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とある子爵の時祷書 その20

 水野さんは強引に抱きしめると押し倒す勢いで身体を傾け、口元を揺らし相手の口の中にワインを流し込んだ。

 なすがままのツゥルペティアーノさん。

 僕の視線は二人に釘付けになり、瞬きさえ億劫な勢い。

 二人の口元あたりからピチャピチャと音が漏れ、ツゥルペティアーノさんのほっぺたに飲みきれなかったと思われるワインが筋となって垂れた。


「むぐぅっ――」


 悲鳴にも似た声が漏れるも、水野さんは口づけをやめることをしなかった。

 しかし立っていることに限界が来たのか二人ともそのまま床に倒れ込み、口づけは終わった。

 目元をトロンとさせ真っ赤に火照った二人の表情、(うれ)いを秘めたなんとも恍惚(こうこつ)としたもので、エッチな漫画のワンシーンのよう。


「女の子の唇は初めて。男の子と違って柔らかい」


 そう言って水野さんは僕のほうを見て「もちろん最初の男の子は村上君、君だよ。昨日のことなんだけど、覚えていないのが残念。少しでも記憶の片隅にあったら嬉しかったなぁ」

 いっいつの間に……。


「頬や首筋にワインが垂れちゃったね。きれいに拭いてあげるね」


 そのまま水野さんはツゥルペティアーノさんに覆い被さり、顔に付着したワインを丁寧に唇と舌で舐め始めた。

 僕の鼻先に甘酸っぱい汗の匂いがツンと付く。


「どう? 同性に犯される気分は? それとも、獣のほうが良かったかしら? フフッ冗談だよ」

「わ……私はもう……。汚れて…………」


 パンッ!

 なにかを叩く音。

 首を傾け放心状態のツゥルペティアーノさん。

 馬乗りになって水野さんは言った。

 汚れたということは、私が汚いものということなのね――と。

 それを言い終わるやいなやまたも乾いた音がして、それは平手打ちの音だった。


「あなたがワインを吐こうと指を口に突っ込み、それを制止して吐瀉物のかかった私がいいたいことよ。汚れたって」


 呆然とするツゥルペティアーノさんから返答はない。


「私の左腕はあなたの胃液まみれで汚れたまま。だけど汚いと思わない。だって、自らが蒔いた種なんですもの」

「ぁぁ……」

「なぜ、こんなことになっているのか、わかる?」


 返答はない。


「単純なこと。私の村上君に手を出そうとしたから――。それだけ」


 目に涙を浮かべ口は半開き、身体から一切の力が抜けきってしまっているのが僕でもわかった。

 ツゥルペティアーノさんの自我、崩壊――。

 甘酸っぱい匂いのなかに、なんともすえた臭いも混ざり合い脳が混沌としていくのが自分でもわかった。


 床にだらんと転がるツゥルペティアーノさんを見て、僕はかわいそうと思わなかった。

 嬲られる彼女の姿に興奮している自分がいて、その感情に心をまかせたら以外に気持ちよく(水野さん、犯してあげて)と思うようにもなっていた。

 ぽかんと開いた口の中に水野さんは汚れた指を突っ込み言った「きれいにして」と。

 しかしツゥルペティアーノさんから行動はなにも起きなかった。


「まだ心に恥じらい!? 羞恥心!? それとも良心!? 反抗心!?が残っているみたいだね。だからもう一度、飲みましょうね」


 水野さんは口から指を引き抜くと、ワインをいま一度口に含みツゥルペティアーノさんの鼻を押さえ、そのまま口づけをした。

 コクンコクンと飲み込む音だけが部屋中に木霊(こだま)した。

 すべて飲み込ませたのか口づけをやめ馬乗りのまま告げた。

 あなたが考えていたこと、すべてお見通し。

 壊れた人形のように動かないツゥルペティアーノさん。


「均整のとれたフェイスに、黒髪、黒目、か細い身体の子供がほしい。それはこの世界ではたいへん珍しく稀有(けう)な存在。第三者が見ても、異世界から来訪してきた真淵さんの連れの子が父親だって一目でわかる。そうなれば一生安泰でいられる。そうでしょ?」


 なにも答えないツゥルペティアーノさん。


「村上君の子供孕み、無事に生むことができたなら、この国で下賜付(かしづ)かないのは王族と一部の貴族のみ。真淵さんと私たちへの対応を見てすぐに気づいた。雇い主になるヨハンさんだって胸元に右手を添え、片膝を床に付き、(こうべ)()れるでしょう」


 思いもよらぬ水野さんの言葉に僕の脳味噌はさらに混乱していく。


「ツゥルペティアーノさん、勘違いしないでほしいことがあるの」


 水野さんは深く深呼吸をひとつすると続けて言った。

 私はあなたに、ささやかな幸せでもいいから、この世界で幸せになってほしいの、と。


「だから、あなたに協力してあげるね。ワインとミルクに入っていた媚薬は遅効性のもので効き目が遅いの。んでね、そろそろ効能が効いてくるはずだから安心して。きっと村上君があなたに襲いかかるのは時間の問題」


 はぃぃ!?


「村上君っ、この子を、目茶苦茶にしてあげて。若さと欲望に身をまかせてすべてを、この子の中に吐いてあげて」


 なっなにを言っているのぉぉぉ!?


「あっと、私のことは心配しないで」

「あぅあぅっ」


 どういうことなのか訊ねるも声にならない。


「えっとね。……正直、言うとね。そのぉー怖いの。チョー怖いの。他人を受け入れることが」


 は?


「私は、昨日の晩にしたキスだけで十分なの。それにぃー、村上君のトイレを手伝ったときに……さわっちゃったから、私が最初の女なの! なのでーその先のことは……まだいい。だって、私たちはまだ16才なんだもの。時間ならたくさんあるから」


 えっと、お預け?


「なのでぇ,二人がイチャイチャしているところを目の前で見れるだけでお腹いっぱい!」


 もう、なにがなんだかわからないよ。


「ツゥルペティアーノさん、あなたも身体が疼いているでしょ。大丈夫、邪魔はしないから。あと少しで黒髪黒目の子供を、手に入れることができるよ」


 ツゥルペティアーノさんはなにか覚悟を決めたのか深く深呼吸をひとつすると、ゆっくりと身体を起こすと言った。

 あなたさまは一つ誤解をしていますと。

 即答でそれはなに? と問い正す水野さん。


「黒髪黒目の子供がほしいのではありません……。村上様のお子を……」


 その返答になにも言わない水野さん。


「とある子爵にもらわれた一人の奴隷の居場所は、主人専用の湯浴み室と(かわや)。それは、公衆の面前で獣と混じり合うことより酷い仕打ちを受けたと、言っておりました……。またほかの……。そのような存在の下賤奴隷にたいして村上様は、一人の人間として接してくださいました。それは『僕たちの世界に奴隷はいない。だからそんな風に見ないだけ』とお心の内をも、私に吐露されました」


 えっと、僕、考えが……まとまらない。


「私は、心の底より、村上佑凛様を――お慕い申しております」

「……」

「仮にもし村上様が『僕の専属性奴隷になって』と言われましたら、自ら首輪をお付け致します」


 真っ直ぐに水野さんを見つめままそれだけ言うと一礼をした。


「……村上君っ、すでに許容範囲ギリギリなんだけど彼女のためにも、もう一杯、飲もうねっ」


 そう言ってワインを口に含み、僕の唇を指でこじ開け、口づけをしてワインを流し込んできた。

 僕の身体はしびれてうまく動かないけど、本能の(おもむ)くまま水野さんの背中に両手を回し力強く抱きしめ無理やりベッドに沈めた。


「相手がちがーう! それはまた今度ねっ!!」


 もう無理。

 いろいろと。


「吐き出す相手はあの金色の髪の毛の少女よ!」

「みっ水野様! 村上様、目が真っ赤に充血して口元からヨダレも垂れて、呼吸も苦しそうです!」

「うん、だね! きっとこれからとんでもないことになるよ! もしかしたら、獣のほうがよかった――と思うかも!!」

「ええっ!!!」


 どこかぼやけて遠くで聞こえるような二人の会話を耳に入れながら僕は目の前で震える女の子を床に押し倒し右手で自由を奪い股の間に足を食い込ませ左手で口をふさぎ悲鳴がもれないようにしてギュッと抱きしめた――。



 ◆◇◆◇◆◇◆



「それじゃ逝くね。みんなあたしにギューってして。絶対、絶対に離れたらダメだよっ」


 その言葉に僕たちは桃乃さんを押しつぶす勢いで抱きしめ、その時を待つ。


「真淵様、このたびの来訪は神々がもたらした天使の雫」


 そう告げて深々とお辞儀をするヨハンさん。


「小生、ジルも同じ考えです。今となると、真淵様方々が来訪されなかった未来、考えもつきません」


 ジルさんはヨハンさんよりさらに深々とお辞儀をした。


「小生、カイとしては、繁栄の礎を築いた美術館にお足を運べなかったことが唯一の、心残りになります。またの機会がありましたら是非、西地区の発展を含め、御視察を賜りたく願うばかりです」


 カイさんは床に片膝を付け、悔しさが入り交じった言葉を口にした。

 学校の教室くらいある地下室は窓もない石壁のせいか、声がほどよく木霊(こだま)する。

 低い天井に数本のロウソクが吊るされ、石畳みの床に描かれた○の内側に書かれた☆型の魔術陣をぼんやり浮かばせていた。

 その魔術陣の脇にヨハン、ジル、カイさんの三人がお見送りのため僕たちを囲んでいて、壁側に十名くらいの人たちが胸に右手を添えて恭しく並んでいた。


「背後にいる者たちは信頼できる者たちにございます。そして、この領地、街の繁栄に欠かすことのない大切な者たち。これも真淵様の教え、情報共有を行なうことによって組織を磐石にする一つの方策になります」


 右手を立つ者たち向け、ヨハンさんはそう口にした。

 ウンウンとうなずく真淵さん。


「ヨハン様、発言の許可をお願い申し上げます」

「よかろう」


 一人の男性が前に出て深々とお辞儀。


「この度の来訪、生涯忘れることはないでしょう。時を経て、この地をまた訪れる機会がもし、ありましたときは、なんの問題もなく城街へ入れるよう、ここにお約束致します」


 目を凝らして見たら城街に入るとき、お金をせびる門番と対峙してくれたヨハンさん直属の衛兵さん。

 後ろにはその時に門を守っていた二人の若い門番の姿もあって、衛兵さんの背後で深々とお辞儀をしていた。


「若い門番二人にお願いがある。こちらの世界と、向こうの世界では時間の流れに差がある。もし次回があるとすれば、私は老兵になっているだろう。ゆえに、ここにいる若い者たちが次の時の旅人、知識の担い手になるだろうから、そのときはよろしく頼むよ」

「もっもったいない、お言葉!」


 緊張からか甲高い声でそう言うと再度深々とお辞儀をする二人の門番。


「真淵様、もし次があるとすれば……」


 そこまで言ってヨハンさんは言葉を止めた。


「うーん、なんともいえないな……」


 首をひねり返答に困る真淵さんを横目に桃乃さんは「あたしが頑張れば、なんとかなるよー」と言ってこちらの世界の人たち全員を驚かせた。


「そっそれは、真淵様が十年以上かけてお貯めになった魔力!?を蓄積できるということでしょうか?」


 驚く声でヨハンさんはさらに「でしたら、ほんの少し、少しだけでもこちらに残して頂けないでしょうか? 一方通行になりますが文を送ることができるやもしれません。もちろん確実に実現できる保証はございませんが、理論上可能かと」


「おお、それは助かる。千歳緑の時祷書、男爵たちそして、とある子爵らの、その後がどうなっているのか、とても気にかかるからね」

「真淵様、すぐにガラス瓶をご用意致します。桃乃様、今しばらくお待ちください!」


 ヨハンさんは一番扉に近い者になにか指示を出し、慌てて地下室の外へ出て行く者を見送ると、おもむろに口にした。

 ツゥルペティアーノは体調を崩してしまい、この場にいないことを僕たちに詫びた。

 それに対して真淵さんは体調不良を責めてはいけないと。

 生きている者は誰でも身体の不調、急変、持病があったりする。

 それらを無視してまで人を使うことは悪手の一手であり、仕える者たちが離れていく原因にもなる。


「以前、私が話した『有給休暇』なるものを、考慮してくれ。きっと生産性、忠誠心、人々の幸福度の向上につながるから」

「たしか『賃金を受け取るも一日休める権利』なんとも不可思議な法ではありますが、そこまで真淵様が仰るのなら、熟慮を重ねる必要がありそうですな」


「なんといってもこれは他国、他領では決して受け入れられないだろう。だからこそ、この地にて働く者たちを手厚く優遇する施策を講ずることによって『他者とは違う領地』すなわち、さらに孤高の存在に磨きがかかると」


 ドヤ顔で真淵さんは説明しさらに、一段と帝都から警戒されるかもしれないけどね、とも付け加えた。


「それはそれは、なんとも恐ろしい権利ですな『有給休暇』とは。真淵様が仰る通り他国、他領では絶対にありえない権利。他の領主はこう考えるでしょう『領民に媚びる、またも変な法を作ったものだ。雇い主が一方的に損をするだけではないか――』と。そう思わせることが重要なのですね」


「うむ、そういうことだ。絶対に他の領主は気づかない。賃金を支給し、休みを与えることによって起きる生産性の違いに」


 それは僕でもわかる。

 最終学歴問わず学生が、高賃金よりもしっかり有給休暇が取れる企業を選ぶ風潮が高まっていて、実際後者を実践した企業に良い人材が集まる傾向があると、ネット上で読んだ。


「うー、そろそろ限界が近いなりよー」


 少し苦しそうな桃乃さん。


「ごめん、桃乃ちゃん。つい熱くなってしまって」

「もう、真淵ちゃんはすぐに熱くなるんだからー」


 お団子頭ヘアーを左右に揺らしプゥーとほっぺたを膨らまして口を尖らせる桃乃さん、可愛いぞと。


「桃乃様、いましばらく。いましばらくお待ちください。魔力!?を蓄積させるガラス瓶が届きますゆえ!」


 ヨハンさんは慌てて壁に立つ者に声をかけ、すぐに様子を見てくるよう伝えた瞬間、扉は開いた。

 2Lくらいのペットボトルサイズの透明なガラス瓶を両手に抱え立つ、ツゥルペティアーノさんの姿がそこにあった。

 ヨハンさんはすぐに桃乃さんにガラス瓶を手渡すよう伝えた。

 僕は彼女の顔を見た瞬間、なぜか胸の奥がキュッと締めつけられる感情がこみ上げてきて喜怒哀楽の感情がドロドロに混じり合った、モヤモヤした息苦しいナニカが身体中に広がり、彼女の瞳、顔を見ることができなかった。


「どうしたの村上君?」


 不安そうな表情で声をかけてきた水野さん。


「なっ……なんでも……ないよ。僕は大丈夫、安心して水野さん。そして、ありがとう」

「そう……。なんでもないのなら、良かった」


 僕たちを横目に桃乃さんはペットボトルサイズのガラス瓶を受け取ると、コルク栓を抜いてなかにケロケロケロ~と、粒子状の霧みたいなものを吐き出した。

 それを見た瞬間、フラッシュバックなのかさらに息苦しいなにかを感じ、僕を除く全員が息をすることすら忘れたようにその光景に見とれ、壁に立つ若い門番は「神々しい――」と口にした。


 時間にして数十秒。

 でも僕にはとても長く感じた。


「体調を崩して横になっておりました。申し訳ございません……」


 ツゥルペティアーノさんは短くそう告げると、頭を下げたまま後ろの壁の者たちの中に移動して身を置いた。

 なんだろう、なにか避けられているような気がする。

 きちんとした根拠はないけど、なんとなく……。


「本来なら、ツゥルペティアーノ。おまえが一番真淵様方々にお礼を伝えるべきところ。されど、向こうの世界にはない病原菌、病気を感染させてしまったら申し訳ないではすまない。そのようなことはないと思うが安全を考え、その場からお礼を伝えなさい」


 ヨハンさんの言葉にツゥルペティアーノさんは胸に手を添え、床に片膝を付き、頭を垂れた。


「下賤奴隷だった私の身を、いち領民、一人の人間、神の名を口にできます喜びを、与えて下さいましたこと、言葉にならないくらい感謝しております。また、短い間でしたがお世話ができましたこと、ツゥルペティアーノは一生忘れることはないでしょう」


 一息付いてさらに口にした。

 もし、またお会いできる機会がありましたらそのときは、また夢現(ゆめうつつ)のようなひとときを過ごしたいと――。

 ?

 ??

 ???

 僕、真淵さんや桃乃さん、ほかみんな頭に?がポポポンとなった感じ。


「とある戦国武将は言ったわ。天上界の世界に比べれば、人間の一生なんて夢幻(ゆめまぼろし)のように一瞬で過ぎ去っていくもの。ひと夜に捕らわれることなく――日々を過ごすといいかもね――」


 水野さんの言葉にも?がポポポンと。


「ふぅ。んじゃ、そろそろ唱える始めるねー」


 そう言って桃乃さんはキラキラ光る霧状のナニカが詰まったガラス瓶に栓をしてヨハンさんに手渡した。

 ゴニョゴニョと桃乃さんがなにか言葉を発した瞬間、石畳の床に描かれた○と☆型の魔術陣はゆらゆらと鈍く光り出し、所々に記述された文字がウネウネとうねり出して時計方向にグルグルと回り出した。


 壁に立つ者全員から驚愕の声が漏れ、ジル、カイさんに至っては魔術陣の近くに立っていたせいか畏怖に心と身を持っていかれ、床に倒れ込み壁のほうに逃げた。

 ヨハンさんはグッと堪えるもやがて二歩三歩と後ろに後退。

 僕たちからすると三度目の光景のせいか冷静でいられた。

 桃乃さんが呪文を唱える最中、僕は口にした。

 また夢現(ゆめうつつ)のようなひとときとはなにかと――。

 ツゥルペティアーノさんは少し驚きながらも笑みを見せ、なにも言わず小さくうなずいた。


「世の(うれ)い、ひとときに捕らわれることなく、これからの人生を謳歌してね」


 ふいに水野さんの声。


「水野様、いろいろとありがとうございました……。私は、夢現(ゆめうつつ)のようなひとときに、ずっと――捕らわれて(いと)うございました――。そう、永遠に……」


 その言葉に目を大きく見開き驚く水野さん。


 二人の間になにかがあったみたい。

 それがなにか知らないし、わからない。

 でもひとつだけ言えることは、二人はなにか秘密を共有していて、それが二人を強く結んでいるようで、なんとなく悪巧みで共犯じみたなにかを、僕は感じ取った。


「最後に村上佑凛様、本当にありがとうございました。またお会いできますよう、こちらの世界より想いを投げますゆえ、どうか捕まえてください……」

「うっうん。よくわからないけど、捕まえてみるよ。幸せになってね、ツゥルペティアーノさん」


 僕たちを光の粒子が包み、周りの景色がぼんやりし出して見送る人たちもぼんやりとなっていくなか、ツゥルペティアーノさんは魔術陣に近づき、なにか言葉を発するも僕たちには聞こえず、すぐに伝わらないことがわかったのか話すのをやめ、一礼をして、凛とした安らかな笑みを僕たちに見せてくれた。


 こうして僕たちの絵画の世界の幻想奇譚は、幕を閉じた。




   ◆とある子爵の時祷書  -完-


■大した病気ではないのですが明日から一週間、入院の予定。

退院後リハビリかと。

ので、次回の更新は7月半ばを予定しています。


とある子爵の時祷書編はこれにて終了になります。

次回からは新しい章に。

今後ともよろしくお願い致します。

          2021年6月28日 ぴぃ

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