火曜日の朝は突然に その2
僕は公園のベンチに座り、滑り台やブランコで遊ぶ子供たちを見ながらブラックコーヒー缶を一気に胃に流し込む。
どこまでも苦く、ただただ美味しくない。
なんでこんなものが美味しいと思うのかわからない。
きっと僕がまだ子供舌なんだろうなと思いたいし、あと十年もすれば『コーヒーはブラックだね!』なんて言っている自分を……、やっぱりまったく想像できない。
コーヒーはカフェ・オレもしくは、ミルクティー。
いや、ミルクティーは紅茶だぞ、しっかりしろ自分。
ふいに空を見上げると、赤茶け色が混じり合った夕暮れが広がっていて、うん、やっぱり水野さんには青が似合う。
月並みだけど、ブルーの縞々パンツが絶対に似合う気がする。
うん、たぶん、きっと、似合う気がする……。
って、なに考えているんだ自分……。
九時間前、僕はこの公園に水野さんと二人していて『今日は、長い一日になる』そう、覚悟を決めていた。
が、過ぎてみればあっさり時間は過ぎた。
学校内で水野さんと、とくに目立った接触はなく、いつも通りのただの同級生という立場だったのに、関係ない部外者の山田君はなにかを嗅ぎつけたのか、僕と水野さんのまわりを小犬のように嗅ぎ回っていた。
ああいうところがイケメン側の人間の、嗅覚なんだろうなと思う。
僕なら絶対に気づかないし、気にかけもしない。
怖いわー、リア充って。
そんな山田君の感知スキルをさけつつ、水野さんからスマホにメールが一通きた。
カバンからスマホを取り出し、メール内容を今一度確認。
『村上君 こんにちはヾ(*´∀`*)ノキャッキャ
用件を伝えるね。国立西洋美術所蔵館、館長、真淵明さんから連絡が来たよ。
今週の土曜日に三人で遊びにおいでよと~♪
地獄門の前で待つと。
丸一日お相手してくれるそうだよー。
国立美術館の館長自らなんて贅沢だね。
ついに一枚の絵画の秘密がわかるかも。
桃乃ちゃんにも伝えてね。
んでね、私からは、落ち着いていろいろとお話がしたいなー。
それと、私のお願いは必ず叶えてね。
私の下着、見たんだかラー (`・ω・´)ラー
追伸:村上君と外で会っていることは、できるだけ内緒にするね。
クラスのみんなに、桃乃ちゃんの存在が知れちゃうきっかけを作るのはよくないと思う。
本当は学校でも仲良くしたいんだョ(´・ω・`)
ではでは♪』
ふぅ。
学校では物静かでおしとやかな水野さん。
だけどメール上では、ふんわりかわいい。
正直言えば、学校内での態度と、メール内容のギャップに少し戸惑う。
でも、よくよく考えると、授業中にくれた手紙や、僕の家での態度、そして今日の朝の態度。
それら全部、一貫している気がする。
クラスのみんなの前での態度と、僕や桃乃さんの前での態度とはあきらかに違う。
もしかしたら、水野さんにとって僕は、特別な存在?
だったらうれしいなー。
確固たる確証はないけど、そんな気がする。
うれしくもあり、恥ずかしくもあり、こんな僕でも一人の男として見てくれているのだろうか。
まぁ、とりあえずこのメールはロックしてフォルダの深いところに入れておこう。
春を呼ぶメールなんだけど、一緒に嵐も引き起こしそうな予感もする……。
さて、桃乃さんにやんわり伝えられる内容を、考えないと──。
そういえば、いつの間にメールアドレスを交換したのだろう。
どうも記憶があやふやで思い出せない。
スマホ自体を水野さんの前に出した記憶もないような……。
メモ書き20210109修正