十八話 黒ロリとの因縁を知ってみよう
《二年前》
白龍クロナ・ドラゴニアによって命を救われた俺は、龍族の聖地で目を覚ました。
……龍神ラグナ・ロック様に出逢ったのはそんな時だった。
色々な事や理由があったが結界的に、聖域で龍闘術を叩き込まれることになった。
朝から晩までみっちりと。
……無理やり。
もちろん、龍族の技なんて人間だった俺には習得出来るわけもなく……
人類では既に最強の部類に居たはずの俺が、龍たちとの組み手ではスダボロにされ、
惨めで、辛く、厳しい時間が続いた。
毎日の黄昏時、天真爛漫なクロナとの甘く短い逢瀬の時間が唯一無二の心の癒しだった。
が、再び修練に戻ると、若い雄龍たちの嫉妬を受ける羽目になる。
数匹しかいなかった雌龍の中でもクロナは、別格で可愛く、血統も高潔。
そんな龍たちのアイドル的存在だったクロナが、
何処の馬の骨とも知れない下等生物に御執心と来れば嫉妬の怨心も理解は出来た(笑)。
そんな生活に慣れ始め、徐々に力もつき、組み手で雄龍たちを打ち倒せるようになってきた頃……
聖域に数万体の魔族を引き連れた《魔王ダムドール》本人が直々に侵攻してきた。
もちろん、最強の種族と高い誇りを持っていた龍たちは勇敢に戦った。
俺も先頭切って戦った。
最初は個体能力の差で気持ち良く魔族たちをキルキルしていった。
しかし、数万の魔族に対し、龍族は二百未満。
多勢に無勢、屈強なる龍族たちも、時間と共に一人……また一人と倒れていく。
見知った龍たちの死に、俺も死を覚悟し始める。
だが、残り数十体と為ったとき、龍神様が……動かないクロナの身体を手渡してきて、
「テンプはもう、逃げるのじゃ。儂らに付き合って滅ぶ必要はなかろう」
そういった。
他の龍たちもそれを肯定して来る。
「ふざけんな! ふざけんなよ! エロジジィ! お前らも! お前らが、俺をどう思ってるが知らねぇーが! 俺は仲間だと思ってるんだ!」
初めて同等に切磋琢磨出来た場所。
負ければ悔しく勝てば嬉しい。
そんな気持ちを、初めて知れた。
一人で逃げられる訳がない。
「俺達も仲間だと思ってるよ」
「っ!」
そういったのは、良くクロナを巡って突っ掛かって来ていた雄龍。
「だったら!」
「だからこそっ! だからこそだ! ムドウ!! 今は逃げてくれ! 俺達、龍の盟友であるお前が! クロナ様の……そして、俺達、龍族の仇を伐ってくれ!! わかるだろ? 俺たちはもう……引き下がれないんだ」
「っ! おい……じゃあ……まさか最初から!?」
こうするつもりだったのか?
「そうじゃ。龍族の総意でテンプだけは逃がす手筈に為っているのじゃ」
最強種族としての誇りが、龍達の退路を塞いでいた。
傲慢だが、誇りは龍にとって何よりも尊ぶもの、数ヶ月一緒に暮らした俺にはそれを否定は出来ない。
だからこそ、俺も最後まで仲間と一緒に闘いたいと思ったのだ!
……でも、言い分は痛い程わかる。
「俺は……俺は……ッ!! ……クロナ」
心臓が止まり、冷たく為っているクロナの身体を抱きしめる。
「……クロナ」
何度も死は見てきた。
人も、龍も、魔族も、簡単に死んでいく……
呆気なく失ってしまう。
俺と結婚してくれると嬉しそうにいってくれた、クロナすら……失ってしまった。
しかも、乱戦で、何時、誰に、どうやって、殺されたのかも解らない。
「クロナがのう。最後に言っていたそうじゃ。『ごめんね。でも、テンプは夢を叶えてね』と」
「ーーッ!!」
勝手に零れた涙が落ちて、クロナの瞳を濡らした。
まるでクロナが泣いているように見えた。
「クロナ。わかった。必ず叶える。そして……」
生き残っている龍たちを瞳に焼き付けて……
「必ず皆の仇も取る。このふざけた戦争を終わらせてみせる」
背を向けた。
「まて、テンプ。ワシの孫は置いて行くのじゃ」
「……解ってます」
数万の魔族達から逃げるのにクロナの遺体は邪魔になる。
全てを捨てて逃げなければ、逃げ切る事も出来ない。
「クロナ……君のことは絶対に忘れないから……死後の世界があるなら、また会おう」
……これが俺だけがたった独り生き残り、龍族が滅亡した話。
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「って感じです。だから、女王も頭を下げた方が良いですよ? 師匠はマジで容赦ないですから」
「いえ、遠慮します。君主はそう簡単に頭を下げてはいけないのです」
嘘をつけ!
この前、俺に下げてたじゃねぇーか!
まあ、女王はどうでもいい。
それよりも、
「師匠が生きていると言うことは……っ! 他の皆も!?」
「いや……ワシだけじゃ。ワシだけ生き返ったのじゃ……そのせいで、ワシもかつて程の力はない」
「生き返った!? まさか! 伝説の蘇生魔法ですか!? それならッ!」
「いや……そうじゃないのじゃ……」
師匠が言いにくそうに言葉を詰まらせ、渋い顔をする。
そして、意を決してッ!!
「あの……そろそろ、私の胸を触るのをやめて頂けませんか? ……私はテンプのモノなので」
女王が、そう言った。
まあ、女王としてはそうだよね。
俺も気分は良くない。
……でも。
「ふむ……ならばワシのモノじゃ! ムフフっ」
むちゅ~~っ。
レロレロレロレロ……
「~~っ!! ううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううーーっ!!」
龍神が……まあ、なんだ?
端的に女王の唇を奪った。
それ以上は見ないようにしたから知らん。
「嫌ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーッ!!」
女王絶叫……
本気で嫌がる姿を初めて見たかもしれない。
ご愁傷様です。
「ムドウ!! 助けて!! ムドウ!! ムドウ!!」
「減るもんじゃないし我慢してください」
相手が悪すぎる。
助けにいったら殺されかねない。
女王には、かわいそうだが人身御供に為ってもらうしかない。
「酷いっ!! 助けてくれるって! 言ったのにぃ!」
「ッ!!」
……クロナの事を思い出したせいで、その言葉には弱い。
仕方ないか。
「師匠。一妻多夫の龍族と違って人間は、一夫多妻です。俺の女王を離してくれませんか?」
「なんじゃ? それはワシに、言っておるのか?」
師匠の瞳に残酷の光が宿る。
怖ぇぇーーっ!!
でも。
「そうだ。エロジジィ! 俺は離せと言っている。
女王は俺のモノだ」
俺にも引けない時がある。
「ふむ……。テンプがそこまで言うなら……返してやろう。
ワシのお下がりじゃがな」
ホントだよ!
女王がどんどん汚れていく。
最初から人妻だから良いけどね。
「ムドウっ!!」
龍神様の腕から解放された女王が、泣きながら飛びついて来て……
むちゅう……レロレロ……レロレロ……
キスされた……
「ーーっ!?」
マジで!?
今、お前! クソジジィとしてただろ!
せめて口を濯いでこいよ!!
「~~っ!! 女王!! てめぇ!!」
「まだです!! まだまだまだまだ!! おぞけの走る気色悪い感触が!! 清めないと!」
「だったら口を濯げって! ……っ!!」
むちゅう……
「ーーっ!!」
十分後……
「ふぅ……。ムドウ……もっとキスして良いですか? 大分、落ち着きましたが、まだ気持ち悪いです」
「もう……どうでもいいけど。俺は師匠と話すから邪魔はしないで」
「はい」
とりあえず、乱れまくって居る女王を、膝に載せて腰を支え、定期的にキスで情緒の安定を計りながら、師匠との会話を進めることにした。
性に奔放な龍族の師匠は、俺が女を侍らせていても怒ることはない。
「師匠。それで? 生き返ったとは? いや……その前に、あの黒龍は『何』ですか?」
気になる事は多いが、先ずはハクアの決勝の相手の事。
あの龍は何処かおかしい。
「うむ。そうじゃな。そこからが良いじゃろう」
隠れ里も、聖地も、魔族に滅ぼされた龍族の生き残り。
それ自体は、不思議じゃないが……
「アレはクロナ・ドラゴニアじゃ。むろん。ムドウの知っているワシの孫のな」
「っ!」
師匠の言葉に一瞬、思考停止し。
「悪い冗談は辞めてください。クロナとは何もかも……」
違う。
そう、言いかけた所で……
「クロナは死龍だったのじゃ」
「……っ!!」
今度こそ完全に思考が停止した。
そんな俺にキスをしていた女王が首を傾げて、代わりに師匠と話す……
「死龍とはなんですか?」
が。
「小娘が! 喰らうぞ! 人間風情がワシに話しかけるなッ!」
威嚇した。
女王の本能に眠る、死の恐怖を呼び起こす。
女王はパニックに……
「では……ムドウ。死龍ってなんですか?」
「っ!!」
ならなかった。
逆に驚く師匠……そして、
「なるほど。ワシを前にして、テンプの庇護を信じるのか……その度胸に免じて無礼を許そう」
龍族は称賛に値する相手には、誰に対しても礼節を持つ。
……変わってない。
俺も女王のお陰で、ちょっと、落ち着けた。
キスしてあげよう。
むちゅう~~。
ハグハグ。
「女王。龍族は成龍になると、属性を身に宿すんだ。炎龍なら炎を操り、水龍なら水を操る」
だいたい、瞳や髪の色、親の属性で解るから、白いクロナは白龍だと思っていた。
いや、あのまま成長すれば恐らく白龍だったんだろう。
だけど……クロナの場合。
聖龍と邪龍の属性が混じり合い……
死んだことで生まれ変わった……いや、死に変わった。
……死龍に。
「死龍の場合。死を操る。基本的に不老不死だね」
「不老不死……っ! そんな存在が!」
と、驚きながら、恍惚とキスをして来る。
ここまでしていると、違和感がなくなって来るから不思議。
「……ああ、もちろん。龍族の長い歴史の中でも稀有な存在の筈だよ。かなりね。でも……そうか。クロナだったのか……けど、大分性格が変わったね」
「うむ。死んだことで記憶をかなり欠損したせいじゃろう。
今のアレに有るのは、テンプとの約束……だけらしい」
「……約束?」
そういえば、確かにそんなことをクロナは言っていた。
支離滅裂かと思ったけど……
「ワシを復活させたのは、二年間。独立の儀をするためじゃ。龍族の雌は儀式をせねば異種族と交わる事が出来ぬ掟だからのう」
「二年間……そうか……クロナ。君は……まだ」
俺と結婚しようとしてくれてたのか。
他の全てを忘れても、それだけは覚えてくれて居たのか。
俺が迎えに行くのを待っていてくれたのか……
そして、何時まで経っても現れない事に、痺れを切らして会いに来てくれた。
そこでハクアとアリスを見て怒ったのか……
全て納得し、
視線を闘儀場に向けると、舞台の上でハクアとクロナが向き合っていた。
カーン。
鐘の音がなり、試合が始まってしまう。
こうなったら、俺は最後まで二人の闘いを見なければいけないんだろう。
かつて弟子にすると約束した少女と
かつて番いにすると約束した少女の闘いを……