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第6話:可愛い・キレイその2

 ヤマドー=サルトルはせめて恰好つけようと決める。首に腕を回してきたジル=ド・レをどかし、両手で包み込むようにジャンヌ=ダルクの両手を掴む。そして、ジャンヌ=ダルクの眼をまっすぐに見つめ


「僕が何とかしてみせます。だから、僕なんかに頭を下げなくていいです。せっかくの可愛い顔が下を向いてしまっては、僕は貴女の顔を見つめることが出来なくなってしまいますから……」


「は、はあ……。私のどこが可愛いのかさっぱりわからないのですが? ねえ、ジル。私はそんなに目立つ顔をしているのかしら?」


「んー、どうかしら? ジャンヌちゃんは可愛いというよりかはキレイ系よ? 胸辺りまである流れるような黒髪を見て、可愛いって表現は無いと断じて良いんじゃないのかしら?」


 ジル=ド・レの言いに、うぐっと喉を詰まらせるヤマドー=サルトルであった。女性をキレイと表現するか、可愛いと言うかはなかなかに決断力が必要な賭けである。ジャンヌ=ダルクはキレイと呼ばれることのほうが嬉しいことは、彼女の頬がほんのり紅く染まっていることからもわかる。


「ヤマミチはまだまだじゃなっ。なんでもかんでも可愛いと言えば、女性がコロリと落ちるとでも思っているのかえ? クックック!」


「そんなこと言っておきながら、さっき、可愛いと言われた途端に、顔面から火が出そうなほどに顔を真っ赤に染めたルナが何を言っているニャン」


「う、うるさいのじゃ! あれはたまたま、たまたまなのじゃ! わらわが悪いわけではないのじゃっ! わらわの心の隙を狙って、可愛いとかほざく、ヤマミチが圧倒的に悪いのじゃっ!!」


 ルナ=マフィーエがアズキ=ユメルに喰いかかるが、アズキ=ユメルは右手をひらひらとさせて、はいはい言ってろ言ってろとばかりに軽くあしらう。そのため、余計にルナ=マフィーエが激昂するのであるが、それでもアズキ=ユメルはまともに彼女の相手をしようとしないのであった。


 騒がしくなってしまった執務室の空気を改めるために、ジャン=ドローンがごほんとわざとらしく咳をし、静かにしてくれないかな? お嬢さん、と騒ぎの元凶のルナ=マフィーエをたしなめる。ルナ=マフィーエは、ぐっ! と唸るが、ヤマドー=サルトルが彼女をどうどうとなだめるのであった。


「すいません、うちのツレが騒がしくて。いつもは冷静な彼女なのですが……」


「はははっ。ルナ殿としては、原因はヤマドー殿にあるかのような視線を飛ばしていますけどなっ!」


 ジャン=ドローンにそう言われ、あれ? 僕が悪いんですか? という顔つきになるヤマドー=サルトルである。ルナ=マフィーエは、ふんっ! と鼻を鳴らし、さらにはそっぽを向く。そして、ジャン=ドローンはやれやれとばかりに肩をすくめる。何故に2人にそんな所作をされるのか、まったく見当がつかないヤマドー=サルトルである。


「さて、シノン銅山に行ってくれるみたいだから、こちらとしても嬉しい限りなんだが、あんたら、装備はどうするんだ?」


 ジャン=ドローンがそう切り出すと、ヤマドー=サルトルは気付かされることになる。そう言えば、自分は武器らしきものを身に着けてはいない。ポロシャツに綿パン、それに長そでのジャケットと、いつもの仕事着なのだ。この恰好で魔物(モンスター)が徘徊すると言われているシノン銅山に殴り込むとなると、自殺志願者としか人々の目には映らないだろう。


「ええっと。ここに落ちてきた時に、武具がついでにどこかに行ってしまったようですね……」


「落ちてきた? ああ、そう言えば、キミは屋根を突き破って、この屋敷に現れた不審人物だったねえ。先ほどは怪しい限りだったので散々に蹴りを入れたものだよ……」


 ジャン=ドローンが感慨深そうにそう言いのける。ヤマドー=サルトルとしては、この屋敷に頭から突っ込んだ時に、自分に蹴りを入れた連中のひとりがジャン=ドローンであることに気づく。そして、恨めしそうに彼を睨みつけるヤマドー=サルトルであった。


「おっと! そんな相手をカエルにでも変えてしまいそうな怖い顔をするのはやめてくれないかな? 自分はまだニンゲンのままでいたいからね?」


 ジャン=ドローンがおどけた表情で、やんわりとヤマドー=サルトルの強い視線をかわす。ヤマドー=サルトルはジル=ド・レ同様、この男もなかなかの喰わせ者であることをそこから察することになる。


「ねえ、ジル。錬金術師(アルケミスト)はニンゲンをカエルに変えることが出来た?」


「いや? 錬金術師(アルケミスト)の十八番は、鉱物を扱うことでしょん? ニンゲンをカエルに変えるのは、どっちかてーと魔女(ウイッチ)の領分だと思うのよ」


 ジャンヌ=ダルクはジャンヌ=ダルクで、ジャン=ドローンの言っていることを真に受けているご様子だ。ジル=ド・レがそうじゃないだろうとやんわりと否定をする。史実で彼女のパトロンは彼であることをうかがわせるには十分なやりとりである。


 ヤマドー=サルトルは何だか、感慨深い気持ちになる。いくら自分が開発に携わったノブレスオブリージュ・オンラインを元にデザインされた世界であったとしても、西洋歴史ファンであるヤマドー=サルトルにとっては、そういう何気ない彼女らの言動で、実際の歴史でも、多分、こうだったんだろうなあと再認識させられる思いであった。


「見たところ、3人とも、装備が整っていないようだな。さて、兵舎の横に併設されている武器庫から適当に見繕ってもらってもいいんだが。ジル殿、どうされますか?」


「んーーー? ジャン殿、そこで俺様に話を振ってくる? そこはキミの裁量でどうにでもなるんじゃないの?」


「いえ。ジャンヌさまへの出資者は一応、ジル=ド・レ卿なので……。やはり、うちの装備品を貸し出すには、ジル殿の了承を得たほうが良いかと思って」


 2人のやり取りを見ていたヤマドー=サルトルは、ジャン=ドローンという男は律儀な性格をしているのだろうと思ってしまう。そんなの、ノブレスオブリージュ・オンラインの開発費のように、ある程度はちょろまかせばいいのではないか? と思ってしまうが、そこは融通が利かせられないのだろうと。


「そんなの適当にちょろまかしてもらって構わないんだけどぉ? まあ、手続きは手続きね……。後処理でも良いから、決済の書類を回してちょうだい。あーあ。俺様は戦場で華やかに槍を敵兵に馳走したいだけだったのに、なんでこうも事務的処理なんかの面倒なことまで、やらなきゃならないのん?」

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