十話 ことの顛末を話してみよう
「それで? コレはどういう事なのですか?」
フィールリア王国、《謁見の間》で不機嫌そうに玉座に座る、
イリス女王が事の顛末を聞いてくる。
......軍装束に身を包むイリス女王も凛々しくて良いけれど、
純白のドレスと黄金のティアラで着飾るイリス女王の方が優雅で俺は好きかな?
流石は世界一の美女と名高き女王。
ダリウスの話では今日から二人目の子供作りをするらしいが、羨ましいことこの上ない。
「コレとは?」
「ソレです」
そんな、ダリウスの腕を愛おしそうに抱きながらイリス女王がゴミを見る目で指差すのは......
イリス女王と張り合おうと俺の腕に絡み付いている、五歳にしか見えない女の子……《邪神ちゃん》。
そして、邪神ちゃんの腰からにょろにょろ生えている触手で無邪気に遊ぶハクア......
「ハクア!? 何してんの! やめなさい!」
「どうしてですかー? お師匠様は食べてたのにー(>_<)!!」
......食べたくて食べた訳じゃないよ。
『そうじゃ! そうじゃ! 主様。その娘の機嫌を損ねるような事を言うでない。世界が......我が滅びてしまう』
お前は黙ってろ!
バァン!!
女王が足を床に叩きつけて馬鹿でかい音を鳴らした。
......怒ってる?
「邪神ちゃん。俺に説明したことを女王にも説明して」
「主様の命とあらば仕方あるまいのう......」
邪神ちゃんはハクアを触手で遊ばせながら、死にかけた俺と邪神ちゃんで何をしたかを語り出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『お師匠様! 蛇さん! お師匠様のお口を《にゅるにゅる》している《ナニ》かで、《ジュボジュボ》するのはやめてください!』
ハクアの言葉を聞いて意識が落ち......
目を覚ますと、邪神が触手を枕にしてくれていた。
気持ち悪い......
「すまなかったな......我の血は、人間には毒だが、耐性さえあれば、どんな傷も病もたちまち治す万能薬となる」
邪神は、本当に悪気があるように声と顔を暗くしていた......
致命傷の怪我をした筈の脇腹の痛みを感じない。
触って確認するとそこにあった筈の怪我が綺麗になくなっていた......
それに......瀕死だった邪神も顔色が良くなっている。
「我は死にたくなかったのじゃ......だから、我の命の源である一番大事なヌルヌルを人間に《寄生》させた」
寄生!?
「コレにより、人間に毒である我の血も......《主様》には万能薬となる。触手と一緒に飲ませておいた」
「主様!!」
「うむ。最終手段だったからのう。主様の体内に寄生させたヌルヌルは、言わば我の心臓。その心臓を持つ主様が滅びれば、我も自然と滅びることになる」
つまり......
「一命同体じゃな」
そんな言葉は無いよ......
でもそうか......それなら俺はもう......
「うむ。主様は我と一体化したも同然。既に人間性は無いはずじゃ......我を滅ぼしたければ主様が自らの臓を潰せばよい」
そう言うことだよね......。
世界を救うために邪神と戦った......
邪神が生きていれば、邪神と共に目覚めた数億のしもべ達が、人間を滅ぼしてしまう。
蛇の森に集まっているし邪神のしもべ達だけでも、恐ろしい数だった......
イリス女王は既に国が滅んでるとも言っていた。
初志貫徹。
人間として......
何万人もの仲間を犠牲にして魔王を倒し世界を救った英雄として......
俺は自害しなければいけない。
そうじゃなきゃ......世界が滅ぶ。
「主様がそうするなら我はもう滅んでよい。我を世界で唯一赦してくれた主様がそうするならの」
「邪神......お前......。……しもべ達に人間を喰うなって言えないかよ?」
「我に尽くすしもべ達なら、可能じゃ......されど。人間の王が牝と牡で交わるなと言えばそうなると思うか?」
ここに来て......種の違い。
人間を食べることが生きる上で必要不可欠な事もある......
そういうことか。
「悪いな。邪神......。俺は、人間が平和な世界で自堕落に過ごしたいんだ。そのために闘ってきた。だから......」
「皆までゆうな。主様。我は我と互角に闘った主様に止めを刺されるのなら快い」
「そうか......」
決断。
血断。
傑断。
決まり......
「おししょさま~っ。......蛇さんとばっかり~......ズルいでしゅ~。私にも愛の営みを......むにゃむにゃ」
「ハクア......」
俺のお腹の上にぽてんとハクア寝ていた。
......小さいし軽過ぎて気がつかなかったよ。
って言うかどんな夢見てんだよ!!
と、思ったら目を覚ました。
そして、首に抱き着いて来る。
寝ぼけてる!?
「お師匠様~っ。お師匠が誰と寝ても良いですけど......最後は私と一緒に居てください......」
「......」
「私には......お師匠様しか......居ないんです......お師匠様しか要らない......です~っ」
「......」
「世界なんか、倫理なんか......どうでもいいです。英雄のお師匠様が私は嫌いです。鬼畜でクズでえっち。そんなお師匠を私は好きです~(≧∇≦)」
「っ!!」
解らないけれど......
解らないけれど!!
瞳がぼやけた......
そこから熱い雫が零れてハクアの顔に落ちる......。
「ハクア!!」
「っ! お師匠!! はっ! 私っ! もしかしてっ! この状況は! お師匠と! うふふ(恍惚)」
「ありがとう......ありがとう。ハクア」
この黒髪で生まれて、初めて......初めて!
最強じゃない俺を好きと言ってくくれた。
英雄じゃない俺を求めてくれた。
それは、あの優しい女王も......親友のダリウスも、戦友の騎士や戦士達も、力の無い俺を求めはしなかった。
でも、でも!
「ハクアは俺が......人間じゃなくても......世界を裏切る選択をしても......俺を......師匠と呼んでくれるんだね?」
「はいっ! よくわかりませんが! 私のお師匠様は、お師匠様だけですっ。お師匠がどんなにゲスくても、クズくても、鬼畜でも♪ えっちでも(恍惚) それだけは変わりません」
「ハクア......」
そういってくれる弟子が居る。
それなら俺は!
「生きなければいけない!!」
......そう決めた。
「邪神。......嫌われ者同士......一緒に生きよう」
「しゅるしゅる......あいわかった」
「名前は? あるでしょ?」
「齢五歳で封印されそのまま千年も刻が流れたのだぞ? 覚えている訳がなかろうよ」
って事は実年齢も五歳じゃね?
違うか。
「我は邪神。それ以上でもそれ以下でも無い」
「なら、《邪神ちゃん》。ハクアを喰ったりするなよ?」
「しゅるしゅるしゅるしゅる」
「その『しゅるしゅる』ってなんなの?」
「蛇語で了解した。じゃ」
なんで蛇語を使うんだよ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「生きなければいけない!! では無いです。死ななければいけませんね。死になさい! さあ!」
女王は、あの感動話を聞いても冷血だったとさ。
このクソババァーッ!
「嫌だね。世界なんか滅べば良い。知るもんか! それとも? 女王さんは。俺と......戦争でもしてみるか?」
「ッ!! 本気......では無いですよね? ふふふ......」
めっさ本気。
女王が認めないって言うなら!
生存をかけて死力を尽くして戦うだけ。
「うっ......。ではせめて、その邪神だけでも引き渡してください。処分しますので」
「言っただろ? 俺と邪神ちゃんは一命同体」
「そんな言葉はありません」
「……手なんか出させない! もちろんハクアにもね」
「ううっ......」
邪神と人類最強の二人に睨まれて、女王が腰を抜かしている。
本当は敵対はしたくないけど......それも種の違い。
生きるためには仕方ない。
「では! 一つ......一つだけ! 良いですか?」
「……何?」
ダリウスの腕を捨て俺の腕に縋り付く、あの優雅だった女王のあまりに滑稽な姿......
惨めの一言。
「世界なんかどうでもいいです! 弱肉強食。それが自然の摂理ですから!」
「あんたそれでも女王なの?」
「最悪の邪神と、最強の戦士。今やムドウは、弱肉強食のトップヒエアルキー」
『ひえあるき~? ってなんですか~お師匠様~o(^-^)o』
「つまり! ムドウ。貴方の庇護を受けれれば我が国......いえ。私の血縁者だけは護れます」
「血縁者~~~~~?」
「いえいえいえいえいえ! 嘘です嘘です嘘です嘘です。私と、イリスだけは守ると! それだけは約束してください」
女王。超必死。
必死過ぎて一人忘れてる。
「ダリウスは?」
「ダリウス? ああ! あんなゴミどうでもいいです。ムドウがその気なら、私は何時でもムドウの伴侶になりましょう」
『主様。人間の女王はクズようだの』
「お師匠様の愛人様は、愛人様ですぅ~っ。伴侶は一番弟子の私しかダメですよ~(>y<)」
うるせーよ。
「女王。別に俺は人間と敵対するつもりは無いよ」
「そうなんですか?」
そうだよ!
「女王には俺が最悪の何かに見えるかも知れないけど......俺の夢は今でも、平和な世界で自堕落に過ごすこと。それだけなんだ」
「つまり。前と変わらないと?」
「そう。そして、子持ちの人妻なんか要らないから、俺に縋り付くのそろそろやめて」
「......(五秒)。そうですか! それならそうと早く言ってくださいよ~! 勘違いしてしまったではありませんか~」
パンパンパンパン肩を叩いて来る女王。
うぜぇ......
更に、さりげなく耳元に口を寄せて......
「ムドウ。前々から言ってますが、私の第二夫人に......」
「ならねぇーよ! あんた、信用できねぇから! 俺の力が目当てなんだろ?」
「そんなことありませんよ。ムドウの不屈の闘志に私は......」
そこで女王。ダリウスの存在を思い出す。
普段は国境警邏で居ないからね?
「.....ムドウ。コチラヘ」
「なんだよ」
ダリウスの咎める視線から逃れるように、部屋の隅に連れていかれる。
自由だな~。
「私の何が不満なんですか! 世界一の美女と唄われる私の!」
「全て。とくに性格。そもそも、女なら男は心に決めた一人にしとけよ。ダリウスが好きなんだろ?」
「それは性差別ですよ! 女だって好きな男は複数出来ます。それの何がいけないんですか!」
その全てをモノにしようとするところだよ!
「ロリコン!」
「あ?」
「つまり。ムドウはロリコンと言うことですね! ハクアさんや、邪神ちゃんさんは、幼いから良くて、私は幼くないからダメなんですよね!」
「そういう問題じゃ!」
「ロリコン! ロリコン! ロリコン! 変態! もう良いですよ!」
ぺチン!
頬をビンタされた。
......やばい、殺意が湧いてきた。
女王はぷりぷり怒りながらダリウスの隣に座り、
「フラれちゃいました」
「だろうね......」
って!
ダリウス公認の口説きだったの!?
「仕方ありません。ムドウには今回の報酬として私と籍を入れて貰おうと思っていましたが......ロリコンでは……はい。仕方ありませんね。次善の報酬にしましょう」
「いや.......女王。報酬って! お金じゃないの? またなの!?」
「一度も、お金とは言ってませんよ? それに、ロリコンには無駄でしたが、世界一の美女である私と、子作りをできるんですよ? 普通なら大金払っても不可能ですよ? どうします?」
......もう。諦めろよ!
「要らない! ついでに言うと、もう土地も要らないからね?」
「今回は土地ではありませんよ? では騎士さん報酬をここへ」
『女王! 実は......コソコソ』
「.....は? 既に修練寺へ脱走した? ......見張りの騎士さんは減給ですね」
なんか、揉めてる。
報酬が脱走って......?
生き物?
珍獣とかかな?
「そうですか......。ならば仕方ありません。......ムドウ。報酬は既に貴方の所有地に居るそうです」
「ソレなんなの?」
「ソレは......………………秘密にしておきましょう。所有権は全てムドウに委譲しておきました。生かすも殺すも、売るも捌くも......ムドウ次第ですが......できればペットとしてでも可愛がってあげてください」
ペットって......
いらねぇーよ。
「価値は? 売るとどれくらいになるもの?」
「王家秘伝の子なので......億は付くと思いますよ?」
「億!?」
フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!
「ハクア! 邪神ちゃん。帰ろう」
「はいっ!」「うむ」
ウキウキしながら、部屋を出る直前。
女王の声がかかった。
「ムドウ。私は貴方を化け物とは思いませんよ? だから共になろうと誘って居るのです」
「......」
「そうですか……。この度はご尽力感謝致します。また何かあれば、力になってくれますか?」
「......俺の夢は何時だって平和な世界で、自堕落に過ごすことだよ。それが脅かされるなら......俺は何時だって拳を握る。それだけだ」
そう言い残し部屋を後にした......
......残されたイリスは、愛するダリウスに囁いた。
「ダリウス。私がムドウにフラれるのはダリウスが居るからですか?」
「っえ? それって僕を......」
「そうは言いません。......まだ」
「まだ!?」
「この際......婦人は諦めて、ハクアさんの言う通り愛人でも良いですね......ふふふっ」
「イリス。君は......ムドウとよく似てつくづくクズいね」
「そうですか? では、どうしますか?」
「僕は騎士。君は女王。だから僕は何もしない。君の好きにすると良いよ。でも......ダリウスはクズだけど......君と同じで優しい奴だよ?」
「ふふふっ。知っています」
邪神復活はこうして幕を降ろした......
《第一章 押しかけ弟子と復活の邪神 完》
一章完ってかきましたが、二章は当分書くつもりは無いので、完結にしておきます。
やっぱりね……評価低いとね。
続きはかけないのです。
その辺は、結局。
棚に並んでいる。書籍と同じですね。
つまり。ポイントが伸びたら書くので、続きが読みたいなら、ドシャドシャ
ブクマ。評価をしてください。
感想待ってまーす。