どうでもいいからこっち見ないでくれ
お読み下さりありがとうございます。楽しんでいただければ幸いです。
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例のお役目(笑)をこなしてから数日間。
それはもう酷い日々だった。誰か私の安穏とした日常を返してくれ。
なんと、話したこともない家からの、夜会茶会の招待状たちが届いたのだ。
しかもかなりの高位の方々だ。
お陰で父様と母様は手紙が届くたびに、宛名も見ずに私に渡すようになった。
父様宛が紛れてますよ、親として娘への手紙に目を通さんでいいのか。父よ母よ。
まぁ、全部断ったんだけどね!!!
けっ!どうせ全部アイリーン様関係だからね!!!
この時ばかりは、微妙な立ち位置の我が家に生まれてよかった!!と感謝している。ほんと。
父様は万年平役人、かつ出世は胃腸の弱さにより、自ら断念しているので、まあほぼ問題なし。
領地としても沿岸に面した狭い土地の中で地産地消で暮らしてるもんだから、他領から圧力は掛けられづらい。
兄様は知らんが。
『俺終わった・・・』と抜け殻のようになった兄を、私は、知らない。全くもって、知らない。
直前の夜会の誘いとかは、問答無用で断れたけどね、まったくなめられすぎだね!!我が家は!!
「いい色でしょ?どう、マーニャ。似合ってる??」
そう言って、くるりと一回り。うんうん、モスグリーンの柔らかな色合いのスカートが、光に透けてキレイキレイ。
鏡の前でニヤつきながらマーニャに感想を聞く。褒め言葉しか受け付けないぞ??
「そうですね。お嬢様のその微妙な金の御髪に、とてもよく似合ってますよ」
一言余計だわ!!マーニャめっ!!
・・・・確かに、100人に聞いたら、60人くらいが『・・茶色??』、残りの40人が半笑いで『き、金色かなぁ』というぐらいの微妙さだけどっ!!(領民調べ)
そこは素直に褒めてほしい。
だがしかし、今の私はとっても寛大なのだ。だから、『とてもよく似合ってますよ』の部分だけ、聞いたことにしてあげよう。
そう、なぜなら、陛下から頂いた宝石を売ったお金の一部で、新しいドレスを買ってもらえたのだから!!
父様母様兄様を相手取って、まずは宝石を売る決意をさせるところから始まり。
どこかに王家の紋章でもあるんじゃないかと、酷く疑う父様に、知り合いの宝石職人に鑑定してもらい。
ようやく換金できたのだ、道のりが長かったよ・・・・。
ドレス一着だけとかちょっとケチだなと思ってたら、残りは私の結婚支度金(相手はまだ居ない)として取っておいてくれると。家族からの愛を感じるよ!!!!
・・・・だからまあ、セミオーダーであることには目をつぶろう。
「かわいいかわいい。似合ってるわよ、リーア」
そう褒めてくれるのは、親友のサラ・ウェールだ。私と違ってキラキラしい金色の真っ直ぐな髪の持ち主だ。羨ましい。
今日は、明日行く予定(行きたくない)の、アイリーン様主催の茶会に出席するため、衣装合わせと称したお茶会だ。二人だけだけど。
「ありがと、サラ。これにしてよかったわ!!さすがサラ、いい感性してるぅ!!」
「当然ね」
ちょっと大げさに言ったのに素気無く返される、くすん。
「そういえば、リーアが招待された辺境伯主催の夜会、あれに珍しく王弟殿下が出席なさったそうよ」
げ、あぶなかっったぁぁぁ!断ってよかった!!
いつもなら王家主催の夜会しか出席しないのに、どういうことだ嫌がらせか、そうかそうですね。
「いいわね、追いかけられて?大人気ね、リーア。ふふっ、楽しそう」
そうクスクス笑うサラ。ひ、酷いぞ!!親友のくせに!!
「楽しくない、全然楽しくない。むしろ代わってほしい、お願いしますサラ様」
そうだ、そうだよ!お人形さんのように綺麗なサラなら、あの忌々しいやつらを引きつけられるんじゃ!!
その間に逃げればいいのでは!??
「いやよ、他人事だから楽しいんじゃない」
断られた、普通に断られた。いやいや、麗しき王弟殿下だよ??いいじゃんサラお似合いだよ。
押し付けたい気持ち満々の私を見透かすように、目を細める。怖いよサラさん。
「その上陛下とお茶友達なんて。大出世ね、リーア」
誓って言うが、私はあの『国王専属愚痴聞き係』の話等々、サラに一切喋っていない。王族関わりのことだからね。
なのに知っているというこの矛盾。
どうやってその情報入手したんだ???あっ、いえ大丈夫です、むしろ知りたくないです。はい。
明後日の方向を向いて、とりあえず無駄だけど一応黙秘権を行使する。
私は喋っていないよ!国王陛下!!!
そんな私を放置して我が家の粗茶を優雅に飲むサラ。私も飲もーっと。
そしてなんでもないことのように、一言。
「ああ、そっちにもディラヴェル公爵家の暗部が行ったでしょ?うちにも来たわよ」
ぶっほぉおお!(あ、紅茶吹き出しちゃった)
ちょ、なに、『知ってるでしょうけど』みたいな感じで言ってくれちゃってるのさァァァ!!
「えぇぇぇぇ!!なにそれ知らないよ!!!え、いつ来たの?」
「あら、そうだったの。昨日よ」
昨日??昨日昨日・・・なにがあったっけ、唸れ私の頭脳よ!!
朝起きて、丁度パンが焼き立てで今日はいい日になるなーと思って。
続きの本を読んで、招待状にお断りの返事を書いて。
お昼は久々に兄様と庭で食べて、スモークサーモンのサンドイッチ最高に美味しかったです。
お母様と一緒に刺繍して、使用人雇用の面接して。
夜はカキの季節だから、フルコースで出てきて最高だなと思って。
家族で団欒した後、本を最後まで読んで満足して寝ました。
・・・・・・・・・??????どこで来たんだ????
「知らないうちに入り込んできたとか?」
「違うわよ、雇用希望の使用人、普段より多かったでしょ?」
ソレに紛れてたのよ、と冷静なサラ。動揺を隠しきれないワタクシ。
・・・確かに、いつもなら、一人二人しか来ないのに、十三人も来て妙だなーとは思ってた。ほ、ほんとに思ってましたよ??
まさか、『ついに我が家の人望もここまで来たか!』とか、父様共々喜んでなんかいないんですよ??
「もちろん変だなと思ってましたーやーあれかーー」
「棒読みにも程が有るわよ、リーア」
道理で一人しか採用できなかったわけだよ。ぬか喜びか、父様めっちゃ喜んでたのに。
「いつも思ってたんだけど、どうやって弾いてるの?」
「お、今回もアタリか!んーーーー???・・・・勘???」
なんとなーーく出来そうな人を弾いてるだけなんだよねーー?
そうするとあら不思議、裏も表もない純粋な使用人の出来上がり!となるわけなのよ。
それにしても毎回(さほど回数はない)我が家に入り込む密偵を探り当てるサラは、一体どこから(以下略)
「勘、ねぇ・・・・。ほんと、リーアは面白いわ」
ぞ、ぞくぞくするぅぅぅ!!怖いからその顔やめてェェェ!サラ様ァァァ!!!
まるで巨大な肉塊を前にしたドラゴンのような、いや、普通のドラゴンじゃこの迫力は伝えられないな。
そうまるで、古より伝わる邪悪なダークドラゴンが、金塊を前にしてにやりと笑ったかの如き笑顔だ。
「そうそう、今回は我が家に来た密偵、全て追い払ったわ」
「おや珍しい、どういう風の吹き回しで??」
いつもなら『変なのに目をつけられるのが嫌だから』とかいって、気づかないふりするのに。
「どうやら、私の親友にちょっかいを出そうとしてる奴らがいるみたいだから、かな」
おいおい照れるじゃないか、うへへへ。さすが我が親友だよ!!!
「それに最近退屈してたから。色々と面白そうだし」
・・・そっちが本音に聞こえるのは私の気のせいだよね?サラさん???
そしてだから顔ぉぉぉ!!さっきよりも怖くなるのやめてよぉぉぉ!!
まるで、古より伝わる邪悪なダークドラゴンが、金塊を盗もうとする盗人に相対するときの、獲物を捕捉したような顔だよ!
あぁ、怖い怖い。騎士団長の殺気よりマシだが、恐ろしい女だよサラよ。
・・・・・・ん??もしや胆力がついたのはサラのせいじゃ??????
まぁなんにしても。
「サラが楽しそうで何よりだよ」
「あら、ありがと」
こうして楽しいお茶会は続いていくのであった。
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さぁて、今日は、まったくもって待ちに待ってない、お茶会の日だよ!!!
・・・・無理矢理気分を盛り上げようかと思ったけど、思った以上に盛り上がらなかったよ。
馬車の中ではサラと二人で楽しく盛り上がったけど。
公爵家の素晴らしく豪華な建物と、なんだか立派な庭園(私に芸術を愛する心はない)を前にして、早くも我が家が恋しくなった。
アア、オウチカエリタイ。
それにしても、今回招待されたご令嬢たちは、なんというか見事にバラバラだな!
王家に忠実なことで知られる公爵家ご令嬢。
中立派の子爵家ご令嬢。
騎士をお父上に持つ男爵家のご令嬢。
そして、私達。
アイリーン様信奉者が誰もいない!!そしてあの従者どのもいない徹底ぶり!!
本気で友達作りに来てるなアイリーン様・・・。
「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。どうぞ、楽しんでくださいね」
そんなアイリーン様の涼やかな美声で、お茶会は始まりました。
「我が家自慢のブレンドですの。お口に合えば良いのですが」
アイリーン様がそう言と、各々紅茶が注がれていく、おお、凄くいい匂いだ!!
早く飲んでみたいが、公爵家ご令嬢が先。我慢我慢。
「まぁ!素晴らしいかおり「やぁ!集まってるね!」・・・え」
だ、だれだ!!??
わらわらと湧き出てきたのは、同年代で今を時めく(笑)殿方たちだった!!またかよアイリーン様!!!
いるわいるわ、神官長子息だの騎士団長甥だの魔術師団長養子だの。
全員方向は違うがイケメン過ぎて目がチカチカするわ!!!!
「僕に内緒で友達を作ろうなんて・・・・友達は僕がいれば十分でしょ?」
そう言ってアイリーン様に絡みつくのは魔術師団長の養子。
・・・・・・・・随分と不健康な関係ですねアイリーン様。
麗しのご子息達(笑)の登場に一瞬沸き立ったご令嬢方も、その一言に若干、いやかなり引いたようだ。残念アイリーン様。
「ち、ちがっ!!いやぁぁあ、もう・・・・・。申し訳ありません、皆様。少々席を外しますわ」
ものすごい勢いで魔術師団長の養子を引き剥がしたアイリーン様は、青い顔に笑みを浮かべて、全員引き連れてどこかへ行ってしまった。
これ、帰っていいんじゃない????
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そう上手くはいきませんでした、世の中厳しいです、兄様。
幻影の兄様は『耐えろ!』と言ってきますが、無視してもいいですか?駄目ですかそうですか。
「・・・戻られませんわね、アイリーン様」
そう呟くのは公爵家ご令嬢、ヴィクトリア様だ。
礼儀作法に厳格な方で、今もアイリーン様が居ないので、出されたものに一切手を付けていない。
の、飲みたい!あの紅茶飲みたい!!お菓子も美味しそうぅぅ!!!
2回目の紅茶の入れ替えで、耐えきれなくなってきた私達、主に私。
公爵家の使用人を勝手に使うわけにもいかないし、誰かアイリーン様呼びに行こうよ。
・・・・あ、この序列だと、私かサラか。
公爵家ご令嬢に行けというわけにもいかず、子爵家男爵家では可哀想だ。
よし!!サラ!!任せたぜ!!!
そんな期待に満ち溢れた私に、サラはニッコリと笑った。
「よろしくね?リーア」
ですよねーーー!!!だと思ってましたぁぁぁぁ!!!!!
『よろしくね』が『私を巻き込んだの貴方なんだからいってらっしゃい』って聞こえた!!サラすごい!
「・・・・・・・・・ワタクシがいってまいりますわ」
そう言って立ち上がるほか、私に道は残されていないのであった。ぐすん。
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全く表情を覗えない公爵家の使用人(美人さん)に案内されながら、たとえアイリーン様の元へ辿り着いたとしても、あれらがまだ居たら、私はどうすればいいんだろうか。
出たとこ勝負かな、もうソレで行こう。
「お嬢様、ルルリーア・タルボット様をご案内致しました」
「っ!!お入りになってっ!!」
若干食い気味にドアを開けるアイリーン様。必死さに涙が出そうで出ない。すまん。
「失礼致します」
あぁ、残念だよアイリーン様。本当に残念だ。
「なに?この子」「今アイリーンと話してるところなんだ。邪魔しないでくれる?」「・・・もしかして僕らの誰かを追ってきたんじゃない?」「うわ、やめてくれよ」
ああうん、なんていうかアレだね!騎士団長の殺気と王弟殿下の得体の知れなさに比べたら、微笑ましいもんだねそんなことないわ。小憎たらしいわ。
部屋に入るなりいきなりなんやかんや言われましたよ、なんだろね。
どうでもいいけど、貴方たちがおそらく庇っているであろうアイリーン様は、顔面蒼白ですよ?あ、あれ気絶してるわ。
立ったまま気絶とかアイリーン様意外と器用だな。
あっこれ帰る絶好の機会じゃないか???
こんな暴言吐かれたら、貴族のご令嬢はきっと儚く泣き崩れてお家に帰るだろう。そうにちがいない。
「あぁ、なんて「何をやっているんだっ!!お前たちはっ!!!!」・・・・げっ」
ノックもなく突然部屋に現れたのは、おうていでんかだぁぁぁぁ!!!
そういや転移魔法の使い手だっけ王弟殿下。淑女の部屋にいきなり来るとか変態か?
それと騎士団長。暇か?暇なのか???
颯爽と現れるやいなや、王弟殿下は素早くアイリーン様から神官長子息と魔術師団長養子を引き離す。
「あぁ!間に合わなくてすまないアイリーン!どうか許してほしい」
あ、甘っ!!目が蕩けそうに甘いっ!!胸焼けがぁぁぁ!!
「叔父上はいい加減年を考えるべきです!!」
「そうだよ殿下!アイリーンは僕のものだっ!」
おおっとぉぉ!??年のこと言われちゃいましたよぉ??これはどう返すのかなわくわく。
「煩い、小僧どもが。アイリーンの邪魔をしているお前たちに言われる筋合いはない。・・・チッ、このクソい忙しい時に」
あっ一喝ですね、凍えるような笑顔ってこういうのなんですねココサムイ。
そういえば貴方も邪魔してるんじゃ、あっいえなんでもないです。
二人の襟首を掴むと放り投げそのまま転移させる王弟殿下。・・・豪快な転移方法デスネ!!
名残惜しそうにアイリーン様(放心中)に目を向けた後、こちらを睨みつけてくるよワタシココニイナイ。
「また君かっ!・・・今は見逃すが後で覚えていなさい」
「えぇぇ・・・」
見逃されたァァァ!!でも喜べないィィ!!
三下のようなセリフを悪の総督のような迫力で言い放った王弟殿下は、そのまま消えていった。本当に忙しいんだな。
あの、騎士団長忘れてますよ。
「ごきげんよう、ルルリーア嬢。貴方は、ぶふっ・・・本当に運のない人だな」
「ごきげんよう、騎士団長閣下。出口はあちらですよ」
氷の騎士(笑)よ、お願いだから溶けないで氷のままでいてくれっ!!!!
貴方の甥っ子、信じられないものを見たかのように目を見開いてるじゃないか!!!あ、こっち見るな!!!
「さて、帰るぞ。その有り余る体力を有効に活用しよう。それではまた、ルルリーア嬢」
その『また』がありませんようにと祈りつつ、ちょっとだけ頭を下げる。
ドアの方へ、甥子殿の頭を鷲掴みにしながら進む騎士団長。あーー痛そーー。
若干浮き気味の甥子殿を見送りつつ、心のなかで静かに祈りを捧げてあげた。私優しい。
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放心状態のアイリーン様は、中々戻ってこられないようだ。
「あの、アイリーン様??」
呼びかけると、はっと意識を取り戻した。倒れられたらどうしようかと思ってた、よかったよ。
「おまたせしてしまって申し訳ありませんわ・・。そ、その・・・・皆様、のご様子は、如何かしら・・?」
おお、今の嵐のような彼等を無かった事にしたよ、すごいなアイリーン様。
まぁ、私も敢えて触れたいとは思わない私も無かった事にしたい。ならないかなぁぁぁ!!!
ん?おやおや、みんなの反応が怖いのか?意外と小心者だなアイリーン様。
「皆、アイリーン様を心配しておりましたわ」
私とサラはしてないけど。他の人もわからんけど、引いてましたと正直に言えるはずがない。
そう鈍くはない(はずの)アイリーン様は、私の建前を見抜いて、顔を歪める。
「・・・・あぁもうどうしてこんなことに・・・・せっかく冤罪から免れたのにこれじゃ」
????声がちっちゃくて聞き取れないぞ?なんて言ったんだ????
「???アイリーン様?どうされました?」
そう問いかけると、アイリーン様は、その綺麗な目から大量の涙を流しながら、私にしがみついてきた!!!
ぎょわわぁあああああ!!なんじゃぁぁぁ!!????
「お願い!!ともだちになってぇぇぇぇ!!!!!!」
おおおう、大分追い詰められてるなアイリーン様。ちょっとかわいそうになってきたな。
私の中で、同情心と現状を天秤にかける。結論はすぐに出た。
「申し訳ありません、一身上の都合により友人にはなれません」
「なんでぇぇぇぇ!!!!」
あっさり断った私に、アイリーン様はますますしがみついてくる。
いやだって、公表できないけど私『国王専属愚痴聞き係』なんだよね、対アイリーン様の。
その私がアイリーン様と友人になるって、それどうなのよ。駄目でしょ。
「理由は申し上げられません」
「どうゆうことぉぉぉお!!ルルリーアさんが最後の頼みなのぉぉぉ!!」
解任されれば、まぁ・・・・駄目だな。王弟殿下とか王弟殿下とか王弟殿下とかいるもんな。
さっきの見たでしょ、あんなの無理無理、アイリーン様とおともだちになれない。
「申し訳ありません」
「取り付く島もないぃぃぃ!!!」
随分と口調が崩れてるけど、それが素なのかアイリーン様。
と、何を思ったのか、涙でグチョグチョだけど麗しい顔を輝かせた。え?なに?『これしかない!』って??
「交換日記しよう!!そこからでいいからっ!!!」
・・・・・・はぁ???何をいってるんだ???
「え・・・・、私、その、日記をつけておりませんし・・・私事を記して交換する趣味はないので・・・」
アイリーン様って私生活を他人に見せたい変態なの??公爵家令嬢なのに????
それはないわーーー、引くわーーー。
「だぁぁぁ!!そうだった!そういう風習なかったんだ!!」
そう叫ぶと、貴族のご令嬢にも関わらず、アイリーン様は床に這いつくばった。えぇぇぇ!????
「オワタ、私の今生オワタ・・・・」
大丈夫かなアイリーン様、人として。
「で、でも、まだ終わりじゃない・・・諦めたらそこで試合終了なんだ・・・」
なんだか良いこと言ってるけど、目が虚ろですよアイリーン様。
と、突然跳ね起きたアイリーン様は、私の両手を握り宣言した。
「とりあえず知り合いからお願いします!ルルリーアさんっ!」
「はぁ・・・」
それなら、もうそうなんじゃないかな?????
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なんとか持ち直したアイリーン様と一緒に、庭園に戻る。
途中、小声ながらもものすごい早口で、『友達を作る方法』らしき行動を呟き始めて真面目に怖かった。
アイリーン様、まずは周りをどうにかしないと、無理だと思いますよ。
「皆様、大変申し訳ありませんでした」
美しく優雅にカーテシーをするアイリーン様。さっきまでとは別人だ。
「いえ、私達は気にしておりませんわ。美味しいお菓子を頂いておりましたし」
あううぅぅうぅ!!!ヴィクトリア様、私が居た時食べてなかったじゃないか!!
みんなで美味しくいただいてるよ!私抜きで!!!!
「そう言って頂けて・・・ありがとうございます。・・・・少々体調を崩してしまいまして」
乱入者のことはまたしても綺麗さっぱり忘れてるのかアイリーン様。それはさすがに無理があるぞ。
でもそう言うしか無いのは事実だ。
「まぁ!それは大変ですわ!ご無理なさらずに、私達御暇いたしますわ」
『え』と呟くアイリーン様。体調不良の主催者じゃ、帰るしか無いでしょ。
「・・・・・・・・・・・・・お心遣い感謝いたします。この埋め合わせは必ずさせていただきますわ」
溜めが長い、長いよアイリーン様。もう諦めろ。多分次はなさそうだぞ。
それから、申し訳ないからお土産を・・と準備し始めるのを、(ヴィクトリア様が)断って、ようやくやっとのことでサラと家路につく。
「小規模なお茶会でよかったわね、ディラヴェル公爵家は」
「ははは、そうだねー、噂好きも居なかったから、ギリギリね」
お茶会の成否は、そのままその家の評価に繋がるのだ。今回は大失敗だったがな。
・・・・あっなんか思い出した、鳥肌が立ったぞ。
「・・・・ねぇ、リーア」
サラはお茶会が終わってからずっと真面目な顔をしている。どうしたんだ??
「アイリーン様は、本当に我が国の公爵家令嬢なのかしら」
「???まぁ、言動は変だったと思うけど、そうなんじゃない?」
いきなりすごいこと言い始めたな、サラ。なんだなんだ??
「・・・出されたお菓子が、ね。想像もしたことないようなものだったの」
目をキラキラさせるサラ。その顔はまさに古より伝わる邪悪な(以下略)
「ま、確証が持てたら話すわ」
「ふーん、わかったよ。お菓子ねぇ・・・って、ああああああああああああああああ!!!!」
わ、わたしだけ、お菓子どころか、紅茶すらのんでなぁぁぁぁああい!!!
頭を抱える私をよそに、楽しそうなサラ。うぅ、自分は食べたからってぇぇぇ!!!
「もう一度招待される??」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・やめとく」
なんだかものすごい損した気分だよ!!!
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※本当に蛇足なので、読まなくても大丈夫です、大丈夫ですよ???
※裏設定
・アイリーン様:
冤罪ルートを免れて、純粋な女友達と楽しく過ごそうと、前世記憶フル活用してウキウキ色々用意した。のに、邪魔された挙句誰も友だちになれなかった!!orz←イマココ
・王弟殿下:
実は外務大臣だったりする王弟殿下。隣国との外交で一番忙しい時期にやらかされて腹立たしいので騎士団長も巻き込んだ。他の令嬢は調査済みだが、またあいつがいるぞ!←イマココ
・騎士団長:
王弟殿下に言われて渋々ついてきたら嫁or部下候補がまた面白いことになってる様子。甥をいじ・・鍛えて何事か聞いてみよう。←イマココ
・サラ:
前々から面白かった親友が、更に面白いことになってるとっても楽しい!!公爵家令嬢が怪しいので、秘密も暴いちゃおう!←イマココ
・主人公(ルルリーア・・・ですよ?):
本当にもう巻き込まないでくれ友達は他で作ってくれオウチカエリタイ←イマココ