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一話 魔王を倒した報酬を貰おう!

 「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーっ! 馬鹿な......! 世が......負けるとは......ぐふっ」


 魔王の身体が粒子となって消え去り、ようやく三年続いた戦いが終わった。

 今、生きてたっているのは数人。魔王との最期の戦いに挑んだ戦士は殆ど死んだ。


 それでも俺は、魔王を倒した事に歓喜の雄叫びをあげた。


 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーっ! やった! やったぞ! ついに! 終わったんだ、ハハ、生き残ってやったぞおお!! コンチキショー!」


 何人もの仲間が死んでいるのに、不謹慎だと思いたい奴は思えば言い。

 ここで喜ぶために俺は戦った。戦ってきた。

 叫ぶ、声高々に! 積年の思いを混めて!


 「よっしゃぁああーーっ!! 魔王を倒した報酬で、これから先の人生、一生遊んで暮らせるぞぉおおおおい! やっほぉおおーーっい」

 「「「「......(不謹慎だろ!)」」」」


 何故か、魔王を倒した英雄(オレ)に対しての視線が痛かった......

 


 ......三年前。

 突如、人口百万人の魔法の国フィーリルア王国に、闇の軍勢を率いた魔王ダムドールが侵略してきた。


 その時、十七歳と若かかった俺は、若いという理由だけで、

 魔王軍に対抗するために設立された、フィーリルア王国軍に徴兵された。


 その時の俺はフィーリルア王国南端の人口百人にも満たない、《小さな》農村の一人息子だった。

 夢は、悠々自適に平和で幸せに過ごせればいいだけ! という、極々《小さな》ものだった。


 それなのに! 俺のそんな《小さな》夢は、徴兵という残酷な現実に壊された。

 だけどその時、俺は思った。


 ......こうなったらもう仕方が無い!


 『絶対。生き残って、沢山の美女を囲ってハレムでウハウハ、一生遊んで暮らせる程の恩賞を沢山貰ってやる!』


 と。


 そうして、三年間、自分を殺して闘いつづけた。

 その思いだけで数えきれないほどの死線をくぐり抜け、更に自己流で己を鍛えて鍛えて鍛えまくった。

 

 気づけば、人類最強の闘士と言われるようになっていて、

 魔王との最期の戦いで最前線で戦えと女王から直々に王命された時には、


 ふざんけな! 殺す気かあのクソ女王ぉおおおおおお!! と決戦直前まで、思ってたりもした。


 が、もう、そんなことはどうでもいい!


 だって魔王を倒せちゃったからね♪

 終わりよければ全て良しっていうよね。


 ……数日後。


 魔王との激戦で消耗した体力を、充分以上に休息を取り回復した俺は、

 フィーリルア王宮の女王の前に召喚されていた。


 《女王の間》と言われるその場所は、レッドカーペットが女王が腰掛ける玉座まで真っ直ぐ引かれて、

 そのレッドカーペットの両脇には、ズラッと騎士団長クラスの熟練の騎士達が何人も直立不動で立っていた。


 女王は、金の髪で金の瞳。フィーリルア王族伝統的な血筋が色濃く出ている齢二十二のフィーリルア王国一美しい淑女だった。


 厳粛な空気が漂う中、至って平静に女王に挨拶する。


 「イリス女王陛下、ムドウ・テンプ。只今、馳せ参じました」


 相手は目上の人なので、敬語を使う。

 最敬礼で敬礼し、なんなら気障な騎士らしく腕を取ってキスしてやろうかとしたら、女王に嫌な顔されたので素直に辞める。


 別に、女王に敬意はない。


 むしろ、戦争中いちいち俺を死地に送り込むクソババァ! と思ってる。

 

 では、何故こんなにも恭しく頭を垂れてやっているかといえば、答えは単純。

 今から、魔王討伐の恩賞を貰えるから。


 ……やっと夢が叶う。


 事前の自主調査では、魔王戦に参加した一介の騎士でさえ、一生遊んで暮らせるだけのお金を貰っていた。

 ならだ、魔王を倒した俺は、もう、ウッハウッハだよね? 

 これで、本当に夢の悠々自適な生活を手に入れることができる。


 その為になら頭くらい、いくらでも下げるし、

 クソ女王と思っていても敬語ぐらい、いくらでも使う。


 俺の挨拶を聴いた女王は、ニコリと意味深な微笑みを浮かべて口を開いた。


 「良く来てくれましたね。ムドウ。陰で私のことを『クソババァ』と呼んでいると、聴いていたので、来てくれないかと思いましたよ?」

 「......ま、まさか。麗しのイリス女王陛下に喚ばれて来ないわけが無いじゃないですか! ははは......ははは......ぁ」


 ......あれ? 何処から漏れたんだろ? 人前では言わないようにしていたのに。


 女王がやはり、油断できない何かを持っている気がして、背中にドロドロの冷や汗をかいていると、その嫌な空気を破るようにドーン! と、閉まっていた扉が開いた。


 「ティンポ様!!」


 タタタタタッ......と、軽快に女王の一人娘である、六歳の少々お転婆な王女アリスが駆けてきて、そのまま鳩尾に突撃(ダイブ)し抱き着いた。


 グホッ!


 「お久しぶりです。ティンポ様~! ず~っと、お会いしたくて、アリスは、再開のこの刻を、今か今かと、待ちくたびれていましたんですよ?」

 「待ちくたびれちゃったの!? 待ちわびてたんじゃなくて!? それと、俺はムドウ・テンプ......ティンポだといかがわしい名前っぽいからね」

 「はい。くたびれちゃいました! クタクタのヘナヘナですよ? ふふ、ティンポ様。もう闘いが終わったのですから、約束通り、このアリスと結婚して、もう何処にも行かないでくださいませ!」

 「えっ? そんな約束したっけ?」

 「してませんでしたか? では今しましょう。はい、しましたね? では!」


 ぐりぐりと何の拷問なのか、溝内を頭で圧迫し続けるアリス王女とは、

 一度、魔王軍幹部に誘拐された時、イリス女王に泣きながら頼まれて、

 単身でアジトに乗り込み助け出したことがある。

 

 その時からアリスは多分、好きなんだろう......


 ......溝内をぐりぐり拷問するのが。


 今からSっ気満載だと思うと将来が思いやられるが、

 これから一人、快適に自堕落に生きる俺には関係の無いことだよね?


 とりあえず、溝内が痛いのでアリスを抱き上げると、顔を赤くして静かになった。

 

 「そんな......っ、ティンポ様からなんて~~っ」

 「あらあら、まあまあ、ふふふ、アリスったら、甘えん坊さんですね?」


 そんなアリスに、裏の無い母親の優しい視線を向けているイリスに、俺は本命をさりげなく聞いてみた。


 「それで、......女王陛下。今日、喚ばれた要件は......?」

 「ああっ! そうでした。そうでした! アリスの可愛さに忘れてしまいそうでした。貴方には、魔王討伐の恩賞を授けたいと思っていたのです」


 あっぶね!

 何、一番大事な事忘れそうになってるんだよ!

 ふざけんなよ! 俺が!

 この国に、と言うか女王の為にどれだけ働いてやったと思ってるんだ! 

 ここで忘れやがったらこの国滅ぼすからな!

 

 と、天然なのか狙っているのか、わからないイリスの言葉に冷や汗をかいていると、

 イリスは......


 「が、魔王討伐の恩賞を我が国の騎士達に振る舞ったせいでムドウに渡す分がなくなってしまいました。誠に申し訳ありません」

 「すっからかんです。ティンポ様。その代わりにアリスのこの身を捧げます!!」

 「......」


 てへぺろ。


 年甲斐も考えずに舌を短く出してかわいこぶる女王の姿を、アリス王女には見せないように隠しつつ、

 イリス女王の言った言葉の意味をかみ砕く。


 金が無い......?

 あれ? 嘘......だよね?

 マジでアリス王女と結婚するのが報酬なの!? 

 ふざけんなよ? 俺は静かな場所で、悠々自適に遊んで暮らしたいんだ!

 誰が王族と結婚したいといったんだ!


 ちょっと涙目になりながらイリス女王を見ると、女王は解ってくれたように、コクりとうなづいてくれた。


 「ですので、ムドウには、金銭ではなく別の形で恩賞を贈呈致します」


 ......金銭が良いんだけど? 


 「アリス王女はいらないよ?」

 「はい。ムドウにアリスはあげません。勿体ないですから、それより貴方は、ここから北に大きくそびえる、修練山をご存知ですよね?」

 「うん。......まだ新兵だった頃、戦闘訓練した標高五千メトル級の山だよね? 確か、今は......狂暴な魔獣の巣窟になってて立入禁止指定を受けてるんじゃなかったっけ?」

 「ちっ! 余計なことまで......」


 金銭が貰えないと聞いたことが余りにショックだったので、女王に対して敬語も使わず答えていたが、別に俺は女王に忠誠を誓った騎士でもないので問題はなかった。


 というか、何度も命を救ったこともあるし、俺と女王は何時も戦友みたいに気楽に話してきた。

 ......何より金を払えない女王に敬意の欠片も浮かばない。


 「って! 舌打ち!? 女王! 今。世界を救ったこの俺に舌打ちしたの?」

 

 感謝される覚えや謝罪される覚えはあっても、舌打ちされる覚えは無いので、女王に一歩詰めより追求すると......


 「......知って居るなら話が早いです。ムドウには、魔王討伐の恩賞金の代わりとして、修練山の地をを丸ごと与えます」

 「舌打ちに関してはスルー!? いやそれより、そこ狂暴な魔獣が住み着いてるんだけど......」

 「既に修練山はムドウに贈呈しため、そこで事件事故があったとしても当局は一切関与致しません(キッパリ)」

 「いや、そんなテンプレ塩対応付きで、事故物件渡されても......金は? 俺、少しくらいなら待つよ?」


 決定事項だと言うように、イリス女王は微笑み一つせずに、まるで物にでも話しているかのように淡々と話を進めていく。

 ダメだ。こういうときのイリス女王は何言っても聞いてくれない。

 

 初めての戦場での撤退戦のとき俺達の部隊に、捨てごまと言う名のしんがりを命じた時と同じ目をしている。

 あの時はマジで死ぬかと思ったよ。


 「修練山の中腹には、修練寺という昔、修行僧が修行していた寺があります。そこで、ムドウには、《師範》の地位を与え、新たな流派《ムドウ流》を設立し開祖となることを認めましょう」

 「女王......もう素で良いから、分かりやすくかみ砕いてくんないかな?」


 女王の固く難しい言葉の羅列に頭が痛くなってきたのと、既に式典という空気では無いので、お互いに他人行儀は辞めてもらう。


 「では、コホン......つまりは、魔王を倒したその力と技を広めやがれ! というこです」

 「......お金は?」

 「弟子を取って自分で稼ぎやがれ! ということです」

 「......命懸けで働いた報酬を、働いて稼げと!! 色々間違って気がするんだけど」


 世界を救った俺に対する余りの仕打ちに、暫く言葉を失ってから聞いてみる。


 「ねえ? 俺になんか恨みでもあんの?」

 「これでも善処したほうですよ? 貴方の普段の言動と、魔王討伐後に叫んだという、不謹慎な上に悍ましい欲望を叶えて頂く訳には行かないのです。いい加減、最強の英雄としての自覚を持っていただけませんか? そんな性格で無ければ何時でもアリスをあげてもいいのですよ?」

 「うぐ~っ」

 

 理路整然とイリス女王に諭されたことで、言い返す言葉も無くなってしまった。

 なんだかんだ、慈悲深いイリス女王には、戦争中、貧しく餓死しそうだった家族を含めた故郷の人達を無償で救って貰った事もある。

 

 だから、武力をかざして何かをするつもりは無かった。

 

 「分かったよ。イリス女王には母を看取って貰った恩があるし......大人しく修練山に行くよ」

 「ムドウ......私は......貴方を......」

 「辞めてくれ!」


 イリス女王から、暖かい視線で見つめられ、触らそうになったが、俺はそれをはたきおとした。


 「......すまない」


 魔王を倒した後に言った事は、俺の本心で夢。

 一生遊んで暮らせる金は手に入らなかったけど、場所は手に入った。


 「俺は絶対に働きたく無いんだ!」

 「アリス。クズが移ります。こちらにきなさい」

 「いや~っ! アリスはティンポ様と遊びたいんだもんっ!」


 可愛い娘をはなせ! と俺をゴミを見る目で見てくる女王の鋭い眼光に負けて、

 引っ付いて離れないアリスを無理矢理、引きはがしてイリス女王渡してから背を向ける。


 「じゃあ女王陛下......俺は行きますね」

 「はい。また何時でも、アリスに会いに来てくださいませ......」

 「ティンポ様~っ置いていかないでください~!! ティンポ様~!! また、ティンポ様のティンポ様がヘナヘナになってしまいます~!」

 「俺はテンプだからね! ヘナヘナにならないからね! ガチガチだから!」


 ......ムドウ・テンプが去った後。女王は思い出した様につぶやいた。


 「あ、イケませんわ。ムドウに伝えるのをすっかり忘れていました。既に魔王討伐の大英雄ムドウに教え乞えると、告知していることを......ふふふ、希望者は万を超えるでしょう。弟子入りを理不尽に断れば暴動が起きるかも知れませんね......」

 「アリスもティンポ様の弟子になります。そしてティンポ様をお世話します」

 「......その前に、淑女の嗜みを勉強しましょうね」


 女王は企てが成功した子供のように笑っていた……。

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