表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/69

第6話:可愛い・キレイ

「ヤマドーって、もしかして、ジゴロって呼ばれたことはないかニャン?」


「ジゴロって……。今時の若者が知っているとは思えないんですけど……。まあ、デザインしたのがカロッシェ・臼井(うすい)くんですから、もしかしたらキャラ設定でそういう古い言葉を使うキャラにしているのかも?」


 カロッシェ・臼井(うすい)は30歳手前というのに、山道・聡(やまみち・さとる)すら舌を巻くほどの豊富な知識を持っている。そのため、彼がキャラデザを担当すると、非常に深みのあるキャラが産まれることが多々ある。今、開発チームのNo2が川崎・利家(かわさき・としいえ)であるが、プログラミングの実力を差し引けば、カロッシェ・臼井(うすい)の実力も相当なものであることは山道・聡(やまみち・さとる)も気付いてはいる。


 しかしながら、カロッシェ・臼井(うすい)は独特すぎる世界観を自分で設定しているために、視野が逆に狭まるという悪習を持っている。その意味においては、川崎・利家(かわさき・としいえ)は受け入れる幅が広く、脳みその柔軟性が良い。だからこそ、山道・聡(やまみち・さとる)はカロッシェ・臼井(うすい)よりかは、川崎・利家(かわさき・としいえ)をNo2として、自分の直下の部下として置いている。


 それはともかくとして、ジゴロ呼ばわりされるのは納得いかない山道・聡(やまみち・さとる)であった。緒方・桜子(おがた・さくらこ)とはちゃんと一線を置いているし、今、ルナ=マフィーエを籠絡したのは、自分がこの世界で生きていくためには致し方なかったことなのだ。


 決して、彼女とねんごろな仲になろうとしたわけではない。いくらゲームを元にした世界に降り立った山道・聡(やまみち・さとる)であったとしても、そこで女性と一晩、ベッドを共にすれば、自分は自分の嫁に対して、不徳をなしたことになるという自覚があったからだ。


 山道・聡(やまみち・さとる)はルナ=マフィーエの頭から左手を離す。ルナ=マフィーエは自分の頭から大きな大人の手が離れたことにより、顔を隠していた両手を膝の上に戻し、どこか悲し気な表情を浮かべる。山道・聡(やまみち・さとる)はそんな彼女の表情を見て、やりすぎましたね……と反省するのであった。


「も、も、もう少し、頭を撫でてくれていてくれても良かったのじゃぞ?」


「い、いえ……。アズキさんも見ていることですから、それはまた別の機会に?」


「そ、そうなのか? じゃ、じゃあ……。2人っきりになれる時間を作らねばならぬということじゃな!?」


 山道・聡(やまみち・さとる)は、しまった……と思ってしまう。このルナ=マフィーエという女性は気品に満ちている。それゆえか、今まで『可愛い』というひとりの『女の子』としての扱いをされてきていないことをに気づくのであった。


 いくつになっても『女の子』として扱ってほしい女性もいる。もちろん、美しく麗しい『女性(レディ)』として扱ってほしい女性もいる。ルナ=マフィーエは前者であった。それも、かなり重度にそう扱ってほしいと願っていたのである。それをたまたまであるが、山道・聡(やまみち・さとる)はその願いの一端を叶えてしまっただけなのである。


 ここで注意せねばならぬことは、女性側、そうルナ=マフィーエ側に少なからずも好意が山道・聡(やまみち・さとる)にあったことである。嫌われているのであれば、山道・聡(やまみち・さとる)がこんなジゴロよろしくなことをしたところで、彼女は彼になびくこともなかったであろう。


 山道・聡(やまみち・さとる)は人間の尊厳をかなぐり捨ててまで、ネズミの尻と尻尾を生で喰らうという行為を(おこな)ったからこその結果である。この事実をゆめゆめ忘れてはいけない。


 山道・聡(やまみち・さとる)は自分を律するためにも、ベッドから尻を浮かせて、元居た場所に移動する。ルナ=マフィーエが、いけずなのじゃ……と小声でつぶやくが、わざと聞かなかった振りをする。あんなFカップもあるオッパイが真横にずっと座っていては、いくら自制心が高い山道・聡(やまみち・さとる)でも、不徳に至る可能性がある。そうなる前に、山道・聡(やまみち・さとる)は彼女から身を物理的に距離を置いたのであった。


 そして、山道・聡(やまみち・さとる)は冷たい牢の床に直に尻をつけて座る。


「えっと……。出来るなら、今日が西暦何年何月何日で、世の中はどうなっているのかを聞かせてほしいのですが……」


「なんじゃ、そんなことすら忘れてしまったのかえ? よっぽど強く頭を打ち付けたようじゃな?」


 ルナ=マフィーエが眼を丸くして、驚きの表情をその顔に浮かべている。山道・聡(やまみち・さとる)としては、たはは……と苦笑するしか他無かった。ゲームと同じくメニュー画面を開き、そこから位置情報でも調べれば、大体、どうなっているかはわかるというものの、そんなこと出来ないだろうと、山道・聡(やまみち・さとる)は決めつけていたのだ。


 というわけで、眼の前の女性2人に、今、世の中はどうなっているのかを聞く。


「今は西暦1429年4月22日。場所はシノンの街の外れにある一軒家じゃな。ヤマミチは貴族風の男たちに散々に蹴られたと言っておったが、まさにその貴族たちが一同に会して、あることをしでかそうと企んでいるようじゃ」


「でも、あちきが仕入れた情報だと、とてもじゃないけれど、成功しなさそうなのニャン。齢17の小娘にオレルアンを奪還するための指揮を執らせようとしているニャン。あちきが貴族の一員ならば、そんなことは絶対にさせないニャン」


 半狐半人(ハーフ・ダ・コーン)のルナ=マフィーエと半猫半人(ハーフ・ダ・ニャン)のアズキ=ユメルが自分たちが持っている情報をもとに議論を開始する。それを聞いていた山道・聡(やまみち・さとる)はある程度、今、どうなっているのかを推測する。


(なるほど……。今日はオレルアン争奪戦が(おこ)なわれる1週間前というわけですね。そして、ここは秘密の会合場所であり、この家に近づいたルナ=マフィーエさんとアズキ=ユメルさんは不審者として囚われたというわけですか……)


 そして、自分はこの家の茅葺きの屋根を突き破り、その現場に文字通り飛び込んでしまったのだ。山道・聡(やまみち・さとる)はこめかみにやってくる鈍痛にため息をつきたくなる気分になる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ