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第5話:敬虔な信徒

 ヤマドー=サルトルはまず予防線を張ることにする。それは自分に何が出来るかがわかっていなかったからともいえる。石ころをパンに、水をワインに変える程度であれば、可能なような気がするが、実際にやってみないことにはわからない。


(いや、ちょっと待ってください? それをやったら救世主(メシア)扱いされますね!? うーーーん。これはちょっとアイテム変換するものを選別したほうがよさそうですね……)


 ヤマドー=サルトルは自分の考えに自分でツッコミを入れる。執務室に集まる一同は、なんでヤマドー=サルトルはひとりで表情をコロコロと変えているのだろう? ときょとんとした顔つきになっていた。ヤマドー=サルトルは、そんな皆の不思議に思う視線を感じ、はっ! となる。そして、ごほんと咳をひとつし


「銅を銀に、銀を金に変えることは出来ると思います。しかしながら、何でもかんでも自由自在に変えれるというわけではありませんのであしからず……」


 ヤマドー=サルトルは錬金術師(アルケミスト)の設定を頭の中に思い浮かべながら、そう言うのであった。錬金術師(アルケミスト)は基本的に、アイテムとアイテムを掛け合わせ、価値の高いアイテムに変換することが出来る職業である。


 銅200グラムを銀100グラムに。銀100グラムを金50グラムにといった感じだと言えばわかりやすいだろうか? 質量保存の法則など細かいことはどうでもいい。これはあくまでもゲーム内の設定である。


 しかしながら、この世界においての錬金術師(アルケミスト)の場合はどうであろうか? もう少し交換比率が悪い気がするヤマドー=サルトルは、結局のところ、やってみなければわからないだろうという結論に至る。


「ほお……。最終的には金に変えることができるのですね。私が思い描く錬金術師(アルケミスト)と同じで助かります」


 ジャンヌ=ダルクがほっと安堵の表情に変わる。今までやや緊張した顔つきから頬が緩んだのを見たヤマドー=サルトルは、やらかしてしまいました!? と思ったが、それは後の祭りであった。


「じゃあ、傭兵を雇うための報酬はヤマドー=サルトルに任せておけばいいってことで解決しそうねん。ヤマドー=サルトル、改めて、よろしくお願いするわよんっ!」


「いや、ジル=ド・レさん、ちょっと待ってください!? 何がよろしくお願いされるんでしょうか!? 僕は話が見えてこないんですけどおおお!?」


「察しの悪い男ね……。シノンの街の近くに『シノン銅山』があることくらい、この辺りに住んでりゃ、知っているでしょうに。そこで、銅鉱石を採掘して、それを最終的には金鉱石に変えてもらおうって寸法なのよん」


 ヤマドー=サルトルは、ああなるほど……と思わずにはいられなかった。なんだ簡単なことじゃないかと。その『シノン銅山』から採掘してきた銅鉱石を金鉱石に変えるだけのお仕事をちょちょいのちょいと済ませてしまえばいいと。


「というわけで、危険は承知なのですが、『シノン銅山』の魔物(モンスター)を倒してきてほしいのです」


「はいはい、わかっていますよ……。って、ジャンヌさん、ちょっと待ってください!? 今、魔物(モンスター)を倒してきてほしいって言いませんでした!?」


「はい。シノン銅山には数年前から凶悪な魔物(モンスター)が住み着くようになっており、そこで銅鉱石を採掘できなくなってしまったのです。なので、調査のついでに、ヤマドーたちで魔物(モンスター)を駆逐してほしいというわけです」


 ジャンヌ=ダルクが毅然とした口調でそう言いのける。彼女の続けての説明では、一大決戦を(おこな)う予定であるために、自分の隊から兵を出し、さらには怪我を負わせるわけにはいかないという。


 ならば、傭兵に属している側のニンゲンに任せてしまったほうが良いだろうと。そう考えていたところに、錬金術師(アルケミスト)であるヤマドーたちが現れたのだと。


「これぞ、神のご意思を感じます。神は私をいつも見守っているのですね……。ああ、私は神と共にあらん……」


 ジャンヌ=ダルクはそう言うと、胸元で右手を使って、十字を切る。そして両手を合わせて握り込み、さらには両眼を閉じて、神に対して感謝の言葉を述べる。信仰心の薄いヤマドー=サルトルにとっては、ジャンヌ=ダルクのその仕草が芝居がかっているようにも見えて仕方がない。


 しかしながら、ヤマドー=サルトルもまた、神の存在を完全には否定していない。お盆には先祖を敬うために墓参りをするし、正月には神社に行って、今年も家族全員、無病息災に過ごせるようにとお祈りをする。神仏に対する尊敬の念が薄くなってしまった現代の世の中だからといって、中世の行き過ぎた神への信奉を馬鹿にしてはいけないことくらい、ヤマドー=サルトルにもわかっている。


 たまに『地球は蒼かった。神はいなかった』という有名な言葉を用いて、無神論者気取りをするひともいるが、信仰の先が神から科学に変わっただけだとツッコミを入れたいヤマドー=サルトルである。しかし、そこは大人の男として、やぼなツッコミは入れないようにも気をつけているだけなのだ。


 ジャンヌ=ダルクが神に祈る敬虔な姿を見ていると、ヤマドー=サルトルは自分の心が薄汚れているようにも感じられた。先ほどは芝居がかっていると思ってしまったが、とんでもない失礼なことを考えてしまったと、罪の意識にとらわれることになる。


 神への祈りを終えたジャンヌ=ダルクは、ヤマドー=サルトルをまっすぐに見つめ直し、さらには一礼し


「先ほどまでの無礼を詫びさせていただきます。どうか、フランスを救うためにも、シノン銅山の魔物(モンスター)を駆逐してください」


 ジャンヌ=ダルクの真摯な訴えに、ヤマドー=サルトルは、うっと喉をつまらせ、たじろいでしまう。そんな彼の首に細い腕をからませてきたのはジル=ド・レであった。


「うちの可愛い子ちゃんが、頭まで下げて頼んでくれているのよん。ヤマドーは『男』でしょ? じゃあ、引き受けてくれるわよね?」


 まったくもって、この男は腹黒いと思ってしまうヤマドー=サルトルであった。美少女の願いを断れる『へたれな男じゃないだろ?』と同義なことを言われては逃げ道など存在しない。それをわかったゆえでの言い方に、ムッとなりつつも、はあああと深いため息をつくしかないヤマドー=サルトルであった……。

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