これは体験談です。
これは、私の友達の、『彼女』の体験談です。
これは、私の友達の、『彼女』の体験談です。
彼女は深夜2時頃、終電が通り過ぎた駅構内で発見されました。
酒を呷ってのアルコール中毒。それが死因でした。青い顔をした彼女が、そこに倒れていました。
お葬式は、翌々日に行われ、手厚く葬られました。夏のことです。その浮世離れした死化粧に、とてつも無い空恐ろしさを覚えました。
私は仕事に行き、彼女に会いました。
私は彼女を愛していました。
誰よりも、誰よりも。
愛していました。
私は、部下である彼女と、人知れぬ恋愛を続けていました。
職場の見えない場所で、彼女とキスをしました。
抱き合いました。
お互いの体を弄り合いました。
私は彼女を愛していました。
誰よりも、誰よりも。
愛していました。
これは、私の友達の、『彼女』の体験談です。
────
彼女は泣いていました。
ベッドに横たわる私の隣で、すんすんと鼻を鳴らして、目を真っ赤にして。
私は彼女を落ち着かせるために、その背中をさすってやることくらいしか出来ませんてした。
私は友達とバーに行き、朝までハシゴしました。
珍しいことでした。友達はあまり、お酒が強くありませんでしたから。
私は彼女のことが嫌いでした。
そのことを、つい話してしまいました。思えばこれが、全てのキッカケだったのだと思います。
なんと友達も、同意してくれました。
私は驚きました。てっきり友達は、彼女を愛しているのだとばかり思っていましたから。
しかし友達は、「あれはただの穀潰しだよ」と。勉強も怠けて、殺してやりたいくらいと言いながら、グラスを傾けました。
夜は更け、私達が駅に向かった時、彼女は少し飲みに行こうと誘ってくれました。
珍しいことでした。彼女はあまり、お酒が強くありませんでしたから。
私達は、ふと思い出話に耽りました。
友達は子供の頃亡くなった父のこと。私は最愛の妹と離れ離れになってしまったことを、お互いにポツリポツリと。
安心、したかったのかもしれません。現実から目を逸らしたかったのかもしれません。
示し合わせることもなく、話をしていました。
彼女は駅に置いていきました。
寒い夜空で、眠るようにしている彼女は、まるで人形のようでした。
私は目を背けました。
出来ることなら、どこか遠いところに逃げたかったです。
────
友達は、しばらくの間仕事に来ませんでした。
それはそうでしょう、何せ愛すべき彼女が死んだのですから。
私は仕事に赴きましたが、とても手が付きませんでした。
忘れようとしても、忘れられない感覚。その日は自分が何をしていたのか、自分でも分かりませんでした。
頭がフワフワして、夢遊病になったかのように仕事に向かいました。
ですが忘れようとしても、忘れられません。
なので私は、あの夜の情事のことを、ずっと考えていました。
彼女の身体は、とても綺麗で、私のみすぼらしいそれよりも整っていました。
とても気持ちよかった。罪悪感を背徳に、解放された私達はその時だけとても幸せでした。
あの快楽とあの多幸感は、ほんの少しですが私の良心の呵責をを和らげました。
私は彼女を愛している。
誰よりも愛している。
彼女もまた、私を愛してくれているのだと。
現金な話でしたが、それによって、チラつく彼女の姿を押しのけました。
あれからお酒を控えました。
私は当たり前のように朝早く家を出て、仕事をし、終業の時間に帰る。
電車はとてもではないですが使えませんでした。私の中の何かがそれを拒みました。
あの女を彷彿とさせるところに行きたくありませんでした。
友達は、今日も仕事場に来ませんでした。
偶々定時で上がれるようになり、私達はバーに行きました。
珍しいことでした。彼女はあまり、お酒が強くありませんでしたから。
話を聞かれない、個室の座席に腰掛けました。
死んだ彼女が、そこに横たわっていました。
「どうしよう」と友達は言いました。怯え、恐れ、泣きそうでした。
私も泣きたくなりました。
どうしようと言われても、私にもどうしようもありません。
安心、したかったのでしょう。
私達は、ふと思い出話に耽りました。
本当にたわいの無い話でした。
彼女は子供の頃亡くなった父のこと。私は最愛の妹と離れ離れになってしまったことを、お互いにポツリポツリと。
そして、話は本題に移りました。
グラスはいつの間にか空になっていました。酒気を纏った顔は赤くなって、目は潤んでいました。
ニュースでは彼女の死因をアルコール中毒の事故と言いました。
未成年の加減の知らない飲酒、そう決めつけたに違いないと、そう何度も何度も言い聞かせました。
それでも、青い、不安の顔を変えませんでした。
私は帰る際、友達に電話しました。
心配でした。
胸騒ぎがしました。
何度も何度も電話しても、着信が無かったのです。
いくらメールを送っても、反応が無かったのです。
家に向かい、呼び鈴を鳴らして、鍵を開けました。
そして。
友達は、首を吊っていました。
────
これで、お話はおしまいです。
これは、私の友達の、『彼女』の体験談です。
私は、何もかもを、失いました。
これでお話はおしまいです。
これは、私の友達の、『彼女』の体験談です。
これは、私の友達の、『彼女』の体験談です。
これは────
どうして。
どうして死んでしまったの、由理。