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第6話:愛国心

「では、わかってはいると思うけど、三日ほどで解決してほしい。朗報を期待しているぞ?」


 ジャン=ドローンが幌付きの荷馬車の荷台に乗り込んだヤマドー=サルトル、ルナ=マフィーエ、アズキ=ユメル、そしてトッシェ=ルシエの4人にそう告げる。ルナ=マフィーエは任せておくのじゃっ! と彼に力強く返答したのに対して、彼が苦笑するのを見逃さないヤマドー=サルトルであった。


(ジャン=ドローンさんは僕たちをあんまり信用していないのかもしれないですねぇ? まあ仕方が無いと言えば仕方が無いんですけどぉ。僕だって、住所不定の傭兵に仕事を頼めるか? と問われたら、困惑するに決まっているでしょうし……)


 ただでさえ得体の知れない傭兵たちが集団を成し、フランスの仮の首都であるブルージュに大量に押しかけている現状らしい。フランスの準騎士であるジャン=ドローンがその状況を好ましく思ってないのは事実であろう。しかし、背に腹は代えられぬ状況であり、渋々であるが、彼らの力を借りるといった状況なのだろう。その心境を察して、ヤマドー=サルトルは暗い顔になってしまう。


「どうしたのじゃ? 何か悩み事かえ? お姉さんが相談に乗るのじゃぞ?」


 推定300歳。ニンゲン族で言えば、約21歳のお姉さん(自称)のルナ=マフィーエが横に座るヤマドー=サルトルの顔を覗き込み、そう聞いてくる。ヤマドー=サルトルはいきなり、自分の眼に彼女の胸の谷間が映り、鼻の下がデロ~ンと下がってしまう。しかし、そこは平常心を心がけるつもりなのか、頭を左右に振り、邪念もまた同時に振り払う。


 そんなヤマドー=サルトルの耳に『チッ』という小声が聞こえる。


「ん? 今、舌打ちが聞こえたような?」


「なんでもないのじゃ。はよ、悩み事を言うのじゃ」


 明らかにルナ=マフィーエが居る方向から舌打ちが聞こえたのだが、ヤマドー=サルトルは、はて? 気のせいでしょうか? と思ってしまう。それよりもだ。せっかく悩みを聞いてくれるということで、先ほどまで考えていたことと別のことを聞いてみようと思うヤマドー=サルトルであった。


「えっとですね。シノン銅山にはいったいどういった魔物(モンスター)が出てくるのかと思いましてですね?」


「ああ。ヤマミチは意外と仕事の虫なのじゃな。てっきり、わらわはこの依頼からどうやってとんずらをかまそうかといった方向で悩んでいるのかと思ったのじゃ」


 ルナ=マフィーエのズケズケと核心をつくモノの言い方に苦笑せざるをえないヤマドー=サルトルであった。確かに、荷馬車はシノンの街を出て、草原にある道をひた走っている最中だ。ここで荷馬車から飛び降りてしまっても、間違った選択では無い気はする。


 しかし、それは同時に依頼の放棄となり、ヤマドー=サルトルたちはフランスの国でお尋ね者となりえる可能性がある。依頼者はジャンヌ=ダルクたちであるが、そのバックにはシャルル7世という未来のフランス帝が控えている。ジャン=ドローンの性格から考えれば、今回の作戦を邪魔したのは、あいつらだとシャルル7世に進言する可能性は捨てきれない。


 よって、結局のところ、依頼を放棄して逃げ出すのは悪手であるのは自明の理であった。ヤマドー=サルトルはそのことには気付いており、こうやって、素直にシノン銅山に向かっているわけである。


「いえいえ。こう見えても僕も常日頃から祖国:フランスのために出来ることは無いものかと頭を悩ましている一員なのですよ。イングランド出身のルナさんには理解できない話かもしれませんが」


「ふむ。ひとつ勘違いしておるぞ、ヤマミチ。誰でも祖国に対して、愛国心は持っているものじゃ。それの強弱はあろうとも、生まれ育った国には感謝してもしきれぬ恩をもっているものじゃ。わらわがイングランドを懐かしく思うのも当たり前の話であるし、ヤマミチがフランスのために戦いたいのも理解できるのじゃ」


 彼女の至極真っ当な返事にヤマドー=サルトルは苦笑いする他無かった。祖国:フランスと言えども、それはノブレスオブリージュ・オンラインにおいて、ヤマドー=サルトルが所属しているだけであり、あくまでも腰掛け気分なのだ。現実世界では、日本国の国民だ。しかも、その日本国に対して、愛国心があるかどうかと問われると難しいとしか返答しようがない。


 2030年代に入っても、日本では左巻きの連中は依然、勢力を保っている。幾分かはそういった空気は改善されてきてはいるが、それでも公然と愛国心を唱えるのは、はばかれる世の中である。それゆえにゲームの中では、この国の歴史と文化が好きということで、所属する国を決めているプレイヤーは多々ある。現実の自国ではないからこその愛国心の発露すら見受けられるところが面白いといったところであろう。


「まあ、愛国心を声高らかに訴えたい気持ちはありますが、如何せん、なかなか難しいですね」


「そうじゃな。そうすれば、相手国の国民と必ずいさかいは起きるのじゃ。お互いを尊重しあえるにはどうすれば良いのじゃろうな?」


 そこで会話は一旦、途切れてしまうことになってしまう。答えは英仏100年戦争が終わってから600年近くが経とうとも結論は出てないのだ。それを知っているからこそ、ヤマドー=サルトルは口を閉ざすしか他無かったのである。ヤマドー=サルトルが黙ってしまったために、ルナ=マフィーエが進んで口を開くことになる。


「さてと……。シノン銅山の話に戻すのじゃ。あくまでも噂で聞いた程度じゃが、あそこは死んでも死にきれないニンゲン族がたむろしている話じゃな」


「あっ、それなら、あちきも聞いたことがあるニャン。何でもこの世に未練を残した傭兵たちが、死後もあそこの坑道内で戦い続けているってのを。修道院や教会で、あの地を清めようという計画が立ち上がっては、実際には実行に移せずに、いつの間にか立ち消えているんだニャン」


 ルナ=マフィーエとアズキ=ユメルがヤマドー=サルトルにそう教えてくれる。ヤマドー=サルトルは、シノン銅山のコンセプトもノブレスオブリージュ・オンラインに準拠しているのですね……と、ついため息が漏れてしまうのであった。


「へー。シノン銅山って、先代のGMのウエスギさんが設定した通りのまんまなんッスね。じゃあ、生きる死者(リビング・デッド)とかの不死系で溢れかえっているってことッスか~」

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