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第5話:仲良きことは美しきかな

「あれ? ノブレスオブリージュ・オンラインに、『盗賊』って職業は存在してましたっけ?」


「いや、893と盗賊は職業じゃないでしょっ! ってツッコミを入れてたヤマドーさんがそれを言うッスか? いやしかし……。どこからどう見ても盗賊ルックスッスね……。アズキっちは一人前・修道女(シスター)で間違いないッスよね?」


 正しくは893と盗賊は『職業不定もしくは無職』である。その点、お間違えないようにしてほしい。それはともかくとして、アズキ=ユメルは蒼色のショーパンに、上は半袖の法衣に似た何か。そして、その法衣なのか判別つかない服の前ボタンを外した状態で、サラシを巻いた胸を強調している姿なのである。よくて、祭りに着るはっぴ姿と言えば、まだ聞こえは良いのかもしれない。もう少し穿った意見だと、大工の棟梁のようにも見える姿である。


「失礼な話だニャン! 修道士の法衣がかさばって動きにくいから、短剣(ダガー)で上着とズボンの裾を切り刻んで見たんだニャン。これはこれで流行の最先端を行っているような気がするんだニャン!」


 アズキ=ユメルが憤慨しつつも、自分のルックスに自信があるのか、さらしを巻いた胸を張り、その微妙な大きさの胸をことさらに強調してくるのである。ヤマドー=サルトルはガテン系の女性の姿にはあまり食指が動かないのか、はぁ……と曖昧な返事をするしか他無かったのである。


「そう力強く言われてみれば、そんなに悪い恰好じゃないッスね……。カロッシェ・臼井(うすい)に正式に、この恰好の服装をデザインしてもらうのはどうッス?」


「おおっ! トッシェはわかってくれるニャン? あちきのこの美的センスがっ! ふふーんっ! ヤマドーの眼はガラス玉かもしくは節穴なんだニャンっ! あちきの美貌がことさらに強調されているんだニャンっ!」


 美貌というよりは健康優良児だと思う気がしてならないヤマドー=サルトルであるが、そこはツッコまずに、それよりも防御力の面で心配するのであった。


 修道女(シスター)のような回復職は敵から狙われやすい。それゆえ、修道女(シスター)でも装備できる鎖帷子系列の装備を渋々選ぶプレイヤーは多い。しかしながら、やはり女性キャラゆえに見た目を気にして、課金アイテムで用意されている特別な見た目の衣装と融合し、装備の見た目だけを変更しているのだ。


 しかしながら、アズキ=ユメルの着ている服は元々、修道女(シスター)用の法衣であり、さらにはそれの袖を切り落としてしまったものだ。ヤマドー=サルトルが危惧するように防御力がかなり落ちているのでは? という心配はあっている。


「あたらなければどうということはない! という格言があるんだニャー。というわけで、トッシェ。あたしを重点的に守ってほしいニャンっ!」


「任せてくれッス! 俺っち、猫耳の美少女をこの身に代えても護ってみたいと常日頃、思っていたッス。いやあ、どこともしれぬ世界に迷い込むのも、決して悪いこととは言えないッスねえ?」


「び、美少女は言い過ぎなんだニャン……。あちきなんて、友達比べたらブスもいいところニャン……」


 ヤマドー=サルトルは、これが自分を下げつつ、相手を同時にディスるという女性ならではの謙遜の仕方なのだなあと感心せざるをえないのであった。アズキ=ユメルは顔立ちが整っている。蒼髪をショートカットにしており、さらにはショーパンときており、まさにボーイッシュな美少女である。しかしながら、いちいち棘のある言い方をアズキ=ユメルからされて、ヤマドー=サルトルはその事実をありのままに受け入れることがどうしてもできないでいた。


 口は(わざわい)の元とも言われており、せっかく美少女なのに、言い方が全てを台無しにしているとしか思えないヤマドー=サルトルであった。しかし、もっと引っかかるのは、ヤマドー=サルトルに対しては棘があるしゃべり方なのに、トッシェ=ルシエに対しては、仲が良さげなところだ。余計に腹立たしく感じるのはヒトとして当然とも言える反応であった。


「ごほん……。2人は仲がよさそうで僕は嬉しい限りです。これもひとえにトッシェ=ルシエくんの日頃の(おこな)いゆえと言ったところなんでしょうか?」


「ん? 俺っちのはただただ初対面相手でも馴れ馴れしいだけッスよ。あ、アズキっち、不快にさせたらゴメンッスよ?」


「大丈夫、大丈夫ニャー。なんだか、トッシェは10年来の付き合いのような仲に感じるんだニャー。何だか不思議なんだニャー?」


 トッシェ=ルシエ自身は自分は馴れ馴れしいと言うが、決してそうではない。彼はヒトとの距離感を適切に保つことに長けていると言っても過言ではなかった。それを初対面の相手にも出来る機微を持っている。カロッシェ・臼井(うすい)と正反対なのだ、彼のその独特な距離感の置き方は。それゆえ、カロッシェ・臼井(うすい)に対して、反感を持つものは多いが、それに比べて、トッシェ=ルシエに対しては好感を持つ者は圧倒的に多いと言って良いだろう。


(やれやれ……。僕よりもトッシェくんのほうがよっぽどジゴロの才能を持っていますよね。僕のは計算高いだけです。彼のは天然です。お利口者より馬鹿のほうが好感度が高いのは当たり前の話です……)


 ヤマドー=サルトルが口から悪意が漏れぬように注意して、頭の中でそう考える。するとだ、トッシェ=ルシエは、へっぷしっ! とくしゃみをし、うーーーん、どこかの可愛い娘が俺っちの噂でもしているッスかね? とほざく。さらにはアズキ=ユメルが、あちきが噂をしたんだニャンと切り出し、この熱々カップルがっ! と言いかけそうになってしまうヤマドー=サルトルであった。


「さてと……。シノン銅山に潜るための準備も整いましたし、そろそろ出発しましょうか? ほら、そこのお兄さんがさっさと向かえよと言わんばかりの表情をしていますし」


「おっと……。表情に出ていたかな? いやあ、自分はすぐに感情が表に出てしまうとジル=ド・レ卿には注意を受けてはいるのだが……。いやはや、これは性分としか言いようがないのかもしれん」


 ジャン=ドローンがそう返してくるのを聞いて、ヤマドー=サルトルはこの男はこの男でなかなかに喰えぬ奴だなあと思ってしまう。とにかく、何の装備も無しにシノン銅山に放り込まれなかっただけ、マシであろうということで、ヤマドー=サルトルたちはジャン=ドローンに一礼するのであった。

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