第65話 響凶夜に鉄拳を
マジでもう万策尽きた感じだ
このままじゃ…
凶夜が一歩後ずさる
まぁ、手は相変わらずレッドに掴まれたままだが
しかし、少しでもコイツから離れたいっ
チャラ
…ん?
ふと、腰に妙な違和感を覚える
凶夜の服装は異世界に来てから特段変わっていない
普通のシャツにジーパンという出で立ちで
シンプルイズベストな凶夜としては、腰に何か付けていた様な記憶は無い
なんだ? なんかこう、大きめのアクセサリーを付けているような違和感が…?
これは明らかに何かがある、そう確信しレッドに気付かれないように、ゆっくりと視線を腰へと移していく
…!?
これは…小さい…スロットマシンか?
目線の先には、おもちゃの入った丸いカプセルにすっぽり収まる程度の大きさのスロットマシンらしきものが2つ、ベルトに結び付けられていた
よく見ると、殆ど通常のスロットと一緒なものの、一部だけ微妙に異なっている
そう、ボタンが1つしか無いのだ
なんだよこれ…こんなもの俺は知らない…
というか、絶対さっきまでこんなもの腰に付いて無かった筈だ
何これ、クッソ怖いんだけど
いやいやいや、流石にこれに気が付かない訳が…っ…!
そこまで考えて、脳がかき回される様な感覚に襲われる
一瞬の目眩の後、不思議と'これ'について違和感を覚えなくなっていた
そうだ、知っている…
俺はこれを知っている…
いつだ、いつ知った?昨日か?
たしか…昨日だったはずだ…
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牢屋に入れられた凶夜は猿轡をかまされ、満足に会話も出来ないまま
備え付けのベッドで刑の執行を待っていた
その時
「にゃっほー、本当に君とは縁があるにゃんねー」
どこかで見た事がある、猫耳をぴょこぴょこと動かし、居酒屋の店員こと
マディ・スカーレットは立っていた
「今回も君がキーにゃんだねぇ、あっ 喋れにゃいか? いやいや、お姉さんはどういう状況か分かってるから大丈夫にゃよ、これっぽっちも まーったく心配しにゃくていいんにゃん」
舌を噛みそうな、にゃん語?を自由自在に操り、マディは凶夜へ話続ける
「さてにゃて、今回お姉さんが君に教えるのは、君のスキルの使い方にゃんだよね、あ それには猿轡がじゃまかにゃー」
そういうと、マディは何やら呪文のようなものを唱える
すると猿轡は音もなくバラバラになった
「ぷはっ、助かった! あんた…たしか酒場で…見た顔だな」
いや、見た耳と言うべきだろうか?
しかし尻尾も捨てがたい、いや今はそうじゃ無い
「なんか君から不純な目線を感じるのにゃ」
マディは、ふーっと毛を逆立てて凶夜を威嚇するポーズをとる
「いや、悪りぃ悪りぃ 猫耳娘を見て興奮を隠しきれないのは俺の故郷だと割と普通なもんでな」
「何その故郷、こわっ 変態しかいないにゃん…私はマディ・スカーレットにゃん、マディでいいにゃん」
「俺は響凶夜だ」
「おっけーにゃん、凶夜」
それよりも、とマディ
「とりあえずスロットを出してもらっていいかにゃ? あー、色々聞きたい事があるのはわかるんにゃけど、取り敢えず今は言う通りにしてくれると嬉しいにゃんにゃん」
招き猫のようにこちらに手をこいこいさせるマディは本物の猫を彷彿とさせるポーズをとる
昔飼っていた猫を思い出し、少し現代が懐かしく思えた
「…あ、ああ ちょっと状況がよくわからないが、助けてもらったし、敵じゃ無いみたいだしな」
敵だったら、あのまま俺を放っておけば処刑されてた訳だし
「スロット」
凶夜が唱えると、クリスタル状のスロットマシンが出現する
「おっけーにゃん、次にそのスロットを小さくするイメージと、使った時になんの魔法が発動するかをイメージして欲しいにゃん、あー、魔法は認識阻害とかを解除する感じがオススメにゃん、それがうまくいったら今度は攻撃でもう一回使うにゃんよ」
凶夜は言われた通り、スロットを使うとミニチュア版のスロットマシンが完成したのだ
「うおっ、なんだこれ…」
「にゃっふっふ…それは簡易式のスロットにゃんよ! ボタンが1つしか無くて、それを押すと込めた魔法が即発動するという優れものにゃん、君のスキルはアイデア勝負にゃんだから、色々考えてみるといいにゃん」
「なるほど、 いや なんでマディがそれを知って…」
「じゃ、今回はここまでなのにゃん」
目の前がふっと暗くなる
「なんだ、これ…」
昔一度なった貧血によく似ている
意識が…薄れて……
「こっからは君次第、ちゃんと私を助けてにゃんにゃん」
凶夜の意識は深い闇の中へと沈んでいく
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!?
そうだ…マディに
マディ・スカーレットだ
いや、だけど 俺の猿轡はマードックが…
それに、昨日はミールが、俺が寝ている所を見ているって…
まるで記憶を取って付けたかの様な違和感を感じながら、腰のスロットを確認する
一体何がどうなってるんだ…




