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十七話 観戦してみよう

 ハクアはアマチュア格闘大会を快調に勝ち進み、準決勝。

 肩を回し、膝を屈伸させながら、次の試合に向けて準備運動している。

 その姿がラブリー。


 「まさか、ここまで無傷とは……無双……の一言ですね」

 「当たり前だ。この俺、ムドウ・テンプが指導したんだから」


 格闘技場を見渡せる貴賓室で、ベタベタ絡み付いてうっとりしている女王。

 気にしたら負けだ。

 ……胸の先端を弄るのは辞めさせる。


 「でも、次の大戦相手は、王国式格闘術を弱冠十二歳で免許皆伝まで納めた天才モーブ君です」

 「モブ君?」

 「ふふふっ。そうですね」

 「……」


 意味深。

 突っ込んだらいけない気がするから無視。


 「試合が始まりますね」

 「さて……」


 失礼な事を言ったが王国式格闘術免許皆伝なら、モブ君はアマチュアのレベルにない。

 王国騎士クラス……単純な戦闘力は百を越えてるはず。

 十二歳なら、確かに天才といっていい。


 ……俺が十二歳の時より断然強い。

 それに……


 カーン♪


 ベルの音がなり試合開始。

 直後、モブ君が拳と足に炎を纏った。


 「炎魔法……か」

 「……ですね」


 闘いにおいて、魔法は戦闘力を凌駕する。

 通常、ハクアの戦闘力は親バカ評価で二百程度……


 「モブ君がアレだけ魔法を使いこなせるなら、ハクアに勝つのも十分、射程範囲内だろう……」

 「モーブ君です」

 「そうだった」


 白髪のハクアに魔法は使えない。

 これは……厳しいかも……


 ハクアも構えをとり、拳を握る。

 そして……


 『ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーッ!!』


 大音響の一喝。

 その凄まじい音量は、数十メトル離れている貴賓室の(クリスタル)が割れるほどだった。


 俺は咄嗟に、女王と自分の耳を塞いで鼓膜を護ったが……

 それを出来なかった観客達は耳を抑えてのたうち回っている。

 もちろん、一番の被害者はモブ君。

 のたうち回る事もできず、鼓膜から血を流し失神している。


 ……阿鼻叫喚の地獄。

 そんな状況を作り出したハクアは、モブ君を舞台から落として詰まらなそうに立ち去っていく。


 「ムドウ……ハクアさんは何者なんですか?」

 「……俺の可愛い一番弟子だよ」


 暫く、組み手の相手をしていなかったが……想像以上に強くなっている。

 戦闘力も三桁後半……位かも。


 「能力もそうですが……何より、驚くべきは柔軟な適用力ですね。

  炎を纏う相手に声で威嚇。炎に触れずに倒してしまいました。

  実は、あの炎には麻痺効果があったんですよ?」

 

 流石は女王。

 冷静に分析している。

 そう、ハクアに千人組み手をさせているのも、魔獣の森にほうり込んだのも、俺があんまり組み手をしないのも、誰が、相手でも闘える汎用性を付けさせる為。


 でも、


 「コレは……まずいな」

 「……何が不満なんですか?」

 「ハクアが予想以上に強すぎる」

 「……それの何がまずいのですか?」


 女王が、手足を絡ませながら神妙に聞いてくる。

 ……神妙にするなら離れて欲しい。


 「今は問題ないよ……」

 

 ただ、ちょっとハクアに油断するなと忠告したことを後悔してきた。

 ハクアが、アレだけ強いなら、油断して貰わないとその内、死人が出る。

 可愛い弟子が人殺しを淡々とする殺人マッシーン!! 

 に、なってほしくないから、そろそろ手加減を教えないといけない。


 でも……コレばっかりは、邪神ちゃんや俺では教えられない。

 今のハクアに必要なもの、

 それは、


 「好敵手……ハクアの隣を歩いてあげられる人がいないとな」

 「ライバルですか?」


 それもできれば、ハクアと歳が離れてないほうが良い。


 「見下さず、見上げず、勝てば歓喜し、負ければ悔恨が(つの)る。そんな相手」

 「ムドウにはいたのですか?」

 「……」


 問われ……

 過去を振り返り……

 そして……


 イリス女王の唇を強引に奪ってやった。


 「う~っ!!」

 「五月蝿い」


 何時か、この小綺麗な唇を汚してやりたかったから気分がスカッとした。

 無防備な女王が悪い。

 

 「最低っです」

 「愛人に成りたいって言ってた奴が何を言う」

 「ではっ!」


 言葉と裏腹に少し嬉しそうなのがムカつくな。


 「俺だけのものになれ」

 「悦んで」


 ……ん?

 

 「それで、ムドウにはいたのですか? ライバルは」

 

 あれれ?

 話を戻すのかよ。


 「……俺の話なんか暗くて重いだけで、詰まらないから良いんだよ。

  話を逸らした事を察してくれ」


 誰得って話だ。

 可愛いロリの過去ならぎりぎり許せても、

 俺の過去なんか誰も望んでない。

 みっちりやるなら外伝だね。


 「そうですか……でも、逸らした際に、私を口説いた事は忘れないでくださいませ」

 「……っあ!」

 「ふふふっ。ムドウだけのモノに成りますよ?」


 ぐいぐいっと身体を寄せて来る。


 めんどくせぇ……

 まあ良いや、なんであれ、さっきの女王の言葉は刺さった。

 一度くらい、信じてみよう。

 もし、浮気したら捨てれば良いし。

 何より、人妻の話も、そろそろ限界……これ以上引っ張りたくない。


 「それより女王……次の試合が、強すぎるハクアの孤独を埋めてくれる、ライバルになれるかも知れない、龍族の女の子ですよ」

 「龍族……!? 生き残りが居るのですか!」

 「俺も、驚いたけど、いたんだよ。やけに俺に殺意を抱いてる様だけど……」


 当たり前だけど女王には龍族が滅んだ経緯を説明してある。

 だから、驚くのは当然。


 その龍族の少女が舞台に上がった。

 

 「コレまでは、ハクアさんの試合と被って見られなかった人ですね。

  成績は……ハクアさん同様、ここまで一撃必殺で進んで来ているようですね」


 女王が、スコアブックを見ながら教えてくれる。 


 「当然だろうね。開始前、ハクアがあの()だけは意識していた。

  それに……」

 「それに? なんですか?」

 「いや……もう少し、闘う所を見ないとなんとも言えない」


 あの龍の闘い方には違和感がある。

 もし、俺が感じている違和感が正しいとするならば……


 「対戦相手は、強豪流派として有名な、天心無心流『師範代』に上り詰めたカマーセ・イヌ君ですね」

 「噛ませ犬?」

 「ふふふっ。そうですね」


 女王の微笑みにはやっぱり、深く追求しないで置く。

 

 「天心無心流って言ったら!」

 「はい……王国最強の流派ですね」

 「しらんけど」

 「ふふふっ。ムドウらしいですね」 


 カーン。


 そこで、試合開始の鐘がなる。

 カマーセ・イヌと、ドラゴン・ガールが向き合って……


 『なんで! 知らないのよ! これじゃ噛ませ犬にもならないじゃない! むきーっ!』


 ギロリとドラゴン・ガールが睨んできた。

 俺を……


 「何やら、荒れている様ですが……」

 「龍族は耳が良いからね。誰か悪口でも言ったんじゃん? ツルペタ・ドラゴンとか」

 『殺す』


 龍族にとって、闇に堕ちたドラゴンと呼ばれるだけでも、屈辱的なのに、更につるぺたなんて言った日にはどうなるか解らない。

 そんなことも知らない人が居るのかな。

 俺は、聞こえないように言ってるけど。


 「でも、ロリコンのムドウには、ツルペタなのは御褒美ではないですか?」

 「まあね。ロリコンじゃないけど、ツルペタは大好きだよ」

 『~~♪♪』

 「それがロリコンですね」

 

 違げーっていってんだろ!!

 さっきお前にキスして証明しただろうが!


 そんこんなしている間に、試合は進む。


 『悪いけど……アンタには噛ませイヌに為ってもらうわ』

 「僕が、噛ませ犬? 有り得ないね」

 『ふふぅ~ん。冗談は顔と名前と存在だけにしたほうがいいわよ?』

 「それって僕を完全否定してるじゃないか!」


 何か喋ってるけど、聴こえないから、晴れて俺のモノになった女王とイチャつきながら観戦中。

 ……そうしていると、似ているからか、アリスの事が恋しくなる。


 帰ったら襲っちゃおう♪


 『良いの? 土下座して泣き叫びながら命ごいすれば……惨めに敗北できるわよ?」

 「うるさい! 僕は最強流派師範、カマーセ・イヌだ! 君にどんな魔法があろうと僕に敗北はないんだよ!! テイヤァアアーーっ!」


 カマーセ・イヌが血を上らせながら、ドラゴン・ガールに突撃していく。

 悪くはない……気合いだ。


 『悪くない気合いね。そういう雄らしいのは嫌いじゃなくてよ? だから、私の姿を見た不敬と、私に膝着かない無礼は見逃してあげる』


 何かをボソッと呟いたドラゴン・ガールが……


 『でも、残念ね。嫁入り前の私に息をかけた蛮礼だけは許さない!! 後悔に溺れて悶えながらイキなさい!!』


 睨んだ。

 すると……


 「うっ! うああああああああああああああああああああああああああああああーーっ!!」


 噛ませ犬が発狂。

 髪を掻きむしりながら、気絶した。

 そんな噛ませ犬を、ドラゴン・ガールが……


 『私の美脚に触れられることを歓喜しなさいよ? うふふっ。次はテンプの弟子、ハクア・アーデル!』


 舞台から蹴り落とした。

 観客達も発狂し、次々と倒れていく。

 死々累々の煉獄。


 「ムドウ……今のはどんな魔法ですか?」

 

 女王も戦慄して身体を震わせている。

 ちょっと可愛いから、肩を抱いてあげた。


 「魔法を黒髪の俺に聞かれても困るけど……今のは魔法じゃないよ。

  ハクアと同じ気合いの威嚇。睨んだだけで、カーマセ・イヌ達の本能に刻み付けたんだろうね。

  ……抗えない死を」

 「噛ませ犬です」

 「そうだっけ?」


 弱肉強食の頂点に立つ龍族だからこそ、細胞に染み付いた恐怖を誘発できる。

 それに抗える戦士だけが、闘うことを初めて許される。


 「ムドウは……アレが平気なのですか? 全身の骨が心臓が触られて……根源的な恐怖」

 「まあね」


 俺は……体質的に龍族の威嚇が効かない。


 「克服するには幾つか方法があるけど……女王に出来そうなのは……」

 「……出来そうなのは?」

 「俺を信じることかな」

 「……護ってくださるんですか?」

 「まあね。俺のモノなら護るさ」

 「ふふふっ。わかりました」


 穏やかな微笑みを浮かべた女王が、ぎゅ~っと抱き着いて来る。

 人妻も捨てたもんじゃないかもな。


 「さて……」


 奇しくもハクアと似た威嚇で勝ち進んだ。

 ツルペタ・ドラゴン・ガール。


 「今ので、はっきりしたことがある」

 「それは……?」

 「あの龍……龍闘術を学んでる。それも最近になって……前にあったときはただの子龍だったのに……今じゃ立派な龍だ」


 かつて滅んだ龍族の技が継承されている。

 それが出来るのは龍族の最長老。

 龍神様のみ……と龍の掟になっている。

 だとすると……


 『気付いたようじゃな。テンプ』

 「っ!」

 

 貴賓室に突如響く、しわがれた声に俺の身体は恐怖で硬直する。

 喉が引き攣って声も出ない。


 ……まさか!

 いや!

 やっぱり!!


 「誰ですか! ここは立入禁止ですよっ!」


 服を乱していた女王が、一瞬で正し、公務の凛々しく美しい表情に戻って振り向くと……


 もみもみ……

 

 「おっ! べっぴん。べっぴん!! おほほほっ」

 「っ!」


 そこいた老害が女王の胸をモミしだいた。


 「極刑っ! ムドウ!! 殺しなさい!!」

 「女王!! ダメだ! 『師匠』に逆らうな!」

 「……っえ?」

 「その方は……俺の師匠にして、龍族の最長老。龍神ラグナ・ロック様なんだ。

  ……俺の百倍強い」

 「百倍っ!!」


 史上最強最悪の師匠との再会と襲来であった。

 

 

 

 


 

 


  


 





 

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