九話 師匠の代わりに闘ってみよう
「お師匠様ー! 私も交尾に混ぜてくださーい! (≧∇≦)」
おぞけの走る勘違いをしているハクアが無邪気にかけよって来る。
あら可愛い。
......あの無数の蛇の群れを越えてどうやってここまで来たんだろう。
無警戒に近づいて来るハクアに邪神の触手がうごめく。
うへぇ......気色悪い。
「なんじゃ? あの子娘は? 興ざめも良いところよ」
「待てよ......邪神......頼むから......!」
ハクアを見逃してくれ!
「うむ。皆まで言うな人間。貴様は我のしもべを闘いに巻き込まんなんだ。だから我も貴様のしもべを喰らったりせん」
「......助かる」
「生の最後にしもべと話して逝くこと赦そうぞ」
死闘という闘いで生まれたナニかが、種という壁を壊してくれた。
呆気なくて......情けない。
そんな最後だったけど、ハクアが助かるなら......良かった。
触手の隙間からペロペロ味見していた邪神がハクアに道を譲る。
「ハァ! お師匠様ッ! どうしてお怪我を!? 交尾をしてたのではないのですか?」
......まだ言ってるのか。
「ハクア......」
「はっ!? まさか、あの蛇さんに卑怯にも行為の最中にやられたんですね!」
「逃げてくれ」
「許しません! 許しません!! お師匠様を嵌めるなんて羨ましいことを! 絶対に許しません!」
聞けよ!
ハクアは傷を押さえながら、邪神を見上げる。
「蛇さん。あなたが......お師匠様を傷つけたんですね?」
「フハハハハッ! その通りだ小娘よ! 貴様が主は我が倒してやったぞ」
「倒して......犯った!?」
......それちょっと違うよ。
「フフフッ。もう良いです。もうわかりました」
寒々しい声で笑い、ノロノロと立ち上がる。
「お師匠様は蛇さんのお色気に負けたのでしょうけど......」
全身グロい触手に覆われた邪神の何処にお色気要素があるのかがわからない。
......お願いだからハクアさん。
邪神のお色気に負けたっていう勘違いはやめてよ!
末代までの恥になるから!
「私には効きません! ここから先の闘いはお師匠に変わって、私が預かります!」
「ほーう。我に挑むか。小娘。良いだろう。少し遊んでくれてやろう」
ハクアが正眼で構え、邪神も触手を動かして、戦闘態勢に入る......
......邪神さん! 邪神さん! 殺さないでよ! ハクアを殺さないでよ!
ダメだ! 口が痺れて言葉が出ない。
邪神の毒......か。
「フハハハハッ! 力の差を思い知らせてくれよう」
「ふふっ。力の差を思い知るのは蛇さんの方です! お師匠様の弟子である私が、ただの蛇さんに負ける訳はありませんよ!」
ハクアを小娘と笑う邪神と、邪神をただの蛇と笑うハクア。
......何? この混沌
先にハクアが仕掛ける。
先手必勝!
そうやって教えたからね。
「ハァアアアアアアアアアアアアアアーーッ! セイヤァアアアアアアアアアアアアアーーッ!」
気合いの篭った高速の右ストレート!
素晴らしい攻撃。
でも、受けるのは《ファイナル・モード》の全力攻撃すら防いだ、あのインチキ臭い触手。
「フハハハハハハハハハハーーッ! ぬるい! ぬるい! ぬるい......? ぬるぅうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーッ!!」
ハクアの懇親の拳は、邪神の触手を砕いた。
......え? 砕いた!?
「触手がぁああああああーーッ!! 我の触手がぁああああああーーッ!!」
ハクアが触手の一つを砕いた事により、
どくんどくん脈動していた邪神の触手に亀裂が走っていく。
「ああああああ!! 我の触手ぅううううううううううーーッ!」
邪神を覆っている触手が苦しむように暴れ回る。
「触手がぁあああああああああああああああああああいやああああああああああああああーーッ!!」
「五月蝿い......ですっ!」
そんな邪神にハクアがとどめの一撃を加えた。
それで、完全に凶悪だった触手が壊れてなかから、小さな女の子がボトンと落ちる。
女の子!?
邪神って! 中身、女の子だったの!!
「うぐっ......触手が......うううっ......触手がぁあああっ! ......はっ! 触手♪ まだあった♪(甘声)」
邪神は、悲壮感漂う表情で地面をはいずり回ってから、腰からニョロリと短い触手が生え残って居ることに気づき、嬉しそうにほお擦りをし始める。
ちょっと可愛い。
ズン!
そんな、邪神の触手をハクアが足で踏み付けた。
......容赦ねぇーな。
「暗い森のなかで隠れて、お師匠様と交尾をするのは良いんですよ? 行為中に盛り上がって怪我を負うこともあるでしょう! でも! お師匠様を誘惑し、無理矢理押し倒したことだけは許せません!」
なに言ってんの!?
「蛇さんの命の変わりに、この触手は引き抜かせて貰います」
「っ! 触手だめぇええ! 触手だけはぁあらめぇええええ!」
「今更泣いても遅いんですっ!」
ブチン!
「らぁあああめぇええええええーーッ!」
なにしてんの!?
ハクアがぶちぶちぶちぶち邪神の触手を引き抜いていく......
その度に邪神が首を振ってやめてと懇願する。あわれすぎる。
......俺、何しに来たんだっけ?
「「「「シャァアアアアアアーーッ!!」」」」
「またこんなに湧いて! お師匠様をかどわかしに! ひぃー! 許せません! 許せません!」
突如、蛇達が守るように邪神の身体にうねりつく。
そして、ハクアに牽制の威嚇を放つ。
「しもべ! 来てはならんと! ゆったはずじゃ! 何故!?」
「シャァアアアアアアーーッ!!」
「え? 我を守るためじゃと?」
「シャァアアアアアアーーッ!!」
「我の為なら命を捨ててもよいじゃと!?」
「シャァアアアアアアーーッ!!」
「しもべーーっ!」
「「「シャァアアアアアアーーっ!」」」
抱き合う邪神っ子と無数の蛇。
......気持ち悪い。
「ふふっ。蛇さん。子蛇さん達との最後の会話は済みましたか?」
「まっ! 待って! 少し待ってくれぃ!」
「良いですよ?」
良いんだ。
ハクアに許しを貰った邪神が大量の蛇を引き連れて這いながら近寄って来る。
......え?
ウネウネしてて気持ち悪いんだけど......
でも、傷が深くて動けない。
「人間! 人間!」
「......なんだよ?」
「あやつはなんなのだ! この我をも軽々凌ぐあやつは!」
「さあね? 超強力な自己暗示としか......」
「それは、人間もやってたやつだろう? あやつのは次元が違うぞ?」
「ほんと......出来ると思ったことは、なんでも出来るんだろうね」
瀕死な二人で星空を見上げながら、ハクアの力の謎に迫る......
なんで死ぬ前に、そんなことしてんだろ......?
でもそろそろ......寒くなってきた死期が近い......
そして、それは触手を毟られた邪神も同じ。
「人間......我は死にたくない......」
「俺もだよ......」
あんな、情けない最後なんて嫌だ。
もっと華々しく散りたい。
なんで技出す途中に攻撃されて死なないといけないんだろう......
「嫌じゃ......千年も封印されてたのじゃ......せっかく、出れたのだぞ? ......嫌じゃ」
「くそ......魔王を倒して......可愛い弟子も出来て......ようやくここからだったのに......くそ」
「「まだ死にたくない!!」」
邪神と声が重なった......
「しゅるしゅる......そうじゃろう? そうじゃろう? 我もじゃ」
「......」
「人間。我を赦してくれぬか?」
許すも何も邪神が千年前に何をしたか知らない。
何も知らない。
だから......
「許すよ。何もかも......人類最強の……ムドウ・テンプが……許してやるよ。誰にも……文句は……言わせない……」
「なれば! 人間......赦せ!」
「ぐぶぅ!!」
にゅるり!
触手が、邪神の最後の触手があ!
触手がぁ!!
口のなかに!
口のなかに!!
入ってきた!
にゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅる......
喉の奥を逆流し体の中を全部、触れているような感覚がする!
......何これ! え!?
「くぼぉっ!ボォボォオオオオオオオオエーーッ! ウッロロロオロロオオオオェローーッ!!」
「お師匠様!! 蛇さん何を!」
ハクアが近寄って心配してくれている......
でも、気にしている余裕はない。
喉に入っている触手の不快感が脳を支配している。
「お師匠様! 蛇さん! お師匠様のお口を《にゅるにゅる》している《ナニ》かで、『ジュボジュボ》するのはやめてください!」
言い方!
ハクア!
言い方!
衝撃的なハクアの懇願で、脳が少し覚醒し、全身の痺れが収まっていく......
更に、邪神の触手もいつの間にか喉には入っていなかった......
でも......意識は遠退いていき......
そして......
「ムドウ。誰が! 邪神をしもべにして来いって言いましたか? 馬鹿ですか?」←イリス女王
「違うぞ。人間の女王よ。我は主のしもべではない! 我の大切なヌルヌルを授けた伴侶だ」←邪神ちゃん。
こうなった。