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十九話 黒と白の闘いをしてみよう

 《クロナ・ドラゴニア》


 「……って事よ! 解ったかしら? 最初からテンプは私のモノだったのよ! 泥棒猫はそろそろ、私とテンプの物語から退場してくれないかしら?」

 「……ッ!」


 憎きハクア・アーデルに、私とテンプが如何にして出逢い、愛を誓い合ったかを教えてやったわ。

 ふふっ……口をポカンと開けちゃって、絶望しちゃったかしら?

 可愛いわね。

 でも、闘う事も出来ないなら、私の前に立たないで欲しいわ。


 「ドラゴンちゃんッ! 私たち……やっと出番が回って来ましたねっ♪」


 いきなりナニに驚いて居るのよ! 

 そんなことで喜んでるんじゃないわ。

 この話の主役は私なんだから。


 ……それよりも。


 「私をドラゴンって呼んでも良いのはテンプだけよ。

  ソッチに引く気がないなら決着をつけましょう。黒と白! どちらがテンプの番いに相応しいかをねッ!!」

 「はいッ。元々、私はそのつもりですよ。全力でお相手します」


 ハクアが拳を構えたら、ピリリと空気がひり付くのが解ったわ。

 ……流石はテンプの弟子ね。

 噛ませ犬やモブ達とは放つプレッシャーが段違いだわ。


 でもね。


 「私は……アンタを倒して、テンプを手に入れる。

  その為だけにッ! 誇りを捨てて、史上最強の神龍であるお爺ちゃまに弟子入りしたッ! 

  今の私に負ける道理はない!! 絶望に狂いながら逝きなさい!!」


 威嚇ッ!! 


 先ずはアンタが今の私と闘う器があるかを見定めてあげるわ。

 生物なら誰しも持っている本能に眠る恐怖を受けなさい!!


 「っ!! 最強……?」


 さて、どうするのかしら?

 絶対強者である龍の威嚇を受け流すことは出来ないわよ。

 龍の涙を呑んで、庇護を受けたテンプ以外はね。


 だから、アンタは独りで死の恐怖にあらがってみせなさい。

 まあ、その前に……爪の餌食にしてやるわ。


 部分龍化! 爪!!


 「私の最強の龍爪はオリハルコンと同等よ!!」

 「さいきょう……最強は!! お師匠様ですッ!!」


 立ち上がった?


 こんなにも早く、私の威嚇を乗り越えたの!?

 でも、今更、この攻撃は避けられないわ!


 「ドラゴンちゃん! 私の勝利で、お師匠様が最強だという事を教えてあげます」

 「ふんっ。下等生物風情が調子に乗るんじゃないわよ!! ハァアアアアーーッ!!」

 「お師匠様の弟子である私が負けるわけありませんよ!! ハァアアアアーーッ!!」


 私の爪とハクアの拳がぶつかり合う。


 ……馬鹿ね。

 オリハルコンと同等って言ってるでしょ?

 ミンチに為りなさい。


 グニャリ!!


 「なっ……! 私の爪が……」


 砕かれ……挙げ句……腕まで……ッ!


 「痛ぅぅーーっ!! このッ! アンタどういう拳をしてんのよ! ほんとに人間なの!?」


 なんで、オリハルコンと同等の爪を素手で割れるわけ?

 意味が解らないわ。

 化け物じゃない……


 「ふぅ……っ。終わり……ですね。決着はつきました。それでは約束通り私の言うことを一つ聞いて貰いましょう」

 「……勝手に! 終わらせてるんじゃないわよ!! 《死龍之息吹(デス・ブレス)》」

 「っ!」


 口から死属性の炎を吐く技よ。

 肺と魔力を酷使するから多様は出来ないけど……必殺技ってところね。

 でも……


 「避けなさい。その死炎はアンタの寿命を刈り取るわよ?」

 「……っ!」


 ハクアが私の助言に素直に従って炎をかわす。

 ……流石ね。


 「ドラゴンちゃんは随分と……優しいんですね」

 「正々堂々と倒さないと意味がないだけよ」

 「……コレがツンデレと言う奴ですね。お師匠様から聞いています」

 「ちっ! 違うわよ!!」

 

 やりにくいわね。

 龍の私の前で、なんで落ち着いていられるのよ!


 「では、こちらも忠告です。その腕でそれ以上闘うのは身体に良くありませんよ?」

 「……そうね」


 さっきの一撃で、私の右腕はグチャグチャに潰されている。

 赤黒い血が湯水のように流れだしていて、このままじゃ出欠多量で死んでしまう。

 このままじゃ、ね。


 「だけど、こんなもの!! 龍の生命力と治癒力があればッ! ハァアアアア!!」


 潰れた右腕をちぎり取って、魔力を集中させる事で……


 にょきにょきにょきにょき!!


 右腕を再生させた。


 「はぁ……こんなことも出来るのよ」

 「なるほど……トカゲの尻尾みたいですね」

 「ッ! 殺す」


 部分龍化!! 腕!!


 「蜂の巣にしてやるわ! 龍神式格闘術!!」


 高速百連打!!


 「ハァアアアアアアアアアアアアアアーーッ!!」

 「ッ! この型は……ッ!!」

 

 連激を受けたハクアが吹き飛ぶ……けど!

 

 「まだよ!!」


 私をトカゲと並べた恥辱の罪を受けなさい!


 部分龍化 脚!!


 「龍神式格闘術 《四肢死龍連打(デス・バーニング)》」


 龍族は龍化により先頭能力を倍増する。

 通常、ドラゴンに堕ちないように、身体を龍化させられるのは一部だけだけど……

 私は……私だけは!

 精神状態をコントロール出来るのよ!


 自我没頭!!


 自分の心海に沈み、波を起こさない感覚……

 無心状態による心体強化。

 コレで!!


 「部分龍化!! 羽!!」


 私はいくらでも同時に龍化出来る!!


 囃した羽で、羽ばたいて空を飛び交いながら、龍神式格闘術をハクアの身体に撃ち込んでいく。

 そして、息切れする前に留めの一撃。


 部分龍化。尻尾!!


 上空、百メトルからの地球落とし!!


 ハクアを闘議場の舞台を割る威力で撃墜してやったわ。

 終わりね。


 粉塵が舞う中をゆっくりと降下しながら……


 ブオン!!


 羽ばたきで煙りを吹き飛ばす。 


 「なっ!」


 まだ、全身をボロボロにしながらも、ハクアは立っていた……

 そして……私を見上げて……


 「狡いですッ!! 狡いです!! 卑怯です!!」


 地団打を踏んだ……

 狡いって……何がよ!!


 「空を飛ぶことかしら? それは羽を持っていない下等な人間が悪いんじゃない。

  ああっ! そういえば人間は自分と同じじゃないモノを忌むのだったわね。


  平等化が美しいと勘違いしているのね。

  個性を、自我を、個人の価値観を、消すことが統制なのだものね。

  憐れね。

  本当は自分が他より劣っていることを気付きたくないだけでしょ?


  だから、何時まで経っても人間は下等生物なのよ!

  私の愛しいダーリンを、くだらない人間の世界から救い出してあげるわ」


 テンプを孤独から救えるのは私だけなんだから。


 「違いますッ!!」

 「……えっ!」


 気付いた時には、背中に掌底を入れられていた。

 跳躍したハクアによって……


 「空なんて飛べなくても、跳べば良いんです」

 「ぐっ!」


 無茶苦茶な理論ね。

 でも、油断した。

 この子は、私のオリハルコン級の爪を砕いた化け物だったわ。


 何より、テンプの教えを受けている。

 テンプとずっと一緒にいた……


 「嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ーーッ!! 狡いのはッ! アンタの方じゃない!!」

 「ッ!!」


 空中で受け身を取って、反転。

 龍神式格闘術を叩き込む。


 死ねい!!


 「……怒りに呑まれては、駄目じゃないんですか?」

 「はッ!」


 そうだった……!!

 つい、冷静さを失ってしまった。


 自我没頭による心体強化が……切れる!!

 

 「クッ!」


 龍化解除!


 一度、着地。

 精神統一。

 再び、自我没頭!!


 「その技は……お師匠様の技です! お師匠様が私には教えてくれなかった技です!! なんで使えるんですか!」


 ああ、狡いって……

 そういうことね。


 「ふんっ。この技は、テンプが龍闘術を応用し生み出した技よ。

  他の龍は、この技を邪道だ、誇りがないと言うけれど。

  テンプの番いになる私にだけは関係ないの」


 番いの技が誇れないものの訳がないからね。

 

 「狡いですっ! 私にも教えてください!!」

 「コレはあくまで龍族の技。人間の……いえ。化け物のアンタが使える技じゃなくてよ!」


 もう……油断しない。

 全力でいくわ。


 《全身龍化(ドラゴン・フォース)》!! 


 「グオオオオオオオオオオオオオオオオーーッ!!」


 人間の形と理性を保ったままで龍の力を引き出す。

 源祖の力の解放。


 コレが私の全力!!

 この状態の私は、お爺ちゃまよりも強いのよ!


 それだけ、龍化のリスクは高いから、速攻でキメる!


 「……ドラゴンちゃんの闘気。凄いです。お師匠様の言う通りでした。私より……」

 「今更、謝っても……許さないわ!!」

 

 虫のように潰す!!


 「それでも!! 負けられないッ!! 負けたらお師匠様と一緒にいられない!! そんなの! そんなの嫌なんですぅーー!!」

 

 ぞくり……


 え……?

 今のは本能的な怯え?

 龍である私が?


 「負けない! 負けない! 負けたくない!! 私は負けたくない!! お師匠様の弟子でいたい!!」


 そんなこと有り得ない。

 私は最強の龍なんだから!!


 「グオオオオオオオオオオオオオオオオーーッ!!」

 「ハァアアアアアアアアアアアアアアアーーッ!!」


 お互いの拳がぶつかり合い……

 そして……


 「ぐふっ……。アレ? ……なんで、私の腕が……ないの?」

 「ハァ……ハァ……ハァ……私の勝ちです。ドラゴン……いえ、クロナちゃん」


 ハクアの腕が私のお腹を貫いて……いた。

 つまり……


 「私の負け? ……違う! コレくらいまだ!」

 「…負けです。足元を……」

 「ッ!」

 

 立っている場所は、舞台の外だった。

 場外……まごうことなき敗北。


 「じゃあ……私は、テンプの番いになれない……の?」

 

 その事実に……眼球が熱を放ち。

 涙がポロポロ零れていく。


 「いやぁ……」


 龍達の死骸の山の上で目覚めた時。

 お父様も、お母様も、お爺ちゃまの記憶すら曖昧だった。

 でも、テンプの事だけは全て覚えていた。

 

 戦争が終わったらテンプと番いになる。

 私は独りじゃない。

 それが……それだけが……私にある全てだった。

 それなのに……


 「イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーッ」

 「ッ!!」

 

 私は負けた。

 そして、全てを失った。

 ならもう……誇りなんか……要らない!!


 「嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ーーッ!!」

 「ーーッ!!」


 全部要らない。

 記憶も、理性も、何もかも……ドラゴンに堕ちて捨てやる!


 薄れていく感情……理性……誇り……記憶


 大切だった……全てが消えていく。

 でも、それが、救いだから。

 

 「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーッ!!」


 そうして私はドラゴンに堕ちた。


 


  

  


 



 


 





 





 

 


 




 


 


 




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