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第1話:ボス部屋前で

――西暦1492年4月24日 正午。シノン銅山 第5層にて――


 狂戦士(ベルセルク)のヤマドー=サルトル、森の魔女(フォレスト・ウイッチ)半狐半人(ハーフ・ダ・コーン)のルナ=マフィーエ、一人前・修道女(シスター)半猫半人(ハーフ・ダ・ニャン)のアズキ=ユメル、店持ち・鍛冶屋のトッシェ=ルシエの4人は3日目の正午にはシノン銅山の第5層の入り口にまで到達していた。


 ここまでの道中、雑魚敵との連戦に次ぐ連戦が(おこな)われていた。生きる死者(リビング・デッド)系の魔物(モンスター)が次から次へとヤマドー=サルトルたちに襲いかかり、その度にヤマドー=サルトルの振るう黒鉄(クロガネ)製の戦斧(バトル・アクス)によって、脳漿(のうしょう)を砕かれ、地面にまき散らす。


 戦斧(バトル・アクス)を喰らうだけでは満足しないのか、生きる死者(リビング・デッド)たちは足を止めずにヤマドー=サルトルたちに接近するため、前衛職が倒し損ねた生き残りをルナ=マフィーエが全体攻撃魔法で焼き払う。腐った身体が燃やされることにより、腐臭は焔の嵐に乗り、一層にシノン銅山の坑道に溢れかえる結果となる。


「しょうがないニャー。水の浄化(オータ・ピューリ)発動だニャー」


 戦闘後、アズキ=ユメルが場を清めるために、清らかな水を召喚し、不浄を洗い流す。生きる死者(リビング・デッド)たちの腐敗した血や臓腑、それと灰を透明色の水がシノン銅山のどこかへと運び出してしまうのであった。


「つかぬことをお聞きしますけど……。水でキレイに洗い流すのは良いんですけど、あれらはいったい、どこに運ばれていくわけで?」


「知らんのニャー。どこかに下水道でも完備されているんじゃないかニャー? あちきはとりあえず、水の浄化(オータ・ピューリ)で洗い流しておけば、なんとかなるものだって、教会では教えられているんだニャン。どこに流れ着くかまでは、よくわかってないんだニャン」


 ヤマドー=サルトルはもしかして、下の階層に生きる死者(リビング・デッド)たちの身体が運ばれて行き、階層を下に進めば進むほど、その廃棄物でいっぱいになっているではないのでしょうか? と危惧したわけである。しかしながら、いざ、第2層、第3層へと進んでも、アズキ=ユメルが洗い流した物には出くわすことはなかったのであった。


(あの水自体、魔法で具現化したモノですから、僕が想像していることと違う結果になっているのでしょうか? いやいや、そんな、ゲームの世界よろしくみたいな、天に召されたニンゲンが光の束となって、宙に霧散していくといった都合の良い展開は無いと思うのですが……)


 実は水の浄化(オータ・ピューリ)は非常に強い酸性、もしくはアルカリ性を持ち、遺体を溶かし尽くしたのでは? とも思ってしまうヤマドー=サルトルであるが、そういうのは現実的思考すぎるゆえに、あえて、光の粒へと変換されていったほうがまだマシだと思うことにする。


 この世界の構造について思うことは多々あるが、深く考えすぎて、せっかくのこの世界を冒涜することはやめようという思考にたどり着くヤマドー=サルトルであった。つい、科学的に検証するのは現代人ゆえの悪い癖だと。神秘的なことは神秘的なままに受け取る姿勢も大事だろうということで、思考を停止するのであった。




「さてと……。いよいよ第5層にやってきたッスね……。この扉の向こう側はボス部屋になっているはずッスけど……」


 トッシェ=ルシエが眼の前の高さ3メートルはあろうかとういう紋様の施された鉄扉の前で腕を組みながら、まじまじとその鉄扉を見つめていた。第4層から第5層に降りると、ちょっとした広間が広がっており、さらには都合の良いことにそこは魔物(モンスター)が出現しないセーフゾーンになっていたのである。


 まさにここで一旦休憩を挟み、扉の向こうにいるボスと対峙せよとでも言いたげな構造となっていたわけなのだ。


「ノブレスオブリージュ・オンラインのシノン銅山だと、この扉の向こう側にあいつが置かれているんですが、まさかまさか、そんなわけがないですよね?」


「いやあ、ここまで進んできている道順を考えると、案外、ヤマドーさんと俺っちが考えている通りのボスが現れると思うッスよ? 地図作製(マッピング)をちゃんとしているからこその当然の帰結になりそうッス」


 トッシェ=ルシエがややくたびれた羊皮紙を両手で広げて、ヤマドー=サルトルにそれを見せる。地図作製(マッピング)(おこな)ったのは、シノン銅山内で道に迷わぬようにとの配慮であるが、それ以上にもしかするとノブレスオブリージュ・オンラインに存在するシノン銅山と酷似しているのでは? という疑念を晴らすためでもあった。


 ヤマドー=サルトルとトッシェ=ルシエの予想通り、細部までは違っているが、全体としてはゲームのそことここは似通った構造をしていた。第1層はそれほど複雑では無く、第2層はいきなり迷路化し、第3層はいくつかの玄室が存在するが、道自体は複雑ではなかった。そして、第4層は各地に配置されている髑髏姿の老婆が何故か色とりどりの鍵を所有しており、その鍵を使用することで、段々と奥地に足を踏み入れることが出来るといった仕掛けが施されていた。


 ここでひとつ、ノブレスオブリージュ・オンラインとこの世界で違っていたことは、ゲームでは各階層で、次の階層に向かうための階段の前にある広間に強めの中ボスが配置されているのだが、この世界ではそれらとは出くわしたのは3層と4層のみであった。もし、いわゆる中ボスがここまでに至る全階層に居たならば、もう少し、この第5層にたどり着くのは遅れていたであろう。


 手持ちの食糧もちょうど残り三食分となり、まるで推し量られたかの如くに、順調? にヤマドー=サルトルは最終階層へとたどり着けたのだ。


(何か眼に見えぬ力が働いているとしか考えられませんね? こうも都合よく、手渡された食料の量、そして、ジャンヌ=ダルクさんたちが言うところの三日間ほどの依頼期間……。まるでそうなることが必然であったかのようにも思えます)


 ヤマドー=サルトルはトッシェ=ルシエが広げた羊皮紙の上に描かれたシノン銅山の構造を見ながら、同時に別のことを考えていた。この世界にやってきてから、ずっと続いている違和感の正体は何なのか? いや、違和感というのは間違っている。どちらかというと既視感と言ったほうが正しい気がしてならないヤマドー=サルトルであった。

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