ディヒ語入門
「い ねいら…」が10倍楽しくなる
デ ィ ヒ 語 ・ 入 門
●概略
ディヒ語は簡易型の言語で、文字よりも発音を中心に発展しました。
また、ディヒには牙がある都合上、この“ディヒ”という音も“デヒ”と発音されます。このように、発音できない子音がいくつか存在します。
品詞の分類・構文等は、あまり定形化していません。ですから難しい表現はできないので、その場合は文を分けるか、動作や口調で補います。
発音中心の言語なので、リエゾンが発生します。しかし、その場所は特に決められていません。各自が発音しやすいと思う所でリエゾンします。また、全くリエゾンしない個体もいます。
なお、ディヒ語には文字もありますが、全くと言っていいほど使われていません。この文字は発音をそのまま表現したもので、日本語の「かな」と同じく1字1音節です。
●動作による表現
話し相手が見える場合は、言葉より動作のほうが優先されます。特に相手がすぐ近くにいる場合は、微妙な動作や音で意志を伝え合います。実際、彼らが出会って、言葉を1つも使わずに「対話」し、別れる姿を良く見かけます。
あなたにとって、これらの動作は「簡単にできるもの・練習すれば何とかなるもの・全く不可能なもの」に分けられるでしょう。不可能と思われるものは言葉で表現すればいいのですが、彼らには動作を多く使うほど親しむ習慣があるので、なるべく練習して彼らに合わせたほうが良い結果となるでしょう。
◆例えば
鼻を鳴らす :どうして?
牙を咬み合わす:いいえ・いやだ・~しよう!
低く唸る :嫌い・来ないで
軽く唸る :そうなの?
まばたきする :わかった?・~でしょ?
耳を立てる :賛成・あなたは正しい
耳を伏せる :反対・間違いだ
鼻先をなめる :それで、どうしたの?(次を要求)
尾を振る :来て
(他にもたくさんあります)
●構文
文の構成は、必ず動詞が第1位にきます。
動詞 主語 目的語
~する ~は ~を~に
この構文順位は、彼らが話す状況に起因します。彼らは大抵、自分と相手の関係、つまり2人称で会話をします。相手と顔を突き合わせているので「誰が」よりは「何をしたか」のほうが重要なのでしょう。さらに動作を交えることで簡易型の言語でも充分役立っているのです。
ここが文字中心の言語と大きく異なる所です。
●動詞
動詞は常に一定(定動詞)で、人称変化はしません。
ただし否定する時だけ、単語尾に“ぉ”がつきます。この“ぉ”は弱音で、小さく発音します。
えむね :好きである
えむねぉ:好きでない・嫌いである
いった :存在する・持っている
いったぉ:存在しない・持っていない
●格変化
ディヒ語には、ドイツ語と同じような“格”と呼ばれる文法があります。
主格(~が) 主語になります
対格(~を) 直接目的語になります
これらは良く使われるので特殊な変化を伴い、その他の
“~の”に相当する属格、“~に”に相当する与格は英語の of・to と同じ表現方法となります。
動詞を格変化させると、名詞・形容詞・副詞の役割を持ちます。動詞は変化せず、しかも必ず先頭にくるため、他の品詞と混同することはありません。
例えば:“えむね”「好きである」 を格変化させると
「好きであること」(名詞)
「好きなものは~」(主格)
「好きなものの~」(属格)
「好きなものに~」(与格)
「好きなものを~」(対格)
「好きな~」 (副詞)
…という具合に使えます。
●主語
“~が”“~は”に相当する、名詞・固有名詞・人称代名詞の主格です。
◆名詞と固有名詞の主語
格変化として、母音で始まる単語には“N”、子音で始まるものには“か”を単語の頭につけて発音します。
えと :夜 (原形)ETO
ねと :夜は…(主格)N'ETO
たふ :足 (原形)TAFU
かたふ:足は…(主格)KA'TAFU
(注意)“かたふ”を“か たふ”と、分けて発音する個体もいます。
(ディヒもエイラにゆっくり話すとき、分けていました)。
◆複数形
格変化をした名詞・固有名詞の単語尾に“っ”をつけます。日本語の「まった」の“っ”、英語の「キャット」の“ッ”と同じ、息を素早く切る無声音です。
ねとっ :夜は(主格複数) かたふっ:足は(主格複数)
◆人称代名詞の主語
私(1人称)は“も”、あなた(2人称)は“み”、彼(3人称)は“ま”ですが、大抵は格変化させて「私は」「私を」のようになります。
かも:私は (1人称主格)
かみ:あなたは(2人称主格)
かま:彼は (3人称主格)
複数人称にする場合は、名詞の場合と同じく単語尾に“っ”をつけます。
きもっ:私たちを (1人称対格複数)
きみっ:あなたがたを(2人称対格複数)
きまっ:彼らを (3人称対格複数)
●目的語
“~を”に相当する対格です。
目的語が名詞・固有名詞・人称代名詞の場合は、必ず格変化をします。
母音で始まる単語には“R”、子音で始まるものには“き”を単語の頭につけます。
あって:言葉 (原形)ATTE
らって:言葉を…(対格)R'ATTE
かひ :獲物 (原形)KAHI
きかひ:獲物を…(対格)KI'KAHI
(注意)“きかひ”を“き かひ”と、分けて発音する個体もいます。
複数形は、やはり“っ”をつけて作ります。
らってっ :いくつかの言葉を…(対格複数)
本文中での会話「えむね か でひ れいら」は
えむね:好き (動詞)
かでひ:ディヒは(主格単数)
れいら:エイラを(対格単数)
…という意味で「ディヒはエイラが好き」と訳せます。
また「えむねぉ ねいら き えと」は
えむねぉ:好きでない(動詞否定)
ねいら :エイラは (主格単数)
きえと :夜を (対格単数)
…で「エイラは夜が嫌い」となります。
やはり本文中で、エイラが
「いえと か でぃひ う えいら…」と言ったのを、ディヒが「えいら じゃ なくて ねいら」と訂正したのは、主語にするべき格変化をしなかったためです。
●属格の表現
“~の”に相当する属格を表すには、単語の頭に“ぁ”をつけます。これも動詞否定と同じく弱音です。
きーしな ぁえと 「夜の不安」
きーしな:不安・心配ごと・嫌なこと
ぁえと :夜の(“えと” “夜”の属格)
これを主語にするには、先行語だけを格変化させます。
いったぉ かきーしな ぁえと 「夜の不安はない」
いったぉ :ない(動詞“存在する”の否定)
かきーしな:不安は(“きーしな”の主格)
ぁえと :夜の(“えと”の属格)
(注意)これも“かきーしな”を“か きーしな”と、分けて発音する個体もいます。
●与格の表現
“~に”に相当する、向きを示す表現です。
これは単語頭に“つ”を添えるだけです。
“つ”が与格を表しますので、後に続く名詞は変化しません。
つしっとぅら:南に
つえいら :エイラに
(注意)これもまた“つ えいら”と分ける個体がいます。
●~と~ の表現
and は、単語の間に“う”を挟みます。
でひ う えいら :ディヒとエイラ
格変化をさせる場合は、両方の単語(多くは名詞)を変化させる必要があります。
きでひ う ねいら :ディヒとエイラを~(両者共に対格)
(注意)“う”は、必ず分けて発音します。
“きでひうねいら”は誤りです。
●~または~ の表現
or は、単語を“てう”でつなぎます。
これも、両方の単語が格変化します。
かでひ てう れいら :ディヒまたはエイラが~(両者共に主格)
(注意)“てう”も、必ず分けて発音します。
“かでひてうれいら”とは言いません。
●付属の表現
英語の on・with に相当する、何かが何かに付随している状態の表現です。
使い方は単語の頭に“ぇ”(弱音)をつけて、次のようになります。
いえった かも ぇみ
行く 私は あなたと共に
いった かでひ れいら ぇふぉじ
持つ ディヒは エイラを 背中の上
ディヒは背中の上エイラを持つ = ディヒの背中にエイラが乗っている
●ディヒ語に形容詞はありません
「白いエイラ」は「白のエイラ」と、属格で表します。
えいら ぁわす:“ぁわす”は“わす”「白」の属格で「白の」
(参考)「白いエイラは…」など、格変化させる場合は
「ねいら ぁわす」で、「ねいら ぁかわす」とはしません(二重格変化の禁止)。
●動詞の時制もありません
未来を表すには“いし”・過去を表すには“しか”を文のどこか(大抵は文末)に入れます。また、“いし”は、推量を表すこともあります。
いえった かでひ ぁくほ いし
行く ディヒは 獣の ~だろう
「獣のディヒは(きっと)行くだろう」
せえ かでひ りんにたーた しか ぁうーて
食べる ディヒは インニタータを 昔 大きい
「大昔、ディヒはインニタータを食べた」
いった ねいら つしっとぅら いし
在る エイラは 南に この先いつか
「エイラはいつか南にいる(着く)だろう」
●疑問文
普通の文章の語末を上げて発音するだけです。
いった ねいら つしっとぅら いし?
「エイラはいつか南にいる(着く)でしょ?」
●命令文
これも普通の文章を強く言うだけです。
さら なんがい!
~する 静か
「静かにしなさい!」
もっと強くするときは、動詞をもう一度言います。
さら なんがい さら!
●練習
い かみ えいら
「あなたはエイラ」
い :~です
かみ:あなたは
いえと かもっ
「私たちは歩く」
いえと:歩く
かもっ:私たちは
えむねぉ かみ れと ぁでし
「あなたは暗い夜が嫌い」
えむねぉ:好きでない
かみ :あなたは
れと :夜を
ぁでし :暗い・黒の・汚れた
(別の表現方法)
いぉ かみ えむね れと ぁでし
「あなたは暗い夜を好きでない」
“えむね”を原形のまま無格単純名詞として使った例
文法的には感心しないが、言いたいことは伝わるのでOKとされています
ほ かでひ きかひ つえいら
「ディヒはエイラに獲物を見せる」
ほ :見せる
かでひ :ディヒは
きかひ :獲物を
つえいら:エイラに
いった かでひ う ねいら きた
「ディヒとエイラには牙がある」
いった:在る・持つ・いる
かでひ:ディヒは
う :~と
ねいら:エイラは
きた :牙を
いえと かでひ う ねいら しか
「ディヒとエイラは歩いた」
いえと:歩く
かでひ:ディヒは
う :~と
ねいら:エイラは
しか :~した(過去)
せえ かみ きかひ
「あなたは獲物を食べる」
せえ :食べる
かみ :あなたは
きかひ:獲物を
いった かでひ ぁうーて う ねいら ぁわす つだす
「大きいディヒと白いエイラがここにいる」
いった :いる・在る・持つ
かでひ :ディヒが
ぁうーて:大きい(属格)
う :~と
ねいら :エイラが
ぁわす :白い(属格)
つだす :ここに・これに
い にんにたーた ぁしっとぅら あって ぁえいら
「南のインニタータはエイラの言葉です」
い :~です
にんにたーた:インニタータは
ぁしっとぅら:南の
あって :言葉
ぁえいら :エイラの
いったぉ かみ ててか ききーしな
「だから心配ない」
いったぉ :持たない
かみ :あなたは
ててか :だから・したがって
ききーしな:不安を
いえった きだす つほ?
たー・いえった いし
「これを見せに行く?」
「うん、行くと思う」
いえった:行く
きだす :これを
つほ :見せに(“ほ”「見せる」の副詞的与格)
たー :はい(肯定・英yes・仏oui・独ja)
いし :~だろう(未来推量)
さら かも きかひ しか?
ねお・い まとぅが
「私は狩りをしたと思う?」
「いいえ、まだ朝だから」
さら :~する
かも :私は
きかひ :獲物を
しか :(過去)
ねお :いいえ(否定・英no・仏non・独nein)
い :~です
まとぅが:朝
直訳-私は獲物をしたか?
いいえ、朝です
(ディヒ語は単語が少ないので曖昧な表現がたくさんあります)
せえ かみっ ききーしな ぁも ぁでし いし?
ねお・いったぉ かもっ きも
「あなた方は、私の嫌な不安を解決してくれるか?」
「いいえ、私たちには自信がない」
せえ :食べる=解決する・処理する
かみっ :あなた方は
ききーしな:不安を
ぁも :私の
ぁでし :暗い・黒い・汚れた・いやな
いし :(未来)
ねお :いいえ
いったぉ :在る・持つ
かもっ :私たちは
きも :私を
直訳-あなた方は、黒の大きい私の不安を(いつか)食べるか?
いいえ、私たちは私を持たない
さら かでぃひ らって・ほ かも でぃひ ぁだす?
ねお・いった かも きた ぁうこ ててか
「ディヒは でぃひ って言える?」
「いいえ 牙がじゃまだから」
さら :~する(言葉をする=言う・話す)
かでぃひ:ディヒは
らって :言葉を
ほ :見せる
かも :私は
ぁだす :これの
ねお :いいえ
いった :在る・持つ
かも :私は
きた :牙を
ぁうこ :悪の=じゃまな
ててか :~だから・ゆえに・それならば
直訳-ディヒは私が見せるこれの言葉 でぃひ をするか?
いいえ、私は悪い牙を持つから
(C) 1996 Kemono Inukai