第8話:ステータス
ヤマドー=サルトルはアズキ=ユメルが発動した治療術を感慨深そうに見やるのであった。エフェクトはノブレスオブリージュ・オンラインに準拠していることに、ついほっこりとしてしまう、ヤマドー=サルトルである。
(なんだか不思議な気持ちですねえ。自分が開発に携わったゲームのエフェクトそのままに魔法が発動するなんて……。効果も一緒なんでしょうか?)
ノブレスオブリージュ・オンラインの回復魔法による生命力の回復量は使うスキルだけでなく、そのキャラのステータスもおおいに関わってくる。ゲーム的な説明で申し訳ないが、『魅力』というステータスがそのまま回復値の値に乗るのである。
例えば、今、アズキ=ユメルが使った『水の回帰』は基本3000分の生命力の回復量がある。そして、キャラクターの魅力の値がそのままプラスされる形となっている。
もちろん、込める『気合』の量でも、この回復量は左右される。ノブレスオブリージュ・オンラインではプレイヤーの行動を魔力やスキルポイント、行動力などとして多分化せずに、全てを『気合』として扱っているのだ。
「ちょっとだけ疲れたニャン。治療はしっかりと出来ているはずだから、これくらいでやめておくニャン」
「ありがとうなのじゃ。やれやれ……。こんな石頭だとわかっていたなら、顔面をおもいっきりぶっ叩かずにすんだものを……。やはり、ヤマミチの本職は見た目そのままに戦士系の職業みたいじゃな?」
「あれ? やっぱり僕は戦士系で間違いなさそうなんです? いやあ、記憶があいまいですいません……」
ヤマドー=サルトルはルナ=マフィーエとアズキ=ユメルから見た目は戦士っぽいと言われていたが、ルナ=マフィーエの顔面への渾身の右ストレートを喰らって、そうだろうと確信めいたものがあった。顔面を殴られたというのに、それほどダメージを負っていなかったからだ。いくら彼女が魔女系列の職業で、元々の腕力が低いと考えられても、顔面にあんないいのを喰らっておいて、それほど痛みを感じなかったのだ、ヤマドー=サルトルは。
ならば、元々、腕力と耐久力に優れた職業である戦士系であることは間違いないだろうとの結論に至ったわけである。しかし、戦士系といえども、上の位階に行けば行くほど、分化はされていく。
自分は攻撃力と防御力のバランスの良い聖騎士方向なのか、はたまた、攻撃力特化の狂戦士方向なのか? と思い悩むことになる。それによって、徒党内での役割がまったく違ってくることになるのだ。今、ジャンヌ=ダルクに『シノン銅山に住み着く魔物を駆逐してほしい』と依頼されているわけだが、もし自分が狂戦士方面ならば、どうしても盾役が必要になってくる。
火力に優れた森の魔女のルナ=マフィーエ。回復特化の一人前・修道女であるアズキ=ユメル。そして、自分がもし物理攻撃特化ならば、もうひとり、徒党に招かねばならない状況となるのは必然であろう。
(こういう時こそ、自分のステータスを確認できれば申し分ないんでしょうけど……。まあ、ゲームじゃあるまいし、この世界では自分が何の職業なんかは生い立ちで決まっていくんでしょうが……)
ヤマドー=サルトルはもやもやとした気分が晴れぬままに、ジャン=ドローンに案内されて、平屋の横に併設されている兵舎へとたどり着く。そこは兵舎というよりは荷物置き場であった。ベッドはあることはあるが、そのベッドの上にも誰かのかはわからない荷物が無造作に置かれている。
「いやあ、汚いなあという顔をするのはもっともなんだが……。仕事場として平屋と兵舎をシャルル7世さまにあてがわれたのが、こんなところでな? 寝る場所の確保が出来ているだけでもマシだと思ってほしい」
ジャン=ドローンが誰に対して言い訳しているのかが、いまいちわからないヤマドー=サルトルである。別段、自分がここを長く利用するわけでもないので、さっさと次へ話を進めてほしいとさえ思ってしまうのであった。
「武器庫は兵舎を出たすぐそこだから、その武器庫から適当に装備を見繕って、ここの兵舎で着替えてくれたまえ。まあ、ジル=ド・レ卿があんなことを言っていたので、高級品でも何でも使ってくれて構わないぞ?」
「はぁ……。ではお言葉に甘えておきますね? あとでキレイにして返せと言われても、そこは保証しかねますが」
ヤマドー=サルトルの言いに苦笑せざるをえないジャン=ドローンであった。武具は使えば摩耗するのは当たり前だ。それを改修するための費用なぞ払う気は無いと言っているように聞こえたのだ、ジャン=ドローンには。
「はははっ。改修費は経費で落ちるように、こちらで処理しておくから、安心してほしい」
「そうかそうか。ならば、暴れたい放題、暴れてきていいってわけじゃな? さて、わらわも長年使ってきた魔法の杖もボロボロゆえに、この際、新しいのを失敬させてもらうのじゃ」
「あちきも聖書がボロボロになってきたから、新調したかったニャン。ジャンさん、ありがたく頂戴させてもらうニャン!」
「あ、あれ? 貸し出すだけのつもりなんだけど、うーーーん、まあ、キミたちへの報酬の話をしていなかったし……。よし、好きなものを持って行ってくれたまえ。報酬代わりにだ」
報酬という言葉を聞いて、ヤマドー=サルトルはそう言えば、オレルアン争奪戦に傭兵を雇う金が無いとジャンヌ=ダルクが言っていたことを思い出す。それくらい、将来のフランスの帝となるシャルル7世が出してくれるのでは? と思ってしまう。
「何か言いたそうな顔をヤマドー殿がしているが、本当に我が隊は金が無くてね……。シャルル7世さまは未だ帝位についているわけでもないし、さらには下手をすれば、フランス領土から追放されるかもしれな身ゆえに、そちらからの出資を願うことも出来ないんだ」
「なるほど……。皇族の割りには貧乏なんですね……。僕は貧乏な皇族って、日本だけだと思ってましたよ」
「ははは。ニッポンというのがどこの国のことを指すかはわからないが、その国もフランスと同様に、年がら年中、戦乱が巻き起こっているのかな?」




