三話 思い出して見よう
今から三年前程前。
まだ俺がただのはな垂れ小僧だった頃......
とある理由で迫害されていた幼女と仲良くしていた時があった。
その娘とは、仲が良くなってすぐに対魔王軍の兵士として徴兵されたので、実際に話した時間は三日ほど......
別れてからの三年間が濃厚過ぎて、記憶に霞のように靄がかかっていて、今でも鮮明には思い出せない。
けれど、その娘と同じ、珍しい真っ白な髪色のハクアを見て少しだけ、思い出した。
......俺の黒髪や、ハクアの白髪は、実は迫害の対象になる。
なぜなら、このフィーリルア大陸で誰もが使える異能の力、
火を出せたり、電気を出したりする魔法を使えない証であるためだ。
持論だが人は、周りとは違う人間を恐れる性質がある。
そして、恐れは差別に、差別は迫害に......
殺されることは無いけれど、同世代の連中から総無視された。
それが結構、ガキの俺はきつかったが、そのうち魔法が使えるのの何が偉いんだ!
と、吹っ切れて、俺を嘲笑う連中全員を、
『ギッタンギッタンのボコボコにしてやる!』
と、発憤し、
武道を独学でやり始めた。
......が、ボコボコにする前に兵士に徴兵され、戦争で全員死にました。
俺は何もしてないよ? ほんとだよ?
この時武道を嗜んだおかけで、後に拳王杯というフィーリルア王国の格闘大会で優勝し、
最強の闘士と呼ばれるようになる。
……その時の優勝賞金は、全部イリス女王に持って行かれた......クソババァ。
でも、そのお金で、家族の面倒を見てくれたのでぎりぎり許せる。……クソババァ。
今思うと、物凄く下らない上にナメくさっさ動機だったと俺も思う。
さて、俺がそんなふざけた理念の上で訓練をしていた時。
数人の餓鬼どもに虐められている白髪の幼女と出会った。
見た瞬間に虐められている理由は解った。
同じ道を通ってきた俺は、俺が虐められていることを見せつけられているようで、心底、頭にきた。
だからいじめっ子達を、ボコボコのギッタンギッタンにしてやった。
十歳以上離れているであろう餓鬼を本気でボコボコにしたが、敢えて言おう。
いじめる方が悪い。
でも、その時は、泣きじゃくる幼女に俺を重ねていたから、
「お前、虐められる理由、解ってるのか?」
「かみがしろいからです」
「ハハ。ちげぇーよ。お前が弱いから虐められるんだ。俺を見てみろよ。黒だけど、誰も虐めて来ないだろ? 虐めってのは虐められる奴が悪い」
嘘です。同世代の連中全員から無視られていました。
だけど、
「すごーい。くろいのに、わたしとおなじなのに......(*'‐'*)♪」
喜ぶその娘を見て俺はさらに罪を重ねた。
「俺は魔法を使えるからな」
「くろなのに?」
「ああ、誰にでも出来るからこそ! 俺達、色無ししかできない《努力》っていう、最強の魔法を使えるんだ!」
「サイキョウー!! どりょく!! サイキョウー! ししょー! サイキョウー!」
とまあ、今思うと、わけ分からん謎理論で幼女を論破し、ししょーと慕ってくれるその娘と仲良くなった。
しかし、仲良くなった三日後には、徴兵され......一年間後には、村は魔王軍によって侵略をうけ、村民のほぼ全員が虐殺された。
だから、あの子はもういない。
だけど、もし……もし!
生きて大きくなっていたら.....
◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆
「うふふ。お師匠様の弟子になれました~」
聞いているコッチが、蕩けそうになる甘い声で喜んでいるハクア。
そのハクアが、弟子になったのはもう良いが、
不壊の鉱石とまで言われるオリハルコンの岩を、素手で爆散させた事で、試験自体も爆散したので、
他の弟子志願者達には帰宅して貰った。
……石がなければ試験が出来ないから仕方ないよね。
......はあああ~っ。
明日までに、今度こそ合格不可能な試験を考えないとな。
でも、先ずは。
「お師匠様。どんな、修業をすれば良いですか?」
「気合い十分だね」
「はい。念願のお師匠様の弟子になれましたからっ!」
天使のような微笑みで、普通なら嬉しくなる言葉を言ってくれているのだが。
俺は全く嬉しくない。
何度も言うが、俺は一生遊んで暮らしたいのだ!
内弟子なんて邪魔なもの取りたくも無かった。
と、歎いていても仕方ない......か。
前向きに行こう。
女王が言っていた様に、弟子がいれば収入源になるし、
しかも、ハクアは可愛い少女だから、目の保養にもなる。
「ハクア。入門料の事だけど......」
「っ!」
ハクアがぴくんと身体を跳ね上がらせた......
その反応だけでわかる。
あ、金は持ってないのね......
「お金の代わりに......」
ハクアがお金を持っていないことは、ハクアの裕福ではなさそうな身なりを見れば予想がついていたので、別の方法を提示するつもりだったのだが。
ハクアは何を思ったかの、顔を仄かに朱く上気させ、小さい太もも擦り合わせながらそっと胸に寄り掛かってきた。
「はい。もちろん、身体でお支払いします。その覚悟は三年前から出来ていますので......激しくしても良いんですよ?」
「ぢげぇーよ! 俺、そんなにゲスイ事しないからね!!」
少し心臓がドキドキしたのは八歳児の色香に惑わされたのでは無いと思いたい。
......でも、激しくしていいのか......ハクアの心根の優しさと広さを感じられていいね。ハァ......ハァ......
いや、いやいや。しないけど! ほんとうにしないよ? ほんとだよ?
でもこういうのは最初に言っておくか。
「俺はさ。中途半端が一番嫌いなんだ。魔王を倒すってなったら全力で倒すし、君を弟子にするんなら全力で鍛えあげる。だから......」
「......エッチな事ですねっ!」
「うるさい。黙れ。......君は俺の弟子として、格闘大会に出てもらうけど、勝って手に入れた賞金を【全額】、俺に渡せば良いよ」
正直。ハクアは天才だ。
オリハルコンを素手で破壊出来る人類がいると、数時間前の俺が聞いていたら、悶絶しながら笑っていたに違いない。
少し鍛えれば、フィーリルア王国で開催されるアマチュア格闘大会で、
ホイホイ優勝する事が出来るようになる筈だ。
そうしたら俺の財布にもホイホイ金が集まって生きて、ハクアなんで乳臭いガキじゃないボインッキュッボインの女がいくらでも使い捨てに出来る。ウッハウッハ。
普通は大会の賞金は丸ごと弟子が持っていくし、師匠である俺が弟子の成長した証でもある賞金に手を出すなんて、禁じ手も良いところだが、そんなことは知ったこっちゃ無い。
こちとら生活が掛かってるんだもんね。
それに、八歳女児弟子の身体に手を出すよりは、断然良いよね?
まあ、稼げなかったら身売りさせるけど。
フィーリルアの有名な変態貴族が大金叩いてくれるだろう。
「ハクア。それで良いよな?」
「……は......はい......。それでも良いですけど......」
これで、美味しいご飯が毎日食べるらるぜ!
文字通り、イロイロな方向に金の卵を連れながら、
これから住むことになる修練寺を下見していく。
修練寺は三つの建物に別れていて、
千人以上の弟子をとってもまだ、あまりそうな程広い作りになっていた。
きっと、相当大きな流派の跡地なんだろう。
それこそ、三千年続いたとか、そんなレベルの……。
時折、ボロボロのチャイナドレスが落ちてるし、
もしかしたら、そういう系の道場だったのかもしれない。
イリス女王は昔の修業僧が使っていたとか言ってたが、
施設自体に欠損は特になくてちょっと安心する。
幾人もの弟子達が眠ったであろう、広い寝室用の部屋。食堂。大浴場......は赤錆が酷い。
が、稽古場から離れた場所にあった屋敷は、おそらく当時の師範が使っていたものがあり、
そこは埃が被っていたが、かなり出来の良い造りになっていた。
……ここは師匠の部屋決定だな。
そう決定して振り返ると、板張りの床を裸足でぺたぺた音を立てて一生懸命ついてきているハクアが見えたので特に深い意図はなく聞いてみる。
「それで、ハクアの目標はなんだ?」
「え? 目標ですか? ............お師匠様のお嫁さんになることですけど(ボソッ)」
「え? なんて?」
「い、いえ! それは、最終的にはと言うことでー(>_<)」
「......?」
歳の割にはしっかりとしていると思ったが、急に舌足らずで聞き取りにくくなったり、
突然、会話が宇宙人になるところを見るとやっぱりまだ、子供なんだなと思う。
でも、そんな子供がなんで、内弟子なんて修羅な世界に入り込んできたんだろうか?
そんなの決まってるか……
俺の金の招き猫になるためだよね!!
「ハクアは、強くなりたいんだよな?」
「はい。お師匠様みたいになりたいですー」
健気な事だが、君の師匠は君を身売りさせることも厭わないよ?
「なんにせよ。強くなりたいなら目標は大事だぞ? 村の悪ガキをブチのめしたいとか。家族の為に金が欲しいとか。好きな女......じゃなくて男を侍らせて一生遊んで暮らしたいとか......」
「全部お師匠様の煩悩です......」
「煩悩で良いんだよ。人なんて、どうせ煩悩でしか動けないんだから......」
「そんなことないですよ!」
「......」
急に強く持論を否定してきたハクアの目を見て、俺が持っている持論と同じく、
ハクアが持っている持論を踏み付けたことを悟る。
だから、どうしたということは無いが、
俺に踏み付けられて反発したという事実こそが、ハクアの譲れ無いもの。
それが、ハクアが強くなるのに一番大事な信念のところ。
俺と正反対だが、ハクアには強くなって大会で稼ぎまくって貰わないといけない。
叩いて踏み付けて伸びる子か、折れちゃう子かは分からないが、
ハクアと同じ境遇で戦争に行き、様々な闇を見た俺には、
ハクアが再起不能になるほどの現実をたたき付ける自信がある。
......しないけど。
「......かもな。でも、ハクアも、叶えたいものぐらいあるだろう?」
「それは......ありますけど......」
「おいおい、弟子なんだろ? 不満そうにするなよ。良いか? 持論だけど。煩悩はそのまま原動力になる。原動力は辛い鍛練の道を進むエネルギーなる。そうして進んだ道の先に煩悩がある!! つまり、煩悩無くして強くはなれん。煩悩を見つけて人生を楽しむのが、強くなる一番の近道だ」
「......」
せっかく良い話したのになんか胡散臭そうに見てくるハクアの頭にデコピンして、話題を変える。
ハクアの心に響かないなら、
俺の持論はハクアを弱くする毒にしかどうせならないし。
大人の決めつけが一番、子供の成長の妨げになることを俺は知っている。
子供は、無垢であり。無茶であり、無謀であり......柔軟である。
その柔軟性こそが子供が強くなる最強の武器である。
まあ、これも決めつけだけど。
「それは、そうと、ハクア。お前の修業だけどな」
「はいっ! なんでもします。エッチなことでも......お師匠様なら......修業です」
何の修業だよ!
「今日は、さっき下見した離れと、今。見回った第一道場の掃除な」
「え? お掃除ですか? それは、何の修業なんですか?」
「雑用の修業」
「お師匠様っ!!」
怒った。おおー! 恐い。
ハクアを怒らせると、死にかねないのは、オリハルコンの残骸を見ればわかる。ガクブル。
でも。
「怒ったって、掃除するまで本格的な修業しないよ。見回ったとき、かなり尖った石や木が落ちてただろ? あれで怪我したら困るのは誰だ?」
「......っ私? お師匠様~!! お優しい(恍惚) うふふ(恍惚)」
「だろ? それに弟子は師匠に寝るところも用意してくれないか?」
「......っあ!」
今気づいた! とわかりやすく動揺するハクアにちょっと安心。
動揺すると言うことは、やってくれるということだ。
イリス女王に廃墟を押し付けられたときは、掃除が怠いなと思ったが、ハクアが居ることで解決した。ラッキー。
「じゃ、俺は第二、第三道場覗いて来るから、掃除頑張ってね。あ、先ずは(俺の)寝床になるはなれからね」
「はいっ! (私達の)お家からお掃除しますっ!」