第57話 あいつ等どんどん増えるよね?
くそっ…あいつ等
気がつくと凶夜は見慣れた場所へと連れて来られていた
アプリに軟禁され、事件に巻き込まれた場所…まったくいい思い出のない…そう、地下牢である
そして、前回の様にベットの上に寝かされている
起き上がって初めの感想は、掃き溜めの様な地面に寝かされていなくて良かったなぁ
これ、もしかしてタイムリープしてる? だった
それにしても、法廷で屈強な男達に引きずられて行く途中から記憶が無い
気絶させられたにしては、どこも痛く無いから不思議でしょうがない
殴られて気を失った訳じゃ無いって事か?
法廷では何も口にしていないから薬系でも無い…と思うし
思いつくのは魔法かスキルくらいなもんだが…
あぁ、でもスプレー的な薬って線もあるな 顔にプシュって
…プシュってやって意識失うレベルの薬とか嫌だなぁ
ま、考えてもしゃーないか
周りを見渡すが特段変わった所は無い
極々普通の牢獄だ
遠くから、人の声が聞こえる気がするが、ここにはアプリも捕まっているはずだから
そっちの尋問か何かだろう
はぁ、まさか人生で2度も牢屋に入る事になるとはなぁ
しかも、嵌められてだよ?
俺の思い描いていた異世界生活とは程遠い
とととと
凶夜が自らの不運を呪っていると足元に1匹のネズミが現れた
「なんだお前? 悪いな、生憎お前に挙げられそうな食べ物は持ってないんだよ」
尚もネズミはこちらを見ながらチューチューと鳴いている
他のネズミと縄張り争いでもしたのだろうか、右目は傷で閉じており、左耳も欠けているように見える
その相貌は歴戦の戦士を思わせるかの様ではあった、が
だからどーした、所詮はネズミだ
「何も無いんだって ほらさっさと行けよ」
今は唯のネズミの相手をしている場合じゃない
何せ、こっちは死刑を言い渡された囚人…
どっかのバカ共のせいで、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされている最中なのだ
凶夜はシッシと
足でネズミを追い払う
「誰もお前みたいな顔面偏差値の低い奴に期待してねぇぜ」
ガタッ
「だ、誰だ!?」
突如聞こえた声に思わず立ち上がり、辺りを見回すが声の主は一向に見つけられ無い
「つーか、お前分かって無いのか? まさか…とか神妙な顔して言うつもりじゃねーだろうなぁ? シラケるから、顔も悪くて頭も悪いとかどんな罰ゲームだよ、ふはは、あーっはっはっは」
声の主は以前こちらを馬鹿にした様に語りかけ続ける
…分かっていない? んなわけないだろ?
俺だってそこまで間抜けじゃない、結構な数のアニメやラノベを見ているんだ
初めの受け答えで'何'が喋ったかなんてある程度想像はついてる
ま、確証は無いけど
なんせ、声が頭に直接響いているのだ、これで場所を特定しろって言うほうが難しい
--------姿を見せずに語りかけていれば、だが
予想が正しければ、そいつは非常にすばしっこいはずだ
普通にやったら逃げられてしまう
だから、ちょっと一芝居打った訳だ
「ほほぅ、馬鹿にしやがって…くそっ、一体どこにいるんだー、一体誰が何処から喋っているんだー(棒」
凶夜は尚もキョロキョロと辺りを見回す
………恐らくは、声の主であろう目標に向かってジリジリと近づきながら
「あはははは、マジで気がついて無いでやんの、こいつぁグレートなマヌケっ……ギャッ」
一瞬の油断を見逃さず、凶夜はそれの尻尾をそのまま勢いよく踏みつける
まぁ、千切れても生えてくるだろ、たぶん
「ほーう? で、誰がマヌケだって?」
足元の’それ’に目を向け、今度は凶夜が語り掛ける
「き、貴様ぁ! 騙したなっ ひ、卑怯めがぁぁああ」
「聞こえんなぁ? あれぇ、こんなところに都市指定の害獣がいるじゃ無いか プチッと潰しておくかなぁ?」
「ひぃっいぃぃぃぃぃ」
凶夜の足元で必死にバタつく声の主は
「わわわ、わかった、と、と取引、取引をしようじゃないか?」
1匹のネズミーーー
の魔物だった。




