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第7話:ラスボスの部屋

 ヤマドー=サルトルとトッシェ=ルシエが鉄製の大扉の前に立ち、両腕にあらん限りの力を込めて、扉を開こうとする。鉄扉はギギギィィィ! と錆びついたものを無理やり動かすような不快な重低音を奏でる。抵抗虚しく、鉄扉は大きく左右に広げられ、ヤマドー=サルトルたちはついにシノン銅山の最奥にある『ボス部屋』へと到達することとなる。


 狂戦士(ベルセルク)のヤマドー=サルトル、店持ち・鍛冶屋のトッシェ=ルシエが先行して、玄室に入る。彼らがボスの出現を警戒し、両手に持つ武器を構える。遅れて、森の魔女(フォレスト・ウイッチ)のルナ=マフィーエと一人前・修道女(シスター)のアズキ=ユメルが玄室に足を踏み入れる。


 4人が床も壁もボロボロの大理石が敷き詰められた玄室に入ると、その玄室の入り口にあった鉄扉がギギギィィィ! と閉ざされるのであった。しかし、誰も後ろを振り向き、鉄扉を確認する者などいなかった。


(われ)はヴァンパイア・エンペラー也!! 頭が高いッ! ひれ伏せィィィ!」


 4人が後ろを振り向かなかったのには理由があった。眼の前15メートルほど先に高さ5メートルほどはあるだろう背もたれつきの玉座に、威厳溢れる伸長4メートルはあろうかという巨人が足を組み、座っていたからである。


 その人物の身体全体は黒を基調とした紅い紋様が全体に施された全身鎧(フルプレート・メイル)を身に着けていた。両肩には鋭い牛のよな角が生えている。


(どこの世紀末覇者なんでしょうかね? このボス:ヴァンパイア・エンペラーのキャラデザって、カロッシェ・臼井(うすい)くんでしたよね……。彼は男性キャラだと、本当に悪趣味な意匠の武具を身につけさせますよね……)


 不死系の(みかど)と設定されているだけはあり、その異様な意匠の鎧は見る者たちに十分な脅威と畏怖を与えるには十分であった。さっきまで威勢のよかったルナ=マフィーエとアズキ=ユメルは武者震いをさせて、身を縮こませている。ヤマドー=サルトルは顔を少しだけ動かし、後ろをちらりと見て、その2人の状態を確認したのである。


 するとだ。ヤマドー=サルトルとルナ=マフィーエの視線が交差する。ヤマドー=サルトルは兜越しにニッコリと笑顔を作る。彼の笑顔に勇気づけられたのか、ルナ=マフィーエはコクリと力強くうなずき、頬を両手でパンパンッ! と叩き、左脇に抱えていた杖を両手で支え、戦闘態勢へと移る。


「アズキっち。俺っちがアズキっちに攻撃が一発も漏れないように護ってみせるから、安心してほしいッス!」


「う、うん……。絶対にあちきを護ってほしいニャ。そしたら、後でご褒美をあげるニャン」


「へへ……。ご褒美をもらえるッスかっ! こりゃ頑張らないといけないッスねっ!」


 トッシェ=ルシエはヤマドー=サルトルとは違い、直接的にアズキ=ユメルに声をかけたのである。それぞれに年相応のやりとりであると言ってよいだろう。


「チィッ! (われ)の威光にひれ伏せれば、生きる死者(リビング・デッド)に生まれ変わらせる程度に済ませてやろうと思っていただけに残念ダッ! (われ)は不愉快也! いでませいィィィ!」


 ヴァンパイア・エンペラーは玉座に座ったままに右手を左から右へと振る。すると、高さ1.5メートル、幅50センチメートルほどの紫色の渦が玄室内に8個、現出する。その紫色の渦の向こう側から生きる死者(リビング・デッド)系の魔物(モンスター)たちがのっそりと現れたのだ。


「ルナさん! 女性の生きる死者(リビング・デッド)を集中攻撃しましょう! あいつは泣き女(クライ・オンナ)ですっ!」


泣き女(クライ・オンナ)じゃと!? 大きな泣き声で、敵対する者たちを行動不能に陥らせると言われているアレかえ!?」


 ヤマドー=サルトルは、その通りですよっ! とルナ=マフィーエに告げた後、すぐに行動へと移していた。ヴァンパイア・エンペラーを起点にして、まるで鶴が翼を広げるように生きる死者(リビング・デッド)たちは展開していた。彼らは急に襲ってくるわけでもなく、ヤマドー=サルトルたちと距離を取っていたのである。


(厄介ですねっ! 両翼に泣き女(クライ・オンナ)が1体づつ配置されていて、さらに、そのそばには生きる水死体リビング・ウォーター・デッドが2体づつ。そして、ヴァンパイア・ロードの両脇には、ヴァンパイア・ナイトとヴァンパイア・プリーストの2体……。これは長期戦となると、こちらが圧倒的に不利になりますっ!)


 ヴァンパイア・エンペラーはシノン銅山のラスボスとして君臨しているだけはあり、第3層と第4層のいわゆる中ボスを配下として従えていたのである。ノブレスオブリージュ・オンラインでは、彼は泣き女(クライ・オンナ)生きる水死体リビング・ウォーター・デッドだけがお供であった。やはり、この世界はノブレスオブリージュ・オンラインに似ているようで違うものであることを、ここにきて再確認させられる。


「奥義:全員・罵倒(オール・バトウ)発動ッス! おらおら、お前ら!! 俺に注目するッス!!」


 トッシェ=ルシエは先ほど、アズキ=ユメルに言った通りに、彼女に魔物(モンスター)たちが指一本触れさせないようにと、戦闘初期からいきなり鍛冶職の奥義である『全員・罵倒(オール・バトウ)』を放つ。このスキルは強制的に戦闘の場にいる敵の攻撃を全て、自分に集中させるターゲット固定技である。


 そのターゲット固定時間はノブレスオブリージュ・オンラインでは4~8ターンほどである。数字に大きな開きがあるのは、そのプレイヤーのステータスのひとつ:魅力が大きく関わってくる。ヤマドー=サルトルはトッシェ=ルシエの今現在の魅力が如何ほどかはわからなかったが、こちらの世界の事情を勘案すれば、約5分間はトッシェ=ルシエに敵の攻撃が集中するだろうと予測する。


「トッシェくん、良い判断ですねっ! その時間で泣き女(クライ・オンナ)2体を倒して見せましょう!」


 ヤマドー=サルトルは黒鉄(クロガネ)製の戦斧(バトル・アクス)を振り上げながら、自分の右斜め前にいる泣き女(クライ・オンナ)に走って向かっていく。それと同時に彼の気持ちを汲んだのか、彼に抱え上げられた黒鉄(クロガネ)製の戦斧(バトル・アクス)はブォォォン! とその刃を震わせるのであった。

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