初夏の香りと僕たち その6
えっ!?
簡素化された説明によると、
どうもZ子爵は、いち早く千歳緑の時祷書の文面縦読みを発見→
D伯爵に「時祷書に隠されたメッセージがあるぞー」→
「湖畔の廃城で魔術陣展開」をそそのかす!?→
F、K男爵らに「D伯爵が悪魔を呼び出そうとしている。阻止が必要」→
両男爵、D伯爵を亡き者に。からの有していた権利を二人して分割。
『上でも書いたがなぜ、両男爵の噂があっという間に広がり短い時間内で幽閉に成功したのか、それは、どうやらZ子爵が元々計画していたんだ、両男爵を陥れるために』
血の気が引くのが自分でもはっきりとわかる。
『F、K男爵からすれば【悪魔を呼び出そうとする背教徒のD伯爵を葬ることは正しい行為であり、正当化すべきこと】ゆえに位の上位の子爵の考えを汲み取り、事に及んだ。
その後、Z子爵は機を狙っていた。
D伯爵殺害が両男爵であると世間に知らしめるタイミングを。
そんななかでヨハンさん発案の、あの噂が世間に広がり、Z子爵からしてみれば、なんの行動を起こしていないのに世間は勝手に盛り上がりまさに、向こうから鴨が鍋とタレとネギと具材を背負ってやってきたような鴨ネギ状態。
つまりヨハン殿は、踊らされてしまった。Z子爵の手の内で……』
僕は再度画面から視線を離し天井を仰ぎ、大きく両腕を延ばしそのまま後ろに倒れた。
ぐったりする僕。
正直、読むのに疲れた。
いろいろな意味を含め。
「どうしたの?」
僕を心配する桃乃さんの声。
僕は正直伝えた。
いろいろな意味を含め疲れたと。
それに対し桃乃さんも同じ意見と言った。
「桃乃さん、スクロールしたところまで僕は読んだ」
桃乃さんは無言のまま僕の横に座り、ノートパソコンの画面に視線を落とした。
瞼を閉じ『お布団の外は危険がいっぱい』そんな言葉をどこかで見聞きした記憶があって、それは事実かもしれないと考えていたら意識が遠のいた――。
◆◇◆◇◆
足元になにか重みを感じて目覚めると窓から射す日の光りは橙色に変わっていて、夏特有の虫の音が絶え間なく木霊していた。
桃乃さん、僕の両足の間に器用にも身体を挟み、さらに僕の右足を抱き枕にして爆睡中。
どおりで足が重く感じるわけだ。
「桃乃さーん、起きてくださーい」
返答はない。
僕はゆっくり起き上がり、はだけた夏用毛布を桃乃さんにかけ直し、顔にかかった髪の毛を左右に払いのけほっぺたをプニプニ突っ付く。
ああ、幸せ。
寝落ちするまえに読んだヘビィーなメール内容から心を逃がすようにいま一度ほっぺたプニプニ。
てか、なにしているんだ自分……。
ついうっかり心が現実逃避に向かってしまった。
この癖、治らないなぁ……。
最後にもう一度プニプニ。
いま一番しなくてはいけないこと、それはメールの続きを読むこと。
ノートパソコンを手元に引き寄せ、スリープモードを解除。
メールソフトを立ち上げ、真淵さんからのメールを開き、読んだところまでスクロール。
『――つまりヨハン殿は、踊らされてしまった。Z子爵の手の内で……』
その先に書いてあったのは、どうやってこの全容を知り得たか書いてあり、これもまた単純なものであった。
『両男爵はヨハンさんが統治する街の貴族用監獄に幽閉されていたため、極秘裏にやりとり。
貴族用監獄の監視にZ子爵が兵を出すと進言してきて不審に思ったヨハン殿は、これまた策を講じた。
以前、私がヨハン殿に進呈した筆記用具、消せるボールペンを巧みに使って』
消せるボールペン、僕も一本持っていてペン先の反対側のゴムで擦ると書いた文字を消せる代物。
メール内容によると、ヨハンさんが管理監督している監獄のため、第三者が監視兵の派遣を申し出ること自体おかしなことで、ヨハンさんはピン!ときたと。
ヨハンさんは消せるボールペンを半分に切り、小さな紙切れで包みパンの中に忍ばせ両男爵にメッセージを送った。
『ヨハン殿は紙切れの冒頭にこう記述【其方らの未来はすでに決定している。それらに近親者が巻き込まれる可能性はまだ、変えることができるやもしれない】と』
この短い文面についてこう書いてある。
『決定した未来、それは死罪。
もちろん近親者も例外なく死罪。
両男爵はこの文面を見るまでもなく幽閉された時点で、生きることをあきらめている。
そして近親者全員死罪になることも覚悟している。
が、近親者らは、もしかしたら生き長らえる可能性があるかもしれないと両男爵に伝えた』
真淵さんの文面はさらに続く。
ヨハンさんは取り引きをした。
近親者だけでも助かる道を探ってみると。
この筆記用具で木製のトレーの裏に、裏で起きた事情を書いて欲しいと。
そして書いた文字が乾いたら、布で擦り熱を加えて欲しいと。
さすれば文字は一時的に消え、誰にも気づかれることなくやりとりができると。
『このヨハン殿の提案に両男爵は、木製のトレーの裏面にびっしり書き込んできたそうだ。
食事の運び入れと回収時、きっちりZ子爵の子飼いの監視兵たちが確認するがもちろん気づかれず、まさかパンの中に小さく折り畳まれた紙切れが入っていることに気づくはずもなく、食事のたびに情報交換がおこなわれ、両男爵による盛大な暴露合戦が繰り広げられた。
この消せるボールペンは六十℃の熱を加えると消えるが、ある一定まで冷やすとまた書いた文字が浮かび上がる仕組みになっていて、家庭にある冷蔵庫で可能。
もちろんあの世界に冷蔵庫はない。
ゆえに木製のトレーを地下の井戸汲み場の床に数時間置くことによって、消えた文字を再度浮かび上がらせたと』
消せるボールペンにそんな秘密!?が隠されていたとは。
今度冷蔵庫に入れて試してみよう。
『ヨハン殿によると、それらによって得た情報と、こちら側が持っていた情報を精査したところ、Z子爵が作り上げたストーリーが見えてきた。
つまり、Z子爵は最初からD伯爵の持つ権利を奪う目論見だった。
しかしダイレクトに奪うのではなく、間に両男爵らを噛ませ、一時的に権利を二人に預けつつタイミングを見計らい両男爵らを処罰し、自分は一切、手を汚すことなく事を運びきった。
いま現在、Z子爵はなんの疑念もかけられず、野放し状態である』
目頭が熱くなってきた……。
眉の上下に指を当て軽くマッサージ。
そして桃乃さんを起こさないように上半身だけでも軽くストレッチ。
さらに両ほっぺたをパンッと軽く叩き、視線をノートパソコンの画面に戻す。
『ヨハン殿によると両男爵の刑の執行は半月後、近親者はなんとか死罪を回避できる見込み。
どうやって回避できたのかそれは、D伯爵が行っていた行為、魔術陣を描き背教徒の行いを止めたことが一定以上評価されまた、D伯爵から得た権利のほとんどを領主へ返上するバーターの策に打って出たため。
前者は事実であり、後者はもちろんヨハン殿の手による策。
なぜヨハン殿がこうも首を突っ込むのか、いろいろあると思うがやはり、自ら放った噂が元でZ子爵の策略、ストーリーを動かしてしまったことへの後悔と懺悔の気持ちであると、私は推測する。
だから、ヨハン殿をあまり攻めないでやってくれ……』
真淵さんのメールの最後はこう締めくくってあった。
『結論として、
D伯爵家はすでに死亡しており御家断絶済。
F、K男爵は半月後に死罪。
両男爵の近親者は財産没収で辺境の地へ移住(実質追放という名の処罰)。
虎視眈々と機を狙い、獅子奮闘したZ子爵は成果に見合わない、旨味のない権利が一つ。
しかし健在。
ヨハン殿的には腹の内に溜まっているものがあるだろう。
さて、一つの貴族が没落すると、そこを狙う貴族は三家いると言われている。
ゆえに、向こうでの政局は一気に不安定なものになってしまった。
こちらでの正義、理屈は向こうでは通じない。
向こうが落ち着くまでの間は当分、赴くのはお預けだ。
そこは理解してもらいたい。いいね、水野君』
長々と続いた文面の最後は水野さんへの投げかけで締め。
唇の端を噛み、苦々しい表情の水野さんの顔が目に浮かぶ。
まぁこればかりはしかたないよ。
って、スマホを確認しなくちゃいけない気になって慌てて立ち上がったら、ゴツンと桃乃さんの頭に膝打ちをしてしまい、起こしてしまった。
「ぐぬぬっ、痛いぞぅ!」
「ごっごめん」
「どうしたの、いきなり?」
「いや、ちょっとスマホの着信確認をと――」
「あーそれなら大丈夫だよぅ」
「へっ!?」
桃乃さんは寝ぼけ顔のまま大きくあくびを一つすると「あたしが返信しておいたから」
えっ!?
えーーーーーーー!!!
「なっなにを…………返信、したの――かなぁ!?」
「んー、秘密♪」
ガバッとテーブルの上にあるスマホを手に取りロック解除、SNSアプリ記録を見る。
「履歴……二十以上……」
着信記録……、こっちも二十以上…………。
プチン――
あ、充電切れ。
■『絵画の~より便り届く』の章はこれにて終了になります。
次回からは新章へ移ります。
少しの間、更新が止まります。
理由は、別の投稿サイトに掲載をしてみようかと。
カクヨムさん、アルファポリスさんあたりを予定しています。
投稿サイトへの投稿が終わり次第、次の章へと。
今後ともよろしくお願いいたします。




