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第9話:即ちそれ残心

 ルナ=マフィーエが両手で支える魔法の杖(マジック・ステッキ)の先端に取り付けられた碧玉(サファイア)の宝石が紅く明滅し、そこから火炎放射器よろしく、勢いよく炎が噴き出す。しかも、扇状に左右に展開していき、ヤマドー=サルトル共々、生きる死者(リビング・デッド)を焼き払うことになる。


 ヤマドー=サルトルとトッシェ=ルシエは背中から押し寄せる火焔の津波に眼を白黒させるが、自分たちを覆う緑の障壁が厚さを増して、彼らに火焔が襲いかからぬようにその身を護るのであった。


 火焔の津波は彼女らの前方に展開する生きる死者(リビング・デッド)の群れを押し流し、やがて、生きる死者(リビング・デッド)たちは黒色の塊と化し、さらにはボロボロと崩れ落ちるのであった。


 ルナ=マフィーエは火焔の魔法:森林火災(フォレスト・ファイア)を放ち、生きる死者(リビング・デッド)たち全てが焼き尽くされたのを確認した後、構えを解き、深呼吸を開始する。すると、彼女の身体の周囲に光の環が展開され、それが彼女の身へと収縮していく。光の環が彼女の身に吸い込まれる直前に彼女は『ふぅっ!』と力強く息を吐く。すると、光の環が幾百もの欠片と化して、周囲に霧散していく。


 その瞬間、ヤマドー=サルトルとトッシェ=ルシエは、まるで周囲に清らかな空気が流れ込んできたかのような心地よさを体感するのであった。実際、坑道に集まっていた淀んだ空気、いや雰囲気といったほうが正しいのだろうか? それが彼女の呼吸によって、吹き飛ばされたかのように感じた2人であった。


「まったく……。前衛職であろう者たちが『残心』を使いこなせないとは、これはいったい、どうしたことじゃと文句のひとつでも言いたくなるのじゃ」


「そうだニャン。おかげでこちらの『気合』もなかなかに回復しなくて大変だったニャン。攻撃ど同時に『残心』を使ってもらわないと、後衛職も大変なくらい、当たり前のことだニャン!」


 ルナ=マフィーエとアズキ=ユメルがその可愛らしい形をした唇を動かし、前衛職であるヤマドー=サルトルとトッシェ=ルシエを口汚く罵るのであった。罵られた側のヤマドー=サルトルたちは何故、自分たちが非難されているのかがてんでわからない。そもそも、『残心』というものが何かわからなかったからとも言えよう。


「すいません……。まだ空から落ちてきた時に受けた衝撃による記憶障害が影響して、その『残心』とやらがよくわからなくてですね? よければご教授していただけると助かるのですが……」


 ヤマドー=サルトルはなるべくルナ=マフィーエたちに不審がられぬように、自分の設定を持ち出して、『残心』について詳しく聞き出そうとする。ルナ=マフィーエたちは、ああそいえばそうじゃったなと、それはそれで致し方なしなのニャーと彼を責めてしまったことを悔やむのである。そんな彼女たちの申し訳なさそうな顔に、ヤマドー=サルトルは良心の呵責を覚えてしまう。


「ふむ……。では基本の基本を言っておくのじゃ。『残心』とはすなわち、攻撃動作などの終わりに合わせて、呼吸と身体の型を整えることなのじゃ」


「荒ぶる気と体を静める。それによって、『場の淀み』も同時に整うことになるのニャー。ちょっと、あちきの『残心』をじっくりと見てほしいのニャン!」


 アズキ=ユメルはそう言うと、鉄の聖書(アイアン・バイブル)魔法の荷物入れ(マジック・バッグ)にしまう。そして、空手家の如くに正中構えをし、そこから左右の腕を交互に突き出し、華麗な三段突きを繰り出す。するとだ、先ほどのルナ=マフィーエ同様にアズキ=ユメルの身体の周囲に光の環が現出する。そして、その光の環は彼女の身体に向かって収縮していく。


 その光の環が彼女の身体に吸い込まれそうになる直前、アズキ=ユメルは正中構えへと身体の型を整え、『ふうっ!』と勢いよく息を吐く。するとだ、これまた先ほどと同様に幾百もの光の欠片が周囲に霧散し、清浄な空気が辺りを支配する。


 しかし、アズキ=ユメルはそこで続けて、右足の膝を腰の高さまで持ち上げて、正中四段蹴りを繰り出す。はっ! やっ! とうっ! あちょーっ! との掛け声と共にだ。そして、その正中四段蹴りを終えた後に、また正中構えに身体を戻し、先ほどと同様に『ふぅっ!』と勢いよく息を吐き、彼女の身体から幾百の光の欠片が発散されることとなる。


「これが『残心』なのニャン。わかってくれたかニャン?」


 アズキ=ユメルが自信満々の笑みを浮かべて、そうヤマドー=サルトルとトッシェ=ルシエに言い放つ。言われた側のヤマドー=サルトルたちはお互いに耳打ちをし


「これって、エイコウ・テクニカル社の他の開発チームが出している人気ゲームのシステムそのものですよね?」


「そうッス……。チームKANJAの人気シリーズ作:『覇王』の『残心システム』そのままッス……。これってもしかすると、ノブレスオブリージュ・オンラインにも『気合』ってシステムがあるから、そこが関与していたりするんッスかね?」


「ありえる話ですね……。同じといっては語弊がありそうですが、覇王もエイコウ・テクニカルのゲームですし……。どこかしこに共通点があってもおかしくありません……」


 共通点と自分で言っておいて、ヤマドー=サルトルは何か気持ち悪さを感じる。ノブレスオブリージュ・オンラインと覇王の共通点。思い浮かぶのはあの人物の存在だ。どちらのゲームにも総責任者として関わっている人物であるが、まさかまさか……と思う気持ちのほうが強い。しかし、その考えを完全に否定できない自分がいることも確かだ。


 この世界はノブレスオブリージュ・オンラインだけでなく、エイコウ・テクニカル社全体にも関わる問題ではなかろうか? と思ってしまう。しかし、ヤマドー=サルトルがそれ以上、思索にふける時間は無かった。


 次のお客様が彼らの元にやってきたからだ。


「まったく……。魔物(モンスター)にシノン銅山を支配されているとジャンヌ=ダルクたちが言っておったが、おかわりがこうも早くやってくるとはのう?」


「まあ、残心の練習もしたかったし、ちょうど良いと言えば良いんだニャン。さあ、ヤマドー、トッシェ、さっき見せた、あちきの姿を思い浮かべながら、戦ってみるニャン!」


 ヤマドー=サルトルとトッシェ=ルシエは、彼女たちの言葉を受けて、たはは……と苦笑をこぼす。戦国×妖怪×死にゲー:覇王は彼ら2人ともやり込んでいる。ただ、実際に自分の身体でそれを体現できるかどうかは不明であったのだ。

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