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古都 オラディアの空は露草色 その18

「おい、聞いたか!? 先日酒場で噂になっていたF男爵が衛兵たちに連行されたってよ」

「オレもさっき雑貨屋の店主に聞いたところだ。昨日も男爵と懇意にしていた商人が呼び出しを食らったみたいだぜ」

「ついに決着がつくんだろうな……」

「そういうことだ」

「当分のあいだ都の情勢は不安定だろうな」

「それはしかたないさ」


「隊長、いよいよ最終局面でしょうか?」

「そうなるな……」

「我が隊の行く末はどうなるのでしょうか……」

「どうなるもなにも、我々は職務を遂行するまでのこと」

「それは理解しております。ですが、我が隊の後ろ楯はすでに連座制により辺境の地へと噂もあります」

「……」

「隊の解散、でしょうか……」

「……それですむなら、安いものだ」

「安いものですか……」

「そうだ」


「姉ちゃん、いつもより多めに頼むわ。それも赤身の多いところをな!」

「あら、景気がいいわね。いつも肉の切れ端を刺してくれなんて言っているのにね」

「たまにはいいだろう?」

「なにかいいことでもあったのかい?」

「いや、ない」

「じゃあなんでだい?」

「ややもすると、その……なんだ、ゴタゴタがもうすぐ終わる」

「いいことじゃないか」

「そりゃあ、貧民街で暮らす人たちからすれば誰が権力を握ったって生活は変わらねぇ。しかしよ、俺みたいな中途半端な民は影響があるんだよ」

「あーそれはあるな。ここで暮らすアタシらからすれば誰だっていい。ただ、静かに暮らすアタシらの邪魔さえしなければ」


「酒、もう一杯だ!」

「こんな昼間っから飲んでいいのかい?」

「いいんだよ」

「あらそうかい」

「チッ、冷てぇなー」

「それよりツケ、払って頂戴な。そしたら次の一杯を出すわ」

「ったくよ、ツケの分、テーブルに置いておくから次の一杯を用意しておいてくれ。ちとションベンだ」

「あら、ずいぶんと素直じゃないかい」

「まぁな。こことはおさらばかもしれんしな……」

「なにいっているのさ、きっと良くしてくれるさ。次の都の守り手様は――」

「どうだか――」


「おまえたち、今日からここ数日間の仕事は無しだ」

「元締め、いきなりそれはないですよ」

「しかたないだろう、上からのお達しなんだから」

「事が終わればまた、仕事がありますよね……」

「あるに決まっているだろ? 誰が都のゴミを集めるんだ」

「そりゃそうですが、ここは昔から頭が替わるとロクなことがねぇ」

「そこんとこはオレも気にしてる。請け負い賃が減らされる可能性もあるしな……」

「それはカンベンでさっ」

「その通りだ。せっかく新しい仕事も立ち上がって、うまくいきそうな感じなのによ」

「元締め、事が終わったら俺も、流しの回収屋の組みに入れてもらえないでしょうか? いろんと入り用で……」

「お前んとこのかみさん、具合が悪いって話しだものな。都が落ち着いたら、優先的に組みに入れてやる」

「ありがとうございます!」


「親方、この家具……どうしましょう……」

「これだけのものだ、右から左へ売れるもんじゃない。当分のあいだ、倉庫の隅で買い手待ちだな」

「当分のあいだで、すみますかね?」

「すまんだろうな……。なんたってあそこは目利きの御仁がいたからこそ、これを注文されたわけだし」

「たしかにあの旦那は、やり手で話しもわかって金払いもいい。ただね、どうも俺は好かねえ。第一、どこから来たのかも不明で見慣れないヤツ」

「あの御仁の悪口を言うもんじゃね。ここがなんとかやってこれたのは、これもすべてあの御仁のおかげなんだぞ」

「それはわかっていますよっ親方」

「なら、言うもんじゃねぇ」

「そうですね。しっかし、一夜にして無くなっちまったのはもったいねぇ」

「それはしかたなかろう」

「あくまで噂ですよ噂。俺が聞いた話しですと、どうも火の気のない裏玄関から火がまわったって話しでさっ」

「あそこは、味方も多いが敵も多かった」

「んまぁ、そういうことなんでしょうね……」

「この都で栄華を誇った、娼館ユリディアーナ……一夜にして灰に帰す……」


「ねぇ聞きました? 都の西に屋敷をかまえる貴族様が昨晩、街を脱出したって噂」

「貴女もお聞きになりましたか、わたくしもですわ」

「たしか位は――」

「伯爵ですわ」

「そうそう、お名前はたしかアルテ――ミット」


「長老様、この街はどうなっちゃうの?」

「……わからん」

「長老様でもわからないことがあるの?」

「そりゃあ、あるわい。ワシはただの、長生きしているジジイじゃよ」

「そんなことないよ、長老様はこの貧民街の大切な人で、物知りなんだから」

「フフ、ありがとな。そうじゃな、ひとつ言えるとすれば……悪いほうにはいかんと思う」

「なんで?」

「おまえたちには難しくてわからんかもしれんが、ここを目にかけてくれる貴族様がお勝ちになったからじゃ」

「そうなんだ。その貴族様のお名前はなんていうの?」

「名前か。名前はのう、ヨーゼルト子爵様じゃ」

「どんな人なの?」

「そうじゃな、礼と義理を大切に、懐に飛び込んでくる者に対しては慈悲の心を持って接してくれる。しかし――」

「しかし?」

「裏切り者には容赦がないと聞いている。おまえたち、よく覚えておくのじゃぞ。己の欲望のために、相手を騙す、嘘をつく、貶める、そんなことをすると必ずしっぺ返しがくる」

「うん、覚えておく」

「よし、いい子だ。それよりもここ数日、二人を見かけんが知らんか?」

「二人?」

「そうじゃ、二人じゃ」

「もしかして、南の橋の下にお家がある姉ちゃんとお兄ちゃんのこと?」

「そうじゃ。あいつら、どこにいったのやら――」


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