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第9話:錬金術師

 山道・聡(やまみち・さとる)は、はあはあぜえぜえと肩で息をし、じんわりと熱を帯びる両手を見る。あまりにも力強く鉄格子を握り、力任せにその間を広げようとしたために、手のひらの皮がめくれてしまったのでは? と思ってしまう。山道・聡(やまみち・さとる)はふうふうーと両手に息を吹きかけ、熱のこもった両手を冷ますのであった。


「ヤマミチの膂力でもダメとなっては、これはお手上げなのじゃ。まあ、疑いが晴れれば、ここから出してもらえると思うのじゃが……」


「それは虫の良すぎる話じゃないかニャー? だいたい、どこの誰が、あちきたちの無罪を証明してくれるんだニャン? あちきは一人前・修道女(シスター)と言えども破戒僧に近いんだニャン。これ(さいわ)いとばかりに教会の連中は、あちきを見捨てると思うニャン」


「おぬし……。半猫半人(ハーフ・ダ・ニャン)よろしく、気ままに過ごしているというわけじゃな? はああ……。アズキの関係者に少しばかり期待していたのは間違いじゃったか……」


 ルナ=マフィーエがあからさまに肩を落とし、深いため息をつく。それを見た山道・聡(やまみち・さとる)は彼女が自分が鉄格子をへし曲げて、ここから脱出できるとは最初から考えていなかったことをそれとなく察するのであった。それよりもアズキ=ユメルが修道女(シスター)ということもあり、教会に戻らぬ彼女を心配し、教会側が捜索してくれることのほうがよっぽど期待値が高かったことをうかがわせるには十分に説得力のある脱力の仕方であった。


 山道・聡(やまみち・さとる)はまるで自分が『役立たず』の烙印を押されたかのようで、憤慨しそうになった。やはり、男という生き物はおっぱいの大きい可愛い女性の期待には応えたいと思うのが自然である。山道・聡(やまみち・さとる)は何とかできないものかと自分の身体をまさぐり始めるのであった。


(こういう時って、ご都合主義展開が発動するはずです。僕のジャケットのポケットや、ズボンのポケットに何かこう、牢屋の鉄格子をどうにかできるものがきっとあるはずです。って、そんなわけありますかっ!)


 山道・聡(やまみち・さとる)が自分の思考に自分でツッコミを入れる。しかし、それでもだ。何か仕込まれているのではなかろうかとポケットの中の探索をやめない。


 するとだ。山道・聡(やまみち・さとる)の右手の先に何か硬いものが触れる。山道・聡(やまみち・さとる)は、ん!? と思い、その硬い何かをポケットから引っこ抜く。


「ええ……。何かあるかと思って、ポケットを探っていたんですけど……。なにやら錆びた鉄の鍵が……。もしかして、これで牢屋の鍵が開くってことはない……ですよね??」


 山道・聡(やまみち・さとる)の右手の中には赤い錆が浮いた鉄製の鍵が収まっていた。いったい、いつの間に、ポケットにこんなものが仕込まれていたのかはわからない。だが、山道・聡(やまみち・さとる)は一縷の望みを懸けて、その鉄製の鍵の先を鉄格子にある鍵穴に差し込む。


 そして、左右にカチャカチャと回し……。


 ガチャンッ! と、牢屋の鍵が開いてしまうのであった。


「えっと……。牢屋の鍵を僕が持っていたようです」


 山道・聡(やまみち・さとる)が左手で後頭部をポリポリと掻きながら苦笑する。そして、右手は鉄格子のとある一部を開閉させるのであった。山道・聡(やまみち・さとる)の一連の行動を見守っていたルナ=マフィーエとアズキ=ユメルは金魚ゴールデン・フィッシュのように口をパクパクと開閉させる。その間抜け面と言ったら、山道・聡(やまみち・さとる)は彼女たちの顔写真を撮り、SNSにアップしたいほどであった。


「ど、ど、どういうことなのじゃ!? なんで、ヤマミチが牢屋の鍵を持っているのじゃ!?」


「あちき、何だか怖いニャン……。ヤマドーは手を出してはいけない禁忌の領域に触れたんじゃないかって、思ってしまうニャン」


「いやいや、僕だって、うすら寒すぎて、さぶいぼが身体に浮き出てくるくらいなんです。決して、僕が怪しいわけじゃないんですぅ!」


「じゃあ、どう説明するニャン!? ヤマドーは錬金術師(アルケミスト)か何かなのかというのかニャン!?」


 アズキ=ユメルが心底、気持ち悪いといった感じで両手で二の腕を抱え込んでいる。まるで、悪魔を見るかのような目つきだ。しかし、山道・聡(やまみち・さとる)は、彼女の発言により、この状況を上手いこと脱する一言を思いつく。


「そうそう! 僕の隠された二つ名は『錬金術師(アルケミスト)』なんです! いやあ、思い出しましたっ! その辺に転がっていた石ころをですね!? ポケットの中に入れましてですね!? そして、ちょちょいのちょい! と牢屋の鍵へと変えてしまったわけです、はいっ!!」


 山道・聡(やまみち・さとる)はデタラメもデタラメすぎることを力強く言いのけた。途中、舌を噛みそうになったが、それでも自分の行動は正しいと言い切る。ルナ=マフィーエとアズキ=ユメルは互いの顔を見合わせ、胸の前で腕組みをし、首をひねる。


「う、ううん? ヤマドーは見た目、屈強な戦士のような体つきなのに、『錬金術師(アルケミスト)』なのかえ? わらわのイメージだと、錬金術師(アルケミスト)と言えば、白くて長い顎髭の老人か、がり勉眼鏡の青びょうたんなのじゃが……」


「まあ、細かいことはこの際、いいんじゃないかニャン? 錬金術師(アルケミスト)なら便利なアイテムを生成できるのが売りだし、牢屋の鍵をヤマドーが持っていることも説明がつくニャン。それよりも……。牢屋から外に出れることのほうが大事なんだニャン」


「そうです、そうです。ここから脱出できるこのほうが重要なんです。過程なんてどうだっていいんです。結果が全てっ! それこそ正義(ジャスティス)ですよっ!」


 山道・聡(やまみち・さとる)は、ははは! と最初は高笑いしていたが、はは、ははは……と尻すぼみにその笑い声はしぼんでいくのであった。


「ま、まあ、そういうことにしておくのがよさそうというのは察したのじゃ」


「あちきもそういうことで納得しておくニャー。ヤマドーが禁忌の力に手を出して、神罰を喰らう時は、あちきはヤマドーから物理的に距離を空けるんだニャー」

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