アクス)の重さ自体で泣き女(クライ・オンナ)の首をへし折ってしまおうとしたわけである。ヤマドー=サルトルの企みは正しく、ベギッ! という骨の折れる音が玄室に響き渡る。泣き女(クライ・オンナ)はそのトドメの1撃で戦闘不能となってしまうのであった。


「ふううう……。一番厄介な泣き女(クライ・オンナ)は、これで全て片付けました。ルナさん、ナイス連携です!」


「ふふんっ! ヤマミチこそ、こちらの意図を察してくれて、戦いやすかったのじゃっ! 褒めてつかわすのじゃ。後でたんまりと褒美をやろうなのじゃ!」


 ルナ=マフィーエが魔法の杖(マジック・ステッキ)を左脇で抱え込み、紫色のドレスのようなローブの上から、自分の胸を下から支えるように両手で押し上げる。するとだ。そのオッパイは両手から零れそうになる果実のように、ヤマドー=サルトルの眼に映り、戦闘中だというのに、彼はごくりと喉を鳴らしてしまうのであった。


 ヤマドー=サルトルは邪念を振り払うかのように、強く頭を左右に振る。


「心頭滅却すれば、おっぱいはただの脂肪の塊っ!! ご褒美をもらいたい気持ちはありますが、今はダメですっ!!」


 そう叫び声をあげるヤマドー=サルトルに対して、このシノン銅山に入ってから何度目かになるかわからない舌打ちをするルナ=マフィーエであった。しかしながら、ヤマドー=サルトルの意見は至極真っ当であり、ルナ=マフィーエは生きる水死体リビング・ウォーター・デッド4体を引き受け続けるトッシェ=ルシエとアズキ=ユメルの方に注視する。


 するとだ。トッシェ=ルシエは巧みに左手に持つ盾で生きる水死体リビング・ウォーター・デッドたちの殴りつけ攻撃を防ぎ、さらにはその合間に右手で持つオリハルコン製のラージ・クラブで奴らの身体に叩きつけていたのであった。


(ほう……。攻防一体とはまさにトッシェ=ルシエに相応しい戦闘姿なのじゃ。あっちは放っておいても大丈夫そうなのじゃ)


 4対1だというのに、トッシェ=ルシエはその場から引かぬとばかりに、攻撃を捌きつつ、自分の攻撃を当てるという動作を続けていた。彼の後ろにはアズキ=ユメルが控えており、随時、回復魔法をトッシェ=ルシエにかけていた。時間はかかるが、これなら生きる水死体リビング・ウォーター・デッドの群れをあの2人に任せっきりでも良いだろうと、ルナ=マフィーエはそう判断する。


「ククッ! やりおるのであるッ! さあ、今度は(われ)に従う騎士と司祭が相手となろうッ!」


 ヴァンパイア・エンペラーが玉座に座ったままで愉快そうに笑う。彼の両脇に立つヴァンパイア・ナイトとヴァンパイア・プリーストがうやうやしくヴァンパイア・エンペラーに一礼した後、自分たちに接近しようとしていたヤマドー=サルトルとルナ=マフィーエを迎え撃とうと戦闘の構えを取る。


 ヴァンパイア・ナイトは腰の左側に佩いていた幅広の長剣(ロング・ソード)を右手に持ち、左手に高さ1メートル、幅50センチメートルの楕円形の盾を持っていた。


 長剣(ロング・ソード)、楕円形の盾、そしてその身を包む全身鎧(フルプレート・メイル)の全てが銀色に輝いていた。そしてボロボロの蒼い外套(マント)を装着し、彼の眼は不気味な紅色に発光していたのであった。


 そのヴァンパイア・ナイトは騎士然としており、(あるじ)を護ろうと玉座の手前5メートルの地点で足を大きく開き、さらに腰をわずかに落とし、臨戦態勢へと移行する。


 ヤマドー=サルトルは奴のその構えを見て、バンパイア・ナイトは攻防どちらもバランスが取れている聖騎士(パラディン)系であろうと推測する。第4層の中ボスとして、似たような奴が出てきたが、そちらはほとんど苦戦することなく、ヤマドー=サルトルたち4人でフルボッコにしてきたのだが、こいつは一筋縄ではいかないような気がしてたまらないのであった。


「ルナさん。このヴァンパイア・ナイトはかなり出来る部類に入ると思います……」


「ああ、わらわもヤマミチと同じことを考えていたところじゃ……。こりゃ、アズキたちと合流してから、接近すべきだったかもしれぬな……」


 今の今まで、こちらに手を出してこなかった残り3体のうち、2体が戦闘状態へと移行したところを見て、ルナ=マフィーエは自分たちは勇み足を踏んでしまったかもしれぬのうと考えるのであった。

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