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笑い草

作者: 木漏れ日

 いま、僕は人生という名のビデオテープを何度も繰り返し流している。

 ビデオテープにはそれぞれ名前が付けられてあって、例えば「中学三年生の冬」とか、「幼稚園の運動会」などといったものだ。

 どれもこれも、懐かしくて涙が出てくるものばかりだ。あの頃は、何も知らなかった。故に、とても幸福だったのだと思う。まさに、知らぬが仏だな。

 ひしひしと現実を直視し始めたのが「高校生の夏」を見てよく分かる。努力では、どうやっても乗り越えられない壁というものを知った。

 20代前半にして、僕は社会に疲れ切ってしまった。こんな時、人を癒すのは過去の記憶だという。フォルダーがかかって、実物を見ることが叶わなくなったそれは、とても美しく見えた。


 うん? 部屋の電気スタンドの寿命が近いようだ。さっきからモールス信号のようについては消えてを繰り返している。それじゃあ、さっさと話を進めないとね。


「笑い」というものを、深く考えたことがあるだろうか。ひとえに「笑い」といっても、様々なものがある。爆笑、微笑、失笑、冷笑、嘲笑、談笑。

 僕がここで言いたいことは、「笑い」の質の話ではない。漫才の仕組みなど、到底わからない。

 ただ、なんとなく感じ取ったことを、書き起こしているだけだ。


 おおっと、電気スタンドが完全に死んでしまった。しかし、ここに偶然懐中電灯がある。というわけで、布団の中に秘密基地を作ろう。もう少しだけ、お話を聞いてってくれるかい?



 やあ、ここまで読んでくれて本当に感謝してる。下らない文章だろう? 自分でもそう思う。イタイし、クサイし、なにより病んでる。読者の共感でも得られると思ったか? この馬鹿野郎。

 でも、これでいいんだ。自分が感じたことを、何かに書き留めておくだけで、随分と気が楽になる。少なくとも、ここで書いたメッセージは、瓶に詰められ、顔もわからぬ誰かに届く。あるいは、海に沈むかもしれない。


 僕は、この間漫才を見た。ギャグ漫画を読んだ。友人と積もる話をしては、口を大きく開け、近所迷惑に勤しんだ。

 笑った。笑った。笑い尽くした。ただひたすらに、笑った。腹筋も痛い。運動不足を痛感する。


 ふと、我に返ってしまった。もちろん、笑いの表情は崩さない。悟られては、いけないと思ったから。

 周りにいる友達は、僕と同じように笑っていた。

 楽しい。楽しいに違いないのに、なんでこんなに、虚無感に苛まされられらのだろう。まるで神様に、「お前にこの笑いはふさわしくない」って宣告されたような、そんな気になる。


 ビデオテープを流し続け、虚無感に包まれる自分を何度も見た。どうやら僕は、「真の笑い」を人生の中で落っことしてきてしまったらしい。振り返れば見つかるかなって思ったけど、それはなかった。


 もし、あなたも「真の笑い」を落としてしまったとしたら、過去に縋るのは得策とは言えないだろう。他の作る「仮の笑い」に身を染めるのもやめたほうがいい。きっと、虚しくなるだけだから。そして、「真の笑い」を拾い上げて、あなたに届けてくれる人が、この先に待っているから。

 それが、運命の人なのか、最高の友人なのかは、分からない。でも、先に進むしかないんです。


 未来を掴むために、今を燃焼するだけではエネルギーが足りない。過去も燃やさないとダメなんです。犠牲なき勝利はないって、偉い人も言ってる。


 こんなこと言ってる本人が、過去にしがみついている。まったく、お笑い草だね。


 僕は永遠と流れるビデオテープの停止ボタンを押し、時間が経って底にカスができたコーヒーカップを片手に部屋を出た。


 誰かが、僕の「真の笑い」を拾ってくれますように。持ち主不明の「真の笑い」は、今も誰かに拾われて、名も知らぬ誰かによって届けられようとしている。

 この後のことは、何も知らない。




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