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十五話 前哨戦をしてみよう

 フィーリルア王国に到着し、ハクアの大会出場登録を済ませていると……


 「あはっ。テンプ! ……ここであったが百年目ぇ!! 殺してやるわ!! はぁぁぁッ!!」


 背後から、奇襲を受ける。

 それを、適当に捌いてから組み伏せて、俺に何の怨みがある奴だろうと顔を見ると……

 ……あ!


 「ドラゴン・ガール……か」

 「……ッ!!」


 この前、うちの可愛い邪神ちゃんをボコッた黒龍の少女だった。

 

 ズバッ!!


 ドラゴン・ガールが龍化して綺麗で逞しい羽を囃すと、俺の腕を弾いて浮き上がる。

 そして……


 「死ねぇぇぇい!!」 

 「何でぇぇ!?」


 龍族の秘技、魔力を口から放出する《龍の息吹(ドラゴン・ブレス)》を放つ。

 大会で賑わっているこの場所で、これを捌いたり、避けたりすると、死人が出る。

 ……仕方ない。


 「はぁぁぁぁーッ!!」


 武の極地……《気》

 それを、高めて声に載せて放つ、テンプの息吹(ブレス)……

 といいつつ、ただの気合いの咆哮でドラゴン・ブレスを相殺し吹き飛ばす。

 

 ついでに腕に抱えていたハクアをぶん投げて、ドラゴン・ガールを撃ち落とした。


 ゴツン。


 「「……っ!?」」


 落ちてきた二人を受け止めて、素早く人混みの少ない場所に移動する。


 「なっ! アンタァ! 今、自分の弟子を投擲武器に!?」

 「はぁぁんっ♪ 鬼畜なお師匠様ぁん♪ もっと私を傷つけてぇん♪ 出来ればこのまま師匠の慰みものにしてください」

 「……」


 瞳をハートにして、お尻をふりふり振りながら、絡みついて来るハクアに、ドラゴン・ガールがドン引きしている。

 ……その気持ちは、解らなくもない。

 取り敢えずハクアの事は無視で良いよね。

 あんまり関わりたくないと言うのが本音。


 「それで? ドラゴン・ガールは、俺にどんな怨みがあんの?」


 なんの心当たりも無いから不思議だよ。

 それに……


 「むしろ俺って、龍族にとっては、大恩人の筈だけど……誇り高い龍族がどうしてまた……?」 

 「誇り高いからよ! ムドウ・テンプ!! 龍との約束を反故にした罪! 万死に値するわ!!」

 

 ……?

 龍との約束?

 

 「なにそれって! なにそれって!! 顔してるわね! 嘘でしょ? 本当に忘れちゃったの?」

 

 ……忘れた。


 「今すぐ思い出して頭を下げれば許してあげるわよ? ほら! 私の名前を言いなさい!」

 「……君、俺に名前を名乗ったっけ?」

 「ーーッ!!」


 牙と爪を龍化して……


 「死刑よ!!」


 スラッシュ!!


 「……っ!?」


 鋭く重い良い攻撃だけど、爪や牙での攻撃は、それ以外の場所を受け止めれば問題ない。

 そして、俺と龍娘との力の差は、それが容易に出来るほど離れている。


 ……やっぱり。

 まだまだ子龍、何千年も修練を積む、雄の成龍と比べるとかなり弱い。


 「ま、鱗や爪は綺麗だけどね」

 「~~っ!」


 ……でも多分、この、子龍は龍の修練を積んでいない。

 最強種族の本能だけで、弱っているとは言え邪神ちゃんをボコる程の潜在能力を秘めている。

 その才能は、龍族の中でも稀有なもの。


 人族の枠を越えているハクアと、龍族の天才……


 「どっちも超が付くほど、美少女だし……」


 これは将来が楽しみかもね。

 ん?

  

 「ドラゴン・ガール? 顔が赤いよ? 風邪でも引いているの?」

 「うっ! 五月蝿い!!」


 グルル!!

 ……まるで野生の魔獣だね。

 って、龍族にはけして言っちゃいけないけど。


 「アンタが私を忘れたなら……もういいわ! やっぱり、弟子を倒してその座を私が貰うから!」

 「っ! ……フフフ。それは聞き捨て出来ませんね。お師匠様の愛弟子は私です。それを奪うと言うのなら! 師匠に変わって私が返り討ちにしちゃいますっ」

 「ンフフ♪ 人間の小娘に、この私が負ける道理は無くてよ」


 ズバンっ!


 再び羽を広げて羽ばたき、飛び上がる。


 「テンプ♪ また会いましょ……フフっ♪」

 「あ、待ってよ。君の目的はなんなの? あんまりおイタするなら……」

 「殺すの?」

 「……っ!」

 

 子龍の瞳が狂喜する。

 ……悍ましいと思えるほど強い……強い想い。

 それが子龍を闇に溺れさせている。


 「イイわ。テンプが私を殺すなら……私は喜んで死んであげるわ♪ んふふっ♪」

 「……君は」


 狂ってる……

 言いかけて辞める。

 その言葉を使うことを、俺の本能が拒否したから……


 「私の目的はただ一つ。テンプ。貴方の子を孕むことよ……」

 「……」

 

 妖艶な曲線のお腹を撫でながら、くすりと笑って背を向ける。


 「テンプと私で龍族を復興するのよ。んふふ。可愛い子供を沢山作りましょ? ね?」


 言って、黒い子龍は飛び去った……

 しかし、本当に……


 「お師匠様。なにやらただならぬ気配を感じましたが……あのドラゴンさんはお師匠のナニですか?」

 「さぁ……? 本気で解らん。

  確かに子龍に知り合いが居たけど……俺の知っている子龍は……黒龍じゃないし」


 今は亡き、邪龍様と聖龍様の一人娘……クロナ・ドラゴニア。

 命を救って貰ったあの子龍は、神秘的で美しい白龍だし、あそこまでとち狂って居なかった。

 比べるのも失礼だと言うもの。

 そもそも纏うオーラも別龍のオーラだし……


 俺の知っている子龍ではない……


 「それに、龍族は力が強い代わりに繁殖能力が著しく低いんだ。その上、雌龍の出生率は更に低い。あの歳の雌の子龍なら、珍しいから忘れる筈は無いんだけどね」

 「はんしょく……? しゅっせいりつ……? お師匠様。よくわかりませんよ~」


 可愛いなぁ……

 ハクアには少し、難しかったかな……


 「はんしょくってどういう意味ですか~?」

 「ん? それは子供を産むって事だよ」


 ニタリ……

 ハクアが嗤った気がした。


 「こどもって、どうやったら出来るんですか?」

 「……」

 「そういえば孕むとか言ってましたね~? 孕むって何ですか~? 私、気になります」

 「……」

 「いえいえ! 言葉で説明する手間は取らせません。どうかこの身に直接ご教授してください。ささ、ズボンお預かりしますね?」

 「……」


 取り敢えず、帯を緩めようとしてきたハクアの頭にゲンコツを入れて黙らせた。

 

 「ううう……酷いですよ~お師匠様。ちょっとした冗談ではないですか」

 「優勝したら、ハクアが泣いて嫌がっても孕ませてやるから、今は大会に集中しとけ……」

 「本当ですかー!!」

 「男に二言は無い。ただし、孕んだ子に責任は持たないから、ハクアが自立して一人で育てろよ?」

 「うふふぅ。ゲスいお師匠様ステキですぅ~。でもでもぉ~お師匠様と離れたくないので、避妊薬を飲んでも良いですか~?」


 ……好きにしろよ。

 しかし、幼いハクアの口から避妊薬……か、世も末だなぁ。

 体に悪いのにね。


 「というか、ハクア。なんか余裕そうだね? 自信あるの?」

 「ふふふ♪ 先程ザッと観てみましたが、ドラゴンさん以外はお話に為りません」


 まあ、そうだろうよ。

 所詮、アマチュア格闘大会だし……

 アレなら、何時もハクアが千人組み手していた弟子候補達の方が強い……

 というか、今のハクアは、アマチュア格闘大会に出ていいレベルじゃない。……強すぎて反則。

 と、さっきまでは思ってた、けど……


 「俺はその、ドラゴン・ガールに勝てるのかって、聞いてるんだよ?」

 「え? 勝てると思いますよ? この前だって勝てたじゃないですか~♪」

 「そう……なら良いけどね」


 確かにね……アレが彼女の本気なら……ハクアに負けはない。

 アレが本気なら……ね。


 「とにかく、油断だけはするなよ? ジャイアントキーリングは何時だって誰にだって起こるんだから……」

 「どんな相手にも全力を! ですね♪ 解っています。お師匠様は精の付くお食事でもしながら、私の勝報をお待ちしていてください」

 「う、うん……負けるなよ?」


 一抹の不安を胸に抱きながら、ハクアを置いて観客席に移る……と、警邏をしていた知り合いの騎士に会い、VIPルームに通された。 

 ……そういえば俺って世界を救った英雄だったね♪

 酷い扱いしかされてないから忘れかけてたよ。


 VIPルームは、ふかふかの椅子で格闘技場を一望でき、更に豪華な料理が、尽きる事なく運ばれて来る。

 何この高待遇?

 最高なんだけど……


 更に、更に、妖しく美しい絶世の美女の接待まで……

 ガラスのコップにワインをチョロチョロ濯いでもらい、グビッと一気に飲み干してしまう。

 すると、再び濯いでくれる。


 ぐへへへへっ。


 酔いが回り、良い気になって美女を腕に抱き、大きく柔らかい双丘を乱暴に揉みしだく……

 ……極楽。極楽。

 すると、絶世の美女の頬が赤く染まり……そっと豊満な身体をより寄せて一言。


 「ムドウ……大人の接待をしても良いですよ?」

 「マジで?」

 「フフフ。ムドウがそれを望むなら……」

 「……うおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 と、猛ったら、酔いが醒めて……

 腕に抱いている、美女の顔を初めて認識した……

 

 「って! クソババァぁあああああああああああ!?」

 「誰がクソババァですか!」


 知り合いのクソババァこと、フィーリルア王国女王、イリス・フィーリルア女王陛下だった。

 ……その胸を弄んでいたのか?

 背中にドロドロの汗を大量にかきながら、クソババァから素早く離れ土下座する。


 「酔っていたとは言え……申し訳ありません。一瞬でも美しいって思ってすみませんでしたーっ!」

 「ムドウ。貴方は誰に対して何を謝って、何を恐れて居るのですか?」


 ……え? そりゃあ……ねぇ……わかるよね?

 

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