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第3話:床ドン

 言い訳を続けるアズキ=ユメルに対して、ルナ=マフィーエがお玉を右手に持って、コツンコツンとアズキ=ユメルの頭を軽く叩く。さすがに彼女も反省の意を示そうのかと思ったのか、その場で正座をし……


「不肖、このアズキ=ユメル。腹を掻っ捌いて、干肉とソーセージをつまみ食いしちゃったことを詫びるニャンっ!」


「ちょっと待つのじゃ! たかだか、つまみ食い如きで腹を掻っ捌くとはいかなる了見なのじゃっ!」


「あちきは神に仕える修道女(シスター)の身でありながら、自分の内にある7つの大罪:暴食を止められなかったニャっ! これを詫びねば、天の国に昇る資格を失ってしまうんだニャーーー!」


 アズキ=ユメルはそう言うと、はっぴにしてしまった法衣の上着を脱ぎ捨て、近くにあった調理用の包丁の柄を右手で掴む。彼女が刃物を手に持ったために、ルナ=マフィーエはゾッとしてしまう。このままでは本当にアズキ=ユメルが自害してしまうのではなかろうか? とうろたえてしまうのであった。


「待つッスーーー! 俺っちの前で猫耳美少女が自害するなんて、そんなことはさせないッスーーー!」


 トッシェ=ルシエがオリハルコン製の籠手で包まれた両手でアズキ=ユメルが持つ包丁を鷲掴みにして強引に奪い取る。


「何をするニャー! こればかりはトッシェだとしても、許せないんだニャー!」


 アズキ=ユメルが正座状態から立ち上がり、さらには猫耳と尻尾を逆立てて、怒声をトッシェ=ルシエに浴びせる。だが、彼は知ったことかとばかりに包丁をポイッとヤマドー=サルトルの方へと投げる。そして、自分に喰いかかってくるアズキ=ユメルにズイッと自分の身体を押し付け、さらには彼女に柔道でいうところの内股をかける。


 アズキ=ユメルは、ニャニャン!? と素っ頓狂な声をあげるが、こんな投げ技を喰らったのは初めてのことであり、そのまま、トッシェ=ルシエと共に地面に倒れ込んでしまう。しかし、彼女が頭や背を強く打たないように、トッシェ=ルシエは両腕で彼女の身を支えており、大事に至ることはなかった。


 アズキ=ユメルの頭の中は混乱の真っただ中に放り込まれているところに、さらに追い打ちをかけかれる。


「アズキっち。俺っちはアズキっちに自害してほしくないッス……」


「トッシェ……」


 迷宮の床の上で向かい合うように見つめ合うトッシェ=ルシエとアズキ=ユメルであった。彼らの顔は互いの呼吸音が聞こえるほどに近づいており、アズキ=ユメルは心臓がバクバクと急速に鼓動を跳ね上げさせられることとなる。


「ほう……。これが最近、巷で噂の『床ドン』かえ……。あーーー、アズキが羨ましい限りなのじゃえ」


 トッシェ=ルシエは『壁ドン』ならぬ『床ドン』の体勢でアズキ=ユメルに迫っていた。少し顔を前に動かせば、互いの唇と唇はついばみ合える距離であり、アズキ=ユメルは夢にまで見たシチュエーションに心が躍ってしまう。


「アズキっち、眼を閉じてほしいッス……」


「うん、わかったニャン。初めてだから優しくしてほしいニャン……」


 アズキ=ユメルが眼を閉じ、恐る恐る唇をとんがらせる。トッシェ=ルシエはそんな彼女に微笑み、魔法の荷物入れ(マジック・バッグ)をごそごそと漁りだし……


(んん……。んーーー。初めてのキスはソーセージの味なんだニャン……。って!?)


 アズキ=ユメルはとんがらせた唇の先に異物を感じたが、そのまま、唇に押し当てられる肉棒を口の中にほうばってしまう。なんとトッシェ=ルシエは彼女に自分の唇を重ね合わせたのではなく、魔法の荷物入れ(マジック・バッグ)にしまってあった美味しそうなソーセージを右手で彼女の口の中に突っ込んだのである。


「ほら、たーんとお食べッス。いきり立った時は食べてお腹を膨らませるのが一番ッスから……」


「ふごごごーーー、ふごごーーー!!」


 突然、肉棒を自分の口の中に押し込まれたことにより、アズキ=ユメルは眼を白黒させてしまう。これがソーセージでなかったら、アズキ=ユメルは慌てて食いちぎってしまってしまったかもしれない。アズキ=ユメルは反射的に口の中に入ってくる肉棒に鋭い前歯を押し当てて、ブチっと噛み千切ってしまったのだ。


(うわ……。恐ろしい光景ですね……。僕はきんた〇が縮み上がってしまいましたよ……)


 ヤマドー=サルトルが鎧の上から股間を抑えてしまう。もし、アレがソーセージではなく、性的なフランクフルトならば、どうなっていたことだろうかと、肝が冷えてしまう気分に陥ってしまう。


「床ドンからの無理やりのお肉棒挿入なぞ、最高のシチュエーションなのじゃ……。ヤマドー? わらわの場合の時は多少、乱暴にしてくれても良いのじゃぞ? わらわが優しく舐めあげてやるのぞえ?」


「お断りしますっ! 僕はマゾ気のある女性よりも、どちらかというとサド気のある女性のほうが好みですからっ!!」


「なんじゃ? 甘噛みされるほうが好みなのかえ? ふむふむ。これは大事なことゆえに、メモを取っておかなければならぬのう? ちなみに唇の肉圧と、歯はどちらがいいのかえ?」


 ルナ=マフィーエが舌なめずりをしながら、ヤマドー=サルトルにそう問うのであった。キツネはそもそも狩猟に長けた動物である。半狐半人(ハーフ・ダ・コーン)もその習性を持っているのか、彼女の眼はまるで獲物を見つけたような妖艶な目つきへと変わっていたのである。


 ヤマドー=サルトルはこのおかしくなってしまった空気をどうにかして、元に戻したいと思っていた。しかし、そもそもとして、徒党(パーティ)のムードメーカであるトッシェ=ルシエが、この色気づいた空間を作り上げてしまったのだ。そんなトッシェ=ルシエをヤマドー=サルトルは力いっぱい蹴っ飛ばしてやりたい気持ちであった。


 この不穏? な空気を作ったトッシェ=ルシエといえば、アズキ=ユメルの上半身を起き上がらさせて、続けて魔法の荷物入れ(マジック・バッグ)から2本目のソーセージを取り出し、またもやアズキ=ユメルの口の中に放り込んでいる真っ最中であった。


「んんんーーー。トッシェは乱暴なのニャ―」


 アズキ=ユメルは唇や歯に押し当てられるソーセージを舌の先でチロチロと舐め上げる。まるで本番でトッシェ=ルシエのソーセージをそうしてあげるとばかりに、問題ない方のソーセージをついばみつつ、口の中でほおばるのであった……。

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