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第6話:後片付け

 昼食を終えた4人は後片付けとボスとの戦闘のための準備を開始する。このシノン銅山には湧き水がところどこに湧き出ており、それが第5層でちょっとした池と化していた。そこでルナ=マフィーエとアズキ=ユメルが鍋と食器を洗っている。その間にヤマドー=サルトルとトッシェ=ルシエが全身鎧(フルプレート・メイル)をその身に装着していくのであった。


「あの……。ルナさんたちが銅山から湧き出る水で食器を洗っているんですけど……。鉱毒って言葉をもしかして知らないなんですかね?」


「別に日常的に飲むわけでも無いから、身体への影響なんてタカが知れているッス。ヤマドーさんは理系出身ッスよね? それくらい、聞かなくてもわかるッスよね?」


 トッシェ=ルシエにそう言われ、ヤマドー=サルトルはそれもそうですよねと思い直すことになる。銅山から湧き出る水にしてはその池は透明感が強い。普通ならもっと翠玉(エメラルド)のような色になっていてもおかしくないのだが、よっぽど上手く、ろ過されているのだろうと考えるようになっていた。この水をコップに入れて、街にでも持ち帰って、どういった成分が混ざっているのかを調べるのも一興かもしれないと思うヤマドー=サルトルであるが、そこまではしなくて良いでしょうとも同時に思ってしまう。


「しっかし、見た目よりかは遥かに軽い鍋なのじゃ。表面が黒いゆえに鉄鍋かと思っていたのじゃが、もしかして、わらわの勘違いかえ?」


「多分、比重がかなり軽いミスリル鉱でも混ざてあるんじゃないかニャン? どれくらい混ざっているかまでは、あちきには鑑定できないけど……」


「ふむ。一人前・修道女(シスター)では、そこまでの『鑑定』しか出来ないのじゃな……。女司祭の力ならば、もっと詳しく判別できようものなのが口惜しいのじゃ」


 ルナ=マフィーエとアズキ=ユメルがそう会話しているのを小耳に挟んだヤマドー=サルトルは、この世界でも修道女(シスター)のような司祭系統は『鑑定』スキルを持っているんですねと感心してしまう。


 ノブレスオブリージュ・オンラインに存在する『鑑定』スキルとは使途不明のアイテムを拾った際に、それが何なのかを調べるためのスキルである。ノブレスオブリージュ・オンラインではハクスラ要素はサービス開始当時にあることはあったが、年月が経つにつれて、プレイヤーが作製できる装備品のほうがよっぽど優秀となってしまい、今ではアイテムの詳細な用途を調べるくらいに変わってしまったのであった。


 もう少し詳しく言うと、武具を作製する際に、それに使用する材料、それを作るための中間材料、さらには素材は何なのか? そのルートを調べる際に発揮するスキルへと生まれ変わっていったのである。しかしながら、現在2030年代も後半へと現実世界は時計の針を進めており、インターネットへ接続していない世代など、ほぼほぼ存在しないのだ。ネットにある攻略サイトで調べたほうが手っ取り早い場合もあったりする。


(大昔に実装されたスキル群をそろそろ整理すべきなんでしょうけど、人手が圧倒的に足りてませんからねえ……。機材の質だけで無く、マンパワーがカツカツなのは本当にどうしようも無い事態ですよ……)


 ヤマドー=サルトルは思わず、ふううう……と長いため息をついてしまう。そんな彼を見て、トッシェ=ルシエは彼にこう問いかける。


「どうしたんッスか? ここのラスボスに勝てるかどうかを思い悩んでいるんッスか?」


「違いますよ……。ここのラスボスって、きっとノブレスオブリージュ・オンライン同様にヴァンパイア・エンペラーだと思うんですよね。今の徒党(パーティ)構成で苦戦する相手だとは思えませんけど」


「そうッスね。お供の泣き女(クライ・オンナ)のほうがよっぽど厄介なボスッスもん。戦闘補助の専門職がうちの徒党(パーティ)に居ないから、長時間の行動阻害を喰らわないように気をつけないとダメなことくらいッスかねえ?」


 ヤマドー=サルトルはトッシェ=ルシエにそう言われて、ああ、そう言えばそんな厄介な行動阻害スキルを使ってくる魔物(モンスター)がいましたねえと、もう一度、ため息をつくことになる。まあ、治療薬も含めて、お薬関係は余るほどにジャン=ドローンからもらっているので、どうにでもなるでしょうと思うヤマドー=サルトルであった。



「ふむっ! 新品かのようにピカピカにお鍋を磨けたのじゃっ! 何だか心も洗われた気分なのじゃっ!」


「じゃあ、ついでに煩悩まみれの脳みそお花畑も洗い流せたのかニャン? いちいち、ヤマドー相手に色仕掛けをしているのは、こっちとしても痛々しくて見ていられないんだニャー。いい加減、効果が発揮できていないと気づくべきなんだニャー」


 アズキ=ユメルはお節介なのを承知で、ルナ=マフィーエに苦言を呈す。しかし、ルナ=マフィーエは、くっくっくっ! と含み笑いをし


「まだまだお子様なのじゃな、アズキは。わらわとて、一足飛びで正妻がいるヤマドーとネンゴロな間柄になれるとは思っておらぬわ。これは布石……。大きな策を成功させるためには、ひとつひとつの積み重ねが必要不可欠なのじゃっ!」


(大きな成功というよりかは、くんずほぐれずの性交を成そうとしているのは気のせいかニャン?)


 アズキ=ユメルはそう思うが、それはさすがに口に出すことはなかった。彼女らの近くには、ヤマドー=サルトルたち男陣がいるのだ。自分はその片割れのトッシェ=ルシエの寝込みを襲撃しようと、機会をうかがっている身である。ルナ=マフィーエが見え見えの色仕掛けをしてくれているおかげで、その蓑に隠れて、アズキ=ユメルもトッシェ=ルシエの好感度を少しずつ上げていけていると感じていた。


(キシシッ……。ルナには悪いけど、あちきの野望のための礎となってもらうニャン!)


 アズキ=ユメルがニコニコ笑顔で右手をルナ=マフィーエに差し出す。差し出された側のルナ=マフィーエはあまり意味を考慮せずに、その手を握り返してしまう。


「じゃあ、ボスをさくっと倒して、とっととシノン銅山からおさらばするニャンっ!」


「そうじゃなっ! わらわにはその後に朝ちゅんイベントが待っているからのぅ! アズキ、しっかり回復を頼んじゃぞ?」


「任せておくニャン! ここまで来たら、一蓮托生なのニャンっ! 皆で無事にシノンの街へ帰るニャンっ!」

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