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二十話 因縁に決着をつけよう

 《ムドウ・テンプ》

 

 「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーッッッ!!」

 「きゃぁッ!!」


 ちっ! 闇堕ちか!!


 「女王!! どいてろ!!」


 クロナが敗北と同時に、百倍以上の巨大な黒いドラゴンへと変容し、原初の力を解放した。

 それこそが龍族の本当の姿にして、最強の形態。

 

 巨大な岩の様な鋭い爪がハクアを襲う。

 その秘められていた力は圧倒的。

 ハクアが稀に振るう力もそうだが、クロナの眠っていたドラゴンの力も計り知れない。

 まるで……深い、深い、深い、深淵を覗いている様な……


 今のハクアにアレは対処出来ないッ!!


 「モード・ファイナル!! ハクアぁあああああああーーッ!!」

 「お師匠様ッ♪」


 《爆砕拳》!!


 邪神の森を半壊させた時以上の爆発で、クロナの狂爪を殴りつけた。


 グギリ……ッッ!


 「ぐぅッ!!」


 右腕が折れた……ッッ!!

 けど……ッ!

 攻撃は反らせた。


 すぐに反転し、ハクアを抱えて、距離をとる。


 「ハクアッ!!」

 「ひゃん(恍惚)♪」


 ……変な声を出すんじゃねぇーよ。


 「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


 そんな俺とハクアを狙って、《龍の息吹》で追い討ち……

 黒い炎が退路を塞ぐ……


 「チッ!」


 魔法を砕く《魔砕拳》で殴り飛ばすッ!!


 「お師匠様~。その攻撃は寿命を刈り取るそうですよー?」


 ……のは辞めて、回避する。

 その間に、ギュッとハクアが首に腕を回して来て……


 「お師匠様♪ お師匠様♪ 私、いま、幸せですぅ~~っ♪」

 「……黙ってろ」


 俺は今、死にかけてるんだよ!!


 「はぅぅ~~♪ では、お師匠様のお・カ・ラ・ダ♪ 堪能させてもらいます~~」

 「……」


 死の炎が迫る中、ハクアは小さい身体をうねうね動かして絡み付いて来る。

 ……あっ! ソコはだめぇえ。


 「はぁ♪ お師匠様♪ 私、優勝しました♪ ご褒美貰って良いですかぁ~?」

 「そんなん! 後でだよ!!」


 龍の息吹が治まったのを見て、

 ハクアが、ふりふり振っている、ぷりぷりなお尻を掴んで、地面に叩き付ける。

 ……付き合ってらない。


 「ひゃん♪ ステキ(恍惚)」

 「お前……」


 前々から思ったけど、ハクアって……どM?

 まあ、良いか。

 それより……


 「クロナさんを助けるのですか?」

 「女王!!」


 女王が戦乙女の鎧を纏って、俺の横に並んでいた。

 その後ろには、数千の王国騎士。

 近くにいた兵をかき集めたのか?

 なんにせよ……


 「馬鹿! 下がらせろ!」

 

 ドラゴンに堕ちたクロナの相手になる訳がない。

 ファイナル・モード……戦闘力一万の全力攻撃で、俺の腕が折れたのだ。

 単純にクロナの戦闘力は一万以上……いや、この感じは、戦闘力百万の龍神以上。


 「いえ、ちょうど良いので、間引きます」

 「へっ?」


 俺だけに聞こえる声でつぶやいた女王は、腰の儀礼剣を抜いて頭上に掲げると。


 「誇り高き騎士達よ! コレは国災であるッッ! この私、イリス・フィーリルアと共にかの邪龍を討伐せしめ給え!!」

 「「「「「うおおおおおおおおおおおおーーッ!!」」」」」


 騎士達を激で煽る。

 民からも、騎士からも、人望が厚く、誰よりも美しく魅力的な女王の激で高揚した騎士達が、我先にとクロナへ突撃していく。


 そして……

 

 「「「「「ぎぁあああーーッ!!」」」」」

 「「「「「ウギァアアアーーッ!!」」」」」

 「「「「「ムギューーッ!!」」」」」


 虫の様にクロナに潰されていく……

 そんな、地獄の光景を作り出した女王は、スルリと俺の腕に絡み付いてきて、


 「さて。しばらく、時間稼ぎにはなるでしょう。この間に、対抗策を講じましょう」

 「……女王」


 そうだった。

 この女は、人を平気で死地に送り込む奴だった。


 「間引くって……?」

 「ふふっ。後で教えます。それよりも、クロナさんを救う方法はあるのですか?」

 「あ、ああ……あるから! クロナを殺そうとしないでよ!」

 「ふふふっ。今更、ムドウの不興を買うことはしませんよ」


 信じらんねぇーよ!

 恐ろしい。

 女王は、ハクアやクロナとは違う底知れなさがある気がする。


 「お師匠様♪ もっと私を痛め付けてくださいっ!」

 「はぁっ! では、わたくしの事も痛め付けてくださいまし!!」

 「いきなりなんなんだ!」


 俺にそんな趣味はない!!

 けど……ハクアを踏み付けて居たのは確かか……

 起こしてあげよう。


 「はぁんっ♪ お師匠様ぁんっ♪ お優しい(恍惚)」

 「……」


 下半身に頬っぺたをすりつけて来るハクアは一度無視しよう。

 こんなくだらない事をしている間に、騎士達が次々と死んでいってるし……


 でも、クロナを救うには……


 「女王……もっと時間が必要だ」

 「それは好都合です。騎士を増員させましょう」

 

 意図を察してくれた女王が、騒動に駆けつけてきた騎士を更に投入するべく、激を飛ばす。

 その時間をたっぷり使って……


 自我没頭……深く……深く……深く……

 精神を心海に沈めていく……


 無心の更に奥底へと……そして、無我の境地にたどり着く。

 それは、俺の新たなる境地モード


 人間の限界を越えた技。

 龍の涙を呑んで、龍の恩恵を手に入れ、

 蛇の血を呑んで、蛇の恩恵を手に入れた俺だから使える技。


 《アルテメット・モード・邪神》


 瞬間。

 漲る力が、右腕を再生させた。

 それは、邪神ちゃんの再生能力。

 更に腰から生え出る触手。


 「ハクア。まさか、掴まってる気? 危ないよ?」

 「今、お師匠様から離れたら駄目な気がします!! 女の感という奴です」


 何だそれ……

 まあ、良いけれど。


 「なら、落ちるなよ」

 「私は最初からお師匠様の魅力に堕ちていますよ~~」

 「可愛いなっ!」

 「~~♪」


 拳を握って騎士達を殺すクロナに向かって跳躍。

 そのスピードは、空気の壁を三つ破り、音速を超越した。


 そして、クロナの頭に掌底!


 ドンっ!


 「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーッ!?」


 一撃で、クロナを転ばせ背中を着かせた。

 更に、腰から数本の触手を伸ばして、数百メトルある巨体を拘束する。

 流石に、そう長くもたいないが……!

 

 「クロナっ! 目を覚ませ! 《闇払拳》」


 グギリッ!!


 堅いッ!!


 ハクアの奴!

 良くこんなの貫いたな!

 また、右腕がひしゃげたぞ!


 ……でも。


 クロナの闇は払った……っ!

 そのおかげで、クロナの身体が収縮して人間体に戻っていく……

 後は、クロナが自分で闇を押さえるだろう。


 「……んっ。……テンプ? ……ハッ! イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーッ!!」

 「お、おいっ! お前! まさか、わざとッ!?」


 せっかく払ってやった闇の力を、再び纏おうとする。


 「なんでだ!? なんでっ! こんな? 君は誇り高い龍だろ! 闇に堕ちるんじゃねぇーよ!」

 「馬鹿ばかバカッ!! テンプのバカッ!! 私はッ!! テンプを忘れなかったのにぃ! テンプと番いなりたかったのにぃ!」

 「……ッ!!」

 「もういい! もう誇りなんか! どうでもいい!! テンプと番いになれないならもうっ! 何もかも捨ててやるッッッ!!」


 怒りに我を忘れ、闇に堕ち。

 再びドラゴンへと変容していく。

 口から鋭い牙が生える。


 「……」


 クロナ……。

 君は……そこまで。


 「クロナっ!!」

 「……ッ!!」


 鋭い牙で噛み付いて来るクロナを抱きしめた。


 「……クロナ。ごめん」

 

 俺は、気づけなかった。

 いくら、死んでいると思っていて、姿も性格も変わっていたとしても……気づかないといけなかった。


 「戻ってきてくれ……捨てないでくれ……」


 だって、クロナは俺の夢を応援してくれた。

 厳しい龍の聖地で、唯一優しさを、癒しをくれた。

 

 「そして……クロナが、良いなら……」


 戦争で錆び付いて、尖っていた俺に、未来をくれた。

 きっと、初めて……

 

 「今からでも、番いになってくれ」


 好きになった人だった。


 「ッ!! ……良いの? テンプには……白い子が居るのに……? 私のために捨ててくれるの?」

 「っあ……いや。それは……」


 ハクアの事、忘れてた。

 女性の生殖率が低い、龍は一妻多夫が基本。

 だから……


 「やっぱり駄目なんじゃない!!」


 こうなるよね。

 でも、その違いを今、クロナに説明してわかってもらえるか?

 無理だろ。


 「駄目じゃないですッ!!」

 「ハクア?」


 そこでハクアが、クロナの腕を握った。


 「覚えていますか? 私が勝ったら、一つ言うことを聞いて貰うという勝負を」

 「今更っ! どうせ、二度とテンプに会うなとかでしょ? 解ってるわよ……だから……」

 「いえ! クロナちゃんみたいな可愛くて健気な子は、嫌でもお師匠様のハーレムの一員に為ってもらいます」

 

 は?

 いきなり何を言い出してんの?

 相手は龍だよ?


 「ハーレム?」

 「わかりやすく言えば、内縁の妻」

 「妻!!」


 クロナが目を輝かせた。

 けど……クロナが思っているのとは違う気がする。


 「もっと言えば、第二婦人」

 「婦人!!」

 

 クロナの目が飛び出した。

 けど……クロナが以下略。 

 つうか、第一婦人は誰だよ。


 「なりますか?」

 「なるわ!!」


 ……え?


 「では、誓いのキスをッッ!!」

 「(ゴクリッ)……テンプ……私はテンプの……」

 「(コソコソ)゛私はテンプの内縁の肉妻になります゛ッ!! ……です」

 「私はッ!! テンプの内縁の肉妻になるわッ!!」


 クロナが瞳を閉じて物欲しそうに顎をあげている……


 「ササ! お師匠様ッ!! キスをッ!! ねっとりと……コクのある。クロナちゃんを大人にしてくださいッ!!」

 「い、いや……ハクア。今、なんか」


 肉妻って……

 

 「良いから!!」


 良くはねぇーよ!

 詐欺じゃん。

 絶対後で怒られる。

 クロナに教えてあげないと……


 「テンプ♪♪♪」


 …この笑顔守りたい。


 ごめん、クロナ。

 君が……欲しい!!


 「クロナ……」

 

 そうして俺は、ゆっくりとクロナに口づけをした。


 むちゅ~~ッ。


 その瞬間、クロナの身体は人間に戻り、牙や羽も消えていた。

 それでも、俺は……クロナとの甘く激しいキスを辞められなかった。


 ……この後めちゃくちゃ怒られた。


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